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#0009 二つの視点

相変わらず更新が遅い。

「えっと、さっき軌道マップで見たと思うし、俺の身体の

造りでもわかると思うけど、故郷はものすごい寒いところでさ。

んで、雪原の中に群れのみんなが暮らすコロニーがあるんだ」


俺が下まで降りてきたことを確認すると、ニックスは

話の切り出し方に少し躓きつつも故郷のことを語り始めた。


「ふむ。一応資料では読んだが、

スノーワイバーンは群れで暮らすんだな」


「そ、まあ言ってもそんなに大きな群れじゃないけどさ。

ほかの群れの事情は知らないから何とも言えないけど、

多分いくつかの家族が集まってくらいの大きさだと思うぜ。

群れでの暮らしは特に困ることとかもなくて、

ずっと穏やかに暮らしてたんだ」


群れの規模や形態について説明しつつニックスは話を続ける。

落ち着いた声で話すニックスからは、特に群れやコロニーで

何か悪いことがあったというような雰囲気は感じられないな。


どちらかといえば懐かしんでいるように見える。

拉致されたときはちょうど旅をしているといっていたわけだ、

ニックスはコロニーに居ないことの方が多いんだろうか。


「でも、ずっと雪ばっかり見て暮らしてたらさすがに飽きてきて、

それで俺は一人で旅に出ることにしたんだよな。

んで……今ここにいるっていうか」


今まで思い出話のように話していたニックスだが、

こうなってしまった経緯に話がつながるとすこし自分自身に

あきれたようなしぐさを見せてため息をついた。


惑星に降りて現地の生物を勝手に連れ去るような輩が

悪いのは間違いないんだが、ニックスとしては悔しいだろうな。


実験惑星の扱いというのはなかなかに難しい事柄だ。

もともと様々な文明における空想の世界を現実にするべく

旧文明が立ち上げたプロジェクトの産物なわけだから、

そこに住むやつらはあくまで物語の世界に設定に合わせることを

優先して多少無理のある設計をされていることも多い。


知的種族の場合は極端な思想や宗教、文化を

持っていることもあるし、いたって常識的──というよりは

現実が見えているという場合もある。


星間文明からの接触を受けた時の反応や対応というのも

当然多種多様なもので、ニックスの住む惑星の場合は

星々の世界を知ったうえで不干渉を望んだ。というものになるだろう。


いつか自力で空へたどり着くことを目指してな。

逆に、高度な技術を受け入れて銀河社会の

一員となることを望む文明もまた存在する。


モニュランも面倒な置き土産をしてくれたものだ。


「見たことのない景色を求めて一人旅、ね。

空を飛べる種族は旅をするのが好き

というやつは多いと聞くし、そういうものか」


「やっぱさ、せっかく空を飛べるのにずっと同じ場所で暮らしてる

っていうのももったいないと思うんだよなー。実際、

外に出てみていろんなものを見れたし、地上に降りたら

また旅の続きをしようと思ってるんだ。地図を見てると

まだ行ってない場所が沢山あって、ほんと世界は広いよなって」


"納得だ"という表情で返事する俺に、ニックスは

楽し気に旅の続きへの展望を語る。


その浮かれ具合は揚陸艇を下ろしたらすぐにでも──それどころか

安全な高度に達した時点で後部ランプから飛び出しそうなくらいだ。


世界は広い、か。


一つの惑星、一つの星系、一つの銀河、そして一つの宇宙。

それどころか多元宇宙の泡や異なる階層の宇宙。

世界というものの範囲をどこまでとするかで変わるが、

俺たちにとって広すぎるものなのは間違いない。


「そうだな。何ならお前は今元住んでいた惑星の軌道上にいる。

それどころかさっきまでは違う星系に居たんだ」


考えてみれば、ニックスはこの惑星の住人の内で唯一か、

数少ない惑星外へ飛び出した経験がある者になるわけだ。


……経緯はともかく。


「ほんとだよな…………」


──そんなふとした言葉に対しニックスが見せた表情は、

妙に思いつめたものだった。


耳を垂らして兵員室の床に視線を落とし、

何かをためらっているような。


「何だ? どうかしたか?」


ニックスはどうも、さっきまでは違う星系に──

もっと遠い場所にいたという言葉に引っ掛かりがあるらしい。


正直なところ、ある程度の予想は付くがね。


「うーん……」


俯いたまま、ニックスは少しの間黙り込む。


すぐに答えは出ないのかもしれないし、

ここは急かさず軌道マップの様子でも見ていよう。


データリンク表示で確認してみる。

ふむ、降下予定地点の誤差は無し、母艦の方の砲台展開作業も順調だな。


そして、その合間に時折ニックスの様子も見ているが……

まだ固まったままだ。


はぁ……今までのこいつの行動や発言からな、俺はこう思っている。




おそらくニックスは、俺の船に乗せてもらえば

故郷の惑星だけではなく銀河中を旅することができる、と。


ニックスはトリニティの技術や文化をある程度は知っているし、

艦内ではいろいろなものに興味を示していた。


あいつから見れば、このまま素直に家に帰ったら二度と

宇宙へ出る機会なんて来ないかもしれない。


だが、ただの通りすがりで赤の他人である俺に

そんなことは言えないんだろう。




──もちろん違う可能性はあるぞ?

