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第16話 新たな来訪者

国家フェリシア


朝。


「…………」


俺は正門前を歩いていた。


昨日に続いて。


今日も多くのプレイヤーがフェリシアを訪れている。


「次の方、プレイヤーカードをお願いします」


アレンの声。


「はい」


カードを受け取る。


確認後、返す。


「問題ありません」


そして。


「ようこそ、フェリシアへ」


「ありがとう!」


また一人。


フェリシアへ入っていく。


「…………」


本当に増えた。


昨日だけじゃなかったらしい。


「ガウ」


「ん?」


隣にいるリンファが話す。


「ぼーっとしない」


「してないよ」


「してたわよ」


「考え事」


「何を?」


「今日も多いなって思って」


「今からもっと増えるかもね」


「……ガウさん」


反対側にいるヨミが話しかけてきた。


「どうしたの?」


「……あちら」


路地を指差す。


「…………」


何もいない。


「何かいる?」


「……《影鼠シャドウ・ラット》です」


「あ」


見えない。


昨日。


ヨミがアークスキル《冥魂契約ソウル・コントラクト》で召喚した小さな死霊。


三十匹以上。


今もフェリシアの色んな場所で動いている。


「異常は?」


「……ありません」


「そっか」


昨日。


一匹だけ。


一人の来訪者を追っていた。


でも。


その人もただ街を歩いていただけ。


怪しい行動はしていない。


だから。


今も監視を続けているだけ。


「平和ね」


リンファが言う。


「いいことじゃん」


「そうね」


ゴブリンの件もある。


警戒は必要。


だけど。


何も起こらないなら。


それが一番いい。


その時だった。


「隊長!」


正門から声。


「ん?」


アレンが振り返る。


警備隊員が正門の外を指差している。


「ちょっといいですか?」


「どうした?」


「来訪者なんですけど」


「カードに問題でもあったか?」


「いえ」


警備隊員が首を横に振る。


「そうじゃなくて」


少し困ったように。


「国家の使者だそうです」


「…………」


アレンが止まった。


俺たちも止まった。


「国家?」


俺が呟く。


「はい」


警備隊員がこっちを見る。


「フェリシアの代表者と話がしたいと」


「…………」


リンファを見る。


リンファも俺を見る。


そして。


「たるとね」


「たるとだね」



「私ですか!?」


《王虎の牙》。


ギルド本部の一階。


たるとの虎耳が立った。


「国家の使者です」


アレンが答える。


「フェリシアの代表者との面会を希望しています」


「…………」


たるとの虎耳が少し伏せた。


「私ですか?」


「たると以外に誰がいるの?」


俺が聞く。


「ガウとか!」


「なんで私?」


「《四牙御免》!」


「国家代表じゃないよ」


「ゴウマ!」


「たるとだな」


即答。


「リンファ!」


「頑張ってね」


「シズク!」


「たるとさんなら大丈夫です」


「セリア!」


「頑張ってね~」


「皆さん!?」


逃げ道。


全部塞がれた。


「はははっ!」


ハヤテが笑う。


「諦めろって!」


「他人事だと思ってませんか!?」


「他人事だからな!」


「ハヤテ!」


「痛っ!」


たるとがハヤテの腕を叩く。


「まあ」


ゴウマが苦笑する。


「俺たちも同席する」


「本当ですか!?」


「もちろんだ」


「よかったぁ……」


分かりやすい。


「それで」


アイスがアレンを見る。


「どこの国から?」


「第四階層です」


「第四階層?」


たるとが聞く。


「はい」


アレンが答える。


国家グランディア


「…………」


