第19話 重なる来訪
朝。
「…………」
俺は商業区を歩いていた。
昨日。
フェリシアへ潜入していた男を追った。
誰かとの通信。
聞き覚えのある声。
乾いた音。
男の死。
そして。
俺まで狙った弾丸。
「…………」
分からないことばっかり。
宝玉と弾丸は今も研究所。
セリア。
シズク。
モルフォ。
三人が調べてくれている。
警備も強化した。
フェリシアの外へ出る時は、なるべく一人にならない。
できることはやった。
だから。
今は。
「ガウ!」
「ん?」
振り返る。
たるとがこっちへ走ってくる。
「何してるんですか!」
「歩いてる」
「見れば分かります!」
「じゃあなんで聞いたの?」
「そういう意味じゃありません!」
朝から元気。
「ガウ!」
「なに?」
「一人で外に行ってませんよね?」
「行ってないよ」
「本当に?」
「ここ国内だよ」
「…………」
たるとが周囲を見る。
商業区。
店。
人。
「じーーー」
たるとが俺の顔を覗き込む。
「じーって自分で言うんだね」
「ガウはすぐ無理するので!」
「しないよ」
「昨日しました!」
「昨日は仕方ないじゃん」
「弾丸を避けるのは普通じゃありません!」
「避けなかったら当たってたよ?」
「そういう問題じゃありません!」
難しい。
「とにかく!」
たるとの虎耳がぴんっと立つ。
「しばらくはちゃんと気を付けてください!」
「分かってるよ」
「本当に?」
「本当に」
「…………」
「なに?」
「怪しい」
「なんで?」
その時。
「たるとさん!」
「はい!」
遠くから警備隊員が走ってきた。
「アレン隊長からです!」
「どうしました?」
「来訪者です!」
「…………」
たるとの虎耳が動く。
「また?」
俺が聞く。
「はい!」
警備隊員が答える。
そして。
「今回は二組です!」
「二組!?」
たるとの虎耳が立った。
◇
正門。
「おお!」
大きな声。
「久しぶりじゃな!」
「…………」
遠くからでも分かる。
声がでかい。
正門前。
立派な髭。
がっしりした身体。
大柄なドワーフ。
その後ろには数人のプレイヤー。
見覚えがある。
《神匠の炉》。
そして。
その先頭。
「おう!」
バルカンが豪快に笑う。
「元気そうじゃな!」
「バルカンも」
「当然じゃ!」
相変わらず元気。
「お久しぶりです!」
たるとも頭を下げる。
「おう!たるとも元気そうじゃな!」
「はい!」
「はっはっは!」
そして。
もう一組。
「たると!」
「あ!」
たるとの虎耳が立った。
「カインさん!」
「久しぶり!」
第四階層。
国家。
その代表。
カイン。
「本当に来てくれたんですね!」
「もちろん!」
カインが笑う。
「前から来たかったんだよ!」
「私も来てほしかったです!」
「やっと来られた!」
「いっぱい案内します!」
「楽しみだ!」
「…………」
俺は二人を見る。
「やっぱり似てる」
「何がですか?」
「何が?」
ほぼ同時。
「今の」
「ガウ!」
たると。
「似てないよ?」
カイン。
「…………」
微妙に違った。
「ほら!」
たるとが胸を張る。
「何が『ほら』なの?」
「似てない証明です!」
「そうかな」
「そうです!」
その横。
「たるとさん」
アレンが苦笑している。
「プレイヤーカードの確認は双方とも済んでいます」
「問題ありません」
「ありがとうございます!」
「それで」
俺はバルカンを見る。
「今日はどうしたの?」
「決まっとる!」
「?」
バルカンが胸を張る。
そして。
「ドランじゃ!」
「…………」
ああ。
「覚えてたんだ」
「忘れるか!」
国家代表者会議が終わった後。
バルカンは俺の《朧》。
ハヤテの《白夜》と《黒曜》。
三本の刀を見た。
その時。
フェリシアにドランという鍛冶職人がいることを話した。
「腕がいいと言っとったな!」
「うん」
「なら会う!」
「それだけで来たの?」
「それだけとは何じゃ!」
怒られた。
「職人に会う!」
「工房を見る!」
「鍛冶を見る!」
そして。
「酒を飲む!」
「最後関係なくない?」
「大事じゃい!」
「そうなの?」
「大事じゃ!」
二回言った。
「まあ」
ゴウマが後ろから歩いてくる。
「立ち話もなんだ」
「中へ案内しよう」
「おう!」
