第11話 広がる交流
《王虎の牙》。
ギルド本部一階。
「…………」
頭が痛い。
「うぅ……」
俺はテーブルに突っ伏していた。
昨日。
ガルドが突然フェリシアへやって来て。
夜には建国祝いの大宴会。
そこまでは覚えている。
問題はその後。
「…………」
一杯。
たった一杯だけ。
ガルドから貰った酒を飲んだ。
そこから先の記憶が。
綺麗さっぱり。
無い。
「ガウ」
「……なに?」
向かいに座っているリンファが笑っている。
「水、飲む?」
「飲む……」
「はい」
「ありがと……」
「…………」
少し生き返った。
「もう一杯」
「はいはい」
「リンファ優しい……」
「昨日はもっと色んな人に言ってたわよ」
「…………」
「何を?」
「さあ?」
また笑う。
教えてくれない。
昨日のこと。
誰に聞いても教えてくれない。
「…………」
怖い。
「おはよう!」
その時、階段から声がした。
「あ」
ガルドだ。
ギルド本部三階。
ゲストルームに泊まっていたガルドが元気よく降りてきた。
「よく眠れたぞ!」
「……それはよかったね」
「なんだガウ!」
ガルドが俺を見る。
「まだ元気ないのか!」
「誰のせいだと思ってるの?」
「…………」
「すまん!」
早い。
「一杯しか飲ませてないんだがなぁ」
「どんだけ度数高いお酒だったの?」
「はっはっは!」
「笑わないで!」
「悪い悪い!」
絶対。
あんまり悪いと思ってない。
「おはようございます!」
たるとは朝食を机に置いた。
「ガルドさんも起きたんですね」
「おう!」
「ゲストルームどうでした?」
「最高だったぞ!」
ガルドが笑う。
「ベッドも広いし、静かだしな!」
「それならよかったです!」
たるとの虎耳が嬉しそうに立つ。
「朝ご飯ありますよ!」
「おお!」
「ガウも食べます?」
「……少しだけ」
「昨日は元気なのに今日は元気ないですね」
「昨日の話しないで……」
「おはよう!」
ゴウマ。
シズク。
セリア。
それから何人かも集まってくる。
「お」
ハヤテが俺を見る。
「甘えん坊狼、大丈夫か?」
「…………」
「なにそれ?」
「…………」
ハヤテが止まった。
「あ」
「今」
俺は顔を上げる。
「なんて言った?」
「いや」
「甘えん坊って聞こえたんだけど」
「気のせいだ!」
「絶対言った!」
「朝飯食おうぜ!」
「逃げるな!」
「ガウ~」
セリアがいつもの眠そうな顔で笑う。
「昨日かわいかったよ~」
「セリアまで!?」
何。
私。
本当に何したの?
「ほら!」
たるとが手を叩く。
「ガウを弄るのはそこまでです!」
「たると……!」
味方。
「朝ご飯食べますよ!」
「うん!」
「食べ終わったらお薬も飲んでください!」
「……はい」
「あと今日はお酒禁止です!」
「もう飲まないよ……」
「これからもです!」
「…………はい」
「やっぱオカンだな」
ハヤテ。
「誰がオカンですか!」
朝からいつも通り騒がしい。
◇
朝食を食べ終わって少しゆっくりしている。
「そういや」
ガルドが口を開いた。
「昨日、フェリシアを見て思ったんだが」
「はい?」
たるとが振り返る。
ガルドは椅子に座ったまま。
腕を組む。
「アルカディアとフェリシア」
そして。
「もっと行き来しやすくしないか?」
「行き来?」
「ああ」
ガルドが頷く。
「昨日一日、ここを見て回っただろ?」
住宅街。
商業区。
畑。
港。
ギルド本部。
城。
フェリシアで暮らす。
たくさんの人たち。
「正直」
ガルドが続ける。
「アルカディアの連中にもここを見せてやりたいと思った」
「フェリシアを?」
「ああ」
「冒険者でもいい」
「商人でもいい」
「職人でもいい」
ガルドが笑う。
「こことアルカディアを行き来する奴が増えれば、面白くなると思わないか?」
「…………」
たるとの虎耳がぴくっと動く。
「面白そうです!」
即答だった。
「だろ!」
「はい!」
「私も」
たるとは少し考える。
「フェリシアの皆さんに、もっと外の世界を見てほしいです!」
「おお!」
「私たちはアルカディアへ行きましたけど」
たるとが俺たちを見る。
「まだ行ったことがない人も多いですから」
「ああ」
ゴウマが頷く。
「特にNPCの住民たちは、第一階層から出たことがない」
「そうなのか?」
ガルドが聞く。
「ああ」
「元々ここに住んでいた者もいるからな」
「なるほどな」
ガルドが顎に手を当てる。
「だったらなおさらだ」
「いきなり大勢を動かす必要はない」