知らない。


俺は皆を見る。


ハヤテ。


首を横に振る。


リンファも。


たるとも。


「僕は名前だけ聞いたことがある」


アイスが言った。


「攻略拠点の一つだね」


「危険な国?」


たるとが聞く。


「いや」


アイスが首を横に振る。


「少なくとも、そういう話は聞いてないよ」


「ならよかったです」


たるとの虎耳が戻る。


「人数は?」


ゴウマが聞く。


「四名です」


アレンが答える。


「全員、プレイヤーカードに問題はありませんでした」


「分かった」


ゴウマが頷く。


「まず話を聞こう」


「はい!」


たるとも頷いた。


そして。


「…………」


少しだけ表情を引き締める。


「お待たせしちゃダメですよね」


「行きましょう!」



ギルド本部二階にある応接室。


「初めまして」


向かい側には四人のプレイヤー。


先頭に座っている男性が頭を下げた。


国家グランディアより参りました」


「クラウスと申します」


「は、初めまして!」


たるとも頭を下げる。


国家フェリシア代表のたるとです!」


俺。


ゴウマ。


リンファ。


シズク。


アイス。


今回は五人が同席している。


「この度は突然の訪問となり、申し訳ありません」


「いえ!」


たるとが首を横に振る。


「来ていただけて嬉しいです!」


「ありがとうございます」


クラウスが笑う。


普通の人だ。


少なくとも今のところは。


「それで」


たるとが聞く。


「今日はどうしてフェリシアへ?」


「まずは」


クラウスが答える。


「ご挨拶です」


「挨拶?」


「はい」


「最近」


少しだけ笑う。


「フェリシアの名前を聞く機会が増えました」


「…………」


たるとの虎耳が動く。


「アルカディアで?」


俺が聞く。


「それもあります」


クラウスが俺を見る。


「第五階層の国家アルカディア


「第六階層の国家セレスティア


「両国からフェリシアの話が聞こえてきています」


「…………」


ガルドとレイナ。


絶対あの二人だ。


「特に」


クラウスが笑う。


「ガルド王が随分と楽しそうに話していたそうで」


「…………」


やっぱり。


「ちなみに」


たるとが恐る恐る聞く。


「ガルドさん、今どうしてるか知ってます?」


「さあ?」


「地下牢に入れられたって噂を聞いたんですけど……」


「…………」


クラウスが止まる。


「国王が?」


「はい」


「なぜ?」


「勝手に一人でフェリシアに来たので」


「…………」


「…………」


四人の使者が顔を見合わせた。


「……それは」


クラウスが言う。


「本当なんですか?」


「来たのは本当です」


俺が答える。


「一人で」


「護衛は?」


「いません」


「同行者も?」


「いません」


「ビルズさんにも内緒で」


たるとが付け足す。


「…………」


クラウスが額へ手を当てた。


「相変わらずですね……」


知ってるんだ。


「まあ!」


たるとが慌てて話を戻す。


「ガルドさんのことは置いておいて!」


「そうですね」


「本人がいないところでこれ以上話すのも可哀想です」


「そうですね!」


もう十分話してるような気がする。


「今回」


クラウスさんが姿勢を正した。


「私たちがフェリシアを訪れたのは」


「今後」


国家グランディア国家フェリシアの間で」


一拍。


「交流できる可能性があるか」


「それを確認するためです」


「交流……」


たるとが呟く。


「はい」


「例えば交易」


「情報交換」


「互いの国への訪問」


「まだ具体的に何かを決める段階ではありません」


「まずは」


クラウスがたるとを見る。


「どのような国なのか」


「実際に見てみたいと思いまして」


「…………」


たるとの虎耳。


ぴんっ!


