第6話 ただいま
国家代表者会議を終えた翌朝。
俺たちはアルカディアの大通りを歩いていた。
今日。
フェリシアへ帰る。
……のだけど。
「ガウ」
「なに?」
ハヤテが俺を見る。
「なんでさっきから店ばっか見てんだ?」
「探してるの」
「何を?」
「お菓子」
「…………」
ハヤテが首を傾げた。
「お前、そんなに甘い物好きだったか?」
「私じゃないよ」
「ああ!」
たるとが思い出したように声を上げる。
「ツキちゃん!」
「そう」
フェリシアを出発する直前。
ツキに言われた。
――お土産!
――お菓子がいい!
ちゃんと覚えている。
というより。
「忘れて帰ったら大変だから」
「怒られるか?」
「怒られるならまだいいけど」
俺は少し考える。
「悲しそうな顔されたら嫌」
「…………」
ハヤテがニヤッとした。
「なんかお前、ツキに甘いよな」
「そう?」
「甘いわね」
リンファまで入ってくる。
「絶対甘い」
「そんなことないって」
「ガウさんは優しいですから」
シズクが微笑む。
「シズク……!」
味方がいた。
「特にツキちゃんには甘いですから」
「シズク!?」
裏切られた。
セリアがくすくす笑っている。
「でも~」
セリアが周囲の店を見る。
「お土産なら、みんなの分も買っていかない~?」
「皆の?」
たるとの虎耳が立った。
「いいですね!」
「じゃあ見ていくか」
ゴウマも頷く。
こうして。
ツキのお菓子を買うだけだったはずが。
いつの間にかフェリシアへのお土産探しが始まった。
◇
「これ!」
たるとが指差す。
店先に並べられている。
小さな焼き菓子。
「美味しそうです!」
「たるとが食べたいだけじゃない?」
「ち、違います!」
尻尾が揺れてる。
分かりやすい。
「お土産です!」
「じゃあ自分の分はいらない?」
「いります!」
「やっぱり食べたいんじゃない」
「それとこれとは別です!」
「こっちも美味しそうだぞ」
ハヤテが別のお菓子を持ってくる。
「それも買いましょう!」
「即決だな」
「皆さんに配るんです!」
「本当に?」
「本当です!」
そう言いながらたるとは自分用の袋もしっかり確保していた。
「ツキはどれがいいかな」
俺は店の商品を見る。
クッキー。
焼き菓子。
飴。
果物を使ったお菓子。
種類が多い。
「全部買えば~?」
セリアが言う。
「全部?」
「選べないなら~」
「なるほど」
「待ちなさい」
リンファに止められた。
「ガウ」
「なに?」
「あなたも大概甘いわよ」
「だってどれが好きか分からないし」
「だからって全部買う?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
リンファがため息をつく。
「ツキがますますあなたに懐くわよ」
「いいじゃん」
「ほら、甘いじゃない」
結局。
いくつかのお菓子を詰め合わせてもらうことにした。
ツキだけじゃなく。
ヨミにも。
それからフェリシアに残っている皆にも。
気付けば結構な量になった。
「……買いすぎたか?」
ゴウマが荷物を見る。
「大丈夫です!」
たるとが胸を張る。
「皆で食べればすぐですよ!」
「たるとが一番食べそうだけどな」
「ハヤテ!」
「はははっ!」
朝から賑やか。
昨日。
《七つの大罪》の話を聞いた。
一つの国がたった二人に壊滅させられた。
その事実はもちろん忘れていない。
だけど。
だからって。
ずっと暗い顔をしているわけにもいかない。
今は帰ろう。
皆のところへ。
◇
アルカディアを出発した俺たちは転移魔方陣を目指して歩いていた。
七人。
行きと同じメンバー。
だけど。
「ミスティア行きたいな~」
「セリア」
「行きたいな~」
「分かりましたから」
「魔法の研究見たいな~」
「だから分かりましたって」
セリアがさっきからずっとこれだ。
「シズク」
俺は隣を歩くシズクを見る。
「大変だね」
「……はい」
苦笑している。
「でも、私も少し興味があります」
「結界とか?」
「そうですね」
シズクが頷く。
「魔導国家というくらいですから、結界について研究している方もいるかもしれません」
「じゃあシズクも行きたいんじゃん」
「…………」
目を逸らした。
