第7話 守るために
夕方。
俺たちはギルド本部の会議室に集まっていた。
アルカディアから帰ってきて。
少し休んで。
お土産を配って。
ようやく一息。
……とはいかなかった。
「皆さん、集まってくれてありがとうございます!」
円卓の前。
たるとがぺこりと頭を下げる。
集まっているのは。
俺。
ハヤテ。
ゴウマ。
リンファ。
シズク。
セリア。
バレット。
ガンテツ。
アイス。
サイオン。
ノエル。
ヨミ。
モルフォ。
そして。
警備隊長のアレン。
副隊長のダリオ。
「それじゃあ」
たるとが俺たちを見る。
「アルカディアであったことを、順番にお話しします!」
「頼む」
バレットが頷く。
「まず!」
たるとの虎耳が立つ。
「フェリシアが国になったことはちゃんと報告できました!」
「おお!」
ガンテツが声を上げる。
「それで?」
ヨミが聞く。
「……何か言われましたか?」
「驚かれました!」
「……何にです?」
「半年で街を作ったことに!」
「……はい」
ヨミが苦笑する。
「アルカディアはまともな街になるまで一年くらい掛かったらしい」
アイスが言う。
「ああ」
ゴウマが頷いた。
「前にガルドから聞いてはいたが、改めて比較すると俺たちの建設速度はかなり異常だったらしい」
「俺たちっていうか」
ハヤテが笑う。
「途中から全員止まらなくなってたもんな」
「皆、楽しそうだったものね」
リンファも笑う。
「楽しかったです!」
たるとの尻尾が揺れる。
「建物がどんどん増えていくのを見るの!」
「最初は家を増やすだけだったんだけどな」
バレットが懐かしそうに言う。
それが。
気付けば。
住宅街。
商業区。
畑。
港。
研究所。
ギルド本部。
城。
外壁。
道路。
……うん。
やっぱり作りすぎた気がする。
「それから!」
たるとが続ける。
「他の国の代表さんたちにも会いました!」
「他国の代表ですか」
アレンが呟く。
「はい!」
たるとは今回出会った国について、一つずつ説明していった。
第六階層。
軍事国家。
ギルドランキング第五位《黒鉄騎士団》。
代表、ヴォルグ。
第七階層。
魔導国家。
代表、リュミエール。
第二階層。
工匠国家。
《神匠の炉》。
代表、バルカン。
第六階層。
《セレスティア》。
ギルドランキング第十位《蒼穹の翼》。
代表、レイナ。
第四階層。
《リベルタ》。
代表、カイン。
そして。
同じ第四階層。
商業国家。
《黄金の天秤》。
代表、レグルス。
「ずいぶん増えたな」
バレットが苦笑する。
「一気に覚えられる気がしない」
「私もです!」
「代表が言うなよ」
ハヤテが笑った。
「でも」
アイスが口を開く。
「フェリシアはほとんど外との関わりがなかったから今回の出来事はかなり大きいだろう」
「国になったことでこれからは自然と関わる機会も増えると思う」
たるとが頷く。
「はい!」
「それでですね!」
何かを思い出したように。
「ミスティアには、魔法を研究している人がたくさんいるそうです!」
「行きたい~」
即答。
全員がセリアを見る。
「…………」
「行きたいな~」
もう一度言った。
「それ、帰り道でもずっと言ってたじゃない」
俺が言う。
「だって気になるから~」
「魔法の研究ですか」
モルフォが反応する。
「どの程度の設備がありますか?」
「分かんない~」
「研究している魔法の種類は?」
「それも分かんない~」
「ならば実際に確認する必要がありますね」
「だよね~」
「なんで二人で行く方向に進んでるんですか」
シズクが止めた。
「シズクも興味あるって言ってたじゃん」
「ガウ!?」
「あ」
そうだった。
「へえ~?」
セリアがシズクを見る。
「シズクも行きたいんだ~」
「ち、違います!」
「結界の研究があるかもって」
「ガウさん!」
「ごめん」
顔が赤くなった。
「……まあ」
シズクが小さな声で続ける。
「少しくらいは興味がありますけど……」
