#0008 飛行種族と思考操縦
更新が遅すぎる。まあMod開発優先してたせいです。
5、6時間ぶっ通しで作業して急いで実装してたりで疲れる。
なんでこう好き好んで疲れる作業ばかりやってるのやら。
気を取り直していこう。
ニックスの同族が住む地域はこの惑星上で大きく分けて2か所。
軌道がその両方に重なるように調整して、
そうしたらニックスにどっちへ降りればいいか聞く。
こいつの場合なら多少離れた場所に降ろしても
自力で飛んでいけそうだが、一応さっき解凍されたばかりだ。
できるだけ近いところに降ろすのがいいな。
軌道変更のためにスラスターを吹かすと、
さっきまでいた母艦、セイバー級フリゲート TMV Nebula Drifterは
ほんの数秒で小さな点のようになり、そして見えなくなっていった。
まあ、後ろだから窓からは見えないがな。
「いやぁ、宇宙を飛んでるところ見れるなんてなぁ……。
あ、ごめん邪魔だよな、へへへ」
……ようやく気付いたか。前のめりになっていたニックスは
慌てて首を引っ込めて、操縦席の後ろの床に座り込んだ。
座るといってもどちらかといえば
しゃがんでいる方が近いかもしれないが。
それにしても、じっとしていられない子供を
おとなしくさせるいい手段はないものかね。
おもちゃでもやるか?
……ふむ。おもちゃか。なるほど、これはいいかもしれないぞ?
「はぁ。そんなに外を見たいならいっそのこと操縦してみるか?
多分お前の種族なら揚陸艇くらい飛ばせるだろう」
冗談交じりでもなく
真面目に後ろに座っているニックスに声をかけてみる。
こいつは見たところ空を飛べる種族だ。
さっき格納庫で見た時もそれほど広くはない
格納庫の中を器用に飛び回っていた。
つまり思考入力インターフェースを使えば
船の操縦ができる可能性は高い。
「……へ? えっと……、え? ちょっと待ってくれよ、
ほんとに言ってるのか?」
「ああ。もうこの際お前が自分で操縦して家まで帰るのが
一番いいんじゃないかと思ってな。別に減るもんでもないんだし、
どうせなら自分で飛ばしたほうが楽しめるだろう?」
提案を聞いたニックスは一瞬の間の後、
その大きな耳を立ててこちらをじっと見つめながら
本気なのかと聞いてきた。
目を輝かせてという表現はこういうものを指すんだろう、
というくらいに。
ああ。ニックスへ返した言葉の通りに俺も少し吹っ切れたよ。
まあ別に規則に違反するようなことではないから、
単なるサービスだ。
どうせなら残りの旅程を楽しめってな。
それに、俺は行き先を聞く必要がなくなるうえ
こいつは操縦を楽しめる。誰も損をしない合理的な案だろう?
「あ、ありがとな……オーウィン。
ここまでしてもらってさ、ほんとに……」
「んじゃあ……どうやって飛ばせばいいか、
説明とか、してくれる感じなのかな?」
嬉しさのあまりか呼吸を乱したニックスは、
感謝の言葉の後一度気持ちを落ち着けてから
再び口を開き、改めて尋ねてきた。
誰かがこんな風に喜んでいる様子、
最後に見たのはいつだったろうな。
一人旅で、ステーションによっても長くは滞在しない。
思えば誰かと話すこと自体少なかったか。
「そうだな。よし、一度船の加速を止めるぞ」
スロットルをニュートラルに戻し、
操縦席を立って後ろで待つニックスのもとへ。
「これをかぶってみろ。まあ、頭の上に乗せる感じでいい」
そう言って俺はカチューシャのような形の装置を
壁面の収納から取り出してニックスに渡す。
「おう、こんな感じかな?」
ニックスは渡されたそれを翼から生えた4本の指で器用に掴み、
ヘッドホンやらと同じように両耳を挟む位置に乗せた。
人間用だからサイズが合っていなくて
少し窮屈そうだが気にしてはいない様子だ。
「よし、基本的な操縦系統の権限をお前に移すからな。
後はもう自由に飛んでみるといい。宇宙だから大気圏内とは
感覚が違うだろうが、降下すれば変わってくるだろう」
ニックスに操縦系統の制御権を渡し、
さらに視覚センサーリンクも繋いでやる。
「……おお、これ船のセンサーの映像が直接見えてるのか!?
