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第39話 新しい集う場所

あれから一週間。


街では今日も朝早くから賑やかな声が響いていた。


カンッ!


カンッ!


トントントン――。


木槌を打つ音。


木材を運ぶ足音。


作業を指示する声。


その中心。


街の中央には、一週間前まで存在しなかった大きな建物が姿を現していた。


三階建て。


石造りの基礎。


太い木材で組み上げられた柱。


広い正面入口。


そして大きな屋根。


《王虎の牙》の新しいギルド本部。


まだ細かな内装や設備は残っているものの。


建物そのものはほとんど完成していた。


「おお……」


俺は少し離れた場所から本部を見上げる。


「でかい」


一週間前。


ここには石の基礎と何本かの柱しかなかった。


それが今では立派な三階建ての建物になっている。


改めて考えると。


俺たち、建築速度おかしくない?


「皆さーん!」


聞き慣れた元気な声が響いた。


本部の前。


たるとが両手を大きく広げている。


「おはようございます!」


「おはようございます!」


今日も大勢の声が返った。


たるとは嬉しそうに尻尾を揺らす。


「この一週間!」


「皆さんにはたくさん頑張っていただきました!」


その言葉に何人かが深く頷いた。


「木材を運び!」


エリックが遠い目をする。


「木材を運び……」


「柱を立て!」


ガンテツが胸を張る。


「おう!」


「壁を作り!」


ドランが髭を撫でる。


「うむ!」


「また木材を運び!」


「木材多くない!?」


エリックが叫んだ。


笑い声が広がる。


「とにかく!」


たるとは勢いよく腕を上げた。


「本日!」


一拍。


「《王虎の牙》ギルド本部を完成させます!」


「おおーーーっ!」


大きな歓声。


ガンテツが豪快に拳を突き上げる。


「よっしゃあ!」


「最後の仕上げだ!」


ゴウマも腕を組みながら頷いた。


「ここまで来ればあと少しだ」


「気を抜くなよ」


「分かってる!」


ハヤテが笑う。


「今日こそ終わらせようぜ!」


「そして明日は休みだ!」


「それはどうでしょう!」


たるとが元気よく答えた。


「おい!」


「まだ何も決まってません!」


「だったら休みにしろよ!」


朝から賑やかだ。


いつも通り。


俺は思わず笑った。


「それじゃ」


忍者刀《朧》を腰へ差したまま袖を捲る。


「今日も頑張ろうか」



最後の仕上げが始まった。


建物の外では。


「ガンテツ!」


ドランの声が響く。


「そっちの木材を持ってこい!」


「これか!」


「違う!」


「こっちか!」


「それじゃ!」


「最初からそう言え!」


「言っとるわい!」


ガンテツが巨大な木材を担ぎ上げる。


そのまま軽々と運んでいく。


近くではゴウマが作業全体を確認していた。


「そこの柱!」


「固定が甘いぞ!」


「補強を入れろ!」


「はい!」


「資材は通路に置くな!」


「人が通れなくなる!」


「了解!」


次々と指示が飛ぶ。


外壁。


住宅街。


そして本部。


これまで何度も建設作業を続けてきたからだろう。


最初の頃とは比べものにならないほど皆の動きが良くなっている。


誰かに言われる前に必要な資材を運び。


手が空いた者は別の作業を手伝う。


NPC住民たちも慣れた様子で工具を扱っていた。


「ガウ!」


「ん?」


ハヤテが二本の木材を抱えている。


「そっち持ってくれ!」


「分かった」


片側を持つ。


「どこ?」


「三階!」


「……階段?」


「階段」


「これ持って?」


「これ持って」


俺は木材を見る。


長い。


すごく長い。


「窓から入れた方が早くない?」


「なるほど!」


「サイオン!」


ハヤテが叫ぶ。


少し離れた場所。


サイオンが振り返った。


「なんスか?」


「これ三階まで上げられるか?」


「それくらいなら余裕ッスよ」


サイオンが手を伸ばす。


足元。


銀色の液体金属が動き出した。


流銀念動サイコメタル》。


流銀が木材の下へ潜り込み。


そのままゆっくりと持ち上げていく。


「おお」


木材が宙へ浮かぶ。


「便利だなぁ」


俺が見上げていると。


サイオンが苦笑した。


「最近、完全に運搬係になってる気がするッス」


「適材適所」


「便利な言葉ッスね……」


三階。


開けられた窓から木材が運び込まれる。


「ありがとう!」


「どういたしましてッス」


こうして。


本部の仕上げは順調に進んでいった。



建物の中。


一階の大集会場。


