第38話 世界の脅威
第五階層中央都市アルカディア。
冒険者ギルド本部にある会議室。
長机を挟み。
レオンとクロード。
その向かいにはガルドとビルズが座っている。
室内には重苦しい空気が漂っていた。
誰もすぐには口を開かない。
やがて。
ガルドが腕を組んだままレオンを見る。
「頼む」
「ああ」
レオンは机の上へ数枚の資料を置いた。
マンティスで確認した被害。
救助した生存者。
そして。
彼らから得た証言。
そのすべてをまとめたものだ。
「まず」
レオンが静かに口を開く。
「マンティスの被害状況だが」
一度。
言葉を切る。
「壊滅と言って間違いない」
「……」
誰も言葉を発さなかった。
すでに報告は届いている。
マンティスが壊滅したことも。
多くの犠牲者が出たことも。
分かっていた。
それでも。
実際に現地へ向かった者から告げられる言葉は重い。
「正門は完全に破壊」
「城壁も複数箇所が崩落」
「大通りや住宅区にも大規模な戦闘痕が残されていた」
レオンは資料へ視線を落としながら続ける。
「建物の被害も甚大だ」
「商業区」
「住宅区」
「倉庫区」
「どこを見ても無傷と言える場所はほとんどなかった」
ガルドの眉間に皺が寄る。
レオンは次の資料へ手を伸ばした。
「さらに」
「交易品を保管していた倉庫からは」
「武器」
「防具」
「素材」
「宝石」
「金貨」
「価値のある物品がほぼすべて消失していた」
ビルズが眉を寄せる。
「略奪……ですか」
「その可能性が高い」
クロードが答える。
「ただ」
聖槍を傍らに置いたまま。
僅かに表情を曇らせる。
「妙な点もあった」
「妙な点?」
「食料庫だ」
ビルズが視線を向ける。
「食料庫?」
「ああ」
クロードは静かに頷いた。
「マンティスは貿易国家」
「当然」
「大量の食料が備蓄されていたはずだ」
「しかし」
一拍。
「何一つ残っていなかった」
「……何一つ?」
「穀物」
「肉」
「果物」
「保存食」
「酒」
「確認できた範囲では」
「すべてだ」
「……」
ビルズは考え込むように口元へ手を当てた。
「持ち出されたのでしょうか?」
「分からない」
レオンが首を横に振る。
「だが」
「二人だけで運び出せる量ではないはずだ」
「……」
沈黙。
高価な物品が消えた倉庫。
そして。
何一つ残されていなかった食料庫。
ガルドが低く呟く。
「『強欲』と『暴食』……か」
その二つの呼び名。
レオンは静かに頷いた。
「ああ」
「だが」
「現時点ではそれ以上のことは断定できない」
「そうだな」
ガルドも頷く。
「名前だけで能力や行動原理を決めつけるべきではない」
「ああ」
憶測で判断すれば。
それ自体が致命的な誤りになる可能性もある。
今必要なのは。
分かっていることと。
分かっていないことを。
正確に切り分けることだ。
レオンは次の資料を手に取った。
「そして」
「今回の調査で最も重要な情報だ」
空気が変わった。
ガルドの瞳が鋭くなる。
「生存者を複数名発見した」
「生存者が?」
ビルズが僅かに身を乗り出す。
「ああ」
「重傷者が多く」
「現在も治療が必要な状態だ」
「だが」
資料を指先で押さえる。
「何名かから襲撃時の証言を得ることができた」
「聞かせてくれ」
ガルドの言葉に。
レオンは頷いた。
「まず」
「マンティスを襲撃したのは」
顔を上げる。
「やはり二名で間違いない」
「……」
「《七つの大罪》」
一拍。
「『強欲』」
「そして」
「『暴食』」
ガルドの表情が僅かに険しくなる。
「二人だけだったのか」
