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#0002 遺棄された船へ

私の宇宙は真空だと無音になるタイプです。構造を伝わる音は聞こえますが、外の音は聞こえません。

無音でも問題なく状況認識ができるようにしっかりと補助がかかるためシミュレートされた音響なども使用されていません。旧式の船だと音を再現してたりはします。

艦船システムに承認を求められるのに対し"承認する"と答えると、

自動操縦に切り替わり速度の調整とワームホールの展開準備が同時に始まる。

ハビタブルゾーン内にあった例の惑星と、

恒星にほど近い漂流輸送船とでは軌道速度もかなり差があるから

ほぼ一からやり直しといってもいいだろう。


しばらくするとさっきと同じように船の揺れが収まり、

ワームホール展開の最終段階へと移行。


補助キャパシターからワームホール発生器に電力が供給され、

船の前方の空間に穴が開く。


この、歪み捻じ曲がった世界がワームホールだ。ここを通過して近道をするのさ。

相変わらずワームホールというのは不思議な景色だ。何度見ても。


そして、それを通過するのは一瞬のこと。

ただこうやって行先ごとに違うトンネルの景色を見つめていたら、

気付いたころにはその景色が目の前にある。


そうやって、今まさに目の前に現れたのが例の輸送船だ。

出現位置はかなり近く設定してあったが、このままだとまだ少し遠い。

目視や光学センサーで確認できる部分に注意しながら

右舷側エアロックを向こうのエアロックに近づけよう。


今のところ、神経インターフェース越しの"目視"で見る限りは

亜空間センサーで確認した時の通りに外装に損傷などはなく、

小さな塗装の欠けすらない。ピカピカの新品同様だ。


で、再度亜空間センサーに切り替えて内部の状態を確認しても推進剤、

燃料タンクにはしっかりと水素と反水素が入っているし、

機械的な構造部分も一切の摩耗なし。


動力炉も停止はされているが再稼働は容易だろう。

そうなるとやはり疑問になるのが、

この船はどのようにしてここに来たかだ。


まだ一度も起動されていない船が勝手に動くというのもおかしな話で、

普通に考えればほかの船で引っ張って持ってきたというのが

現実的なところだが、このサイズの船を運ぶなら

やはり大型輸送船がないと難しい。


大型輸送船は民間船の中でも特に高価なもので、

駆逐艦と同じくらいの値段がするモデルすらある代物だ。

俺はさっき密輸業者がかかわっていると考えていたが、

もしかしたらもう少し大きなグループが背後にいるのかもしれない。


まあ、なんにせよ一応は保安ライセンスを持っている立場として

こういうのを放置するわけにもいかんだろう。

調査と禁制品の押収が必要だな。


これ以上のことは実際に中に乗り込んでからだ。

船の大きさ的に揚陸艇で乗り付けるのは無理があるから

移乗はEVAでいこう。


相対速度もほぼゼロだから探索に数時間かけても

母船に置いて行かれるということもない。


座席から立ち上がり、ブリッジを離れて右舷側エアロックへ。

……船を降りるたびに歩く経路だというのに相変わらず遠い。

こんな小さな船でも、いざ歩いてみるとかなり広く感じる。

まあそんなことは今更だがな……。


エレベーターでミドルデッキまで降りてそこから右舷後方側へ行くと

右舷格納庫との連結部があり、格納庫外周の通路を艦首側から

回り込んでようやくエアロックにたどり着く。

これがもし軽巡洋艦や駆逐艦なら艦内通路だけでマラソンでも

出来そうなもんだよな、はは。

……文句を言っていないでアーマーを着ようか。


個人端末のストレージ管理画面からMk.4コンバットアーマーを

呼び出し、自動装着処理を始める。


操作を承認すると反発フィールドによって体の姿勢が固定され、

周囲に分解状態で転送されたアーマーの各部品が

取り付け位置に配置される。そしたら次は固定のためのボルトが締められ、

最後にボルト留め部分と関節部分の密閉がされて装着完了。

この最初の姿勢固定は安全上必要な動作なんだが、

慣れないうちは気持ち悪いというやつも多いな。


さて、装備の方はこれでいい、外へ出よう。

エアロックの中央まで行き、制御盤にある"CYCLE"と書かれた

大きなボタンを押す。分かりやすくて素晴らしい限りだ。

こんな時代になっても単純な機能しか持たない装置の操作系統は

とても単純かつ原始的だ。ただ機械的なボタンを押すだけ。

分解して整備するとなると別だが俺はエンジニアじゃないから

そういうのはドローンに押し付ければいい。


開閉処理が始まるとすぐに室内に青く透き通った光の格子が現れ

部屋全体を満たす。少しするとその光は消え、気圧調整が行われて処理完了。

船外側の扉が開いた。


