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第10話 酔った狼は甘えたい

《王虎の牙》。


ギルド本部一階。


「ははははっ!」


「ガンテツさん! それ私のお肉!」


「早い者勝ちだ!」


「返してください!」


「もう食った!」


「早っ!?」


宴会はまだまだ続いていた。


テーブルの上には大量の料理。


ガルドが持ってきたアルカディアの酒も次々と開けられている。


あちこちから笑い声。


騒ぎ声。


杯がぶつかる音。


楽しい。


本当に楽しい。


「ガウ!」


「ん?」


隣からガルドが杯を差し出してきた。


「一杯くらい付き合え!」


「だから私、お酒弱いんだって」


「大丈夫だ!」


「何が?」


「一杯だけだ!」


「…………」


私は差し出された杯を見る。


一杯。


一杯だけなら。


「本当に一杯だけだからね?」


「おう!」


「絶対だからね?」


「分かった分かった!」


「じゃあ……」


受け取る。


少しだけ口をつけた。


「…………」


美味しい。


「あ」


「どうだ?」


「これ、美味しい」


「だろ!」


ガルドが嬉しそうに笑う。


「アルカディアでも人気の酒だ!」


「へえ」


もう一口。


「飲めるじゃねえか!」


「だから一杯だけだよ」


「分かってるって!」


「ならいいけど」


そのままゆっくり飲む。


そして杯を空にした。


「ごちそうさま」


「おう!」


「もう飲まないからね?」


「分かった!」


俺は空になった杯を置く。


「…………」


うん。


大丈夫。


別になんともない。


やっぱり昔は飲みすぎただけだったのかもしれない。


「ガウ」


「ん~?」


リンファがこっちを見ていた。


「…………」


「なに~?」


「…………ガウ?」


「だからなに~?」


「あなた」


リンファが眉を寄せる。


「もう酔ってない?」


「酔ってないよぉ~」


「…………」


「…………」


なんで。


皆。


こっち見てるんだろ。


「いや」


ハヤテが俺を見る。


「早すぎるだろ」


「なにがぁ?」


「一杯だぞ?」


「一杯だねぇ~」


「まだ飲み終わって数分だよな?」


「そうだねぇ~」


「…………」


ハヤテがゴウマを見る。


ゴウマも俺を見る。


「ガウ」


「なぁに~?」


「指、何本に見える?」


二本。


「よんほん~」


「ダメだこれ」


「なんでぇ!?」


失礼な。


ちゃんと見えてる。


「ガウ?」


聞き慣れた声。


「あ」


たるとだ。


「たぁるぅとぉ~」


「…………はい?」


なんか。


たるとがいる。


嬉しい。


「たるとぉ~!」


「ちょっ!?」


ぎゅっ。


「わあっ!?」


捕まえた。


「ガ、ガウ!?」


「あったかぁい」


「ちょっと!?」


ぎゅー。


「ガウ! 離れて!」


「やぁだぁ~」


「なんで!?」


だって。


たると。


柔らかい。


あったかい。


「えへへ~」


「ちょ、頬ずりしないで!」


すりすり。


「ガウー!」


なんか。


周りが。


静か。


「…………」


「…………」


「…………」


少しして。


「ぶっ!」


ハヤテが吹き出した。


「はははははっ!」


「笑わないでください!」


たるとが叫ぶ。


「いや、無理だろ!」


「助けてくださいよ!」


「嫌だ!」


「即答!?」


「面白いから!」


「ハヤテー!」


たると。


うるさい。


「たるとぉ~」


「はいはい! なんですか!?」


「頭撫でてー」


「…………」


「撫でてぇ~」


「分かりましたよ!」


ぽん。


ぽん。


頭に。


たるとの手。


「これでいいですか!?」


「えへへ~」


気持ちいい。


尻尾。


ぶんぶん。


ぶんぶん。


「…………」


「おい」


ハヤテ。


「尻尾すげえぞ」


「見れば分かります!」


「ガウ、めちゃくちゃ喜んでるな」


「言わなくていいです!」


「たると」


リンファが笑う。


「完全にお母さんね」


「誰がお母さんですか!」


「オカンだな」


「ハヤテ!」


「はははっ!」


「もう!」


たるとの手は。


止まらない。


優しい。


「たるとぉ~」


「今度はなんですか?」


「好きぃ~」


「はいはい!」


「…………」


「…………」