「行きたいんだ」
「す、少しくらいは!」
「仲間だね~」
「セリアと一緒にしないでください!」
珍しくシズクが強めに言った。
「ゴウマは?」
ハヤテが聞く。
「グランヴァル気になるか?」
「ああ」
ゴウマが答える。
「ヴォルグの話は参考になった」
国の防衛。
警備隊の育成。
街を守るための役割分担。
「フェリシアはできたばかりだからな」
ゴウマが続ける。
「防衛については、まだ改善できる部分が多い」
「俺たちも警備隊の訓練やるんだろ?」
「ああ」
「なら」
ハヤテがニヤッと笑う。
「俺がビシバシ鍛えてやるか!」
「ほどほどにしなさいよ」
リンファがすぐに言う。
「なんでだよ!」
「あなた、絶対楽しくなってやりすぎるでしょ」
「やらねえって!」
「本当に?」
「…………」
「なんで黙るのよ」
「いや……」
ハヤテが目を逸らした。
「たるとは?」
俺が聞く。
「今回の会議で気になった国あった?」
「全部です!」
即答。
「全部?」
「はい!」
たるとは歩きながら指を折る。
「グランヴァルにも行ってみたいですし」
「ミスティアも気になりますし」
「アルテリアも!」
そして。
「セレスティアとリベルタも!」
「ヴァレンティアは?」
「もちろん!」
虎耳が立つ。
「交易のお話もしてみたいです!」
「そっか」
レグルス。
丁寧で話しやすい人だった。
フェリシアに港と商業区があることにも注目していた。
交易。
今まで俺たちは自分たちで必要な物を作ることが多かった。
でも他の国と物を交換するようになればフェリシアでできることも増えるかもしれない。
「でも」
たるとが続ける。
「勝手には決めませんよ?」
「分かってる」
「帰ったら皆さんと相談します!」
国の代表。
だけど一人で決めない。
それがたるとらしい。
「それと」
たるとの声が少し変わった。
「《七つの大罪》のことも」
「…………」
空気が少しだけ変わる。
「皆に話さないとな」
ゴウマが言う。
「はい」
《強欲》。
《暴食》。
詳しい能力は分からない。
目的も。
次にどこを狙うのかも。
何も分からない。
「怖がらせるかもしれないけど」
たるとが言う。
「知らないままの方が危ないですから」
「そうね」
リンファが頷く。
「アレンたち警備隊にも共有しておくべきだわ」
「ああ」
何かあってからでは遅い。
フェリシアを。
皆を守るために。
知っておかないといけない。
「まあ」
ハヤテが頭の後ろで手を組む。
「今は帰ることだけ考えようぜ」
そして。
「まだ遠いんだから」
「…………」
全員。
前を見る。
「そうだった……」
たるとの虎耳が伏せる。
「どこに転移されるか分からないですよね……」
「前回は近くに転移されたからな」
「今回も近くに転移される気がしてました!」
「どんな理屈よ」
リンファが呆れる。
「頑張ろう~」
「セリアさんが一番やる気なさそうです!」
そんな話をしながら俺たちは歩き続けた。
◇
第一階層。
俺たちは第一階層の転移魔方陣の近くに転移した。
前回、夜営をした場所で今回も夜営をすることになった。
そして翌朝。
「…………」
片付けを終えたたるとが。
周囲を見回す。
「どうした?」
ハヤテが聞く。
「いえ」
たるとが首を傾げる。
「今回もゴブリンさん出てきませんでしたね」
「…………」
「…………」
「会いたかった?」
「まさか!?」
即答。
虎耳が勢いよく立った。
「じゃあなんで気にしてんだよ!」
「前に出たからです!」
「毎回出るわけないだろ!」
「分かってます!」
「ならいいじゃねえか!」
「なんとなく気になったんです!」
「ゴブリンさんも忙しいんだよ~」
セリアが言う。
「何に!?」
たるとが突っ込む。
朝からいつもの調子だった。
やがて……。
「あ!」
たるとが声を上げた。
見えた。
外壁。
正門。
俺たちが皆と作った街。
国家。
「…………」
なんだろう。
たった数日。
離れていただけなのに懐かしく感じる。
「帰ってきたな」
ハヤテが言う。
「うん」
俺は答えた。
正門へ近づく。
警備をしていた人たちが。
俺たちに気付く。
「たるとさんたちだ!」
「おかえりなさい!」
「ただいまです!」
たるとが大きく手を振る。
