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第20話 技術交流

夕方。


国家フェリシア


正門。


「――この目で見に来た」


ヴォルグが告げた。


「…………」


たるとの虎耳がゆっくり立つ。


「フェリシアをですか?」


「ああ」


ヴォルグは俺たちから視線を外した。


正門。


その向こう。


夕方のフェリシア。


商業区から聞こえる声。


「今日は安いよー!」


「それ二つください!」


「毎度!」


店先ではプレイヤーとNPCが一緒に商品を並べている。


道を走る子供たち。


「待てー!」


「こっちだよー!」


「転ぶなよ!」


近くにいた警備隊員が笑いながら声を掛ける。


仕事を終えた人たち。


食堂へ向かう人たち。


港から戻ってきた人たち。


みんな笑って暮らしている。


「…………」


ヴォルグは何も言わない。


ただ見ている。


「?」


たるとも隣で黙って待っている。


少ししてヴォルグが口を開いた。


「……いい国だ」


「…………!」


たるとの虎耳。


ぴんっ!


「本当ですか!?」


「ああ」


即答だった。


「以前、お前が話していたことは」


ヴォルグが街を見る。


「綺麗事ではなかったらしい」


「…………」


たるとの尻尾が。


ぶんっ。


「えへへ……」


嬉しそう。


「たると」


「なんですか?」


「尻尾」


「…………」


ぴたっ。


「今はいいんです!」


「いいんだ」


「嬉しいので!」


認めた。


珍しい。


ヴォルグが僅かに笑う。


その時。


「ヴォルグ」


ゴウマが呼んだ。


「ん?」


「ちょうど良かった」


さっきまでより少し真剣な声。


「聞きたいことがある」


「俺に?」


「ああ」


ゴウマが答える。


軍事国家グランヴァル


そして。


「《黒鉄騎士団》のギルドマスターとしてな」


「…………」


ヴォルグの目が変わった。


「分かった」


短く答える。


「場所を変えよう」



《王虎の牙》。


ギルド本部二階。


会議室。


「…………」


机を囲む。


俺。


たると。


ゴウマ。


バレット。


アイス。


アレン。


そして。


ヴォルグ。


机の中央には布に包まれた物。


「昨日のことだ」


ゴウマが話し始めた。


「フェリシアへ潜入していたと思われる男がいた」


「潜入?」


「ああ」


男が住民について聞き回っていたこと。


警備隊。


所属ギルド。


フェリシアの施設。


それらを調べていたこと。


そして。


俺が尾行したこと。


「フェリシアを出たあと」


俺が続ける。


「男は森に入った」


「そこで宝玉を使って誰かと通信してた」


「内容は?」


ヴォルグが聞く。


「『追加の調査をお願いします』」


俺は答える。


「そう言われてた」


「…………」


ヴォルグの目が細くなる。


「直後」


俺は続ける。


「男が撃ち抜かれた」


「撃ち抜かれた?」


「うん」


「…………」


「男は死亡」


ヴォルグは黙って聞いている。


「さらに」


ゴウマが俺を見る。


「ガウも狙われた」


「…………」


ヴォルグの視線が俺へ向いた。


「お前も?」


「うん」


「怪我は?」


「ないよ」


「なぜだ?」


「避けたから」


「…………」


ヴォルグが止まった。


アイスが少し笑う。


「僕たちも同じ反応だ」


「殺気を感じたから横に飛んだ」


俺は説明する。


「避けたんだけど宝玉に弾が当たって割られた」