「…………」


たるとの手が止まった。


「……え?」


「たると好きぃ~」


ぎゅー。


「ちょっと!?」


周りから。


笑い声。


「はははははっ!」


「たると、よかったな!」


「何がですか!」


「愛されてるじゃねえか!」


「ガルドさん!」


「はっはっは!」


たるとが俺を抱えたまま。


ガルドを見る。


「ちょっと!」


「ん?」


「ガウにお酒飲ませたの誰ですか!」


「…………」


ガルドが止まった。


「ガルドさん?」


「…………俺だ」


「やっぱり!」


「すまん!」


ガルドが頭を下げる。


「一杯だけなんだが、ここまで弱いとは思わんかった!」


「一杯!?」


「本当に一杯だ!」


「一杯でこれ!?」


「俺も驚いてる!」


「私もですよ!」


なんか。


楽しそう。


「たるとぉ~」


「はいはい! いますから!」


また。


撫でてくれる。


えへへ。



「しかし」


少し離れたところで。


ゴウマが腕を組んでいた。


「一杯でここまで酔うとはな」


「ガウって、そんなに酒弱かったか?」


ハヤテが聞く。


「本人は飲まないようにしてるって言ってたけど」


「理由は分かる」


ゴウマが答えた。


「ステータスだ」


「ステータス?」


シズクが首を傾げる。


「ああ」


ゴウマがたるとに抱きついている俺を見る。


「ガウのステータスはかなり極端だからな」


「そうなの?」


アイスが聞く。


「速度と技量」


ゴウマが答える。


「ガウはこの二つにほとんどのポイントを振っている」


「なるほど」


アイスが頷く。


「だからあの速度と武器捌きなのか」


「ああ」


戦闘中。


相手の攻撃を避ける。


一気に間合いを詰める。


忍者刀《朧》を使い。


敵の隙を突く。


それが俺の戦い方。


「その代わり」


ゴウマが続ける。


「他の能力はかなり低い」


「つまり?」


ハヤテ。


「状態異常への耐性も低いってことだ」


「……ああ!」


ハヤテが手を叩く。


「酒も状態異常扱いか!」


「恐らくな」


「ゲーム内では酩酊も状態異常の一種として判定されているはずだ」


ゴウマが言う。


「ガウの場合、一度状態異常が入るとかなり影響を受けやすい」


「じゃあ」


シズクが少し心配そうに聞く。


「毒や麻痺も?」


「弱いだろうな」


「…………」


「ただ」


ゴウマが続ける。


「普段は速度が高すぎて、そもそも攻撃を受けることが少ない」


「あ~」


サイオンが納得したように頷く。


「当たらなきゃ関係ないってことッスね」


「そういうことだ」


「極端ね」


リンファが苦笑する。


「ガウらしいと言えばガウらしいけど」


「本人も分かってたんだろうな」


ハヤテが笑う。


「だから酒を避けてたのか」


その時。


「ガウさん大丈夫ですか!?」


声。


入り口の方。


「あ」


エルナだ。


騒ぎを聞いたのか。


急いでこっちへ向かってくる。


「ガウさんが酔ったって聞いて――」


俺は顔を上げる。


「あ~」


「え?」


「エルナだぁ~」


「は、はい!」


「やっほ~」


「や、やっほー……?」


たるとから離れる。


「ふう……」


たるとが安心したように息を吐いた。


そして。


エルナのところへ。


「ガウさん?」


「エルナぁ~」


「はい?」


ぎゅっ。


「――――っ!?」


止まった。


エルナが。


完全に。


止まった。


「えへへ~」


あったかい。


「が……」


「ん~?」


「ガ、ガガガガガウさん!?」


うるさい。


「エルナあったか~い」


ぎゅー。


「~~~~~~っ!!」


顔。


真っ赤。


「エルナ?」


「…………」


返事がない。


「エルナ~?」


「…………」


「おーい」


「…………」


「エルナさん!?」


たるとが。


慌てて近づく。


「戻ってきてください!」


「…………はっ!」


戻ってきた。


「だ、大丈夫です!」


「全然大丈夫に見えませんよ!?」


「だ、大丈夫ですから!」


なんで。


そんなに。


顔赤いんだろ。


エルナも。


酔った?


「エルナぁ~」


「ひゃい!?」


「頭撫でて~」


「…………!」


また。


止まった。


「撫でてぇ~」


「わ、私がですか!?」


「うん~」


「…………」


エルナの手が。


震えてる。


なんで?


