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第5話 新たな繋がり

国家代表者会議が終わった翌日。


《七つの大罪》。


《強欲》と《暴食》。


たった二人で、一つの国を壊滅させた存在。


会議室にはまだ少し重い空気が残っていた。


「よし!」


そんな空気を吹き飛ばすようにガルドが大きな声を上げた。


「堅苦しい話は終わりだ!」


「……切り替え早くないですか?」


たるとが目を丸くする。


「いつまでも暗い顔してても仕方ないだろ」


ガルドは豪快に笑った。


「せっかく各国の代表が集まってるんだ」


そして。


俺たちを見る。


「フェリシアは今日が初参加なんだから、少しくらい話していけ」


「交流、ということですね」


ビルズが補足する。


「今後、各国と関わる機会も増えるでしょう」


「顔と名前だけではなく、お互いのことを知っておくのも大切ですよ」


「なるほど……」


たるとの虎耳がぴくりと動いた。


さっきまでの緊張は少し消えている。


「分かりました!」


「おう!」


こうして。


初めての国家代表者会議は終わった。


だが。


俺たちはそのまま会議室に残ることになった。


そして――。


「たるとちゃん!」


「ひゃい!?」


いきなりレイナが飛んできた。


正確にはものすごい勢いでたるとへ近づいた。


「な、なんですか!?」


「さっきの続き!」


「さっき?」


「耳!」


「ダメです!」


即答だった。


たるとが両手で虎耳を隠す。


「まだ何も言ってないよ!?」


「絶対、触ろうとしてます!」


「一回だけ!」


「ダメです!」


「ちょっとだけ!」


「ダーメーでーす!」


たるとが後ずさる。


レイナさんが一歩進む。


たるとがさらに下がる。


「減るものじゃないじゃん!」


「そういう問題じゃありません!」


「じゃあ先っぽだけ!」


「もっとダメです!」


……何の交渉だろう。


「諦めろって」


ハヤテが笑う。


「たると、ああなったら絶対触らせないぞ」


「むぅ……」


レイナさんが残念そうに頬を膨らませる。


そして。


「…………」


こっちを見た。


「?」


目が合った。


「……あ」


何かに気付いたようにレイナさんの目が輝く。


嫌な予感がする。


「そこの君!」


「なに?」


「狼獣人だよね?」


「そうだけど……」


視線が俺の頭へ。


「…………」


「ああ」


分かった。


「耳?」


「触っていい!?」


「いいよ」


「いいの!?」


なぜか。


たるとの声が一番大きかった。


「うん」


「ガウ!?」


「なに?」


「いいんですか!?」


「別にいいよ」


今までだって仲間に触られたことはある。


たるとにも。


ツキにも。


リンファにも。


今さら耳を触られるくらいで、どうということはない。


「やった!」


レイナさんが俺の前まで来る。


「じゃあ……」


そっと。


俺の狼耳に手が触れた。


「おお……!」


「そんなに?」


「柔らかい!」


「そう?」


「すごい!」


わしゃわしゃ。


「…………」


「ふわふわ!」


わしゃわしゃ。


「…………」


楽しそうだな。


まあ。


別に嫌じゃないし。


好きにさせておこう。


「ねえ、ガウ」


リンファの声。


「ん?」


「あなた……」


なぜか。


笑っている。


「なに?」


「いや」


リンファが俺の後ろを見る。


「ずいぶん嬉しそうだなって」


「?」


何が?


「ガウ」


今度はハヤテ。


口元を押さえている。


「……尻尾」


「尻尾?」


振り返る。


そこには俺の狼の尻尾。


ぶんぶんぶんぶん。


「…………」


勢いよく左右へ振られていた。


「…………」


止まれ。


ぶんぶん。


止まれ。


ぶんぶん。


「…………」


なんで止まらないの!?


「はははははっ!」


ハヤテが吹き出した。


「めちゃくちゃ喜んでるじゃねえか!」


「違う!」


「何が違うのよ」


リンファがニヤニヤしている。


「尻尾は正直みたいだけど?」


「違うってば!」


「でも~」


セリアまでいつもの眠そうな顔で俺の尻尾を見る。


「ガウちゃん、尻尾は素直だね~」


「セリアまで!?」


「ふふっ」


シズクも口元を押さえている。


「シズク!」


「す、すみません……」


笑ってる。


絶対笑ってる!