そこではリンファたちが内装を整えていた。


「その机はもう少し右」


「はい!」


「椅子は等間隔に並べて」


「分かりました!」


大きな机。


椅子。


収納棚。


必要な家具が次々と配置されていく。


ノエルも椅子を運びながら周囲を見渡した。


「本当に広いですね」


「今までの集会場とは大違いね」


リンファが答える。


「これだけ広ければ人数が増えても大丈夫でしょう」


「そうですね」


ヨミとツキも一緒に作業していた。


「お姉ちゃん!」


「これどこ?」


ツキが小さな椅子を抱えている。


「……それは受付の近く」


「分かった!」


元気よく走り出す。


「……走ると危ないよ」


「はーい!」


返事だけは良い。


その直後。


「わっ!」


「ツキ!」


ヨミが慌てて支える。


危なかった。


「だから言ったでしょ」


「えへへ……」


「もう……」


そう言いながらヨミはどこか嬉しそうだった。


少し離れた場所ではユナとノアが受付周辺を整えている。


「この棚はこちらでいいですか?」


「うん!」


ユナが頷く。


「受付からも使いやすいし」


「外から来た人にも見えにくいから、ここがいいと思う」


「なるほど」


ノアも棚を確認する。


「では記録用の書類はこちらですね」


「そうしよう!」


二人とも手際が良い。


俺は入り口からその様子を眺める。


「すっかりそれっぽくなったなぁ」


以前。


設計図だけで見た大集会場。


今では本当に人が集まれる場所になっていた。


そして。


本部の四隅。


「では」


シズクが小さく息を吸う。


「最終確認を始めます」


床。


壁。


柱。


それぞれに小さな魔法石が埋め込まれている。


一週間前。


シズクが設置していた結界核だ。


その隣ではモルフォとミナが立っていた。


モルフォの手にはノート。


ミナの手にもノート。


「準備できています」


「こちらも大丈夫です」


シズクは頷く。


「起動します」


そっと。


床へ手を触れた。


淡い光が灯る。


一つ。


また一つ。


埋め込まれた魔法石へ光が走っていく。


床から柱。


柱から壁。


壁から天井。


まるで建物全体へ血液が巡るように。


淡い魔力の光が本部を包んでいく。


「おお……」


近くにいた俺は思わず声を漏らした。


やがて。


光はゆっくりと薄れていく。


見た目には何も変わっていない。


しかし。


確かに何かが本部全体を覆っている感覚があった。


「成功です」


シズクが静かに告げる。


「本部全体への結界術式」


「正常に作動しています」


「すごい!」


たるとが駆け寄ってくる。


「これで本部も安全ですね!」


「はい」


シズクは頷いた。


「外部から一定以上の攻撃を受けた場合」


「自動的に防御結界が展開します」


さらに。


「内部で異常な魔力反応が発生した場合も検知できます」


「許可されていない大規模な術式が発動された場合」


「こちらへ通知が来るよう設定しました」


「完璧です!」


たるとの目が輝く。


「ありがとうございます!」


「いえ」


シズクは少しだけ笑った。


「私の役目ですから」


その隣。


モルフォは高速でノートへ文字を書き込んでいた。


「なるほど」


「建物全体を一つの魔力循環経路として利用することで各結界核の負荷を分散……」


「これは非常に興味深い」


「モルフォさん」


ミナが呼ぶ。


「はい?」


「今日は研究ではなく確認です」


「もちろん理解しています」


「ではそのノートを閉じてください」


「……」


「モルフォさん?」


「あと一行だけ」


「駄目です」


「では半行」


「駄目です」


「一文字」


「意味がありますか?」


「ありませんね」


素直にノートを閉じた。


最近。


モルフォよりミナの方が強い気がする。



昼を過ぎ。


作業はいよいよ最後の段階へ入った。


屋根。


窓。


扉。


家具。


設備。


一つずつ。


完成していく。


そして。


「よし」


ドランが本部の正面へ立った。


「残るはこれだけじゃな」


その手には大きな木製の看板。


中央には力強い文字が刻まれている。


《王虎の牙》


「おぉ……!」


皆から声が漏れた。


たるとも目を輝かせる。


「すごいです!」


「ドランさんが作ったんですか?」


「うむ」


ドランは満足げに髭を撫でる。


「本部の顔になるものじゃ」


「半端なものは作れんからのぉ」


木製の看板。


派手な装飾はない。


けれど。


力強く刻まれた《王虎の牙》の文字。


俺はその名前を見つめる。


俺たちのギルド。


仲間たちが集まった場所。


