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#0016 打ち切られた調査計画: 浮遊島惑星 その3

居住モジュールの内部、入ってすぐの区画はちょっとした広間になっていた。

かなりの人数が座れるイスとテーブルに大型のスクリーン、冷蔵庫もあるな。


電源が入っていないおかげで明かりは窓から差し込む外の光だけだが、

それでも大まかな構造はわかる。

俺の船の居住区にある共有スペースと枠割は同じものだろう。


そして、天井はそれなりに高くて

ニックスも姿勢を低くせず動き回れる広さがある。


……明かりをつけようか。


ストレージからライトプローブを取り出して展開、

少し控えめの明かりで部屋の中を照らさせる。


「お、それ照明ドローンか何かか?」


おや、ニックスは初めて見るらしいな。

妙に上の事情に詳しいから知っているかと思っていたが。


「ああ、ライトプローブというやつだ。反重力浮遊で使用者に追従して

全方向を照らしてくれるなかなか便利な奴だぞ」


「ふむふむ。そういえば、ここ大分古いみたいだけど中はすごくきれいだよな」


ニックスはプローブを見て頷くと、

明るくなったこの部屋の姿に視線を移す。

エアロックの内側からしてかなり状態が良かったが、

内部の方も同様に整っている。


恐らく放棄する前にしっかりと荷物や備品の整理をしていったんだろうな。

そこまでするならしっかり解体すればいいものを……。


「そうだな。これだけきれいならここの持ち主は少なくとも

無法者の類ではなさそうだ」


そういうやつらが本当にみんなそうというわけではないんだが……

大抵散らかさないと気が済まないのかというくらいには連中の居住スペースは汚い。

そう考えるとここを使っていたのはまともな類の者だろう。


まあ、部屋を調べつつ電源を探すかね。

外を見た限りでは専用の発電モジュールはなかったから、

内蔵電源で動くかもしくはもっと奥に発電モジュールがあるはずだ。


「さて、俺はこの建物の電源を探してくる。

プローブはここに残しておくから、お前も好きにしているといい」


「おう、んじゃきをつけて」


こちらを見送るニックスの元にライトプローブを残し、

俺は奥へ進み電源装置を探すことにした。


外から帰ってきてくつろぐにはちょうどいい、

入り口からすぐのモジュールの奥にはもう一つ扉があり、

そこを抜けると長い廊下に出る。


手前の部屋から漏れるライトプローブの光にうっすらと照らされた

直線の通路の左右にはさらに扉が。


この先がおそらく個室だろうな。大部屋じゃないということは

そこまで人数は多くなかったんだろう。


可能性としては……探査船のクルーの一部を降ろして地上組と宇宙、

空中組に分かれて調査をしていたというのは考えられる。


ただ、電源が入っていない今すべての扉を

手動で開けるのは面倒だし、ここは後回しだな。

ついでに言うと奥は行き止まりだからこれ以上先はないだろう。


最初の部屋へ戻り、次は外から入って右側の扉へ。

部屋の中を物色するニックスの様子を合間に