「…………」


「それで」


バレットが机の布を開いた。


少し変形した金属。


弾丸。


「現場から回収した物だ」


「…………」


ヴォルグが見る。


すぐには触らない。


目だけで観察する。


「これが?」


「ガウを狙った物だ」


バレットが答える。


「俺たちの知る武器ではない」


「ガウは銃の弾だと言っている」


「銃……」


ヴォルグが呟く。


机を見る。


「《ファンタズマ・ゲイト》で銃なんて見たことない」


「僕もない」


アイスが答える。


「少なくとも攻略組で銃を使っているプレイヤーなんて聞いたことがないね」


「…………」


ヴォルグが弾丸を見る。


「狙撃された時」


低い声。


「相手の位置は?」


「分からなかった」


「距離は?」


「分からない」


「姿は?」


「見てない」


「発砲音は?」


「した」


俺は答える。


「乾いた音」


「二回」


「殺気は?」


「私が撃たれる直前だけ」


「それ以外は?」


「全然」


「…………」


ヴォルグが腕を組む。


少し考える。


そして。


「ガウ」


「なに?」


「お前が尾行していた間」


「別の人間の気配は?」


「なかった」


「本当に?」


「うん」


俺は頷く。


「だから」


少し考える。


「あの時はびっくりした」


「…………」


ヴォルグが黙る。


「どうだ?」


ゴウマが聞く。


「何か心当たりはあるか?」


「…………」


少し間。


そして。


「一つだけある」


全員がヴォルグを見る。


「ただし」


ヴォルグが先に言った。


「今回の犯人だと断定するつもりはない」


「分かっている」


ゴウマが頷く。


「聞かせてくれ」


「ああ」


ヴォルグが腕を組んだまま答える。


「世界指名手配ランキング」


一拍。


「第六位」


「…………」


「暗殺者を中心に構成されたギルドがある」


たるとの虎耳が僅かに動く。


「暗殺者……」


「ああ」


ヴォルグの声が低くなる。


「《夜葬ナイト・レクイエム》」


「…………」


初めて聞く名前。


「暗殺」


「誘拐」


「破壊工作」


「護衛」


「情報の奪取」


そして。


「金さえ払えば仕事を選ばない」


「…………」


「危険なギルドなの?」


俺が聞く。


「指名手配第六位だ」


ヴォルグが答える。


「それだけで十分だろ」


「確かに」


「構成員の多くが隠密、索敵妨害、暗殺に特化している」


「正面から戦う連中ではない」


「姿を見せず」


「気付かれる前に殺す」


「それが奴らの戦い方だ」


「…………」


アレンが眉を寄せる。


「今回の手口と似ていますね」


「ああ」


「グランヴァルも過去に一度、奴らと交戦している」


ゴウマが聞く。


「勝ったのか?」


「追い払った」


「…………」


ヴォルグが答える。


「勝ったとは言わん」


「こちらにも被害が出た」


「《黒鉄騎士団》にですか?」


たるとが驚く。


「ああ」


「暗殺者相手に軍の常識は通用しないことがある」


「前線がない」


「どこから攻撃されるか分からん」


「気付いた時には」


少し間。


「すでに懐へ入られていた」


「…………」


静かになる。


「ただ」


ヴォルグが弾丸を見る。


「奴らがこのような武器を使うという情報は俺も知らん」


「じゃあ」


たるとが聞く。


「《夜葬》じゃない可能性も?」


「当然ある」


ヴォルグは頷く。


「隠密に優れた者など他にもいる」


「だから決めつけるな」


「はい」


「だが」


俺を見る。