「本人より分かりやすいな」


ゴウマまで腕を組んで頷いている。


「ゴウマまで!?」


「いや、あれだけ振っていればな」


「これは勝手に!」


「へえ~」


リンファ。


「勝手に嬉しくなってるのね」


「そういう意味じゃない!」


顔が熱い。


絶対赤くなってる。


「ねえねえ」


まだ耳を触っていたレイナが俺の顔を覗き込む。


「もっと触る?」


「もういい!」


俺は慌てて離れた。


「あー!」


両手で狼耳を隠す。


尻尾も。


自分の脚へ巻き付ける。


これなら動かない。


「…………」


すると。


視線を感じた。


たると。


両手で虎耳を守ったまま。


じーっと俺を見ている。


「……なに?」


「ガウ」


「うん」


「裏切りましたね」


「何の!?」


「獣耳同盟です!」


「いつ結成したの!?」


「今です!」


「今!?」


「私だけ必死に守ってたのに!」


「知らないよ!」


また笑いが起きた。


さっきまで。


《七つの大罪》の話で重くなっていた会議室。


それがいつの間にかいつもの俺たちみたいな空気になっていた。



「さて!」


大きな声。


振り向くとバルカンがいた。


「約束じゃ!」


「……約束?」


俺が首を傾げる。


「刀じゃ!」


「ああ」


そういえば。


自己紹介の時に言われてた。


「見せろ見せろ!」


「はい」


俺は腰から《朧》を外す。


隣ではハヤテも。


《白夜》。


そして。


《黒曜》。


二本を外した。


「ほう……!」


バルカンさんの目が変わった。


さっきまでの豪快なおじさんとは違う。


完全に。


職人の目。


最初に受け取ったのは俺の《朧》。


「…………」


鞘。


柄。


刀身。


一つずつ。


じっくり確認していく。


「面白い」


「分かるの?」


「誰に聞いとる!」


怒られた。


「わしは《神匠の炉》のバルカンじゃぞ!」


「ご、ごめんなさい」


「この刀……」


バルカンさんが《朧》の刀身を見る。


「軽さだけを求めた武器ではないな」


「ほう」


今度は。


ハヤテの《白夜》。


続いて。


《黒曜》。


「こっちは二本か」


「ああ」


ハヤテが頷く。


「普段使うのは《白夜》だけだけどな」


「なぜじゃ?」


「必要になれば《黒曜》も抜く」


「ほう!」


バルカンさんの目がさらに輝いた。


「二刀流になった時のみ使える能力か!」


「まあ、そんな感じだ」


「面白い!」


楽しそうだなあ。


「ドランがいたら喜びそう」


俺が言う。


「ドラン?」


「うちの鍛冶職人」


「ほう!」


また食いついた。


「鍛冶職人がおるのか!」


「いるよ」


「腕は?」


「かなりいいと思う」


ガンテツの《震天》を整備したり。


街作りでも色々作ったり。


ずっと俺たちを支えてくれている。


「会ってみたいのう!」


「ドランも喜ぶと思う」


「ならばフェリシアへ行かねばならんな!」


「そこまで!?」


「鍛冶職人がおると聞いて行かん理由があるか!」


……この人。


本当に鍛冶が好きなんだな。


「返すぞ」


「ありがとうございます」


《朧》を受け取る。


ハヤテも二本の刀を腰へ戻した。


「大事に使えよ!」


「もちろん」


「言われなくてもな」


俺とハヤテが答える。


バルカンは満足そうに髭を撫でていた。



少し離れた場所では。


セリアがリュミエールに捕まっていた。


「セリアさん」


「はい~?」


「先ほどから気になっていたのですが」


リュミエールさんの視線。


セリアが持つ魔杖《創星》。


「あなたは魔法使いですね?」


「そうだよ~」


「やはり」


嬉しそう。


「どの属性を専門に?」


「特に決めてないよ~」


「……決めていない?」


「炎も使うし~」


指を折る。


「水、氷、風、雷、土とか~」


さらに。


「回復も補助も使うよ~」


「…………」


リュミエールさんが固まった。


「どうしたんですか?」


シズクが聞く。


「いえ……」


少し間を置き。


「ずいぶん幅広いのですね」