その名前がこれから街の中心に掲げられる。


「では!」


たるとが元気よく前へ出た。


「取り付けましょう!」


「うむ」


ドランが頷く。


「最後はギルドマスターに任せるかのぉ」


「私ですか!?」


「当然じゃろう」


「分かりました!」


たるとは看板を受け取る。


「……」


正面入口の上を見る。


かなり高い。


「……」


看板を見る。


もう一度。


上を見る。


「……届きません」


「だろうな」


ハヤテが即答した。


「どうしましょう!」


「脚立使えよ」


「なるほど!」


木製の脚立が用意される。


たるとは看板を抱えたまま一段ずつ上っていく。


「気を付けろよ」


「大丈夫です!」


「落ちるなよ」


「大丈夫です!」


ぐらっ。


「わっ!?」


「危なっ!」


俺は慌てて脚立を支える。


「だから言ったでしょ!」


「えへへ……」


「笑って誤魔化さない!」


「ガウ、支えていてください!」


「最初からそうするよ……」


皆が笑っている。


たるとは再び上る。


そして。


本部正面。


用意されていた場所へ。


ゆっくりと看板を掛ける。


カチッ。


「……」


一瞬。


誰も声を発さなかった。


街の中央。


大きな三階建ての建物。


その正面。


《王虎の牙》


俺たちの名前が掲げられている。


たるとは脚立から下りる。


そして。


くるりと振り返った。


満面の笑み。


「皆さん!」


大きく息を吸う。


「《王虎の牙》ギルド本部!」


両手を大きく広げた。


「完成です!」


「おおおおおおーーー!!」


歓声が響いた。


「やったー!」


「完成だ!」


「終わったぁ!」


「長かった!」


あちこちで笑い声が上がる。


ガンテツは両腕を組んで豪快に笑った。


「はっはっは!」


「立派なもんじゃねぇか!」


ゴウマも満足そうに本部を見上げる。


「ああ」


「皆、よくやった」


ドランも髭を撫でながら頷いた。


「悪くない出来じゃ」


「悪くないどころじゃないですよ!」


たるとは嬉しそうに尻尾を振る。


「最高です!」


その言葉にまた笑い声が広がった。


「それでは!」


完成した本部の入口。


たるとが皆へ振り返る。


「中を見て回りましょう!」


「おー!」


大勢が一斉に中へ入っていく。


まずは一階。


正面入口を抜けると。


広い空間。


右側には受付。


その奥には書類や記録を保管する棚。


左側には巨大な掲示板。


そして。


さらに奥。


大勢が一度に集まれる大集会場。


「広っ!」


ハヤテが声を上げる。


「分かってたけど広いな!」


「以前の集会場とは比べものにならないですね」


ノエルも周囲を見渡す。


たるとは早速受付の向こう側へ回った。


椅子へ座る。


ぴょこん。


虎耳だけが受付台から見えている。


「……」


俺は見つめる。


「たると」


「はい?」


「見えてないよ」


「えっ!?」


立ち上がる。


ようやく顔が出た。


「椅子が低いです!」


「たるとが小さいんじゃない?」


「ガウに言われたくありません!」


皆が笑う。


たるとは頬を膨らませながら。


受付へ両手を置いた。


「いらっしゃいませ!」


「《王虎の牙》へようこそ!」


「ギルドマスターが受付するのかよ」


ハヤテが笑う。


「今日は特別です!」


「普段は?」


「誰かにお願いします!」


「決めてないのか!」


「これから決めます!」


まだまだ決めることは多そうだ。



二階。


大きな会議室。


中央には長い机。


その周囲には多くの椅子が並べられている。


「ここが会議室か」


アイスが静かに室内を見渡す。


「十分な広さだ」


ゴウマも頷いた。


「街の規模が大きくなれば」


「話し合うことも増えるからな」


「これからいっぱい使うことになりそうですね!」


たるとが嬉しそうに椅子へ座る。


その隣。


ツキも座る。


「会議する!」


「ツキも?」


「うん!」


「何を話すの?」


「今日のご飯!」


「重要だね」


「うん!」


ヨミが思わず笑った。


今はまだ何の変哲もない会議室。


大きな机とたくさんの椅子。


それだけ。


けれど。


きっとこれから。


ここで色々なことを決めるのだろう。


街のこと。


仲間のこと。


そして。


まだ俺たちが知らない。


もっと先のことも。



最後は三階。


廊下の左右。


いくつもの扉が並んでいる。


「こちらが客室です!」


たるとが一つの扉を開ける。


中には。


ベッド。


机。


椅子。


収納棚。


必要なものが一通り揃っていた。