「ぜひ見ていってください!」


即答。


「たると」


ゴウマが呼ぶ。


「はい?」


「少し考えてから答えてもいいんだぞ」


「だって見てもらうだけですよ?」


「まあ、そうだが」


「なら大丈夫です!」


「…………」


ゴウマが苦笑する。


「分かった」


「えへへ」


クラウスたちも笑っている。


「でしたら」


たるとが立ち上がった。


「私たちが案内します!」


「よろしいのですか?」


「もちろんです!」


「ありがとうございます」


こうして。


また一つ。


フェリシアに新しい国との繋がりが生まれようとしていた。



「ここが商業区です!」


「かなり賑わっていますね」


「最近は人が増えました!」


「なるほど」


たるとを先頭に。


《グランディア》から来た四人を案内する。


住宅街。


商業区。


畑。


港。


「海まで利用しているんですね」


「はい!」


「第一階層にこの規模の港を……」


クラウスが周囲を見る。


「半年で作ったと聞いていましたが」


「はい!」


「…………」


少し間。


「本当に?」


「また疑われた!?」


最近。


毎回これ。


「だって」


クラウスが苦笑する。


「普通は無理ですよ」


「皆さん頑張ったんです!」


「それで説明できる規模では……」


「できます!」


「そうですか……」


押し切った。


「たると強いね」


俺が言う。


「ガウ?」


「なに?」


「聞こえてますよ?」


「聞こえるように言ったから」


「もう!」


クラウスたちは色んな場所で足を止めた。


働いているプレイヤー。


NPC。


一緒に店を営んでいる。


一緒に畑仕事をしている。


一緒に荷物を運んでいる。


「…………」


クラウスが少しだけ不思議そうに見る。


「どうしました?」


たるとが聞く。


「いえ」


「プレイヤーとNPCを」


クラウスが言う。


「本当に分けていないんですね」


「はい!」


たるとは当たり前のように答えた。


「一緒に暮らしてますから!」


「…………」


「それだけです!」


「なるほど」


クラウスが笑う。


「ガルド王が話していた意味が少し分かった気がします」


「ガルドさん、何言ってたんですか?」


「楽しい国だと」


「…………」


たるとの虎耳が立つ。


「本当ですか?」


「はい」


「えへへ」


尻尾。


ぶんぶん。


「たると」


俺が呼ぶ。


「なんですか?」


「尻尾」


「…………」


ぴたっ。


「ガウにだけは言われたくありません!」


「なんで!?」



同じ頃。


商業区。


「…………」


男は人混みの中を歩いていた。


昨日より多い。


フェリシアへ来たプレイヤーたち。


商人。


冒険者。


そして。


――他国の使者まで来たか。


遠くにたるとたち。


見慣れない四人。


男は少しだけ視線を向ける。


会話は聞こえない。


だが。


案内していることは分かる。


――思っていた以上に早い。


フェリシア。


建国されたばかり。


もっと。


閉じた国だと思っていた。


しかし。


アルカディア。


セレスティア。


さらに別国家。


少しずつ外との繋がりを作り始めている。


――これは報告しておくべきだな。


男は何事もなかったように歩く。


店。


道。


警備隊。


人の流れ。


それらを覚えていく。


その後ろ。


「…………」


一匹。


影鼠シャドウ・ラット》。


物陰から男を見る。


男が曲がる。


影鼠も動く。


ササッ。


「…………」


男は振り返らない。


気付いていない。


そのまま宿の方向へ向かっていった。



夕方。


「今日はありがとうございました!」


正門。


たるとが頭を下げる。


《グランディア》の四人も帰るところだった。


「こちらこそ」


クラウスが笑う。


「非常に参考になりました」


「本当ですか?」


「はい」


そして。


フェリシアを見る。


「面白い国ですね」


「面白い?」


「良い意味で、です」


「よかったです!」


「帰国後」


クラウスが続ける。


「今日見たことを報告します」


「その上で」


「改めて正式な交流についてお話しできればと思っています」


「はい!」


たるとの虎耳が立つ。


「ぜひ!」


「では」


クラウスが手を差し出した。


「またお会いしましょう」


「はい!」


たるとも握る。


「また!」


四人が正門を出ていく。


俺たちはその背中を見る。


「…………」


「また増えたね」


俺が言う。


「何が?」


リンファが聞く。


「知り合いの国」


「まだ正式に交流するって決まったわけじゃないわよ」


「でも」


