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第40話 秘密の地下通路

朝。


完成したばかりの《王虎の牙》ギルド本部。


その一階にある大集会場には、朝から主要メンバーが集まっていた。


以前まで使っていた集会場とは比べものにならないほど広い。


天井も高く。


大きな窓からは朝の日差しが差し込んでいる。


「……広いな」


俺は改めて周囲を見渡した。


昨日も使った。


それでもまだ慣れない。


少し前までここには何もなかったのだ。


それが今では立派な三階建てのギルド本部が建っている。


「皆さん!」


正面から元気な声が響く。


たるとだ。


「おはようございます!」


たるとは嬉しそうに尻尾を揺らした。


「今日も街づくりを頑張りましょう!」


元気な声。


その直後。


ハヤテが静かに手を挙げた。


「質問」


「はい!」


「本部完成したよな?」


「しました!」


「住宅街も完成したよな?」


「しました!」


「外壁もあるよな?」


「あります!」


「じゃあ」


ハヤテは期待に満ちた表情を浮かべる。


「今日は休み?」


「違います!」


即答だった。


「早い!」


「まだ街は完成していませんから!」


「この前も同じこと言ってなかった!?」


「気のせいです!」


「絶対言ってた!」


朝から元気だな。


集会場に笑い声が広がる。


俺も思わず苦笑した。


そんな中。


「皆さん」


静かな声が響いた。


モルフォだ。


いつものように眼鏡を押し上げながら、一枚の紙を持って立っている。


「本日の作業を始める前に、一つ提案があります」


「提案ですか?」


たるとが首を傾げる。


「はい」


モルフォは机へ歩み寄ると紙を広げた。


描かれていたのは街の簡単な見取り図。


住宅街。


ギルド本部。


NPC居住区。


そして。


これから城を建設する予定の広大な土地。


そこから少し離れた場所には研究所が描かれていた。


「研究所?」


セリアが覗き込む。


「研究所がどうかしたの~?」


「現在」


モルフォは研究所を指差した。


「研究所は街から少し離れた場所に存在しています」


「そうですね」


ノエルが頷く。


研究所。


モルフォがこの場所で暮らし始めた頃に作った施設の一つ。


今ではセリアやモルフォ。


そして助手たちが様々な研究を行っている場所だ。


扱うものの中には魔法。


魔法石。


魔物。


虫。


その他。


俺にはよく分からないものまで色々ある。


だからこそ。


集落から少し離れた場所に建てられていた。


「街がここまで拡大した現在でも」


モルフォが続ける。


「研究所を一般の居住区へ移設するべきではないと考えています」


「まあ」


俺は頷く。


「モルフォが何するか分からないしね」


「何故、私だけなのでしょう?」


「日頃の行い」


「解せません」


隣でミナが静かに頷いていた。


「私はガウさんに賛成です」


「ミナさん?」


「日頃の行いです」


「……」


モルフォが黙った。


やっぱり助手は強い。


「それで~?」


セリアが首を傾げる。


「研究所は今のままでいいんでしょ~?」


「はい」


モルフォは頷く。


「問題は」


城の建設予定地へ指を移動させる。


「ここです」


「城?」


たるとの耳がぴくりと動いた。


「はい」


モルフォは研究所と城予定地を交互に指差す。


「今後、この城が完成した場合」


「ここは《王虎の牙》の中枢になります」


主力メンバー。


警備隊。


そして。


街の重要な情報。


そうしたものが集まる場所。


以前。


アイスたちから説明された通りだ。


「一方」


指が研究所へ戻る。


「こちらには研究資料」


「魔法研究」


「結界術」


「各種素材」


「試作品」


「その他、外部へ不用意に公開するべきではない情報が集まります」


「なるほど」


アイスが腕を組む。


「城と研究所」


「二つがこの街の重要施設になるということか」


「その通りです」


モルフォが頷いた。


「そこで提案なのですが」


一拍。


「この二つを直接繋ぎたいと考えています」


「直接?」


たるとが首を傾げる。


「でも」


街の地図を見る。


「結構離れていますよ?」


「はい」


「道を作るのですか?」


「いいえ」


モルフォは微笑んだ。


そして。


城予定地から研究所まで。


紙の上へ一本の線を引く。


ただし。


街の道路ではない。


建物の下。