「結構ちゃんとしてるな」


バレットが室内を見る。


「当たり前です!」


たるとは胸を張る。


「お客様を泊める場所ですから!」


「他ギルドの代表者」


アイスが続ける。


「商人」


「遠方から訪れた者」


「今後この街が発展すれば利用する者も増えるだろう」


ノエルが窓の外を見る。


そこから街の大部分を見渡すことができた。


住宅街。


大通り。


外壁。


その向こうには畑や海も見える。


「いつか」


ノエルが穏やかに微笑む。


「遠い国から来た方々もここへ泊まるかもしれませんね」


「遠い国……」


たるとの目が輝く。


「楽しみです!」


「どんな人が来るんでしょう!」


「まだ分からないよ」


俺は苦笑する。


「これからでしょ?」


「だから楽しみなんです!」


たるとは笑った。


その笑顔を見ながら俺も窓の外へ視線を向ける。


この街がこれからどうなっていくのか。


俺にも分からない。


でも。


少しだけ楽しみだった。



夜。


完成したばかりの本部。


一階。


大集会場。


「いただきまーす!」


「いただきます!」


大勢の声が響いた。


長い机。


並べられた料理。


焼きたてのパン。


肉。


魚。


野菜。


スープ。


完成祝いということもありいつも以上に豪華だった。


「うめぇ!」


ガンテツが豪快に肉へかぶりつく。


「やっぱ仕事の後は飯だな!」


「結局いつもと同じじゃないか」


バレットが呆れたように言う。


「何がだ?」


「本部が完成したんだぞ」


「ああ!」


「なのに最初にやることが飯」


「最高じゃねぇか!」


「……まあ」


バレットが小さく笑う。


「俺たちらしいか」


「そういうことだ!」


皆が笑う。


俺もスープを飲む。


温かい。


美味しい。


ふと。


周囲を見渡した。


広い。


以前使っていた集会場より。


ずっと広い。


それなのに。


不思議と寂しいとは思わなかった。


たるとが笑っている。


ハヤテとエリックが何か言い合っている。


ゴウマはガンテツへ食べ過ぎだと注意している。


リンファとノエルが楽しそうに話している。


シズクは静かに食事をして。


セリアはノアに何か注意されている。


バレットはその光景を見ながら酒を飲み。


アイスとサイオンも隣で話している。


ヨミとツキ。


モルフォとミナ。


ドラン。


ユナ。


そして。


他にもたくさんの仲間たち。


「……」


一週間前までここには何もなかった。


さらに遡れば。


この街そのものがなかった。


小さな集落。


小さな集会場。


そこから全てが始まった。


仲間が増えた。


家が増えた。


道ができた。


守るための壁ができた。


そして新しい本部ができた。


だけど。


たぶん。


変わらないものもある。


建物が変わっても。


人が増えても。


俺たちはこうやって集まる。


皆で飯を食って。


笑って。


今日あったことを話して。


明日のことを考える。


ここもそんな場所になるんだろう。


俺たちがいつでも帰ってこられる場所。


「皆さーん!」


たるとの声が響いた。


全員が見る。


たるとはパンを片手に満面の笑みを浮かべていた。


「本日は!」


「《王虎の牙》ギルド本部の完成です!」


「おおー!」


拍手が起こる。


「皆さん!」


「本当にありがとうございました!」


たるとは嬉しそうに頭を下げた。


そして顔を上げる。


「なので!」


「明日から!」


嫌な予感がした。


ハヤテも気付いたらしい。


「おい」


「次の建設を始めます!」


「休みは!?」


ハヤテの叫びが響いた。


「まだまだ作るものはいっぱいありますよ!」


「今日完成したばっかりだろ!」


「街づくりは待ってくれません!」


「一日くらい待ってもらえ!」


「駄目です!」


「なんでだよ!」


「楽しいからです!」


「お前がかよ!」


大きな笑い声が。


完成したばかりの本部へ響き渡る。


俺も思わず笑った。


新しい建物。


新しい集会場。


だけど。


ここにいるのは。


いつもの仲間たち。


きっと明日からも。


ここにはこんな笑い声が響くのだろう。


俺たちの新しい集う場所として。

第39話を読んでいただきありがとうございます!


ついに《王虎の牙》の新しいギルド本部が完成しました!


小さな集会場から始まったこの場所も、仲間が増え、街が広がり、ついに大きな本部を持つまでになりました。


街づくりはまだまだ続きます!


次回もお楽しみに!

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