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第23話 魔導国家と軍事国家

ザザザザザッ!!


雪が舞い上がる。


雪の中から現れたのは巨大な狼。


五匹。


俺より遥かに大きい身体。


全身を覆う白銀の毛。


口元から大きく突き出した牙は、氷のような青白い色をしている。


「大きいですね……!」


たるとの虎耳が立つ。


「五匹います!」


「見れば分かるよ!」


俺は《朧》を構える。


五匹の狼がゆっくり俺たちを囲んでいく。


「…………」


前衛。


俺だけ。


後ろ。


たると。


シズク。


セリア。


モルフォ。


ノア。


リオ。


ミナ。


「やっぱり編成間違えたんじゃない?」


「今それ言います!?」


「だって!」


一匹が地面を蹴った。


「来ます!」


シズクの声。


「分かってる!」


俺も雪を蹴る。


その瞬間。


ズボッ!


「…………」


右足が沈んだ。


「え」


目の前に巨大な牙。


「ガウ!」


「うわっ!」


無理やり身体を捻る。


ブォンッ!!


牙が目の前を通過した。


そのまま雪の上を転がる。


「冷たっ!」


「ガウ、大丈夫ですか!?」


「大丈夫!」


すぐに立ち上がる。


「走れない!」


普段なら一気に距離を詰められる。


でも足場が悪すぎる。


踏ん張れない。


「ガウ!」


たるとの声。


見る。


二匹。


左右から来る。


「っ!」


《朧》を構える。


右。


ガキンッ!!


牙を受ける。


重い!


「くっ!」


さらに左。


「《障壁》!」


ガキィィンッ!!


透明な壁。


狼が結界へ激突した。


「シズク!」


「そのまま前へ!」


「前?」


「足場を作ります!」


シズクが小杖《白晶》を振る。


直後。


俺の目の前。


空中に。


キィンッ!


半透明の板が出現した。


「…………」


さらに。


キィン!


キィン!


キィン!


一枚。


二枚。


三枚。


雪原の上。


高さを変えながらいくつもの結界が浮かんでいく。


「ガウ!」


シズクが叫ぶ。


「そこなら雪は関係ありません!」


「分かった!」


目の前の結界へ飛び乗る。


狼が飛び掛かってくる。


俺は結界を蹴った。


タンッ!


身体が宙へ。


次の結界。


タンッ!


さらに。


もう一枚。


タンッ!


「《影走》!」


一気に加速。


狼の頭上。


さらに結界を蹴る。


背後へ。


「《瞬牙》!」


ザシュッ!!


「ギャウッ!」


白銀の毛に赤い線。


狼が振り返る。


遅い。


もう俺はいない。


別の結界。


さらに次。


「ガウ!」


シズク。


「右です!」


見る。


新しい結界。


その先。


二匹。


「分かった!」


シズクが作った足場だけを蹴っていく。


一枚。


二枚。


三枚。


「《狼牙連斬》!」


ザシュッ!


ザンッ!


ザシュッ!!


一匹が雪へ倒れる。


その瞬間。


「ガウちゃん~」


嫌な予感。


「なに!?」


「避けて~」


「え?」


魔法陣。


「ちょっと待って!」


「いくよ~」


「待ってって!」


魔杖《創星》。


赤い魔法陣が輝く。


「ファイア~」


直後。


ゴオオオオオオオッ!!


「熱っ!!」


炎。


雪原を巨大な炎が駆け抜ける。


二匹の狼をまとめて飲み込んだ。


「ギャウウウウッ!!」


「セリア!」


「なに~?」


「私の近くに撃たないで!」


「当たってないよ~?」


「また熱かった!」


「でも寒くなくなったでしょ~?」


「そういう問題じゃない!」


その時。


「たるとさん!」


ノアの声。


「え?」


後ろ。


炎を避けた一匹が大きく回り込んでいる。


「後ろです!」


「っ!」


たるとが振り返る。


狼が雪を蹴った。


狙いはたると。


俺は結界を蹴ろうとする。


だけど。


その前に一人。


前へ出た。


「モルフォさん!?」


たるとの声。


モルフォ。


「下がっていてください」


狼が飛び掛かる。


「アークスキルーー」


「《百虫のインセクト・ロード》」


右腕を前に出す。


「《剛角腕ビートル・アーム》」


モルフォの右腕が変わった。


大きく。


太く。


硬質な甲殻に覆われていく。


巨大な角。


甲虫を思わせる異形の剛腕。


ドォンッ!!