地面の中。


「地下です」


「……」


「……」


「……」


全員が紙を見る。


そして。


「地下!?」


声が揃った。



「つまり」


ゴウマが腕を組む。


「城の地下から研究所までトンネルを掘るということか?」


「はい」


モルフォは頷く。


「地上を通る必要がない連絡通路を作ります」


「ほほう」


ドランが髭を撫でる。


「面白いことを考えるのぉ」


「でも」


たるとは地図を見つめる。


「どうして地下なのですか?」


「理由はいくつかあります」


モルフォは指を一本立てる。


「まず研究資料や試作品の運搬」


「研究所では今後」


「外部へ公開できない研究を行う可能性があります」


二本目。


「次に緊急時の移動」


「何らかの理由で研究所が襲撃された場合」


「地上へ出ることなく城へ避難」


「逆に街からの外へ避難もできます」


三本目。


「そして」


モルフォの表情が僅かに真剣になる。


「機密性です」


集会場が静かになる。


「この街が今後さらに発展すれば」


「外部から訪れる者も増えるでしょう」


「商人」


「冒険者」


「他ギルド」


「いずれは他国の者が訪れることもあるかもしれません」


「その時」


研究所と城の間を重要な資料を持った者が何度も行き来していれば。


当然。


目立つ。


「なるほどな」


バレットが頷く。


「地下なら人目につかない」


「その通りです」


アイスも静かに地図を見つめていた。


「合理的ではある」


「ただし」


視線が鋭くなる。


「作るのであれば徹底的に隠すべきだ」


「私も同意見です」


「中途半端に存在を知られれば」


「逆に城と研究所へ侵入する経路を増やすことになる」


「そうですね」


シズクが口を開く。


「入口だけでは足りません」


「通路そのものへ結界を施した方がいいと思います」


「結界?」


「はい」


シズクは地図へ近付く。


「侵入感知」


「魔力反応の検知」


「それから」


少し考える。


「許可されていない者が侵入した場合に通路を封鎖できるようにします」


「封鎖までできるの?」


俺が尋ねる。


「準備は必要ですが」


シズクは頷いた。


「可能です」


頼もしい。


「さらに」


シズクは続ける。


「入口にも認証用の術式を設置します」


「通常の扉ではなく」


「許可された者しか開けられないようにします」


「おお……」


たるとの目が輝いている。


「秘密基地みたいです!」


「たると」


ゴウマが真顔で見る。


「遊びじゃないぞ」


「分かっています!」


尻尾はものすごく揺れている。


絶対ちょっと楽しんでる。


俺もだけど。


「よし」


ゴウマが地図を見る。


「やるなら今だな」


「城を建てた後では地下を掘るのが難しくなる」


「先に地下区画と通路を完成させる」


「その後」


「上に城を建てる」


「異論は?」


誰も手を挙げない。


たるとは大きく頷いた。


「決まりですね!」


ゴウマが集まった皆を見渡した。


「ただし」


先ほどまでの明るい表情から少しだけ雰囲気が変わる。


「この地下通路については」


「ここにいる皆さんだけの秘密にする」


「……」


全員が静かに頷いた。


「一般の住民にも」


「外部の方にも」


「存在を明かさない」


「《王虎の牙》の機密通路だ」


その言葉で。


ただのトンネルではなくなった。


これから作るのは。


この街の秘密の一つ。


「分かった」


「了解」


「任せてください」


次々と返事が上がる。


「では!」


たるとはいつもの笑顔へ戻った。


「地下通路を作りましょう!」


「おおー!」



城建設予定地。


俺たちは広大な更地の一角へ集まっていた。


「ここじゃな」


ドランが地面へ印を付ける。


「将来的には城の地下区画になる」


「まずここから掘り下げるぞ」


「穴掘りか!」


ガンテツが嬉しそうに《震天》を担ぐ。


「任せろ!」


「待て!」


ゴウマが即座に止めた。


「なんだ?」


「《震天》を置け」


「何故だ!」


「お前がそれで地面を叩いたら穴ではなくクレーターになる!」


「細かいことを気にするな!」


「気にするわ!」


「はっはっは!」


「笑い事じゃない!」


開始前から不安しかない。


「ガンテツ」


俺は肩を叩く。


「今日は普通に掘ろう」


「仕方ない」


ガンテツは残念そうに《震天》を置いた。


「スコップをくれ!」


切り替え早いな。


「掘るぞぉぉ!」


ザクッ!


ザクッ!