「最初は少しずつでいい」
「アルカディアからフェリシアへ」
「フェリシアからアルカディアへ」
そして。
「互いに行き来できるようにしていこうぜ」
たるとは嬉しそうに笑った。
「はい!」
その尻尾が左右に揺れる。
「やりたいです!」
「決まりだな!」
ガルドが笑う。
「じゃあ俺がアルカディアに戻ったら話を通しておく!」
「ありがとうございます!」
「まずは冒険者ギルドだな」
ガルドが指を折りながら考える。
「フェリシアについて正式に周知して」
「来たい奴を募って」
「商人にも話を――」
そこで止まった。
「…………」
「ガルドさん?」
たるとが首を傾げる。
「どうしました?」
「…………」
ガルドの顔から笑みが消えた。
「そういや」
「はい?」
「勝手に出てきたんだった」
「…………」
「…………」
「…………」
忘れてたの!?
「しかも」
ガルドが続ける。
「ビルズに何も言ってない」
「知ってます!」
たるとが叫ぶ。
「昨日聞きました!」
「そうだったな!」
「なんで忘れてるんですか!」
「いやぁ」
ガルドが頭を掻く。
「フェリシアが楽しくてな!」
「理由になってません!」
「ははははっ!」
笑ってる。
「ガルドさん」
シズクが少し心配そうに聞く。
「大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「ガルドさんがいなくなったこと」
「…………」
ガルドが黙る。
俺たちも黙る。
そして。
「まあ」
ガルドが笑った。
「ビルズがいるから大丈夫だ!」
「それ一番言っちゃダメなやつじゃない?」
俺が言う。
「なんでだ?」
「全部ビルズさんに押し付けてるじゃん」
「…………」
「…………」
「ガルドさん」
たるとが笑顔なる。
なのに怖い。
「帰ったら」
「お、おう」
「ちゃんと謝ってくださいね?」
「…………」
「返事は?」
「はい」
アルカディア国王が十八歳に怒られた。
「ははっ!」
ハヤテが吹き出す。
「たると、完全にビルズポジションじゃん!」
「誰のせいですか!」
「俺じゃねえ!」
「ガルドさんのせいです!」
「俺か!」
「そうですよ!」
朝からまた笑い声が広がった。
◇
昼前。
「それじゃあ」
ギルド本部の前。
ガルドが立っていた。
「そろそろ帰る!」
「はい!」
たると。
俺たち。
それから。
何人かの仲間が見送りに来ていた。
「今度はちゃんと連絡してから来てくださいね!」
「分かった!」
「本当に?」
「たぶん!」
「たぶん!?」
「はははっ!」
「もう!」
ガルドがフェリシアの街を見る。
「また来る」
「はい!」
たるとが笑う。
「いつでも来てください!」
「おう!」
「ただし」
「ん?」
「ちゃんとビルズさんに言ってから!」
「分かった分かった!」
絶対またやりそう。
「ガウ!」
「なに?」
「昨日は悪かったな!」
「本当にだよ」
「次は酒以外の土産を持ってくる!」
「絶対そうして」
「はっはっは!」
ガルドが笑う。
そして。
「じゃあな!」
「またね」
「お気をつけて!」
「おう!」
大きく手を上げ歩き出す。
「…………」
俺たちはその背中を見ていた。
「ガルドさん」
たるとがぽつり。
「走って帰るんですかね?」
「…………」
全員、顔を見合わせる。
「走るだろ」
ゴウマ。
「走るわね」
リンファ。
「絶対走るな」
ハヤテ。
「走りますね」
シズク。
「走るね~」
セリア。
俺も同じことを思った。
「……ビルズさん」
「頑張って」
◇
それから数日後。
アルカディアから正式な連絡が届いた。
『国家との交流について、アルカディア冒険者ギルドにて告知を開始』
ガルドが言っていた。
人の行き来。
冒険者。
商人。
職人。
最初は小さな交流から。
「本当に始まったね」
俺は掲示板に貼られた連絡を見る。
「はい!」
隣でたるとが嬉しそうに笑う。
「これから色んな人が来てくれるかもしれません!」
「忙しくなるな」
ゴウマ。
「受け入れる準備も必要ね」
リンファ。
「宿泊できる場所も確認しておきましょう」
シズク。
「商業区も忙しくなりそうだな!」
ハヤテ。
「研究者も来るかな~?」
セリア。
皆楽しそう。
国を作った。
それで終わりじゃない。
外の世界と少しずつ繋がっていく。
アルカディア。
そこから。
もっと色んな場所へ。
色んな人へ。
「楽しみだね」
「はい!」
たるとの尻尾が嬉しそうに揺れた。
その時。
バンッ!