門をくぐる。
街の中。
住宅街。
歩いている住民。
店先で話している人たち。
見慣れた景色。
「おかえり!」
「アルカディアどうだった?」
「後で聞かせてくれよ!」
声が飛んでくる。
そのたびたるとが。
「ただいまです!」
と答える。
俺も何度も。
「ただいま」
と返した。
ああ。
帰ってきた。
本当にそう思った。
そして。
「ガウ姉ちゃん!」
聞き慣れた声。
「ん?」
前を見る。
狐耳。
小さな身体。
こっちへ走ってくる。
「ツキ!」
ツキが一直線に俺のところへ来た。
「ガウ姉ちゃん!」
「ただいま」
「お土産!」
「…………」
「お菓子!」
「私へのおかえりは!?」
「おかえり!」
「遅い!」
後ろから爆笑。
「はははははっ!」
「ガウよりお菓子だったな!」
「ハヤテ、うるさい!」
ツキは俺の前で両手を出す。
「お土産!」
「はいはい」
アイテムボックスからアルカディアで買った袋を取り出す。
「はい」
「わあ!」
ツキの目が輝いた。
「いっぱい!」
「また選べなかったから」
「ガウ」
リンファ。
「やっぱり甘いわね」
「いいじゃん」
「ありがとう!」
ツキが嬉しそうに袋を抱える。
その姿を見ると。
まあ。
買ってきてよかった。
「姉ちゃんにも見せてくる!」
「ちゃんと分けて食べるんだよ?」
「うん!」
走っていく。
「…………」
「ガウ」
「なに?」
ハヤテが俺の後ろを指差す。
「尻尾」
「え?」
ぶんぶん。
「…………」
「また振ってるぞ」
「うるさい!」
「はははははっ!」
もう!
「皆さん!」
別の声。
振り向く。
そこには。
バレット。
ガンテツ。
アイス。
サイオン。
ノエル。
モルフォ。
それから。
アレンとダリオ。
残っていた仲間たちが集まってきていた。
「おかえり」
バレットが笑う。
「ただいま」
「無事だったみたいだな」
アイス。
「うん」
「いや~」
サイオンが笑う。
「ずいぶん長い旅だったッスね」
「お土産はあるのか?」
ガンテツが聞く。
「ガンテツまで!?」
「はっはっは!」
「ありますよ!」
たるとが胸を張る。
「皆さんの分も買ってきました!」
「おお!」
「さすがたると!」
「ふふん!」
得意そう。
帰り道で真面目な話もしていた。
《七つの大罪》。
他国。
交易。
防衛。
これから考えなきゃいけないことはたくさんある。
だけど。
今は。
「おかえりなさい」
ノエルが微笑む。
「ただいま」
俺はもう一度答えた。
◇
少ししてたるとが皆を見る。
「皆さん」
さっきまでの笑顔から。
少しだけ真剣な表情へ。
「今日の夕方」
「ギルド本部に集まってもらってもいいですか?」
バレットたちがたるとを見る。
「アルカディアで」
たるとが続ける。
「いろんなお話を聞きました」
「他の国のこと」
「これからのフェリシアのこと」
そして。
一度、言葉を切る。
「《七つの大罪》のこと」
「…………」
空気が変わった。
アイスの表情が。
すぐに真剣なものになる。
「何かあったのか?」
「はい」
たるとが頷く。
「皆さんに知っておいてほしいことがあります」
「分かった」
バレットが答えた。
「夕方だな」
「はい!」
話さないといけない。
これからフェリシアをどうしていくのか。
どう守っていくのか。
皆で考えないといけない。
それでも。
俺は街を見る。
笑っている人たち。
仕事をしている人たち。
走り回る子供たち。
そして俺たちを待っていてくれた仲間たち。
外の世界は思っていたよりずっと広かった。
知らない国があって。
知らない人たちがいて。
知らなかった脅威もあった。
これから。
もっといろんなものと繋がっていくんだと思う。
だけど。
どれだけ世界が広がっても。
帰ってきて。
皆の顔を見れば。
やっぱり俺は思う。
ここが。
フェリシアが。
俺たちの帰る場所なんだと。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回はアルカディアからフェリシアへの帰還回でした!
ツキとのお土産の約束も無事達成。
次回は、アルカディアで得た情報を皆で共有していきます!
次回もよろしくお願いします!