うわ、後ろとか真下も見えるんだな!」
「なかなかない感覚だろう? あとは自由に動かしてみろ。
操作に慣れたら惑星への降下方法を説明しよう」
「おう、んじゃやってみるぜ」
外が見えるようになった直後は
一瞬あっけに取られていたようだったニックスだが、
好きに動かしていいと伝えるとすぐに
力強く滑らかな動きで船を操り始めた。
近くにほかの物体が無いせいでわかりにくいが、
こいつの操縦はとても柔らかで
軌道の線に沿って滑るかのようにも思える。
思った通りだったな。元から飛べる種族は訓練無しでも
ほぼ本能的に思考入力で航空機や宇宙機の操縦ができるんだ。
人間の場合はそもそもまずスラスターを吹かすだけでも
意識の持ち方を工夫しないといけないというのに。
「ふむふむ……結構操作は簡単なんだな!
周りの景色は動かないけどなんとなく船の動きはわかるぜ」
おおよそ感覚をつかんだらしいニックスは
こちらを見ながら嬉しそうに話す。
「いいじゃないか。さすがは飛行種族といったところだな。
さて、あとは自分で船を飛ばして家まで帰るんだ。
天体図を開いて惑星の地形を表示してみろ」
これだけ動かせているなら大気圏内航行も
特に困らないはずだから、さっそく本番だな。
「えっと……天体図……これか! わぁ、俺の住んでた星って
こんな感じだったんだな! まあ目の前に見えてるけどさ」
指示すると、ニックスはすぐに天体図の開き方を見つけたようだ。
「いいぞ。マップを見ているなら視点を動かして
目視できない領域も確認できる。自分が住んでいた地域の
地形や環境と一致する場所を探してみるんだ」
惑星探索の基本というのは目視か軌道探査の情報に基づいて
興味を惹かれた場所へ降りてみることだ。
"あそこには何がある?" だとか "そこで何が起こっている?" とか、
そういう単純な理由こそが大事でな。
今回の場合はよく見知った自分の故郷を
宇宙から見て探すといったところか。
飛行種族なら地形への理解は深いだろう。
特に上から見てわかる起伏の高低に関しては。
「お、なるほどな! 確かにそうすればどこに降りれば
家に帰れるか分かるんだ! えっと……」
軽く説明してやると、ニックスは地図上に映る惑星の立体表示を
回転させながら故郷の場所を探し始めた。
資料によるとこの惑星の文明レベルではすでに印刷物が
広く普及しているようだから、
おそらくニックスも地図は見たことがあるだろう。
図法の問題があるし宇宙から見た陸の形だと
少し悩むかもしれないが、こいつの種族、スノーワイバーンは寒冷地、
特に雪原に住んでいるらしいからそもそもの場所は絞れる。
「あ、多分ここだな。降りるには……えー、
軌道離脱マニューバの自動実行……で、
降下軌道に入れる……でいいのかな?」
……おっと、俺が理屈を連ねている間にニックスは
もう帰るべき場所を見つけたらしい。
驚くほど慣れた手つきで自動操縦の機能メニューを開き、
"Deorbit Autopilot" の実行確認画面まで来たところで
こちらを見つめ確認を取ってきた。
本当に不思議な奴だ。ニックスにはこの機能の操作権限が無いから
実行の承認は出来ないが、ほぼ完璧な手際だよ。
「うむ。その通りだが、妙に操作に慣れているな……。
まあいい、一時的に自動操縦の権限をやるから承認ボタンを
押してくれ。それで家に帰れる──といってもその近くまでだが」
「ちょうどそれっぽい文字が画面内にあったからさ!