「たるとさん!」
「わっ!?」
また扉が開いた。
警備隊員。
「正門に来訪者です!」
「…………」
「…………」
たるとの虎耳がゆっくり伏せた。
「今度は誰ですか?」
「また一人で国王とかじゃないよね?」
俺が聞く。
「違います!」
よかった。
「今回は複数名です!」
たるとが首をかしげる。
「どなたですか?」
「第六階層!」
そして。
「国家から来られた方々です!」
「えっ?」
たるとの虎耳が一気に立つ。
「セレスティア?」
国家代表者会議。
そこで会った。
一人の女性。
まさか。
「《蒼穹の翼》の皆さんです!」
やっぱり。
「レイナさん!?」
「はい!」
「本当に来たんだ……」
俺が呟く。
会議の時に話していた。
フェリシアへ行ってみたいって。
「行きましょう!」
たるとがすぐに走り出す。
「待って!」
俺たちもその後を追った。
◇
正門。
何人かのプレイヤーが見えてきた。
その先頭に。
「あっ!」
向こうも俺たちに気付いた。
そして。
大きく手を振る。
「たるとちゃーん!」
ものすごく元気だ。
「レイナさん!」
「来ちゃった!」
「本当に来たんですね!」
「だって行くって言ったでしょ!」
レイナが満面の笑顔でたるとの前まで走ってくる。
「国家!」
そして胸を張る。
「《蒼穹の翼》!」
最後に笑った。
「遊びに来ました!」
「遊びに!?」
たるとが笑う。
「もっと他に言い方ありません!?」
「交流!」
「後から付けた!?」
「はははっ!」
《蒼穹の翼》のメンバーたちも後ろで笑っている。
「でも」
たるとが改めて笑う。
「ようこそ!」
「国家へ!」
「うん!」
レイナが嬉しそうに頷いた。
そして。
「…………」
視線。
たるとの。
頭。
虎耳。
ぴくっ。
たるとの虎耳が動く。
「…………」
「…………」
レイナ。
じー。
「レイナさん?」
「たるとちゃん」
「はい?」
「耳」
「ダメです!」
「まだ何も言ってない!」
「分かります!」
「えー!」
「会議の時も狙ってたじゃないですか!」
「だってかわいいんだもん!」
「ダメです!」
「一回!」
「ダメです!」
「ちょっとだけ!」
「ダメです!」
相変わらずだ。
「ガウちゃん!」
「ん?」
こっち来た。
「狼耳!」
「いいよ」
「やったー!」
早い。
レイナの手が俺の頭へ。
「おお~!」
触る。
「やっぱりいい!」
「そう?」
「ふわふわ!」
「へえ」
自分じゃよく分からない感覚だ。
「…………」
尻尾。
ぶん。
「…………」
ぶん。
ぶん。
「ガウ」
リンファ。
「尻尾」
「え?」
見る。
ぶんぶん。
「…………」
止まれ。
止まらない。
「ガウちゃん」
レイナ。
ニヤニヤ。
「喜んでる?」
「…………」
「尻尾すごいよ?」
「これは……」
顔が熱い。
「違うから!」
「何が違うの?」
「無意識だから!」
「もっとかわいい!」
「言わないで!」
「はははっ!」
ハヤテが笑う。
「ガウ、尻尾は正直だな!」
「うるさい!」
「昨日からずっと――」
「ハヤテ?」
「なんでもない」
何を言おうとしたんだ?