「仲間だね~」
「一緒にしないでください!」
会議室に笑いが起きた。
「それから」
ゴウマが話を戻す。
「グランヴァルのヴォルグから、警備隊の訓練方法について協力してもいいと言われた」
「グランヴァルからですか?」
アレンが反応する。
「ああ」
「軍事国家の訓練方法か……」
ダリオも興味を示す。
「参考になりそうですね」
「俺もそう思う」
ゴウマが頷いた。
「ただ、向こうの方法をそのまま取り入れる必要はない」
「フェリシアにはフェリシアに合ったやり方があるはずだ」
「はい」
アレンが頷く。
「まずは今の警備隊に何が足りないのか洗い出してみます」
「頼む」
「それと」
たるとが再び口を開いた。
「ヴァレンティアのレグルスさんから交易のお話がありました」
「交易?」
ノエルが聞く。
「はい!」
「フェリシアには港と商業区がありますからこれから交易の拠点になれる可能性があるって」
「なるほど」
アイスが顎に手を当てる。
「確かに悪い話ではない」
「ですよね!」
たるとの尻尾が揺れる。
「でも」
アイスが続けた。
「すぐに決める必要もないと思う」
尻尾が止まった。
「……ですよね」
「相手のことを僕たちはまだほとんど知らない」
「扱っている商品」
ゴウマが続ける。
「交易路」
「価格」
「こちらが何を提供できるのか」
「決めるならそれを確認してからだ」
「はい!」
たるとが頷く。
「私も勝手には決めないってレグルスさんに言いました!」
「それがいい」
バレットが笑う。
「皆で決めればいいさ」
「はい!」
交易。
他国との交流。
これまで。
フェリシアの中だけで完結していたことが少しずつ外の世界へ広がろうとしている。
だけど。
皆に伝えなきゃいけないのは楽しい話だけじゃない。
「それから……」
たるとの声が変わった。
さっきまで立っていた虎耳が少しだけ下がる。
会議室の空気もそれだけで変わった。
「皆さんに」
たるとが言う。
「一番伝えておかないといけないことがあります」
誰も口を挟まなかった。
「国家代表者会議で」
たるとは一度。
俺たちを見る。
そして。
「《七つの大罪》についての報告がありました」
「……《七つの大罪》?」
アレンの表情が変わる。
指名手配第一位。
《七つの大罪》
詳しいことはほとんど知られていない。
危険な存在。
俺たちが知っていたのも。
その程度だった。
「第三階層に」
たるとが続ける。
「国家という国がありました」
ありました。
過去形。
それだけで何人かは察したみたいだった。
「そのマンティスが」
たるとはゆっくり告げる。
「壊滅したそうです」
「…………」
静かになった。
「壊滅?」
ガンテツが低い声で聞く。
「はい」
「国がか?」
「はい」
ガンテツの表情からいつもの豪快な笑みが消えた。
「《断罪の聖剣》が現地を調査した」
ゴウマが引き継ぐ。
「街は破壊され、多数の犠牲者が確認されたそうだ」
「……それを」
ヨミが聞く。
「《七つの大罪》がしたんですか?」
「うん」
俺が答える。
「現地に残された痕跡と証言から、そう判断されたみたい」
「何人だ?」
バレットが聞く。
「確認されたのは」
俺はあの会議で聞いた言葉を思い出す。
「二人」
「…………」
「二人ッスか?」
サイオンが聞き返した。
「いやいや……」
いつもの軽い声が消える。
「国一つッスよね?」
「うん」
「それを二人で?」
「そうみたい」
「二人だと……?」
ガンテツが腕を組む。
アイスだけは少し違う反応をした。
「ガウ」
「なに?」
「確認されたのが二人だけ、ということ?」
「うん」
俺は頷く。
「《七つの大罪》が実際に何人いるのか」
「他にどんな奴がいるのか」
「どこにいるのか」
「何を目的にしているのか」
「ほとんど分かってない」
「なるほど……」
アイスが目を細める。
「襲撃した二人については?」
「少しだけ」