巨大な狼。


巨大な腕。


真正面からぶつかった。


「…………!」


止めた。


自分より遥かに大きな狼の突進を片腕一本で。


「モルフォさん!?」


「問題ありません」


狼が暴れる。


だけど。


モルフォの腕は動かない。


「皆さん」


モルフォが狼を受け止めたまま言う。


「私から離れないでください!」


「は、はい!」


そして。


巨大な腕を振る。


「ふっ!」


ブォンッ!!


狼の巨体が浮いた。


そのまま。


ドォンッ!!


雪原へ叩きつけられる。


「…………」


やっぱりモルフォ強い。


いつも研究所で虫を眺めている人と同じ人だよね?


「ガウ!」


「!」


シズクの声。


「前です!」


「分かってる!」


残った狼が来る。


結界を蹴る。


一気に加速。


横を抜ける。


「《朧斬》!」


ザンッ!!


一匹。


さらに。


炎を抜けてきた狼へ。


「セリア!」


「はい~」


魔法陣。


今度は黄色。


「サンダ~」


バチッ!


バチバチバチッ!!


「ガウちゃん避けて~」


「だから早く言って!」


結界を蹴る。


直後。


ドォォンッ!!


雷。


狼へ直撃。


「ギャウッ!」


動きが止まる。


「今だよ~」


最後の結界を蹴った。


一直線。


《朧》を構える。


「《瞬牙》!」


一閃。


狼の横を通り抜ける。


そして。


最後の一匹。


雪へ叩きつけられていた狼が起き上がる。


「《蜘蛛牢糸スパイダー・バインド》」


モルフォの巨大だった右腕が元へ戻る。


同時に。


指先から白い糸。


バシュッ!!


「ギャウッ!?」


狼の身体へ何重にも巻き付いた。


動きが止まる。


「セリアさん」


「はい~」


魔杖《創星》。


「ストーンバレット~」


小さな石が弾丸となる。


ドンッ!!