俺が少し考えすぎているかの知れないのはそうだ。


でもな、ニックスの悩み方は何か言いたくても

口に出しづらいときのそれなんだ。


それなら、こっちから話を持ち掛けてみるのも手だろう。


「なあニックス? お前もしかして、船を降りたくないのか?」


少しとげのある言い方かもしれないが、試しに声をかけてみる。


「……え、いや、そういうわけじゃないんだ……ただ……もう少しさ、

宇宙を見たかったかなって。もうそろそろお別れだからさ。

それに、こんなの二度とないことだしさ!!」


動揺し、気まずそうにしながらもニックスは本音を明かした。


「そうか。確かにお前は旅をするのが好きだと言っていたな。

いろいろなものを見たいって」


「……コロニーを離れて、始めて旅に出たときはさ……

白以外の世界を見て本当に感動したんだ。今まで住んでたところの

外にこんなものがあるなんてって……。

そんな初めて旅に出たときのことを、

船の格納庫の中の景色だけだったけど、思い出したんだ……。

ごめん、いきなり黙り込んだりしてさ」


抑え込んでいた気持ちを吐き出すかのように、

ニックスは呼吸を乱し、苦しそうに話す。


ニックスも俺がなぜこんなことを聞いたのかはもう察しているんだろう。


「……なあ、俺の船に乗りたいなら素直に言ってくれていい」


俺がそう言った瞬間、ニックスはこちらを見て一瞬固まった。


「……ほんとに……いいのか?」


「ああ、どうせ俺以外にクルーはいないんだ、誰も気にしないさ」


恐る恐るで聞き返すニックスに、はっきりと答えてやる。


「……ありがとう! ほんとに嬉しいんだ!

もし一緒に船に乗せてもらえたら、もっと遠いところの、

もっといろんなものを見に行けるかもしれないって……

でも絶対に迷惑だし、そこまでしてくれる理由もないし……

はっきり言えなくてさ!!」


その答えにニックスは大きく目を見開いてこちらを見つめ、

耳を立て、全身の羽毛を膨らませて喜ぶ。


向こうから言うのは難しそうだったからな。こっちから言ってやった。


……まあ、そうだよな。拾ってもらって、とりあえず家まで

送ってくれることになっただけだというのに、

一緒に連れていってくれなんてなかなか言えるものじゃない。


図々しい以前に非常識極まりないことだ。

帰る先がないやつならそもそも規則上拾った側が

一通りの面倒を見ないといけないが、ニックスの場合は違う。

帰るべき場所があるなら普通は送り届けて終わりだ。


俺が個人で軍艦を持っているような余裕のある人間だと

分かったときに、ニックスは頼み込めば

一緒に連れていってくれるかもしれないと考えたわけだな。


好奇心の塊のようなと言ったが、本当にその通りだった。


ニックスは旅の途中で密業者に拉致されて、

その後通りすがりの船乗りに拾われたという

そんな状況でも自分の旅をしたいという気持ちは変わらず、

船に乗せてもらえばもっと多くのものを見に行けるという

好機を何とか掴めないかと考えていたんだ。


はっきり言ってものすごい適応力だよ。


「まあ、正直に言うと俺もそろそろ誰か旅の仲間が欲しいとも

思っていたところなんだ。お互いにいい機会だったのかもしれないな。

ともかくだ。ニックス、これからはよろしく頼むぞ」


「ああ……ありがとう、オーウィン。

ここまでしてもらってほんとに申し訳ないけど……よろしくな!」


俺が兵員室の床から立ち上がって片手を前に出すと、

ニックスも翼から生えた大きな指で俺の手を握った。


足の方と同じように鱗で覆われた硬い指だが、

鋭い爪で傷つけないように加減してくれていることが分かるな。


……さて、この後はどうするんだ? 降下を中止してして船に戻るのか、

それとも群れの仲間の元へあらためて旅立ちの挨拶でもしに行くのか。

まあそこは任せよう。




何にせよ、俺の一人旅はここで終わりだ。


一人で居れば何かに縛られず自由に旅ができる。

だが、自分と違う誰かと一緒に同じものを見る、

というのも面白いかもしれない。


同じ種族でも物事の捉え方は様々だ。

種族が違えば認識そのものが根本から違うことすらある。


ニックスの目には、俺が今まで旅してきたところがどう映るだろうかね?


まあ、これから教えてもらえばいいことだな。

こんな状況でもうまくいけば今度は自分の故郷だけでなく他の星まで連れていってもらって、もっと多くの未知に触れられるかもしれないと。その可能性を見出せるのが適応力の高さというやつですね。


なかなかストレートには言い出せなくとも、操縦してる様子を見たいだとか、勝手に格納庫内を飛び回っていたりだとか、ワームホールの話とか、彼なりに興味を示しているという遠回しなアピールはしていたわけです。


同時に、オーウィンの方はまあ、そもそも誰かを船に乗せたところで特に困りはしないのと、いろんなものに興味を示してはしゃぐニックスを見てとても微笑ましく思っていたというのがあります。

(彼が乗っているセイバー級フリゲートは全長500mあります。クルーもいないので居住区も空っぽ)


人造人間であるオーウィンには本物の家族がいないのも理由の一つですね。

兵士一筋で友人と言える者もいません。

そもそも、ここまで明るく振る舞う他人と過ごすこと自体が稀なことでした。


なので、ずっと一人で孤独に旅をするより、ニックスのような少々過剰に思えても明るい気持ちを持てるような旅の仲間が居ればというそんな考えがありました。現在オーウィンは316歳であり、最初期の強化兵士の精神的耐用年数を大きく過ぎているので精神面は結構ボロボロなので。

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