「警戒は続けろ」


「うん」


「特にお前だ」


「私?」


「一度狙われている」


「…………」


「相手がお前の顔を見ていた可能性もある」


「あ」


考えてなかった。


「ガウ!」


たると。


「なに?」


「やっぱり一人で外出禁止です!」


「元々そうなってるよ」


「もっと禁止です!」


「もっとって何?」


「もっとです!」


分からない。


「ははっ」


アイスが笑った。


さっきまで重かった空気が少しだけ戻る。


「とにかく」


ゴウマがまとめる。


「《夜葬ナイト・レクイエム》についてはこちらでも調べておこう」


「必要なら俺からも情報を渡そう」


ヴォルグが言う。


「助かる」


「ああ」


その時。


ぐぅぅぅ。


「…………」


「…………」


静かな会議室。


全員の視線。


たると。


「…………」


虎耳が伏せる。


「私じゃありません!」


「まだ何も言ってないよ」


「皆さん見たじゃないですか!」


ぐぅぅ。


「…………」


たるとのお腹。


「たると」


「ガウ!」


「ご飯にしよっか」


「……はい」



「乾杯じゃあ!」


「おおおおお!」


夜。


《王虎の牙》ギルド本部。


一階。


「…………」


どうしてこうなったんだろう。


最初は。


ヴォルグさんもいるし。


バルカンさんたちも泊まるし。


皆でご飯を食べよう。


それだけだった。


なのに。


「ガンテツ!」


「飲んどるか!」


「おう!」


「もっと持ってこい!」


「任せろ!」


大宴会。


「なんで!?」


たるとが叫ぶ。


「誰ですか宴会にしたの!」


「たるとじゃないのか?」


ハヤテ。


「違います!」


「でも飯食おうって」


「ご飯です!」


「同じだろ?」


「違います!」


賑やか。


テーブルには料理が次々運ばれてくる。


「ヴォルグ!」


ガンテツが大きな杯を持って近づく。


「飲んでるか!」


「飲んでいる」


ヴォルグが自分の杯を見せる。


「少ない!」


「十分だ」


「もっと飲め!」


「必要ない」


「遠慮するな!」


「していない」


「はっはっはっ!」


「…………」


ヴォルグがちょっと困ってる。


「ヴォルグさん」


たるとが慌てて近づく。


「無理しなくていいですからね!」


「ああ」


「ガンテツ!」


「なんだ!」


「無理やり飲ませない!」


「無理やりじゃない!」


「無理やりです!」


「はっはっは!」


聞いてない。


その横。


「ドラン!」


「なんじゃ!」


「明日は朝から工房じゃ!」


バルカン。


「分かっとる!」


「炉をもっと見せろ!」


「勝手に触るなよ!」


「分かっとるわ!」


「本当か!?」


「信用せい!」


「勝手に触ったじゃろうが!」


「ちょっとじゃ!」


「触っとるじゃないか!」


「…………」


もう仲良しじゃん。


「ガウ」


リンファが隣へ来る。


「なに?」


「楽しそうね」


「うん」


俺は周囲を見る。


笑い声。


騒ぎ声。


料理を食べる人。


飲んでいる人。


話している人。


ヴォルグも最初は静かに座っていた。


でも今はゴウマ。


アイス。


バレット。


三人と何か話している。


時々。


少しだけ笑っている。


「…………」


昨日、人が死んだ。


俺も狙われた。


まだ何も解決してない。


だけど……。


「いい国だ」


ヴォルグが言った言葉。


「…………」


俺もそう思う。



翌朝。


鍛冶工房。


カンッ!


カンッ!


