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#0010 着艦と休息

存続限界点 の方でも一応書いてありますが、パート数は16進数表記です。

4桁で0 (0x0000)から65535 (0xFFFF)まで表現できてお得です。

軌道に沿って落ちること1分。

窓の向こうに小さな影が見え始めた。


普通の人間には見えないほどのものだが、

後ろにいるニックスも俺と同様に見えているようだ。


恒星の光と惑星からの反射光を浴びて照らされる暗い灰色の船体。

一昔前のトリニティの船で見られた

オレンジのストライプがその中でも目立つ。


交差地点まではあと十数秒といったところで、

その姿は少し目を逸らしたすきにも大きくなっていく。


「お、だいぶはっきり見えるようになってきたな。

あの船ってこんな感じだったのかぁ」


ニックスはそう言って窓の外に映るフリゲートを見つめている。


本当に、少しでも距離が離れれば豆粒だよな。

実際には全長500mもあるというのに。


「そういえば降下の時は角度的に見えなかったか。

まあ、小さな船だがあれがこれからお前の移動式の家になるというわけだ」


「移動式の家ってのも妙だけど、確かにそう言われればそうだな!」


ニックスは一瞬俯いたのちに少し耳を立て、納得の仕草を見せた。


「ああ。じゃあ着艦するぞ? どうせなら自分でやってみるか?」


で、そんなこいつにせっかくなんで着艦をやってみないかと提案してみる。


あれだけ自由に船を操れるなら、俺の予想としては全く問題ないと思うんだ。

実際エーレンのパイロットだって思考操縦に対応している

トリニティの船に乗り換えると訓練要らずですぐ飛ばせるからな。


「……そこまでやらせてもらっていいのか? まあいいんだったら遠慮なく」


ニックスは自分で思考入力インターフェースを取り出して頭に被る。

こちらでも操縦優先権をニックスに譲って、あとは見守ろうかね。




権限が移った途端、船は機敏に動き出した。

後ろを振り向くと、ニックスはすでに船と一体になっている様子で――

本当に飛行種族と航空機、宇宙機は相性がいいんだとよくわかる。


何なら確か水棲種族も適正が高いと聞いているし、

三次元的な移動に馴染みがあるかというのも

適正を決めるうえで重要だということだろうか。


さて、俺もぼうっと見ていればいいというわけではない。

ニックスが自分の納得いくように船の姿勢を整えている間、

手元のコンソールからドッキング許可申請を出しておく。


さすがに接近すればジェフの奴が気を利かせてくれるだろうが念のためだ。


申請はもちろんすぐに受理され、

セイバー級フリゲート TMV ネビュラ・ドリフターの右舷側格納庫の扉が開く。


そして、扉が開いていくのを見たニックスも

すぐにそれに合わせ船を動か――おい待てまだ開き切っていないぞ?


「おいニックス、さすがに早すぎないか?」


別にぶつけたところでどうということはないにせよ、危なっかしいのは間違いない。

注意しようとしたんだが……。

ああ、無用な心配だったか。


俺がもう一度声を掛けようとしたときには、

既に船は半開きの扉の小さな隙間をすり抜け格納庫の床に接地していた。

教えた記憶はないが降着装置の展開も問題なくこなして、な。


「へへ、大丈夫だっただろ?」


そんなニックスは得意げにこちらを見て笑う。

……そうだな、お前の言うとおりだ。


「はぁ、全く。まあただそうだな、確かに見事な操縦だったよ。

それは確かだ。――さて、降りようかね」


「おう」


軽くため息をついてから俺は操縦席から立ち上がり、後部ランプを開いて船を降りる。

ニックスもすぐ後ろだ。


母船に帰ってきたわけだが……まずやっておくことと言えば何だ?

ニックスはこれから俺の船で暮らすわけだから、

いろいろと設定しておかないことが沢山あるよな?