「むぅ……」
たるとが俺を見る。
「ガウは簡単に触らせすぎです!」
「別に減るものじゃないし」
「そういう問題じゃありません!」
「そう?」
「そうです!」
その時。
「おう!」
大きな声。
「なんだ? 客か?」
振り返るとガンテツが歩いてきた。
「ガンテツさん」
たるとが紹介しようとする。
だけど。
その前に。
「…………」
レイナが止まった。
「?」
ガンテツ。
熊獣人。
当然。
頭には熊耳。
「…………」
レイナの目が輝いた。
「あ」
なんとなく俺は察した。
「ガンテツ」
「なんだ?」
「逃げた方がいいかも」
「なんだ?」
「熊耳……」
レイナが呟く。
「お?」
ガンテツが自分の耳に触れる。
「これか?」
「触っていい!?」
「おう!」
即答。
「いいの!?」
「別に構わんぞ!」
「やったー!」
レイナが飛びつく。
わしゃわしゃ。
「おお!」
ガンテツが笑う。
「くすぐってえな!」
「すごい!」
「ガウちゃんと全然違う!」
「そりゃ熊だからな!」
「ふわふわ!」
「はっはっは!」
「…………」
たると。
俺。
二人でその光景を見る。
「…………」
「…………」
そして。
同時に。
「獣人のケモ耳最高ー!」
「はっはっは!」
ガンテツは気にしてない。
「耳くらいいくらでも触ればいい!」
「ガンテツ大好き!」
「おう!」
「ガンテツさん!?」
たるとが叫ぶ。
「レイナさんを調子に乗らせないでください!」
「なんでだ?」
「絶対他の獣耳も狙い始めます!」
「そんなこと――」
俺はレイナを見る。
「…………」
レイナが周囲を見る。
「…………」
何か探してる。
嫌な予感がする。
その時。
「あ!」
遠くから二人。
歩いてくる。
ヨミ。
そして。
ツキ。
「あ、ガウ姉ちゃん!」
ツキが手を振る。
「お客さん?」
「うん」
「セレスティアから来た人たちだよ」
「へえ!」
ツキがこっちへ走ってくる。
ヨミもその後ろからついてくる。
「……ようこそフェリシアへ」
ヨミが軽く頭を下げる。
「妹のツキです」
「よろしくお願いします!」
「…………」
レイナが無言になる。
「レイナさん?」
たるとが恐る恐る呼ぶ。
返事がない。
視線。
ヨミ。
頭。
狐耳。
そして。
ツキ。
狐耳。
「…………」
「…………」
「…………」
レイナの目が今までで一番輝いた。
「狐耳……」
「え?」
ヨミの耳がぴくっと動く。
「二人もいる……」
「…………」
ヨミが。
一歩。
後ろへ下がった。
「……ガウさん」
「なに?」
「なぜでしょう」
ヨミがレイナを警戒しながら。
「ものすごく嫌な予感がします」
「奇遇だね」
俺もする。
「お姉ちゃん?」
ツキは分かってない。
「どうしたの?」
「ツキ」
ヨミが妹の肩に手を置く。
「私から離れないで」
「なんで?」
「分からないけど」
レイナが。
一歩。
近づく。
「狐耳……!」
ヨミが。
一歩。
下がる。
「レイナさん!」
たるとが間に入った。
「目的変わってません!?」
「変わってないよ!」
「絶対変わってます!」
「交流だよ!」
「どこがですか!」
レイナがヨミとツキの狐耳を見る。
次に俺の狼耳。
ガンテツの熊耳。
最後にたるとの虎耳。
「…………」
にっこり。
「フェリシア」
そして。
「最高!」
「何がですか!?」
たるとの叫び声が正門に響き渡った。
こうして。
アルカディアに続いて。
新たな国。
国家との交流が始まった。
……たぶん。
交流。
だと思う。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回はアルカディアとの交流が本格的にスタート!
そして早速、《蒼穹の翼》のレイナたちがフェリシアへやって来ました!
虎耳、狼耳、熊耳――そして狐耳まで発見したレイナ……。
次回もよろしくお願いします!