俺は遠ざかっていく四人を見る。


「来てくれたじゃん」


「…………」


リンファが笑う。


「そうね」


アルカディア。


セレスティア。


そして。


グランディア。


俺たちの知らなかった場所。


知らなかった人たち。


少しずつ。


繋がっていく。


「よーし!」


たるとが両手を上げる。


「もっと仲良くなりますよ!」


「誰と?」


「皆さんと!」


「範囲広くない?」


「いいんです!」


「はははっ!」


笑い声。


その中。


「…………」


ヨミだけが少し離れた場所で止まった。


狐耳が。


ぴくっ。


「ヨミ?」


俺が見る。


「どうしたの?」


「…………」


返事がない。


「ヨミ?」


もう一度呼ぶ。


「……すみません」


ヨミが俺を見る。


「《影鼠シャドウ・ラット》からです」


「何かあった?」


リンファも表情を変える。


「……昨日」


ヨミが言う。


「一匹が見ていた来訪者を覚えていますか?」


「うん」


ただ街を歩いていた人。


怪しいことは何もしていなかった。


「……今日も」


「え?」


「同じ《影鼠シャドウ・ラット》が」


少し間。


「その方を何度も追っています」


「…………」


俺とリンファは顔を見合わせる。


「何かしたの?」


俺が聞く。


「……いえ」


ヨミが首を横に振る。


「店を見たり」


「街を歩いたり」


「建物を見たり」


「普通の行動です」


「じゃあ」


「……ですが」


ヨミが続ける。


「他の来訪者に比べて」


「同じ場所を何度も見ています」


「…………」


リンファの表情が変わった。


「どこを?」


「……正門」


「外壁」


「警備隊」


「ギルド本部」


そして。


「城です」


「…………」


少しだけ空気が変わる。


「観光なら」


俺が言う。


「普通じゃない?」


「そうね」


リンファが答える。


「それだけなら」


「…………」


まだ。


何もしていない。


だから。


怪しいとは言い切れない。


でも。


「ヨミ」


俺が聞く。


「その人、今どこ?」


「……宿へ向かっています」


「分かった」


「ガウ?」


リンファが俺を見る。


俺は答える。


「私が見てみる」


「…………」


「直接?」


「うん」


「普通の観光客ならそれでいいし」


「もし違うなら」


宿の方向を見る。


「何か分かるかもしれない」


リンファが少し考える。


そして。


「分かったわ」


「でも一人で勝手に動かないこと」


「分かってる」


「本当に?」


「本当に」


「……怪しい」


「なんで!?」


ヨミが小さく笑った。



夜。


宿。


男が部屋へ入った。


扉を閉める。


鍵。


窓。


外。


確認。


「…………」


誰もいない。


男は懐へ手を入れた。


小さな宝玉を取り出す。


淡い光。


「報告です」


静かな声。


少し待つ。


そして。


『どうでした?』


声。


男は姿勢を正した。


「本日」


「フェリシアへ他国の使者が訪れました」


『他国?』


「はい」


国家グランディア


少し間。


『……そうですか』


「フェリシアは」


男が続ける。


「想定以上の速度で他国との交流を広げています」


『なるほど』


「警備体制についても」


「おおよそ把握しました」


『ご苦労様です』


穏やかな声。


怒ってもいない。


焦ってもいない。


『では』


宝玉の向こう。


レグルスが告げる。


『次の調査へ移ってください』


「次?」


『ええ』


「何を調べれば?」


一拍。


そして。


『フェリシアに』


レグルスの声が響く。


『どのような者たちが暮らしているのか』


「…………」


『詳しく調べてください』


男が少しだけ眉を動かす。


「住民を?」


『ええ』


『プレイヤー』


『NPC』


『所属しているギルド』


『過去にどこにいたのか』


『可能な限り』


『全てです』


「…………」


男は少し黙った。


そして。


「承知しました」


通信が切れる。


宝玉の光が消えた。


「…………」


男は窓を見る。


夜のフェリシア。


灯り。


まだ聞こえる人々の声。


「住民か……」


小さく呟くのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


また一つ、新しい国との繋がりができました!


その一方で、裏では怪しい動きも……。


次回、潜入者の調査はどこへ向かうのか。


次回もよろしくお願いします!

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