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#0006 書類仕事

俺は今、艦長室で今回の件について

必要なあれこれをまとめた報告書を書いている。

ああ、もちろん手書きというわけじゃないぞ。

思考入力を使えば報告内容を文字に起こすこと自体は

特に時間がかかるものでもない。


なのに何が面倒なのかというと単純で、

回収した貨物とそれぞれの取り扱い、

遺棄された輸送船の中でしたことと、

その目的──つまりは "どこで、何があって、何故、何をして、

どんな結果にたどり着き、その後どうするのか"というどちらかといえば

行動記録に近いものを提出しないといけないからだ。

そのせいで書かないといけない数が多くて非常に面倒くさいんだ。


……言ってしまえばただそれだけなんだが、

旅をしていると何かしらの事件に介入することは少なくないからな。

そのたびにこういう行動記録を自分で書いて提出する

というのはまあ、はっきりと言ってうんざりする。


トリニティの中核星系内なら場所さえ報告すれば

あとは広域亜空間センサーのログから勝手に

そこで何があったのかを特定してくれるからいいが、

辺境星系だとそういうわけにもいかん。

……ちなみにだが、規則上自分で書かないといけないから

ジェフにやらせるというのは出来ない。




よし、報告書の作成は終わった。

次はニックスの故郷への防衛兵器配備の許可申請だ。

この船に積める固定式防衛兵器なんて大した大きさじゃないが、

辺境星系の無法者やごろつき相手なら過剰なほどだな。

もしくは建設ドローンを展開して多少時間を掛ければ

小規模な防衛プラットフォームくらいなら作れるかもしれない。


ただ、防衛プラットフォームともなるとかなり

目立つからやめておいた方がいいだろう。


どっちにせよ判断するのは司令部の連中だがな。


<<「おーい将軍? いきなりで悪いが原始文明の保護のための

防衛設備の配置について許可申請がしたい。

Eta-Gamma 1C4E-9914 4という惑星だ。どうも辺境星系のバカが

珍しい異星生物のいい仕入れ先だと勘違いしているらしくてな」


まるで誰かをパシりに出すかのような態度で

個人端末の通信機能で直接最高元帥殿に通信を入れたわけだが、

こんなことをしていいのかって? 問題ないんだな、それが。


>>「……確認した。申請を承認する。配備完了の報告は不要。

協力に感謝する。以上だ」


この、即座に許可をくれた声の主──最高元帥はある種の巨大な

バイオコンピューターの指令中核のような存在なんだ。


ネットワーク上のすべてのノードと情報を共有し、

それを統制する存在。こちらが詳しい事情を

説明するまでもなく、用件を言えばそれだけで十分。

実際にはこのわずかな時間でセンサーネットワークや

各種情報網を経由して俺の申請内容に合致する事象を探し出して、

集合意識に繋がれた他の指導部構成員と調整をして

俺に許可を与えると伝えてくれている。


正直、途方もない話なのは否定できない。

指導部のやつらは機械のように淡々と仕事をこなす一方で、

同時に一人の人間としての自我や人格も持っていて、

実際に面と向かって話すときはどこからどう見ても普通の人間なんだぞ?