「そうかな~?」


そうだと思う。


「ミスティアでは、一つの属性や系統を専門として研究する魔法使いも多くいます」


「へえ~」


セリアの目が少しだけ開いた。


「研究?」


「はい」


「魔法の?」


「もちろんです」


「…………」


セリアがリュミエールさんへ近づく。


「詳しく聞きたいな~」


食いついた。


「ふふっ」


リュミエールさんが微笑む。


「もちろんです」


そして。


「よろしければ、いつかミスティアへいらしてください」


「行きたい~」


即答。


「セリア」


シズクが苦笑する。


「たるとさんたちにも相談してからですよ?」


「は~い」


「返事が軽いですね……」


でもセリアがここまで興味を示すのは珍しい。


魔導国家ミスティア


俺もちょっと見てみたいかも。



「フェリシアの防衛はどうなっている?」


今度はヴォルグ。


向かいにいるのはゴウマ。


「外壁と正門を中心に警備隊を配置している」


ゴウマが答える。


「街全体にはシズクの結界もある」


「兵の数は?」


「まだ多くない」


ゴウマは正直に答えた。


「だから今後は警備隊の育成を進める予定だ」


「なるほど」


ヴォルグさんが腕を組む。


「国を守るなら、壁だけでは足りん」


「ああ」


「壁を守る者」


「突破された時に動ける者」


「住民を避難させる者」


「それぞれ必要になる」


「参考になる」


ゴウマが頷く。


軍事国家グランヴァル


防衛についてなら。


俺たちよりずっと経験があるはず。


「もし必要なら」


ヴォルグさんが言う。


「我が国の訓練方法を教えてもいい」


「いいのか?」


「ああ」


そして。


「国が増えた直後に潰されては寝覚めが悪い」


「……そうか」


ゴウマが少し笑う。


「その時は頼ませてもらう」


「ああ」


ぶっきらぼうだけど悪い人じゃなさそうだ。



「たるとちゃん」


「はい?」


今度はカイン。


「どう?」


「どうって?」


「代表」


「…………」


たるとの虎耳が。


ぺたん。


「帰りたいです」


「分かる!」


「ですよね!」


また始まった。


「会議とか緊張します!」


「分かる!」


「偉い人いっぱいです!」


「分かる!」


「王様って呼ばれたくないです!」


「めちゃくちゃ分かる!」


「カインさん!」


「たるとちゃん!」


何だろう。


この謎の友情。


「お前ら」


ガルドが呆れた顔で見る。


「国の代表同士で何を意気投合してるんだ」


「ガルドさんには分かりません!」


「そうだぞ!」


「俺も国の代表なんだが!?」


「ははははっ!」


また笑い声。


国の代表。


最初はもっと堅苦しい人たちばかりだと思っていた。


だけど話してみれば全然違った。


鍛冶が大好きな人。


魔法の研究が好きな人。


自由な人。


耳を触りたがる人。


……最後のは何なんだろう。


でも。


少なくとも遠い存在ではなくなった気がする。


「たるとさん」


そんな中。


一人の男性が。


たるとへ近づいた。


「レグルスさん」


商業国家ヴァレンティア


《黄金の天秤》代表。


レグルス。


「少しよろしいでしょうか?」


「はい!」


「先ほどフェリシアについてお聞きして、一つ気になったことがありまして」


「なんですか?」


「フェリシアには港があるとのことでしたね」


「あります!」


「商業区も?」


「はい!」


レグルスが微笑む。


「素晴らしい」


「?」


「フェリシアは、これから交易を始めるには非常に面白い場所だと思います」


「交易……」


たるとの虎耳が動く。


俺たちも自然と話を聞く。


「第一階層には、まだ大規模な交易拠点と呼べる場所はほとんどありません」


レグルスが続ける。


「そこへ港と商業区を備えた国家が誕生した」


「…………」


「今後、人が集まれば」


穏やかな声。


「フェリシアは第一階層における交易の中心地になれる可能性があります」


「そんなに!?」


たるとが驚く。


「可能性の話ですよ」


レグルスが笑う。