「やった!」
カインまで嬉しそう。
「行きましょう!」
たるとも嬉しそう。
「…………」
やっぱり似てる。
言ったら怒られそうだから黙っておこう。
◇
《王虎の牙》。
ギルド本部。
一階。
「ドラン!」
「ん?」
作業道具を抱えて歩いていたドランが振り返る。
「なんじゃ?」
「この人」
俺は隣を見る。
「前に話したバルカン」
「ほう」
ドランがバルカンを見る。
バルカンもドランを見る。
「…………」
「…………」
二人。
無言。
「何ですか、この空気」
たるとが小声で聞く。
「知らない」
やがて。
バルカンが口を開いた。
「お前がドランか」
「そうじゃ」
「フェリシアの鍛冶を任されとると聞いた」
「任されとるっちゅうほど大層なもんじゃない」
ドランが鼻を鳴らす。
「必要なもんを作っとるだけじゃ」
「ほう」
バルカンの目が変わる。
「工房は?」
「ある」
「炉は?」
「ある」
「見せろ」
「なんでじゃ」
「見たいからじゃ!」
「知らんわ!」
「いいじゃろ!」
「いきなり来て図々しい奴じゃな!」
「鍛冶師同士じゃろ!」
「今日初めて会ったわ!」
「…………」
俺はたるとを見る。
「仲良くなれそう」
「どこを見てそう思ったんですか!?」
「楽しそう」
「喧嘩してますよ!?」
「「喧嘩じゃないわ!」」
二人同時。
「…………」
たるとが俺を見る。
「似てますね」
「でしょ?」
「おい!」
「聞こえとるぞ!」
耳もいい。
「はっはっは!」
バルカンが笑う。
「気に入った!」
「わしはまだ気に入っとらん!」
「工房へ行くぞ!」
「勝手に決めるな!」
「炉を見せろ!」
「靴を拭いてから入れ!」
「そこはいいんだ」
俺が言う。
「工房を汚すな!」
ドランが怒った。
◇
一方。
「すごい!」
カインは完全に観光客になっていた。
「ここが商業区です!」
「全部見ていい?」
「もちろんです!」
「おすすめは?」
「いっぱいあります!」
「全部行こう!」
「はい!」
「待ちなさい」
リンファ。
「「え?」」
二人同時。
「全部回ってたら日が暮れるわよ」
「でも」
たると。
「せっかく来てくれたんですよ?」
「だからって全部回る必要はないでしょう?」
「僕は全部見たいな」
「カインまで乗らないの」
「…………」
「…………」
二人。
しょんぼり。
「なんで二人とも同じ顔するのよ」
リンファが額へ手を当てる。
「リンファ」
俺が呼ぶ。
「なに?」
「お母――」
「殴るわよ」
「なんでもない」
危なかった。
「まず商業区」
ゴウマが言う。
「そのあと住宅街」
「畑」
「港」
「時間があれば他も案内しよう」
「はい!」
「分かった!」
二人が同時に答える。
◇
商業区。
「うわぁ……!」
カインが周囲を見る。
店。
露店。
行き交う人。
プレイヤー。
NPC。
「話は聞いてたけど……」
「実際に見ると全然違うな」
「どうですか?」
たるとが聞く。
「楽しい」
即答。
「本当ですか!?」
「うん」
「やった!」
「でも」
カインが笑う。
「たるとが言ってた意味、分かる気がする」
「え?」
「皆が笑って暮らせる場所」
「…………」
たるとの虎耳が動く。
「プレイヤーとかNPCとか関係なくて」
カインさんが周囲を見る。
「皆が帰ってこられる国」
「…………」
「会議で聞いた時もいいと思ったけど」
笑う。
「実際に見るともっといいね」
「…………」
たるとの尻尾が。
ぶんぶんぶん。
「たると」
「今は言わないでください!」
先に止められた。
「はははっ!」
カインが笑う。
たるとも笑う。
「ありがとうございます!」
◇
昼。
食堂。
「美味しい!」
「本当ですか!?」
「うん!」
「いっぱい食べてください!」
「食べる!」
たるととカイン。
楽しそう。
俺。
ハヤテ。
ゴウマ。
リンファ。
四人で見る。
「似てるな」
ハヤテ。
「似てるわね」
リンファ。
「似てるな」
ゴウマ。
「でしょ?」
俺。
「聞こえてますよ!」
「聞こえてるよ?」
二人の反応は違った。
「ほら!」
たるとが俺を見る。
「やっぱり似てません!」
「そこ?」
その時。
「はっはっはっ!」
でかい声。
「…………」
嫌な予感。
見る。
バルカン。
ガンテツ。