その時。


「エルナ」


ハヤテが。


静かに近づいた。


「は、はい?」


そして。


耳元で。


何かを言う。


「ちなみに」


ニヤッ。


「ガウ、酔ってる時のこと覚えてないぞ」


「…………」


エルナの目が。


大きく開いた。


「え?」


「さっき本人が言ってたろ?」


ハヤテが。


悪い顔で笑う。


「飲むと記憶飛ぶって」


反対側。


サイオンまで来た。


「つまり~」


同じく。


ニヤニヤ。


「明日のガウさんは何も覚えてないってことッスね~」


「…………」


エルナ。


俺を見る。


ハヤテを見る。


サイオンを見る。


また。


俺を見る。


「エルナぁ~」


「は、はい!」


「撫でて~」


「…………」


ハヤテ。


「今がチャンスだぞ」


サイオン。


「どうするッスか~?」


「なっ!?」


エルナの顔が。


さらに真っ赤になった。


「な、なななな何を言ってるんですか!?」


「何が?」


「おいらは何も言ってないッスよ?」


「言ってました!」


「チャンスって何の!?」


「さあ?」


「何のことッスかね~?」


「二人とも絶対分かってますよね!?」


「エルナぁ~」


「は、はい!」


「まだぁ?」


「…………っ!」


エルナが。


俺を見る。


「…………」


そして。


恐る恐る。


手を伸ばす。


頭に。


触れる。


なで。


なで。


「…………」


気持ちいい。


「えへへ~」


尻尾。


ぶんぶん。


「…………っ!」


エルナの顔が。


また赤くなった。


「ガ、ガウさん……」


「ん~?」


「…………かわいい」


「んへへ~」


「――――っ!」


「おい」


ハヤテが笑う。


「今のでエルナの方がやられたぞ」


「完全に自爆したッスね」


「う、うるさいです!」


「エルナぁ~」


「はい!」


「もっとぉ~」


「…………はい」


なでなで。


「えへへ~」


「…………」


エルナが。


小さく呟く。


「もう死んでもいいかも……」


「死んじゃダメですよ!?」


たるとが即座に突っ込んだ。


「はははははっ!」


また。


笑い声が広がった。



それから。


どれくらい経ったのか。


分からない。


たると。


エルナ。


リンファ。


シズク。


ツキ。


気付けば。


色んな人に抱きついていた気がする。


気がするだけ。


なんだかすごく眠い。


「ガウ」


「ん~?」


「もう寝た方がいいわよ」


リンファ。


「やぁだ~」


「子供か!」


ハヤテが笑う。


「まだ遊ぶ~」


「ダメ」


「リンファのけち~」


「はいはい」


「むぅ~」


「たると」


リンファが呼ぶ。


「お願い」


「なんで私なんですか!?」


「一番言うこと聞いてたから」


「完全にお母さんッスね」


「サイオンさん!」


「はははっ!」


「ガウ」


たるとが。


俺の前に立つ。


「もう寝ますよ」


「やだぁ~」


「寝ます」


「やぁだぁ~」


「寝ます!」


「…………」


「ほら」


手。


差し出してくる。


「行きますよ」


「…………」


たると。


「なに?」


「おんぶ」


「…………」


「おんぶして~」


「なんで!?」


「歩けなぁい」


「さっきまで普通に歩いてたじゃないですか!」


「今は歩けなぁい」


「もう!」


たるとが。


頭を抱える。


後ろから。


ハヤテの笑い声。


「オカン頑張れ!」


「明日覚えててくださいよ!」


「俺は酔ってねえから覚えてるぞ!」


「そうでした!」


「はははははっ!」


なんか。


揺れる。


あ。


背中。


たるとの。


背中だ。


「重くない~?」


「大丈夫です!」


「よかったぁ~」


「ちゃんと掴まっててくださいよ!」


「はぁい」


ぎゅっ。


「あったかぁい」


「はいはい」


「たるとぉ~」


「なんですか?」


「好き~」


「分かりましたから!」


「えへへ~」


「もう……」


遠くで。


皆が笑ってる。


楽しい。


今日。


すごく。


楽しかった。


そのまま。


俺の意識は。


ゆっくり。


落ちていった。



翌朝。


「…………」


目が覚めた。


「…………」


天井。


自分の部屋。


ベッド。


「…………」


頭。


痛い。


「うぅ……」


起き上がる。


昨日。


何してたっけ。


ガルドが来た。


フェリシアを案内した。


夜。


宴会。


それからガルドに一杯だけ酒を渡されて……。


飲んで。


「…………」


そこから。


「…………」


何も覚えてない。


「…………」


嫌な予感がする。


ものすごく。


嫌な予感がする。



ギルド本部。


一階。


「おはよう……」


中へ入る。


「…………」


「…………」


「…………」


なんで。


皆。


こっちを見るの?


「お」


ハヤテ。


ニヤニヤ。


「おはよう、ガウ」


「……おはよう」


サイオン。


ニヤニヤ。


「よく眠れたッスか~?」


「……寝たと思うけど」


リンファまで笑ってる。


「昨日は随分楽しそうだったわね」


「…………」


「なにが?」


「覚えてないの?」


「…………ない」


「ふふっ」


なんで笑うの。


「私」


恐る恐る聞く。


「何かした?」


「さあ?」


ハヤテ。


「俺からは何も」


「なんで目逸らすの?」


「気のせいだ」


絶対何かある。


その時。


「お、おはようございます!」


「ん?」


エルナ。


「おはよう、エル――」


目が合った。


「――――っ!」


顔が一瞬で真っ赤になった。


「エルナ?」


「お、おはようございます!」


「うん」


「し、失礼します!」


「え?」


走っていった。


「…………」


何?


「エルナ!?」


返事はない。


俺はゆっくり皆を見る。


全員。


ニヤニヤ。


「…………」


「私」


怖い。


「本当に何したの?」


誰も答えない。


そして。


「ガウ」


たると。


「なに?」


疲れてる。


ものすごく疲れた顔。


「もう」


一拍。


「お酒禁止です」


「…………」


昨日の記憶はない。


でもたるとの顔を見て一つだけ分かった。


「…………はい」


どうやら。


私は。


相当。


やらかしたらしい。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


速度と技量に極振りした代償――状態異常にはめっぽう弱い!


そして甘え上戸になったガウの被害者(?)は多数。


次回もよろしくお願いします!

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