今度はリンファが口を開く。
「一人は《強欲》と呼ばれている男」
「致命傷になってもおかしくない攻撃を受けた後も、そのまま戦い続けたという証言があるそうよ」
「致命傷を……?」
ノエルが眉を寄せる。
「どうやって?」
「分からない」
リンファが首を横に振る。
「スキルなのか、装備なのか」
「そもそも本当に致命傷だったのか」
「詳しいことは何も」
「もう一人は《暴食》」
ゴウマが続ける。
「こっちは物理攻撃と魔法攻撃を吸収したという証言がある」
「両方ですか?」
アレンが聞く。
「ああ」
「しかも」
シズクが静かに言う。
「吸収した攻撃を放出したとも聞きました」
「…………」
ダリオが腕を組む。
「厄介ですね」
「攻撃を吸収……」
モルフォが呟いた。
「どのような原理でしょうか?」
「モルフォ?」
「物理と魔法の両方を吸収するなら、対象となるのは攻撃そのものなのか。それとも攻撃に含まれるエネルギーなのか」
「吸収量に上限は?」
セリアも続ける。
「魔法の属性で差はあるのかな~」
「放出する時はそのまま返すのか」
モルフォ。
「それとも変換されるのか~」
セリア。
「二人とも」
シズクがため息をつく。
「研究対象みたいに話さないでください」
「でも気になるよ~」
「私もです」
「今はそういう話じゃありません!」
怒られた。
「まあ」
アイスが少し笑う。
「分からないことが多い以上、考えること自体は悪くない」
「ただし」
表情が戻る。
「想像だけで対策を決めるのは危険だ」
「ああ」
バレットが頷く。
「分かっている情報だけ共有しておこう」
それが一番だと思う。
「それで」
たるとが皆を見る。
「私、考えたんです」
「怖くないって言ったら」
少しだけ虎耳が下がる。
「嘘になります」
たった二人で国を一つ壊滅させた。
そんな相手がどこにいるのかも分からない。
怖くないわけがない。
「でも」
たるとが顔を上げる。
「怖いからって、何もしないのはもっと嫌です」
そして。
周りを見る。
ここにいる。
仲間たちを。
「ここには守りたい人がたくさんいますから」
「…………」
誰も反対しなかった。
「だから」
たるとの虎耳が。
ゆっくり立つ。
「この前決めた役目」
「少しずつ始めていきたいです!」
「おう!」
最初に答えたのは。
ハヤテだった。
「やっと俺たちの出番か!」
「張り切りすぎないでよ」
リンファが言う。
「なんでだよ!」
「警備隊の訓練でしょ?」
「そうだけど?」
「あなた絶対やりすぎるじゃない」
「やらねえって!」
「信用できないわね」
「ひどくね!?」
「俺は構わんぞ!」
ガンテツが豪快に笑う。
「鍛えるなら徹底的にやればいい!」
「ガンテツまで……」
ノエルが額に手を当てる。
「警備隊を壊さないでくださいね?」
「人を建物みたいに言うな!」
「はっはっは!」
「いや~」
サイオンが笑う。
「これ警備隊より先に訓練場が壊れそうッスね」
「誰が壊すか!」
ハヤテが突っ込む。
「地下訓練場の結界」
シズクが静かに言う。
「強化しておきますね」
「シズク!?」
「念のためです」
「俺どんだけ信用されてないの!?」
笑い声。
重かった空気が少しだけ軽くなる。
「アレンさん」
たるとが呼ぶ。
「はい」
「ダリオさんも」
「はい」
「警備隊のことお願いします!」
「任せてください」
アレンが答える。
「明日からでも訓練を始められます」
「巡回経路も見直しておきます」
ダリオも続く。
「外壁だけでなく、港や商業区も含めて確認しておきましょう」
「お願いします!」
次。
「ゴウマ、アイスさん」
「ああ」
「うん」
「他の国とのことと防衛についてお願いします!」
「任せろ」
「まずは情報を整理してみる」
そして。
「シズクさん、セリアさん、モルフォさん」
「はい」
「は~い」
「分かった」
「研究とか、結界とか」
たるとが少し悩み。