そして。
ドラン。
三人。
酒。
「昼だよ?」
俺が言う。
「一杯だけじゃ!」
バルカン。
「そうだ!」
ガンテツ。
「お前はもう二杯目じゃろうが!」
ドラン。
「細かいこと言うな!」
「細かくないわ!」
「はっはっは!」
「…………」
いつの間にかガンテツが増えてる。
「バルカンさん!」
たるとが声を上げる。
「飲みすぎないでくださいね!」
「分かっとる!」
「本当ですか!?」
「任せろ!」
「信用できないです!」
「はっはっは!」
全然聞いてない。
「ドランさん」
たるとが頼る。
「お願いします!」
「任せろ!」
ドランが胸を張る。
その手には酒。
「ドランさんも飲んでるじゃないですか!」
「これは付き合いじゃ!」
「同じです!」
賑やか。
「…………」
俺は少し笑う。
食べて。
飲んで。
笑って。
騒いでいる。
フェリシアは。
今日もフェリシアだった。
「ガウ?」
たるとが俺を見る。
「どうしました?」
「なんでもない」
「?」
「楽しいね」
「…………」
たるとが笑う。
「はい!」
◇
夕方。
正門。
「今日はありがとう!」
カインが笑う。
「こちらこそ!」
たるとも笑う。
「本当に楽しかった!」
「また来てください!」
「もちろん!」
「じゃあ」
カインが手を上げる。
「また来るよ!」
「はい!」
たるとも大きく手を振る。
「待ってます!」
カインたちは正門を抜ける。
少しずつ遠ざかっていく。
「…………」
たるとの尻尾が揺れている。
「楽しかった?」
俺が聞く。
「はい!」
即答。
「カインさん、やっぱり話しやすいです!」
「似てるから?」
「違います!」
まだ認めない。
「それで」
たるとが周囲を見る。
「バルカンさんは?」
「工房」
「まだ!?」
「ドランと何かやってる」
「帰らないんですか!?」
「今日は泊まるって」
「いつ決めたんですか!?」
「さっき」
「私聞いてません!」
「ギルド本部のゲストルームに荷物置いてるみたい」
「行動が早い!」
「はぁ……」
たるとが肩を落とす。
「今日は賑やかでしたね」
「いつもじゃん」
「今日は特にです!」
「でも」
俺は正門を見る。
「こういうのいいね」
「…………」
たるとの虎耳がゆっくり立つ。
「はい」
少し笑う。
「私も嬉しいです」
少しずつ人と国が繋がっていく。
その時。
「たるとさん」
アレン。
「はい?」
こちらへ歩いてくる。
「どうしました?」
「…………」
アレンが正門を見る。
「来訪者です」
「また!?」
たるとの虎耳が立った。
「今日三組目?」
俺が聞く。
「はい」
「それで」
ゴウマが聞く。
「誰だ?」
「一名です」
アレンが答える。
「プレイヤーカードも確認しました」
「問題ありません」
そして。
「所属は」
一拍。
「《黒鉄騎士団》です」
「…………」
俺は正門を見る。
大柄な男。
黒い重装備。
背中には大剣。
鋭い目。
ただ立っているだけなのに周囲の空気が少し違って見える。
「……ヴォルグ?」
国家代表者会議。
第六階層。
軍事国家。
《黒鉄騎士団》ギルドマスター。
ヴォルグ。
俺たちがフェリシアを作った理由をたるとに尋ねた人。
ヴォルグも俺たちに気付いた。
こちらへ歩いてくる。
一歩。
一歩。
そして。
目の前で止まった。
「久しぶりだな」
低い声。
「お久しぶりです!」
たるとが頭を下げる。
「どうしたんですか?」
「…………」
ヴォルグさんは答えず。
一度。
正門の向こうを見る。
外壁。
街。
行き交う住民。
そして。
たるとを見る。
「以前」
「お前は言ったな」
「?」
「皆が笑って暮らせる場所を作りたいと」
「…………」
たるとの虎耳が動く。
「困った時には助け合い」
「疲れた時には帰ってこられる」
「誰であろうと関係なく」
「ただいまと帰ってこられる国」
「…………」
「はい」
たるとが答える。
ヴォルグはもう一度フェリシアを見る。
そして。
「だから来た」
「え?」
低い声。
「国家」
一拍。
「どんな国なのか」
ヴォルグさんが告げる。
「――この目で見に来た」
「…………」
たるとの虎耳がゆっくり立ち上がった。
よろしければ感想や評価、ブックマークで応援していただけると励みになります!