「ああ」
「複数の生存者から証言を取ったが」
「全員一致している」
「他に襲撃者はいなかったと」
「……」
ビルズが息を呑む。
一つの国家。
多数のプレイヤー。
NPC。
警備兵。
それだけの戦力が存在していたマンティス。
それを。
二人。
たった二人で。
レオンはさらに続ける。
「そして」
「生存者から二名の能力についても証言を得た」
「能力?」
「正確な能力名」
「発動条件」
「効果」
「いずれも不明だが……」
レオンの表情が険しくなる。
「『強欲』と呼ばれていた者は」
「何度倒しても立ち上がってきたという証言がある」
「……何?」
ガルドが僅かに身を乗り出した。
「何度倒しても?」
「ああ」
「剣で斬られ」
「槍で身体を貫かれ」
「魔法による攻撃も受けている」
「生存者の話では」
「明らかな致命傷を何度も負わせた」
「それでも」
レオンは拳を握る。
「立ち上がった」
「……」
会議室が静まり返った。
ビルズが慎重に口を開く。
「再生能力……でしょうか?」
「分からない」
レオンは首を横に振る。
「傷そのものが再生していたのか」
「死を回避する能力なのか」
「あるいは」
「まったく別の何かなのか」
「証言だけでは判断できない」
クロードも静かに頷く。
「ただ」
「何度倒しても戦闘を継続した」
「これは複数の生存者が同じ証言をしている」
「……」
ガルドは目を閉じた。
数秒。
そして。
「厄介だな」
低い声。
「ああ」
レオンも同意する。
「倒す方法が分からない相手ほど厄介なものはない」
倒したと思った瞬間。
立ち上がる。
それを繰り返された側が。
どれほどの恐怖を感じたのか。
現地で生存者の顔を見たレオンには。
嫌というほど分かっていた。
「そして」
レオンは次の資料をめくる。
「もう一人」
「『暴食』」
その名が告げられる。
「こちらはさらに不可解だ」
「……」
「生存者たちは」
「自分たちの攻撃が喰われたと証言している」
ビルズが眉を寄せた。
「喰われた?」
「ああ」
「炎」
「雷」
「氷」
「矢」
「剣撃」
「種類を問わず」
「攻撃そのものが消失したと」
「攻撃の無効化か?」
ガルドが尋ねる。
「最初は俺たちもそう考えた」
レオンの声が低くなる。
「だが」
「違った」
「……?」
「消えた攻撃は」
一拍。
「その後」
「マンティス側へ放たれたそうだ」
「……」
誰も言葉を発さなかった。
最初に反応したのはガルドだった。
「吸収……」
低い声。
「そして放出か」
「可能性はある」
「だが」
レオンは首を横に振る。
「こちらも正確なところは分からない」
「どこまで吸収できるのか」
「何か上限が存在するのか」
「発動条件は何なのか」
「何一つ判明していない」
「……」
ガルドは腕を組んだまま深く考え込む。
何度倒しても立ち上がる者。
攻撃を受け。
それを相手へ返す者。
それだけでも。
十分異常だ。
だが。
「待ってください」
ビルズが口を開いた。
全員の視線が集まる。
「今回」
「マンティスを襲撃したのは」
「『強欲』と『暴食』」
「二名なのですよね?」
「ああ」
レオンが頷く。
「では……」
ビルズの表情が強張る。
「《七つの大罪》という名前が」
「そのまま構成員の数を示しているのだとすれば……」
そこで言葉が止まる。
だが。
言わなくても。
全員が同じ答えへ辿り着いていた。
「残り五人」
クロードが静かに呟いた。
「……」
重い沈黙が落ちる。
二人。
たった二人で。
一つの国を壊滅させた。
ならば。
残る五人は?