外に出る際に重力の変動が発生してしまうので一度エアロック内の

重力を切り、吸着ブーツを無効にして体が浮かんだのを見てから

スーツのスラスターを吹かして外へ。


かなり近くまで寄せておいたから向こう側のエアロックまでは

すぐのはずだ。今目の前に見えているのは左舷側貨物区画の

外壁だろう。船の"背骨"に取り付けられた貨物コンテナモジュールが確認できた。


そこから船尾側に視線を向けるとちょうど輸送船のエアロックが見える。

……そういえば電源が入っていないということは

エアロックの電磁開閉装置は動かないな? まあいい、手動で開けようか。


わずか60m程度の宇宙空間をおおよそ慣性航行のみで渡り、

そのまま輸送船のエアロック付近にある取っ手に取り付く。

乗員が居なければ電源も入っていない船というのは

とても静かなもんだな。宇宙で静かというのも変だが、

通常は航法灯が点滅していたり窓から乗員の姿が見えたりするものなんだよ。

EVAで移乗するなら受け入れ側からの誘導もあるはずだしな。

あとはたまに対空砲も飛んでくるか。


それで、エアロックはかなり古い規格のものだが……確かこれだよな?

扉のヒンジ側の壁面にある小さなパネルをアーマースーツの

駆動力に物を言わせて強引に引きはがし、中にあるレバーを引く。

そうすると扉を動かすための電磁アクチュエーターの接続が外れ、

ハンドルを回してから引っ張るだけで開けられるようになる。


本来は工具でパネルのボルト止めを外すんだが

まあ気にすることでもないだろ。


そうしたら次は船体表面に吸着ブーツで張り付いて、

感覚的には落とし戸のようになった扉をこじ開ける。


エアロックの規格にもいろいろあるが、この船のは

押し引きして開ける方式だ。信頼性と強度は優秀な反面

非常時の開閉が人力だと苦労する。


と言っても俺の船のエアロックも実際は扉部分のもう一つ外に装甲カバーがあるし、

乗員と作業ドローン全員でようやく開けれるくらいに重たいから

あまりよその事は言えない。


しっかり扉が開いたら吸着を解除して一度浮き上がり、

体の向きを船内の通路に合わせて中へ。


入ったら忘れずに扉を閉める。

しっかりと扉が固定位置まで閉まったのを確認したら

これまたラッチ (かんぬき)を手動で差し込んで固定だ。

あとは気圧調整だが……そういえば船内に空気があるかを

確認するのを忘れていた。先に見ておこう。


……データリンクによると内部は真空状態、と。

乗員が居ない、電源も入っていない、船自体に損傷はない、

内部は真空と、新品のくせにまるで幽霊船だ。


さて、情報を探るかね。この船はおそらく最初から無人、

積み荷は低温ポッド、そして電源は一度も入れられたことがない。

そうなると航行記録の類を漁っても無駄……。

この点を考慮するとやるべきことはそれほど多くないな。

ひとまずは機関室へ行って船の電源を入れ、

そうしたらポッドの様子を見に行こう。

この手の輸送船の機関室は一番後ろのはずだから、

途中で通過するであろう居住区も軽く見ていくか。


やることが決まったら、

気圧調整の必要も無いので船内側の扉を開けて中へ入る。

船内は当然と言えばそうだが真っ暗だ。非常灯すらついていないし、

完全に電源が落ちているせいで機械類からの振動も伝わってこない。

破壊された船の残骸ですら漂っている破片の衝突や

残った燃料弾薬の発火でやかましいというのに。


ただ、ここまで暗いと何も見えん。ライトプローブを出そう。

──それをストレージから呼び出すとすぐに宙に浮かび上がり、

強い光で周囲を照らし始めた。この小さなボール型のドローンは

いくつもの派生型がある"プローブ"シリーズのうち追従型の照明

としての機能を持ったものだ。

俺みたいに銀河をあちこち旅する輩にはありがたい代物だよ。


ライトプローブのおかげで真っ暗だった通路も少し過剰なほど

明るくなった。先へ進もうかね。


水素/反水素タンクは工場出荷時から内蔵電源で稼働し続けるので爆発の心配はありません。

ライトプローブは直径20cm程度。


ストレージと呼ばれているものですが、これは同期人工宇宙ストレージとそれにアクセスするインターフェースユニットのペアで、インターフェースユニットが存在している空間座標に動機、追従する別の宇宙に物をしまうことができる装置です。最も容量の小さいモデルでも8m³ (2x2x2m)の容量があり、最上位モデルは1km³もの容量がありますがとてつもなく高価です。まだ名前も出ていない彼が使っているものは標準サイズの125m³ (5x5x5m)モデル。量産品ですが性質上いくらでも悪用が効くため所持にはライセンスが必要。

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