狼を貫通する。


そして動かなくなる。


「やったー!」


たるとの声。


俺は《朧》を鞘へ戻す。


そして。


皆を見る。


シズク。


セリア。


モルフォ。


「…………」


前衛。


俺だけだったけど。


「普通に強いね」


「今さらですか!?」


たるとの虎耳が立った。


「だって研究組ばっかりだったから」


「私もいます!」


「たるとは回復でしょ?」


「回復も大事です!」


「それはそう」


「ガウちゃんが前にいてくれたからね~」


セリアが笑う。


「足場が悪いのは予想外でしたが」


シズクも微笑む。


「対処できてよかったです」


「私も」


モルフォが手を見る。


もう普通の腕へ戻っている。


「皆さんを守る程度なら問題ありません」


「程度……」


たるとが倒れた巨大狼を見る。


「投げ飛ばしてましたけど……」


「護衛です」


「護衛ってすごいですね……」


俺もそう思う。


その時。


ズボッ。


「…………」


「ガウ?」


たるとが俺を見る。


足。


また雪に沈んでいる。


「やっぱり歩きにくい」


「戦ってる時あんなに格好よかったのに!?」


「結界なくなったから」


「ふふっ」


シズクが笑う。


「必要なら移動用にも出しましょうか?」


「本当?」


「ずっとは無理ですよ?」


「…………」


残念。


「とにかく!」


たるとの虎耳が立つ。


「ミスティアを探しましょう!」


「そうですね」


シズクがマップを開く。


俺たちも集まる。


魔導国家ミスティア


第七階層の攻略拠点。


場所は聞いている。


問題は。


今、自分たちがどこにいるか。


「この雪山が……」


シズクがマップを見る。


「あちらですね」


遠く。


巨大な雪山。


「でしたら現在地はこの辺りでしょうか」


リオが指差す。


「たぶんそうだね~」


セリアも覗き込む。


「ミスティアは?」


たるとが聞く。


「ここ~」


「…………」


少し遠い。


「歩くんですか?」


「歩くよ~」


「…………」


俺はマフラーを上げる。


「ガウ」


「なに?」


「帰りませんよ?」


「まだ何も言ってない」


「顔に書いてあります!」



俺たちは雪山を進んだ。


吹雪。


雪。


雪。


雪。


途中で何度か魔物にも遭遇した。


だけど。


大きな問題にはならなかった。


シズクが守り。


セリアが魔法で吹き飛ばし。


モルフォが後ろを守る。


俺も雪が深い場所ではシズクに足場を作ってもらいながら戦った。


そして。


数時間後。


「…………?」


俺は足を止めた。


「ガウ?」


たるとが振り返る。


「なにか見える」


「え?」


吹雪の向こうに光。


一つ。


二つ。


いくつも青白い光。


「もしかして~」


セリアの目が少し開く。


「着いたかも~」


「本当ですか!?」


たるとの虎耳が立つ。


俺たちは歩く速度を上げた。


少しずつ。


吹雪の向こう。


その姿が見えてくる。


「…………」


大きな街。


いや。


都市。


巨大な雪山。


その谷間に作られた都市。


高い塔。


石造りの建物。


街中を照らす青白い魔法灯。


建物の間には淡く輝く魔法陣。


そして。


そのすべてを覆うように。


巨大な半透明の結界。


「すごい……」


たるとが呟く。


「これが」


シズクも目を見開く。


「ミスティア……」


セリア。


完全に目が輝いている。


「見て~!」


「なに?」


「あの結界~!」


「うん」


「何重にも術式が組まれてる~!」


「うん」


「それに街の中にも魔法陣がいっぱいあるよ~!」


「うん」


「ガウちゃん聞いてる~?」


「寒い」


「…………」


セリアが俺を見る。


「暖かい場所に着いてから聞く」


「もう少しだよ~」


「急ぐよ!」


「ガウが一番やる気あります!」


「寒いからね!」


俺たちは都市へ向かった。



近付くほど巨大さが分かる。


入口。


大きな門。


その手前。


結界。


「…………」


俺はその中へ。


一歩。


入った。


ヒュオオオオオ――。


「…………」


風が消えた。


「…………」


寒くない。


「…………」


暖かい。


俺は止まった。


「ガウ?」


たると。


俺は振り返る。


「たると」


「はい?」


「ここに住みたい」


「フェリシアに帰りますよ!?」


「暖かい」


「私たちの国を捨てないでください!」


「捨ててないよ!」


「今住みたいって言ったじゃないですか!」


「冬だけ」


「もっとダメです!」


「ふふっ」


シズクが笑う。


「結界で内部の気温まで調整しているのでしょうか」


「たぶんね~」


セリアは結界を見上げたまま。


楽しそう。


「面白いな~」


完全に研究者の顔。


「皆さん」


声。


「?」


振り返る。


門の向こう。


銀色の長い髪。


落ち着いた雰囲気の女性。


見覚えがある。


「リュミエールさん!」


たるとが声を上げた。


魔導国家ミスティア


代表。


リュミエール。


「お久しぶりです」


リュミエールが微笑む。


「ようこそ」


そして。


俺たちを見る。


魔導国家ミスティアへ」


「お久しぶりです!」


たるとが頭を下げる。


俺たちも続く。


「突然来てしまってすみません!」


「構いませんよ」


リュミエールが微笑む。


「以前、いつでもいらしてくださいとお伝えしましたから」


そして。


視線。


俺。


「…………」


「?」


「ガウさん」


「なに?」


「ずいぶん厚着ですね」


「寒かったから」


「ふふっ」


笑った。


「とてもよくお似合いですよ」


「…………」


「ですよね!」


たると。


「たると?」


「かわいいですよね!」


「ええ」


「リュミエールまで……」


「ガウちゃん人気だね~」


「セリアは黙ってて」


「は~い」


「それで?」


リュミエールが俺たちを見る。


「今日は観光……というわけではなさそうですね」


たるとの表情が変わる。


「はい」


そして。


「実は」


シズクがアイテムボックスを開く。


布に包まれた物。


その中には砕けた宝玉。


リュミエールの目が止まった。


「これは……」


「通信に使われていた宝玉です」


シズクが答える。


「ですが、使用直後に何者かの攻撃で破壊されました」


「私たちでも調べてみたんだけどね~」


セリアが続ける。


「接続先とか、術式の詳しい情報までは分からなかったんだ~」


「それで」


たるとが頭を下げる。


「ミスティアの皆さんに詳しく調べてもらえないかと思って」


「…………」


リュミエールは宝玉を見る。


さっきまでの穏やかな表情が少し変わる。


「分かりました」


「本当ですか!?」


「ええ」


そして。


「まずは研究院へ運びましょう」


宝玉を見る。


「詳しくお話を聞かせてください」


「はい!」


俺たちは頷いた。



同じ頃。


第六階層。


軍事国家グランヴァル


巨大な門。


「開門!」


兵士の声。


ゴゴゴゴゴゴッ!!