同じような力を持っているのか。
それ以上なのか。
それ以下なのか。
何も分からない。
だからこそ。
恐ろしい。
「もちろん」
ガルドが静かに口を開いた。
「七人いると決まったわけではない」
「ギルド名と構成員数が一致する保証もない」
「それに」
「仮に七人だったとしても」
「全員が同等の力を持っているとも限らない」
「はい」
ビルズが頷く。
「だが」
ガルドの表情が険しくなる。
「最悪を想定して動く必要はある」
その場にいる全員が頷いた。
「レオン」
「ああ」
「《七つの大罪》の二名」
「現在地は?」
「不明だ」
レオンは即答する。
「マンティス襲撃から一週間」
「すでに現地から離れていると思われる」
「追跡は?」
クロードが首を横に振った。
「痕跡は確認できなかった」
「……そうか」
ガルドは椅子へ深く腰掛ける。
所在地不明。
目的不明。
能力不明。
本名すら分からない。
分かっていることは。
《七つの大罪》。
『強欲』。
『暴食』。
そして。
二人でマンティスを壊滅させたという事実。
それだけ。
「ビルズ」
「はい」
「第三階層を中心に情報収集を強化しろ」
「承知しました」
「他の階層についても同様だ」
「各地の主要都市」
「国家」
「ギルド」
「可能な限り情報を集める」
「はい」
ガルドは続ける。
「ただし」
「発見しても無闇に交戦するな」
「今回得た情報を各方面へ共有し」
「遭遇した場合は戦闘を避けるよう警告を出せ」
「分かりました」
ビルズはすぐに資料へ書き込んでいく。
レオンは静かにその様子を見つめていた。
そして。
「ガルド」
「なんだ?」
「一つだけ」
レオンは真剣な表情を浮かべる。
「現地を見た者として」
「伝えておきたいことがある」
「……聞こう」
レオンは一度。
目を伏せた。
脳裏に蘇る。
崩れた正門。
瓦礫に埋もれた大通り。
空になった倉庫。
壊れた家。
恐怖に震えていた生存者たち。
「マンティスは」
顔を上げる。
「弱い国ではない」
「分かっている」
ガルドが答える。
「多くの戦力を持ち」
「第三階層でも有数の国家だった」
「ああ」
レオンは拳を握る。
「それでも」
一拍。
「滅びた」
「……」
「たった二人に」
会議室に重い言葉が落ちる。
「次に奴らがどこへ現れるのか」
「何を目的としているのか」
「俺には分からない」
レオンは真っ直ぐガルドを見る。
「だが」
「次も同じことが起こる可能性がある」
ガルドは静かに頷いた。
「ああ」
そして。
窓の外へ視線を向ける。
アルカディアの街並み。
大勢のプレイヤー。
NPC。
商人。
冒険者。
そこには。
今日も変わらない人々の生活がある。
だからこそ。
守らなければならない。
「次は」
ガルドの瞳が鋭くなる。
「後手に回らない」
誰に言うでもなく。
低く。
力強い声だった。
「《七つの大罪》」
ガルドが呟く。
「指名手配第一位」
今まで。
その名は知っていた。
危険なギルドだということも。
だが。
マンティスの壊滅によって。
その意味は大きく変わった。
「もはや」
ガルドは静かに告げる。
「一つの国だけの問題ではない」
世界そのものへ牙を剥きかねない存在。
その脅威が。
初めて明確な形となって。
彼らの前へ姿を現し始めていた。
◇
同じ頃。
第一階層。
《王虎の牙》の集落。
「いただきまーす!」
「いただきます!」
大勢の声が響いた。
アルカディアに漂っていた重苦しい空気など。
ここには欠片もない。
長いテーブル。
その上には大量の料理が並べられている。
肉。
魚。
野菜。
スープ。
焼きたてのパン。
畑で採れた野菜。
港から届いた魚。
ここで暮らす皆が。
それぞれに作り。
集め。
用意したもの。
今日も一日。
ギルド本部の建設を進めた俺たちは。
いつものように皆で食卓を囲んでいた。
「うめぇ!」
ガンテツが豪快に肉へかぶりつく。
「働いた後の飯は最高だな!」
「もう少し静かに食えないのか?」
バレットが呆れたように見る。
「飯は豪快に食った方が美味い!」
「初めて聞いたぞ」
「今、俺が決めた!」
「適当だな」
いつものやり取り。
俺もスープを口へ運ぶ。
「……うま」
温かい。