金属を叩く音。


「…………」


バルカンは炉の前に立っていた。


隣。


ドラン。


「火力が弱い!」


「これで十分じゃ!」


「もっと上げろ!」


「何を作る気じゃ!」


「知らん!」


「知らんのか!」


「はっはっは!」


「朝からうるさいな」


声。


「ん?」


二人が振り返る。


入口にバレット。


弓《流星》を背負っている。


「ドラン」


「ああ」


バレットが聞く。


「頼んでた物は?」


「できとる」


ドランが作業台へ向かう。


「ほれ」


一本。


矢を取り出した。


「試作品三号じゃ」


「…………」


バレットが受け取る。


確認。


矢じり。


普通の矢より少し大きい。


「ほう?」


バルカンが覗き込む。


「なんじゃ、その矢は」


「試作品だ」


バレットが答える。


「それは聞いた」


バルカンが矢じりを見る。


「なぜ矢じりを大きくしとる?」


「理由がある」


「何じゃ?」


バレットは矢を持ち上げた。


「俺のアークスキルには制限がある」


魔法付与エンチャントマスター》。


「制限?」


「ああ」


矢じりを指差す。


「魔法効果を付与できるのは金属部分だけだ」


「ほう」


バルカンの目が変わった。


「普通の矢なら」


バレットが続ける。


「矢じりが小さい」


「付与できる効果にも限界がある」


「だから」


少し大きな矢じりを見る。


「金属部分を増やした」


「…………」


バルカンが髭を撫でる。


「それで?」


「実験してる」


「何をじゃ?」


バレットが答える。


「三つ」


「…………」


「一つの矢じりに」


「三種類の効果を同時に付与できないか」


「…………」


バルカンの目が完全に変わった。


「三重付与か」


「ああ」


「できるのか?」


「まだ分からない」


バレットが矢を見る。


「だから三号だ」


「一号は?」


「付与した瞬間に壊れた」


ドランが答える。


「二号は?」


「矢を放った瞬間に割れた」


「ほう……!」


バルカンが矢を凝視する。


「だから三号は」


ドランが胸を張る。


「矢じりの素材から変えた」


「何を使った?」


「そこがな――」


二人。


一瞬で職人の世界へ。


「…………」


バレットが黙って見る。


「何じゃ?」


「いや」


「話が早くて助かる」


「当然じゃ!」


バルカンが笑う。


「面白いではないか!」


そして。


バレットの矢を見る。


「三重付与」


ニヤリ。


「やってみようではないか!」


「お前がやるんじゃないわ!」


ドランが怒鳴った。



同じ頃。


城の地下にある訓練場。


「はっ!」


ガキンッ!


剣と剣がぶつかる。


「下がるな!」


アレンの声。


「はい!」


「前衛、交代!」


「後衛!」


「行きます!」


複数の警備隊員。


隊列。


前衛。


後衛。


盾。


剣。


槍。


訓練が続いている。


その様子を。


「…………」


腕を組んで見ている男。


ヴォルグ。


その隣。


ゴウマ。


そして。


アイス。


三人。


しばらく誰も話さない。


「右!」


アレンが叫ぶ。


隊員が動く。


だが。


一人。


遅れた。


「遅い!」


「すみません!」


再び隊列を組む。


「…………」


ヴォルグの目が細くなる。


ゴウマが聞いた。


「どうだ?」


「…………」


返事はない。


訓練を見る。


一分。


二分。


そして。


「悪くない」


ヴォルグが言った。


「本当か?」


「ああ」


ゴウマが少し笑う。


「だが」


「…………」


「まだ甘い」


「どこが?」


アイスが聞く。


ヴォルグが訓練場を見る。


「個々の動きではない」


「連携だ」


「…………」


「前衛が下がった時」


「後衛が前へ出るまでに間がある」


「右側への対応も遅い」


「それに」


アレンを見る。


「隊長の指示を待ちすぎている」


「なるほど」


アイスが頷く。


「指示がなくても動けるようにする必要があると?」


「ああ」


ヴォルグが答える。


「実戦では隊長の声が必ず届くとは限らん」


「隊列が分断されることもある」


「奇襲もある」


「指揮官が最初に狙われる場合もある」


「…………」


昨日。


俺たちが話した暗殺者。


そのことも含んでいるのかもしれない。


「どうする?」


ゴウマが聞く。


「…………」


ヴォルグは答えない。


代わりに一歩、訓練場へ出た。


「?」


アレンが気付く。


警備隊員たちも動きを止める。


「ヴォルグさん?」


ヴォルグは全員を見る。


「ゴウマ」


「なんだ?」


「少し借りるぞ」


「何をだ?」


一拍。


ヴォルグは警備隊員たちを見渡した。


そして。


低い声で告げる。


「決まっている」


「…………」


大剣を背負ったまま。


腕を組む。


「――鍛える」


「…………」


警備隊員たちの顔が一斉に固まった。

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