分厚い門がゆっくり開いていく。


「…………」


ゴウマはその様子を見上げていた。


「すごいな」


「ああ」


隣。


アイスも門を見る。


「フェリシアの門よりかなり分厚い」


「魔物の襲撃を前提に作られている」


ヴォルグが答える。


「外側には?」


アイスが聞く。


「耐熱加工」


「内側には?」


「衝撃を分散する構造を入れている」


「なるほど」


三人が門を潜る。


その瞬間。


「総員!」


声。


「!」


門の内側。


兵士たちが何人も並んでいる。


「敬礼!」


ザッ!!


一斉に。


「お帰りなさいませ!」


「…………」


ゴウマとアイスが固まる。


「すごいな」


「ああ」


ヴォルグは気にした様子もなく進む。


「戻った」


それだけ。


「…………」


ゴウマとアイスが顔を見合わせる。


そして後を追う。


街。


「…………」


フェリシアとは全然違う。


石造りの建物。


広い道路。


一定間隔で設置された監視塔。


壁際には兵士。


武器を持って移動する集団。


訓練場。


兵舎。


武器庫。


至る所に戦うための設備がある。


だが。


「…………」


ゴウマが周囲を見る。


「兵士だけじゃないんだな」


「ああ」


ヴォルグが答える。


住民。


店。


食堂。


子供。


普通に暮らしている人たちもいる。


「軍事国家と聞いて」


ゴウマが言う。


「もっと兵士ばかりだと思っていた」


「兵だけで国が成り立つか」


「それもそうだな」


「我々が戦うのは」


ヴォルグが歩きながら言う。


「ここで暮らす者を守るためだ」


「…………」


ゴウマが少し笑う。


「フェリシアと同じだな」


「何がだ?」


「守るために戦う」


「…………」


ヴォルグは答えない。


そのまま歩く。


「ヴォルグ様!」


兵士が駆け寄ってくる。


「西側監視塔、異常ありません!」


「北側は?」


「第三班が監視中です!」


「火山方面の魔物は?」


「本日、二度確認!」


「接近前に討伐しております!」


「分かった」


ヴォルグが頷く。


兵士は敬礼。


すぐに持ち場へ戻っていく。


「…………」


アイスが周囲を見る。


「情報が集まるのが早い」


「ああ」


ヴォルグが答える。


「異常があれば各監視塔からすぐに報告が入る」


「伝達方法は?」


「緊急時は魔法を打ち上げる」


「通常時は人員だ」


「指揮系統は?」


「部隊ごとに――」


「アイス」


ゴウマが止める。


「なんだい?」


「まだ着いたばかりだぞ」


「…………」


「構わん」


ヴォルグが言う。


「知りたいなら答える」


「助かるよ」


「ただし」


ヴォルグが二人を見る。


「聞くだけでは意味がない」


「?」


ゴウマが見る。


「明日」


ヴォルグが告げる。


「実際の防衛訓練に参加してもらう」


「…………」


アイスが瞬きをする。


「僕も?」


「当然だ」


「僕、魔法使いなんだけど」


「だから何だ」


「…………」


アイスが笑う。


「容赦ないね」


「ゴウマ」


ヴォルグが見る。


「お前もだ」


「ああ」


ゴウマは即答した。


そして。


少し笑う。


「そのつもりで来た」


「そうか」


ヴォルグも僅かに笑う。


「ならば」


巨大な城塞。


訓練場。


監視塔。


兵士たち。


そのすべてを背に。


「徹底的に教えてやる」


「望むところだ」


ゴウマが答えた。


軍事国家グランヴァル


フェリシアとはまったく違う国。


だが国を守る。


その目的は同じ。


ゴウマはもう一度、巨大な要塞都市を見上げた。

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