確認しながらこっちの扉も開け、先へ進んだ。


ふむ? ここはどうも医務室らしいな。

中はそれほど広くはなく、少し青みがかった白い塗装の壁に囲まれていて、

すぐ右と正面には流し台と救急箱が。


左側は奥行きがあり、医療用ベッドと医薬品の棚、

そして医師や助手が働くための空間も確保してある。


よし、次は入って左の方だな。

医務室らしき部屋の中を軽く調べたら反対側へ向かう。


「なあオーウィン? こんなの見つけたぜ?」


引き返して最初の部屋へ出たところ、ニックスに呼び止められた。

なにを持っているんだ? それは。


ニックスが右翼の手で持っているのは……かなり旧世代の情報端末だった。

辺境星系では今でも現役なんだろうがどうしても古く見えるな……。


「ん? 見せてくれるか?」


「ほら、多分個人端末だよな、これ」


ニックスからそれを受け取りよく見てみる。

そしておそらく電源ボタンであろうものを押すと、

特に異常もなく画面に明かりが灯った。


「お、動いたな!」


その様子をニックスも覗き込んでくるが、

まあせっかくだし一緒に中身を見てみようかね。


「ふむ、ロックがかかっているな。ニックス、見つけた端末はこれだけか?」


ここまできちんと整理され、片付けられている場所なんだから、

普通に考えれば撤収時に備品や個人の持ち物は回収されているだろう。

そうなると非常に単純な置き忘れの可能性の方が高い。


「そだな、向こうの棚になんか無造作に置かれてたぜ」


「はは、なら置き忘れかもな。まあ、中を見てみようか」


実際のところロックされた端末だからと言って

データの中身を見れないということは特にない。

あの貨物船をジェフに覗かせたときと同じやり方で読み取れるわけだ。


だが、さすがに面倒だし普通に開けるかね。


「でもさ、ロックの方はどうするんだ? 解析でもするのか?」


「いや、これを使う」


後から覗き込みながら首を傾げるニックスに、

ストレージから取り出したあるものを見せてやる。


「えーと、なんだそれ、カードみたいなの……」


それはニックスの言う通りカード状のものだが、

特に何の印字も無ければクレジット格納カードのような残高表示もない。

一見すると謎のカードだ。


「まあ見ていろよ」


そう言うと、俺は端末の画面にそのカードをかざす。


すると、元からロックなどなかったかのように

端末の表示はホーム画面に移行した。

――同時に、そのカード自体も姿を消して。


「え、今ので解除できたのか?」


ニックスも目を丸くしているが、これは使い捨て式の強制復号装置だ。

現実改変技術を利用して暗号やロックの類を局所現実上から

抹消して無理やり平文に戻したり鍵を開けられるし、

なんなら電子的な鍵以外にも物理的な鍵すら消去できる。


「ああ、このカードは――もう消えてしまっているが

さっき使ったのはまあ現実をいじくってどんな鍵でも

無理やり開けられるツールなのさ」


「……なんか、すごいな! でもさ、今更だけど勝手にこういう建物に

入って、端末の中身を覗いたりするのって大丈夫なのかな?