ものすごい勢いで土が飛んでいく。


「速っ」


ハヤテが目を丸くする。


「スコップでも十分じゃん」


「はっはっは!」


「俺に任せろ!」


しばらくすると。


「おい!」


ゴウマの怒鳴り声が響いた。


「掘りすぎだ!」


「何ぃ!?」


「深い!」


「地下なんだから深い方がいいだろ!」


「限度がある!」


今日も平和だ。



地下通路の工事は慎重に進められた。


まず。


城の地下区画。


そこから研究所の方向へ。


少しずつ掘り進める。


当然。


ただ穴を掘ればいいわけではない。


「支柱!」


「はい!」


「そこへ入れろ!」


木材を組み。


崩落を防ぐ。


掘る。


固める。


補強する。


また掘る。


住宅や本部とはまったく違う作業だった。


「思ったより大変だね」


俺は土を運びながら呟く。


「当たり前だ」


ゴウマが答える。


「上には街がある」


「適当に掘れば地盤へ影響が出る」


「それはまずい」


「だから慎重に進める」


「了解」


地味だけど大事な作業だ。


その奥。


「ここです」


シズクが壁へ小さな魔法石を埋め込んでいた。


一つ。


さらに少し進んで。


もう一つ。


「何してるの?」


「結界核です」


「もう?」


「通路が完成してから設置するより」


シズクは魔法石へ術式を刻む。


「建設と同時に組み込んだ方が隠しやすいので」


「なるほど」


確かに。


壁の中へ埋めてしまえば見ただけでは分からない。


「シズクさん」


その背後。


モルフォがじっと術式を見ている。


「その術式ですが」


「変更しません」


「まだ何も言っていませんが」


「変更しません」


「……」


シズク。


完全に扱いを覚えている。


「少しくらい」


「駄目です」


「魔力効率を――」


「駄目です」


「……承知しました」


珍しく大人しい。


「モルフォさん」


ミナが横から声を掛ける。


「邪魔しないでください」


「研究者として興味が」


「邪魔しないでください」


「……はい」


助手にも負けた。



昼過ぎ。


作業は少しずつ進んでいた。


まだ研究所までは遠い。


今日だけで完成するような距離ではない。


それでも。


城の地下区画。


そして。


そこから伸び始めた一本の通路。


確かに形になり始めている。


「ふぅ~」


セリアが壁にもたれかかった。


「地下って涼しいね~」


隣でノアが頷く。


「夏場は快適ですね」


「研究所まで繋がったら便利だね~」


「そうですね」


「雨の日も濡れないし~」


「はい」


「これなら研究所に泊まらなくても――」


「泊まらないでくださいね?」


「……」


セリアが止まる。


「まだ何も言ってないよ~?」


「言おうとしていました」


「……ノアって鋭いね~」


「セリアさんが分かりやすいんです」


俺は思わず笑った。


研究所へ秘密の地下通路を作っている。


やっていることだけ聞けばものすごく重要な工事だ。


なのにいつも通りだ。


「ガウ!」


奥からゴウマの声。


「土を運んでくれ!」


「今行く!」


休む暇はないらしい。



夕方。


「今日はここまでにしましょう!」


たるとの声が地下へ響いた。


「終わったぁ!」


ハヤテがその場へ座り込む。


「地下工事きつい!」


「まだまだだ!」


ガンテツは元気だ。


「明日も掘るぞ!」


「なんでそんな元気なんだよ!」


「飯が美味くなるからだ!」


「結局それか!」


笑い声が地下通路へ響く。


俺も壁へ背中を預け。


今日掘り進めた通路を眺めた。


まだ短い。


研究所までは遠い。


それでも。


確かに一本の道ができている。


地上には。


住宅街。


ギルド本部。


畑。


港。


そして。


これから作られる城。


皆から見える場所が。


少しずつ街になっていく。


だけど。


その地下にも。


誰にも知られない場所が作られ始めた。


「秘密の通路か」


小さく呟く。


なんだか。


少しだけワクワクする。


「ガウさん!」


たるとが振り返る。


「帰りますよ!」


「うん!」


俺は立ち上がった。


地上へ向かう階段。


その途中で一度だけ振り返る。


薄暗い地下。


奥へ伸びていく。


まだ完成していない通路。


いつか。


この道が必要になる日が来るのだろうか。


それは分からない。


できれば。


何も起きず。


ただ皆が便利に使えるだけの道であってほしい。


でも。


街が大きくなれば。


守らなければならないものも増えていく。


皆が暮らす場所。


皆が帰ってくる場所。


そのために。


見えないところにも。


必要なものを作っていく。


それもきっと。


街を作るということなのだろう。


「ガウさーん!」


「本当に置いていきますよー!」


「今行くって!」


俺は慌てて皆の後を追う。


こうして。


《王虎の牙》の街の地下に誰にも知られてはいけない一つの秘密が作られ始めた。

第40話を読んでいただきありがとうございます!


ギルド本部の次に始まったのは、まさかの地下工事!


城と研究所を繋ぐ、秘密の通路が作られ始めました。


果たしてこの通路が今後どのような役割を果たすのか……。


街づくりもいよいよ大詰めです!


次回もお楽しみに!

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