疲れた身体に染みる。
「それにしても」
エリックがパンを片手に口を開いた。
「本部」
「かなり出来てきたよな」
「うん!」
向かいに座るユナが嬉しそうに頷く。
「一階はもうかなり形になってたよね!」
「明日から二階部分だったか?」
「そうらしいよ」
「また木材運びかぁ……」
エリックが肩を落とす。
「最近ずっと木材運んでる気がする」
「いいじゃねぇか!」
隣から大きな声。
ガンテツだ。
「身体が鍛えられるぞ!」
「ガンテツさんと一緒にしないでくださいよ!」
「なんだと!?」
ガンテツが腕を曲げる。
盛り上がった筋肉。
「見ろ!」
「この筋肉!」
「毎日の積み重ねだ!」
「いや」
エリックが若干引く。
「俺はそこまで目指してないです」
「何故だ!」
「何故って言われても……」
「エリック!」
「男なら筋肉だ!」
「嫌ですよ!」
食卓に笑い声が広がる。
ユナも口元を押さえながら笑っていた。
「エリック」
「明日からガンテツさんと一緒に資材運びしたら?」
「絶対嫌だ!」
「はっはっは!」
「任せろ!」
「頼んでません!」
楽しそうだ。
エリックも。
ユナも。
最初からずっと。
俺たちと一緒にここで暮らしてきた仲間だ。
こうして話している姿を見ると。
改めて。
いつもの食卓に皆がいるんだと感じる。
少し離れたところでは。
「ノア~」
セリアがのんびりと声を掛けていた。
「明日なんだけど~」
「はい」
セリアの隣。
一人の少女が食事の手を止める。
セリアの助手。
ノアだ。
「研究所の資料整理お願いしていい~?」
「いいですよ」
「ありがと~」
「ただし」
「ん~?」
ノアがじっとセリアを見る。
「セリアさんも来てくださいね?」
「……」
セリアが止まった。
「セリアさん?」
「……このスープ美味しいね~」
「誤魔化さないでください」
「誤魔化してないよ~」
「昨日も来ませんでしたよね?」
「昨日は本部の建設を手伝ってたから~」
「その前の日も来ませんでした」
「……」
「その前も」
「……」
セリアがゆっくり俺を見る。
助けを求めるような目。
「……」
俺は静かに視線を逸らした。
頑張って。
「セリアさん」
「は~い……」
「明日は来てくださいね?」
「分かりました~」
ノア強いな。
あのセリアが完全に押されている。
その反対側。
モルフォは食事をしながら一冊のノートへ何かを書き込んでいた。
「なるほど……」
ぶつぶつ。
「結界術式の魔力循環を考慮すると」
「本部の二階部分へ――」
すっ。
ノートが取り上げられた。
「……?」
モルフォが顔を上げる。
隣。
一人の少女がノートを持っている。
モルフォの助手。
ミナだ。
「ミナさん」
「はい」
「私のノートを返していただけますか?」
「駄目です」
即答。
「何故でしょう?」
「食事中だからです」
「ですが」
モルフォは真剣な表情を浮かべる。
「今」
「非常に興味深い術式構造を思いつきまして」
「食事中です」
「忘れてしまう可能性があります」
「食事中です」
「一行だけ」
「駄目です」
「……」
モルフォが黙った。
ミナは満足そうに頷く。
「ちゃんと食べてください」
「……はい」
素直にスプーンを持つ。
「助手って」
俺は思わず呟く。
「大変なんだね」
「何を言っているんですか」
ミナがこちらを見る。
「研究者を管理するのも助手の仕事です」
「そうなの?」
「違います」
モルフォが即答した。
「でも管理されてるよ?」
「……」
モルフォは黙ってスープを飲んだ。
図星らしい。
ノア。
ミナ。
二人とも。
助手というより。
世話係になっている気がする。
「ところで!」
たるとがパンを持ったまま声を上げる。
虎耳が元気よく立っている。
「明日は二階部分を作りますよ!」
「やっぱりかぁ……」
エリックが再び肩を落とす。
「まだ言ってるの?」
ユナが笑う。
「だって大変なんだぞ」
エリックは指を折る。
「木材運んで」
「柱運んで」
「また木材運んで」
一拍。
「ほとんど木材じゃん!」
「なら」
ハヤテが笑う。
「俺と一緒に加工するか?」
「おっ!」
エリックの表情が明るくなる。
「そっちの方が――」
「刀で」
「遠慮します」