「よっと、そういやさ、この船が新しい家って言ってたけど、

実際のところ俺はどこで寝ればいいんだろ? なあオーウィン?」


考えていたころにちょうどニックスがその件を聞いてきた。


「ああ、心配いらん。それを考えていたところだ。

とりあえずは士官用住居でも使えばいいと思うが、

まあ居住区まで案内するから好きな部屋を使ってくれ。

艦長室以外の部屋は全部空いてる」


そう、この船の乗員は俺しかいないわけだから

当然艦長室以外はすべて空き部屋だ。


何とも笑える話だが、誰かを乗せるときに困らないのは都合がいいかもしれん。


まあ、どちらにせよあと2週間もしないうちにこの船とはお別れだけどな。

新しい船を見たらニックスはどう思うか、正直少し楽しみではある。


駆逐艦を収容できるくらいに広い格納庫だってついているし、

艦内でも自由に飛び回れるなら喜びそうだ。


それに、重戦艦クラスとなってくると居住区の作りも全く違う。

乗り換えたらニックスと一緒に艦内を探索するのもいいな。


……おっと、まずこんなことを考えるより先に

ニックスのクルー登録と権限設定だ。


一緒に居住区まで歩きつつ設定を進めていこうかね。


====


「これが食料合成、こっちが分解……なるほど」


格納庫から居住区まで上がってきて、今何をしているかと言うと

艦内設備の配置や機能をニックスに説明しているところだ。


居住区内で一番広い部屋、この共有スペースにはテーブルと椅子が

沢山あればゆっくりくつろげるソファもある。


娯楽ビデオを流したり偵察ドローンの中継映像を見たりできる

スクリーンもあるし、ニックスが今見ているアレ――

食料合成機と廃棄物分解機だってある。


いつでも好きなものを食べられるし、

ゴミは分解機に突っ込めば素粒子に戻して再利用できる。


いつも当たり前に使っている設備だが、

考えてみればなかなかに贅沢だよな。


トリニティは兵士の精神面にかなり気を使っている関係で

艦内の設備は基本的に客船並みだ。


「まあ、そういうことで何か欲しいものがあったらそれで生成してくれ。

俺は今後の……えー、ポッドの中身たちを家に帰すためのスケジュールやらを

検討してくるから、用があるときは内線で呼ぶなり

ジェフに言うなりで頼む。じゃあまたあとで」


「おう、んじゃあとでな!」


ニックスなら大抵のことは自分でできるだろうし、

とりあえずはしばらく自由にしてもらうことにした。

権限の設定も一通り済ませてあるからトイレのドアが開かない

なんてことはないはずだ。……ないよな?


念のためもう一度確認しておこう。

……うむ、問題ないな。


さて、仕事を済ませるか。


艦長室に戻って今後の移動経路を考えてみる。

ジェフの報告書をもとにとりあえず天体図上にそれぞれの生物の

出身惑星を表示して、現在位置を始点に最も遠い星系に向けて

すべての地点を経由するルートを計算すると……まあそれなりに遠いな。

あらためて天体図上で見ると余計にそう思うが、

よくもまあ密輸業者なんかがここまであちこちから集めたものだよ。


辺境星系で出回っている超空間推進装置だと早いものでも

1光年の移動に1時間ほどはかかる。安物や型落ち品だと当然もっとだ。


ここまで手間を掛けられることを考えるとやはり

背後には金払いのいい客がいるんだろうな。


出来れば見つけ出して処分したいところではある。


よし、仮の経路設定は保存しておいて、あとはニックスの装備の件だ。

これに関してはとりあえず何を持たせるかはすでに決めてあるから、

倉庫から引っ張り出してきて後でニックスに渡すでいい。


生体強化やアーマースーツの用意は今すぐには出来ないから後回し。

スーツの方は兄貴に頼んでおいて、生体強化は後で予約を入れておこう。


うむ……こんなものだな。


はぁ……なんだか無駄に疲れたよ。

今日はいろいろなことがあった。


長いこと旅をしていたが、

その中でもここまで大きな"変化"があったのはおそらく初めてだろう。

そして、これからの旅も間違いなく今までとは全く異なるものになる。


一人旅から二人旅へ。

自分のことだけ気にすればいい生活から他人を気に掛ける生活へ。


見方によっては自由から遠のいたともいえるだろう。

だが同時に孤独からも距離を置くことになるのかもしれない。


俺は……いや、俺たちはどこへ向かうんだろうな。

コメント:


トリニティの船の内装はどれも居住性重視の設計になっているため、

特に内部空間に余裕のある大型艦の場合リゾート惑星並みに豪華だったりします。

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