「もちろん、たるとさんたちがそれを望むのであれば、ですが」


「あ……」


たるとが少し考える。


「私たちは」


そして。


「大きな国にしたいわけじゃないです」


「はい」


「でも」


虎耳が立つ。


「いろんな人が来て」


「いろんな物があって」


「皆さんが楽しく暮らせるなら」


たるとが笑った。


「交易もやってみたいです!」


「なるほど」


レグルスも笑う。


「でしたら」


一度。


丁寧に頭を下げた。


「いずれ我々《ヴァレンティア》がお力になれるかもしれません」


「本当ですか!?」


「ええ」


「商業と交易に関しては、我々の最も得意とする分野ですから」


「ありがとうございます!」


たるとの尻尾が嬉しそうに揺れる。


「ただ」


ゴウマが口を開いた。


「具体的な話はフェリシアへ戻ってからだな」


「あ」


たるとが止まる。


「そうでした」


「皆で決めるんだろ?」


「はい!」


レグルスが小さく笑う。


「もちろんです」


そして。


「急ぐ必要はありません」


「フェリシアの皆様で、ゆっくりお考えください」


「はい!」


感じのいい人だ。


無理に話を進めるわけでもない。


こっちの考えも尊重してくれている。


商業国家。


ヴァレンティア。


もし交易することになれば。


フェリシアにも。


今までなかった物がたくさん入ってくるかもしれない。


皆。


喜ぶだろうな。


「お菓子も増えるかな」


俺が呟く。


「ガウ?」


たるとが俺を見る。


「いや」


ツキとの約束。


忘れてない。


お土産。


ちゃんと買って帰らないと。



それから。


しばらく各国の人たちと話をした。


最初は他国の代表。


それだけで緊張していた。


でも。


帰る頃には。


少しだけ印象が変わっていた。


「またね! たるとちゃん!」


レイナさんが大きく手を振る。


「はい!」


「次は触らせてね!」


「嫌です!」


「ガウちゃんも!」


「もう触らせない!」


「えー!」


「尻尾振ってたのに!」


「言わないで!」


「ははははっ!」


ハヤテたちが笑う。


もう!


「ガウ」


リンファが俺の肩を叩く。


「今度から嬉しい時は尻尾隠した方がいいわよ?」


「嬉しくない!」


「はいはい」


「信じてないでしょ!」


そんな俺たちを見て。


他国の代表たちも笑っていた。


「じゃあな!」


ガルド。


「気を付けて帰れよ!」


「はい!」


たるとが元気よく答える。


こうして。


俺たちにとって初めての国家代表者会議は終わった。


国を作ったことで。


俺たちの世界はまた少し広がった。


グランヴァル。


ミスティア。


アルテリア。


セレスティア。


リベルタ。


そして。


ヴァレンティア。


今まで名前しか知らなかった場所。


知らなかった人たち。


その人たちと。


話して。


笑って。


少しだけ知ることができた。


こういうのも。


悪くない俺はそんなことを思っていた。



そして。


俺たちが冒険者ギルド本部を離れた後。


会議室に残っていた男が一人。


窓の外を見ていた。


商業国家ヴァレンティア


《黄金の天秤》代表。


レグルス。


「フェリシア……」


静かに。


その名を呟く。


第一階層。


最果ての地。


建国されたばかりの国家。


半年で作り上げられた街。


商業区。


港。


そして。


まだ他国との本格的な交易関係を持っていない国。


「…………」


レグルスは穏やかな笑みを浮かべた。


「なるほど」


そして。


誰にも聞こえないほどの声で。


「これは……使えそうですね」


そう呟いた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は会議後の各国との交流回でした!


ガウの尻尾は本人より正直だったようです(笑)


そしてフェリシアへ近づくヴァレンティア。


この新たな繋がりが今後どうなっていくのか。


次回もよろしくお願いします!

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