早い。
「なんでだよ!」
「普通に怖いですよ!」
「慣れれば簡単だぞ?」
「慣れたくないです!」
また笑い声。
「二階は会議室でしたね」
ノエルが確認する。
アイスが静かに頷いた。
「ああ」
「今後」
「街の運営について話し合う機会も増える」
「今の集会場だけでは不便になるからな」
「それが終わったら三階ですか?」
ユナが尋ねる。
「そうなる」
「三階は客室だったよね?」
「他のギルドや商人を迎えるための部屋だ」
「おお……」
エリックが感心したように声を漏らす。
「本当にそれっぽくなってきたな」
「それっぽく?」
たるとが首を傾げる。
「いや」
「なんていうか」
エリックは少し考える。
「街?」
「……」
皆が一瞬黙る。
そして。
「今さら!?」
ハヤテが叫んだ。
「いや分かってるよ!」
「分かってるけど!」
「改めて考えるとすごいだろ!」
「それはそうだな」
ゴウマが腕を組む。
「住宅街」
「外壁」
「畑」
「港」
「そして本部」
一つずつ。
これまで作ってきたものを挙げていく。
「まだ足りないものは多い」
「研究所の拡張~」
セリアがすぐに手を挙げる。
「明日は来てくださいね?」
ノアがすかさず言った。
「……は~い」
笑いが起こる。
「訓練場も必要だな」
バレットが続く。
「これだけ人数が増えりゃ」
「訓練する場所もちゃんと分けた方がいい」
「鍛冶場ももっと広くしたいのぉ」
ドランが髭を撫でる。
「今のままじゃ」
「人数が増えた時に手狭じゃわい」
「店も増やしたいですね!」
ユナが楽しそうに言う。
「今は欲しいものがあっても」
「すぐ買える場所が少ないですから」
「宿屋とか?」
エリックが続く。
「外から来た人が泊まれる場所も必要だろ?」
「それも必要ですね」
ノエルが頷いた。
「人が増えれば」
「外から訪れる方も増えるでしょうから」
「噴水!」
ツキが元気よく手を挙げた。
「大きい噴水ほしい!」
「いいですね!」
たるとの目が輝く。
「街の真ん中に作りましょう!」
「おい」
ゴウマが止める。
「今すぐ予定を増やすな」
「えー!」
「本部が先だ!」
「はーい」
たるとの耳が少し垂れる。
「でも」
ヨミが静かに口を開いた。
「楽しみ」
「うん?」
たるとが見る。
ヨミは周囲を見渡す。
そして。
小さく笑った。
「もっと」
「色んなものが増えるの」
一拍。
「楽しみ」
「……」
たるとの耳が再び立った。
「はい!」
満面の笑顔。
「私もです!」
そこから。
話は止まらなかった。
こんな店が欲しい。
あんな施設が欲しい。
道をもっと広げたい。
花を植えたい。
市場を作りたい。
もっと畑を広げたい。
港も整備したい。
皆。
好き勝手に話している。
実際に全部作れるのか。
どれだけ時間がかかるのか。
今は誰も気にしていない。
ただ。
未来の話をしている。
この街が。
これからどうなっていくのか。
皆で笑いながら。
好きなように想像している。
「……」
俺はスープを飲みながら。
そんな皆を見る。
ユナが笑っている。
エリックがハヤテと何か言い合っている。
ノアはセリアへ明日の予定を念押ししている。
ミナはモルフォからノートを遠ざけている。
ツキがたるとへ噴水の希望を伝えて。
ヨミがその隣で笑っている。
ガンテツは相変わらず食べている。
ゴウマは増えていく要望を聞いて少し頭を抱えていた。
ドランは楽しそうに髭を撫でている。
いつもの食卓。
いつもの仲間たち。
明日は何をしよう。
次は何を作ろう。
そんな話をしながら。
皆で飯を食べる。
世界のどこかで。
何が起きているのか。
この時の俺たちは。
まだ知らない。
今はただ。
明日もまた。
皆でこの街を作っていく。
それだけだった。
第38話を読んでいただきありがとうございます!
マンティスの調査によって、少しずつ明らかになってきた《七つの大罪》の脅威。
たった二人で一つの国を滅ぼしたという事実だけでも十分すぎるほど危険な存在です。
一方、《王虎の牙》では相変わらず賑やかな食卓。
明日は何を作ろう。
次はどんな街にしよう。
そんな未来の話をしながら今日もいつもの一日が終わっていきます。
次回もお楽しみに!