「その辺をお願いします!」
「急にふわっとしましたね」
シズクが苦笑する。
「だって私、研究分からないです!」
「それはそうですね」
「とりあえず色々調べるね~」
セリア。
「《暴食》の吸収能力についても仮説を立てておきます」
モルフォ。
「だから」
シズクが二人を見る。
「危ないことはしないでくださいね?」
「は~い」
「善処します」
「モルフォさん?」
「……善処します」
そして。
「ガウ、リンファ、ヨミさん」
「うん」
「ええ」
「……分かりした」
「情報集め、お願いします!」
俺たち三人。
国の裏方。
フェリシアの外。
危険なギルド。
怪しい動き。
そういうものを誰かが知らないといけない。
「……何から始めます?」
ヨミが聞く。
「まずは情報が集まりそうな場所を考えるところからかな」
俺が答える。
「アルカディアだけじゃないものね」
リンファ。
「冒険者や商人から聞ける情報もあるでしょうし」
「うん」
まだ何をどうすればいいのかはっきりとは分からない。
でも。
少しずつやっていけばいい。
「よし!」
たるとが両手を合わせる。
「じゃあ!」
皆を見る。
「明日から、始めましょう!」
「おう!」
いくつもの声が返ってくる。
世界と繋がった。
楽しいこともきっと増える。
だけど。
同じくらい知らなかった危険も増えていく。
だから守らないと。
この街を。
この国を。
ここで暮らす皆を。
◇
同じ頃。
第五階層。
国家。
夜。
冒険者ギルド本部。
その一室で。
「…………」
ガルドは机の上に並べた物を眺めていた。
食料。
回復アイテム。
野営道具。
その他。
旅に必要になりそうな物。
「食料は……まあ、こんなもんでいいか」
一つずつ。
アイテムボックスへ入れていく。
「回復アイテムもある」
次。
「野営道具も」
そして。
最後に装備を確認。
「よし」
準備はできた。
明日。
ガルドはアルカディアを出る。
目的地は第一階層。
国家。
護衛なし。
同行者なし。
そして。
「…………」
ガルドは部屋の扉を見る。
その向こう。
この時間でも仕事をしているであろう男を思い浮かべる。
ビルズ。
「……言ったら止められるよな」
間違いなく止められる。
というより。
一人で行くと言った瞬間。
説教が始まる。
そんな気がする。
「なら」
ガルドがニヤリと笑った。
「言わなきゃいいか」
決定。
ビルズには内緒。
もちろん。
他の誰にも言っていない。
フェリシアにも伝えていない。
「たるとたち、驚くだろうな」
想像すると少し楽しくなってきた。
会議で聞いた。
第一階層の最果て。
元々は小さな集落だった場所。
そこに住宅街を作り。
商業区を作り。
畑。
港。
研究所。
ギルド本部。
城。
外壁。
道路。
全部。
半年で作った。
「いやぁ」
思い出すだけでもやっぱりおかしい。
アルカディアですらまともな街になるまで一年。
なのにあいつらは半年。
しかもたるとが国を作った理由。
――皆が笑って暮らせる場所。
――困った時には助け合える場所。
――疲れた時には帰ってこられる場所。
「…………」
どんな国なんだろうな。
実際に見てみたい。
なら行けばいい。
「よし!」
ガルドは旅支度を終える。
窓の外。
夜のアルカディアを眺める。
そして笑った。
「明日、行くか!」
この時。
ビルズは何も知らなかった。
アルカディアの誰も知らなかった。
もちろんフェリシアの誰も知るはずがない。
翌朝。
国家の代表が。
誰にも告げず。
たった一人でフェリシアへ向けて出発しようとしていることを。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回はフェリシアでの情報共有と、今後に向けて動き出すお話でした!
そして最後。
ガルドさん、まさかの単独行動……。
次回はそんなガルドの一人旅!
次回もよろしくお願いします!