なんか当たり前にやっちまってるけど」


"なんかすごい"というニックスの感想はさておき、

まあ確かに一見すれば不法侵入なのはそうか。

今のうちに説明しておくかね。


「そう思うかもしれないがなニックス? そもそもこういう施設を

惑星上に放置すること自体本来正式な承認なしでは

規則違反になる行為なんだ。だから、俺たちの場合そんな

不正な施設へ"立ち入り調査"をしていることになるんだよ。

そして、俺にはそういう調査を行う権限がある。

だから気にしなくて大丈夫だ」


「うーん、まあオーウィンがそういうならいいのかな? んじゃ遠慮なくだな」


ニックスも納得がいったところで、端末の中身を見てみよう。


さて、今表示されているのは各機能へのアクセスがある

いわゆるホーム画面というやつだ。


その中にある項目はまあ普通だな。ただ、導入されている

アプリケーションを見るにこれは業務用ではなく個人用だろう。


俺の隣から覗き込むニックスはこの世代のOSを見るのは

初めてらしく、画面を興味深そうに見つめている。


この中で見るべきものと言えば……そうだな、

とりあえずは恒星間通信とローカル通信の記録辺りか。


システムコンソールを開いてプロセス名でフィルターをかけ、

テキスト情報の転送履歴を見てみると、この場所で

行われていた活動のいくつかが見えてきた。


ふむ……とりあえず言えるのは――


「うぇ、資金提供切られて仕方なく撤退かぁ。なんか、世知辛いな……」


……ニックスに先を越されたが、どうもこの惑星の反重力素材の

複製を試みる研究のためチームは自前の調査船でここにキャンプを

設営したものの、プロジェクトの開始から2か月ほどで

出資者が失踪し、発注していた実験機材も

届かなくなりやむを得ず撤収したようだな。


「反重力素材の研究と出資者の失踪。確かに世知辛いが、

同時にきな臭くもあるな。この手の浮遊島惑星の反重力素材は

割とそれを巡った裏の動きがある」


「あー、確かに島どころか大陸を浮かべられる素材っていうと

いろいろ使い道ありそうだよなぁ。消されちまったってことか……」


「ああ、そういうことだろうな。金はあるが

世間を知らん奴が出資者だったんだろう」


……本当に、ニックスはいろいろなことを知っているものだ。

一度も宇宙に出たことが無かったというのに。


まあ、実際浮遊島惑星が最初に見つかったときはな、

辺境星系内どころか銀河各国で衝突が起きたことすらある。

トリニティの本体はすでにそういうものを必要とする段階になかったから

傍観していただけだが、特異な性質を持つ天然資源は

いつの時代も奪い合いになるもの。


おそらくその出資者とやらは関わるなと警告されたのに

手を引かなかったんだろう。


採掘どころか複製の研究という点も、

政治的な部分以外から目を付けられるのは無理もない。


みんな自重して手を出さないところに空気を読まず

突っ込んだらそれは処されても文句は言えんわけだ。


「役に立ちそうな情報はこれくらい、か。

よし、これは元あった場所にでも戻しておいてくれ、ニックス」


「おう」


端末をニックスに返し、俺はまだ確認していない入って左の区画へ向かった。


正面が居住区、右が医務室とくれば左は何だ?


相変わらず動力切れで動かない扉を手動解放して、

中の様子を見てみる。


中は薄暗いが、大量に並んだ箱と棚、

運搬用の台車に……あれは発電機か。

旧式の核融合炉が部屋の隅に設置されていた。

どうやら当たりだな。ここは倉庫兼動力室らしい。


部屋の奥にはもう一つ通路の入り口があり奥へ続いている様子。

箱の中身は空っぽ。


さすがにここら辺は片付けていったか。


まあ、あの通路の先を見てもいいが

先に発電機を動かせるか見てみようかね。

[装備品: リアリティ・サイファー]


強制復号装置と呼ばれる現実改変式セキュリティバイパスツール。

外見は一切の印字がない銀色のカード状の物体である。

本来は暗号の抹消のために開発されたが

その性質上物理的なロックの消去も可能。


このカード状の構造そのものが現実改変に必要な

エネルギーの供給源となるよう設計されていることから、一度使用すると

装置は消滅する。


販売価格は2億8000万クレジットと極めて高価な代物であり、

高位のセキュリティライセンスが無ければ入手、使用は出来ない。


使用権限を持つ個人の保安従事者からは

"スケルトン・キー"とも呼ばれている。


コメント:


暗号化を"なかったこと"にすることで無理やり平文に戻す非常にセコい装置です。

因果を辿らない局所的(この場合因果の終端部分のみ改変することに該当する)

改変のみでこれが実現できることは、

因果という概念そのものの不存在を裏付ける事実の一つとしても知られています。

(あくまで作中設定の話です)


それぞれの事実、事象は存在が独立しており、

過去はその存在と実際には繋がりがない

という話。意識により現実が生じるという考え方が

うちの宇宙では採用されているためこうなります。


なのでタイムマシンで過去へ戻って工作をしても元居た世界には何の変化もなく、

今いる世界がそのまま改変された異なる世界へと分岐する方式ですね。


なお、別に暗号鍵や暗号アルゴリズムを利用せずに現実改変で

平文を引っ張り出しているので復号プロセスというのは

違うんじゃないかとは思います。


ちなみに最上位の権限を持っていれば現実改変機能の用途制限を無視して

改変容量の許す限り何でもできたりします。


ほか、2億8000万クレジットというお値段は

小型の揚陸艇と同じくらいの値段なので気軽に買えるものじゃないです。


物質操作器用の生成テンプレートの価格となると割ととんでもないことになります。

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