なのに、何気なく会話する裏では常に惑星サイズの

コンピューターでもさばききれないような量の情報を処理している。


他国から異常だと評されるのは、

生まれも育ちも中核星系の俺ですら理解できるほどだ。


……まあ、おかげさまで今の人類があるんだ。

許可ももらったしニックスにいい知らせを届けに行こうか。


さっきまで報告書を書くのに使っていた設置型端末を

シャットダウンし、艦長室を出て格納庫へ戻る。


あいつの故郷がどんな場所か、少し興味があるな。

実験惑星で再現されている地球人やほかの文明での

物語や空想の世界というのは幅が広い。


そしてそれらのすべてに共通するのが、

実験を観測するための設備が惑星上に設置されているということ。


そこへ行けば当時の記録だってみられるだろう。

なにせやつらはご丁寧に俺たちが読める言語で

記録を残してくれているから。


自分たちの後に続く若い種族へのメッセージなんだと。


昔は"宇宙は広いから、

どこかを探せばこんな生き物だっているかもしれない" と。

もしかしたら空想ではなく本当に存在するかもなんて

言われることはあるにはあったらしいじゃないか。

だが、現実は空想よりもずっと複雑奇怪なものだった。

格納庫で待っているニックスの種族がまさにそうだろう。

ワイバーンの体の構造は地球の環境でいえば

どうしても無駄が多いもので、実在はできても

思っていたような能力にはならない。


地球の生物の対組織そのままで人造生物として設計した場合、

おそらく地面を普通に歩くのも苦労するだろう。


だが、目が覚めた瞬間のあいつは

こちらに気が付いた瞬間素早い動きで距離をとったし、

俺が格納庫を出る前に話していた時、軽々とポッドの上に

飛び乗っていた。つまり、あいつの身体は俺みたいな強化生物と

同じように見た目よりもはるかに強靭だ。


かなりの効き目があるはずの麻酔弾ですぐに動きが

止まらなかったのもそれなら納得がいく。


実験惑星をこの銀河に残した種族──モニュランの技術が

現代のトリニティよりも低いことも加えて考えると薬物への

完全な耐性を与えることができなかった可能性も見えてくるしな。


もちろん、科学技術で実際に再現された架空の生物の能力

というのは実験の目的にもよって高低はあるだろうが、

面白そうな行き先がまた増えたな。


====


格納庫へ戻ってみると──あー、何してるんだ? あいつ。


ニックスは器用なことに、辺りを飛び回る作業用ドローンの上に

とまって一緒に移動していたかと思えば、今度は揚陸艇の上の

陽電子パルス砲に飛び乗って、今度はそこから離陸して

クレーンのレールに逆さまにぶら下がり始めた。

自由に動けるのがうれしいからなんだろうか、

じっとしていられないらしい。


「戻ったぞ。堅苦しい仕事は終わったから、

ようやくお前を家に送ってやれる」


邪魔するのは悪い気は少しあったが、

格納庫上層の足場からニックスに声をかける。


そうすると、彼はすぐにこっちを見つけて俺が今いる

足場の手すりまで飛んできてそこへ止まった。


「おお、やっと帰れるんだな! どんな仕事してきたのかは

知らないけど、わざわざ面倒掛けちまってさ……ごめんな。

俺ももうちょっと目立たない場所で寝てれば

こんな風に迷惑かけることもなかったのにな……」


「まあ面倒ではあるがそれほど時間はかからないさ。さて、

この後はお前の故郷まで船をジャンプさせるんだが、

ワームホールを通るからもしかしたら

気分が悪くなることがあるかもしれん」


俺の話を聞いたニックスは喜ぶと同時に自分の不注意で

世話になる羽目になったことを気にしてまた落ち込んでいる。


浮き沈みの激しい奴だな、本当に。


「ん? ワームホールを通るのか!? すごいな!

……あ、いや、えーと、こんなのを見れる機会が来るなんて

思ってなかったからさ……つい、な。ごめんごめん」


俺は別に気にしていないということをニックスに伝えつつ、

次に待っているFTL航行について説明すると──今度は

首をかしげながらこちらを見つめてきた。


なんというか、感情表現が少し大げさなところや、

浮き沈みの激しい繊細な部分と、それに好奇心の強さか?