えっと、じゃあ言うとおりに自動実行を承認して、と。
よし、これ返しとくぜ」
一時権限を渡されたニックスは指示通りに承認ボタンを押し、
船が自動操縦に切り替わると神経インターフェース装置を
外して軽く首を振るわせ、装置をこちらに手渡す。
「さすがに着け心地が悪かったか? まあ、また船が
対流圏まで降りたらもう一度試してみるといい。
いや、それにしても初めてとは思えないくらい上出来だぞ」
「へへ、そう言われるとなんか嬉しいな! ほんとさ、ありがとな、
いろいろ迷惑かけてると思うのにここまでしてもらってさ」
笑顔でこちらをじっと見つめて話すニックスのその姿は、
なんというか微笑ましい。
種族の性質上はっきりした表情はないが、
それでもなんとなくはわかるものだ。
殺伐とした冷たい宇宙の中の、
小さなぬくもりとでも言えばいいのか。
考えてみれば俺の周りにこんな明るい奴はいなかった。
もしかしたら初めて接するタイプの性格かもしれない。
ああ……昔、揚陸艦のクルーと陸戦隊で集まって
パーティーをやったことがあった。
降下するたびに減っていく仲間と、
戦場を移すたびにいなくなる僚艦。
暗い気持ちも何か楽しいことで上書きしてしまえば
少しの間は忘れられる。
正気を保つうえでこういうことはとても重要なことだった。
色々と考えさせられるな。
まあとにかく、この後はしばらく待機だ。
待ち時間はどうするかね?
俺一人ならじっとしているだけだが、ニックスは多分暇だろう。
「まあ、気にしなくていいさ。
もともと俺は少しお人好しなところはある。さて、軌道を見る限り
降下までは後15分ほどはあるから、しばらくは
休憩なりなんなりだ。暇なら何か話でもするか?」
「うーん、そだな。せっかくだし……んじゃ、俺の故郷とか
群れの暮らしとかの話でもしようかな。
なんかずっとオーウィンから聞いてばっかりだったしさ」
試しに雑談でもどうかと振ってみたところ、
ニックスは少しの間俯いて考えた後、向こうから話す内容を決めた。
確かにこいつの言う通りにこちらから何かをしてやってばかりだ。
立場上仕方ないとはいえな。
「なるほど? 確かにそれは面白いかもしれないな」
「だろ? じゃ、どこから話そうかな」
ニックスはそう言って一度兵員室まで降り、壁際に座り込んだ。
ああ、流石に操縦席付近は狭いのはそうだな。
俺も後を追って、ニックスとは向かい側の壁にもたれて座る。
暇な時間に故郷のことを話す──確かに旅先で
人を拾ったときには悪くない選択肢だな。
さて、どんな話をしてくれるやら。
現役時代のオーウィンは装甲歩兵と呼ばれる動力甲冑を着込んで最前線で敵と殴り合う最も激しい戦闘に投入される兵科に居ました。当時(2515年)のトリニティ(この世界における人類の星間国家)は本編の時代(2795年)ほどの超越的戦力ではなかったので、艦隊戦ではほぼ負けなしでも地上戦ではかなりの損害を出し、戦闘艦もさすがに惑星上の砲台と撃ち合えば沈むこともありました。そのため揚陸艦と護衛艦隊は占領作戦ごとに大体何かしらの損失を出しています。なにせトリニティを含む3つの大国の同盟がそれ以外のほぼすべての国と衝突するかなり極端な戦争だったので、戦力比率的には半々でも戦場が広すぎて防衛はともかく攻撃、侵攻の面で戦力の分散、または侵攻速度を落とす必要があり戦力の補充もなかなか追い付いていませんでした。現代では、そもそも補給路、兵站の概念自体が不要になり、機動拠点級艦船を中心にそれぞれの戦闘群や艦隊が完全自給自足可能なように編成されています。拠点級艦船には移動司令部や攻城艦が該当。
という裏設定でした。
細かい部分は今後人物の台詞や語りでも触れられるかと思います。