どうも、ニックスの性格は少しばかり子供っぽく

感じる部分がある。まあ、気にしないでおこう。


「はぁ……とにかく、俺が言いたいのは初めてワームホールを通るときは

"酔う"可能性があるという話なんだ。ジャンプ中は

念のためそばにいるから、もし気分が悪くなったら言ってくれ。

薬はいくつか持ち歩いてる」


「おーけー、えっと、もうジャンプする感じでいいのか?」


改めて何が言いたかったのかを説明すると、

ニックスもようやく落ち着きを取り戻して分かってくれたようだ。


「いや、目標天体との相対速度の調整が終わり次第だな。

時間はかからないからすぐにジャンプするといっても

差し支えないとは思うが」


「なるほどなー。んじゃ、

ちょっとおとなしくしてるぜ。よっと」


ニックスはさすがに格納庫内を好き放題飛び回っている状態で

ジャンプされたらさすがに酔いそうだと思ったのか、

止まっていた手すりから降りて俺の隣まで来た。


こうして近くで見てみると、こいつの風切羽は相当に大きいな。

長さ1m以上はあるんじゃないか? 翼の前縁を覆っている

ほかの羽や羽毛も。雪という言葉がよく似合うように真っ白だ。

そして、隣に立っているだけなのに妙に暖かい。

さっきまで動き回っていたせいか、そもそも基礎体温が高いのか。

確かに俺たち強化生物も筋肉の出力の高さゆえに

激しく動くと発熱するし、興味深いな。


うむ…………お互い、未知のものに興味を抱いて、

それについて考えを巡らせるのは……結局のところ、

種族を問わず共通、か。


ニックスがもし銀河のどこでも見かけるような種族だったら、

そもそも近くのステーションまで送って

それでおしまいだったかもしれない。


ブリッジから眺められるわけでもないのにワームホールと聞いて

盛り上がるこいつのことを、俺も言えたものじゃないな。


[装備品: 建設ドローン]


物質操作器を搭載した建設作業用の無人ユニットの総称。用途や建設計画の規模に応じて様々な形状、サイズのモデルが存在する。最も一般的なモデルは2m四方のコンテナに収容可能なもので、小型の車両や他のドローン、一人乗り宇宙機などの小さな物体であれば1時間以内に生成と構築が完了する。


[装備品: 物質操作器]


物質操作器とは、物質の生成、合成、分解、変換、構築の機能を統合した作業用装備である。内蔵されたゼロポイント反応炉が生み出すほぼ無限のエネルギーを利用して追加の資材投入無しであらゆる物体を作り出すことができ、当然ながら物質生成機そのものの複製も可能。ただし、内臓ゼロポイント反応炉の点火用キャパシターの充電には別途で電源が必要。通常、物質操作器には外部へ動力を供給するための電源ケーブルが装備されており、これを使用すれば物質操作器で作り出した新しい物質操作器の点火用キャパシターの充電を行うことができる。用途ごとに幅広いサイズが存在し、最も小さいものでは小さな石ほどのサイズ、最大級のものでは惑星を上回るものすら存在しており、トリニティが運用する惑星成形システム"ワールドシェーパー"はそのような巨大物質操作器の一例である。この装置は言い換えれば惑星を作ることが可能な3Dプリンターのようなもので、製造だけではなく改造にも対応。移動式であるためテラフォーミングプラットフォームとしても使用できる。物質操作器で何らかの物体を製造するためには対応する設計図に当たる生成テンプレートと、適切なアクセス権限が要求され、どちらかでも欠けていれば使用することはできない。


コメント:


電子とクォークからあらゆる物質を合成できる優れもの。エネルギーも無限で自己複製すら可能なため、物質操作器一つとその使用者さえ生き残ればわずかな塵の中から文明を蘇らせることもできる革新的技術です。物質操作器の登場により希少な資源という概念自体が消滅しており、逆に現在では生成に必要なエネルギーが多いものほど高価なものとされます。なお、人に向けて分解モードを使うともちろん分解ができます。有機物だろうが何だろうがエネルギー化(または原子レベル、複合粒子、素粒子レベルに分解)して回収。当然危険なので安全機構の解除には特別なライセンスが必要。


そのほか:


オーウィンは特に害のない行動なら容認するタイプ。

保安ライセンスの保有によって発生する法務執行官代理としての活動報告書提出の義務はあくまで任務に責任を負った人物が書かないといけないというだけで別に機械知性が書いてはいけないわけではないです。仮にジェフが指揮をしていたなら報告を書くのもジェフになるというだけ。

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