#000E 二人旅の始まり
最近ちょっとストレスのせいでいろいろと遅れています……。
(Modのほうも3Dモデルの方もね)
知らねぇよ黙って続き書けって言われたらそうなんですが。
このコロニーの建物はどれも、木材を骨組みとして
その上から雪をかぶせて固め、さらに内壁と外壁を
構成する薄い板を重ねた構造になっている。
そんな簡素だがニックスの仲間たちにとって十分な居住性のある
建物の中でひときわ大きく立派なものが、この目の前にあるゼノンの家だ。
木製の二重扉をくぐって中へ入ると、中でゼノンが待ってくれていた。
「さってここなら話せるな、ニックス? 実際のところその人間は誰だよ?」
そんなゼノンは冷静な表情でニックスに質問する。
「えっと……なぁんて言ったらいいのかな。
その……俺、旅してる途中でちょっとトラブルに遭ってさ」
トラブルねぇ。まあ、仲間の前ではっきり言うのはやはり抵抗はあるだろう。
そう話すニックスの様子は少し硬く、耳も後ろに流れている。
「で、この人間――オーウィンに何かしら手伝ってもらったと」
「ま、まあそんなところだな。……うん、正直に言うとさ、
密輸業者……? とやらに寝てるところを狙われて、攫われちまってさ。
んで、低温ポッドかなんかで冷凍保存されてたところを
オーウィンに助けてもらったんだ」
ゼノンはニックスの方を見た後こちらに視線を移すと再び向き直り、
納得したような表情を見せる。
「はぁ……それはそれは災難だったな、ニックスよぉ。
まあ気づいてはいたがやっぱりオーウィンは上の人間か」
……さっきもゼノンは"上の人間"という言葉を出していたな。
ということはゼノンも実験惑星という
この土地の性質は知っているのかもしれない。
なんにせよこれなら話がスムーズに進みそうだな。
「そうなんだ。で、ここからが本題なんだけどさ」
ニックスの言葉にゼノンは右翼の指で顔を覆う。
「待て、言わなくていい。どうせあれだろ?
"オーウィンが船を持ってるからそこについていきたい"
とかそんなのだ。ははは、お前らしいな」
どうやらニックスの言いたいことはすべてゼノンにはお見通しだったらしい。
「……ごめんな、ゼノン。自分勝手でさ」
「なになに、お前がそういう機会を捨てるのは無理だって
分かってるんだ。気にしないで行って来いよ。
まあ、たまにくらいは帰ってきてほしいし、
仲間たちもお前のことは心配してる。
それだけ忘れないでいてくれたら大丈夫だから」
申し訳なさそうに俯いて話すニックスに、
ゼノンは笑い、柔らかい笑顔を見せる。
「ありがとう、ほんとにさ……。じゃあ、遠慮なく旅に出るからさ、
みんなのことよろしく頼むぜ、ゼノン」
ニックスの方も、一気に緊張が解けたのか、ほっとしているようだ。
「おおっと、悪いな、蚊帳の外にしてしまって。
えーと、オーウィン? ニックスのことをよろしく頼むぞ?
ニックスが心を許すんだったらお前はいいやつなんだろうし、
身なりからしてもなかなか余裕がありそうだから
余計な詮索も無駄な不信も抜き。俺はお前を信じるから」
ニックスと話を付けたゼノンがこちらを向いて話す。
ゼノン……相当な切れ者だな。迷いがないというか察しがいいというか。
話し方は荒っぽいが、群れのリーダーという役職によくはまっている。
「ああ、もちろん。ニックスのことはしっかり面倒を見るよ」
「頼んだ」
――ゼノンの言葉にはっきりと返事をして、俺たちは部屋を出た。
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とてもあっさりしたものだったが、
ニックスの出立は快く認めてもらうことができた
ゼノンとの長い付き合いがなせる信頼なんだろうな。
そういうわけで俺とニックスはようやく正式に旅立つことができる。
ニックスは出発前にコロニーの他の仲間にも
挨拶をして回りたいとのことなので、俺は外でしばらく待っていようか。
30分ほど外で時間を潰していると、
コロニーの出入り口の方からニックスが歩いてくるのが見えた。
飛んでくればいいのにわざわざ歩くのか……。
スノーワイバーンの飛ぶか歩くかの判断基準は
何とも不可思議なことで。
まあその時の気分もあるのかもしれないから
深く考えすぎない方がいいかもしれん。
「用事は済んだようだな、ニックス。じゃあ船に帰ろうか」
「おう。あ、帰りも乗っていくか?」
戻ってきたニックスに軽く挨拶をするが、
どうやら帰りも乗せてくれるらしい。
なら、任せるとしようか。
「そうだな、お前がいいならそうさせてもらおう」
「よし、んじゃ行くぞ」
前と同じように姿勢を落として待ってくれているニックスの背に乗り、
無駄な空気抵抗を生まないようにしっかり伏せる。
そして離陸準備が整ったと見たニックスは
羽ばたきながら助走をつけ、地面から舞い上がる。
走っている間は揺れるが、
一度地面から離れればもう不安定さはかけらもない。
コロニーまで飛んでもらったときもそうだったが驚くばかりだよ。
「行きは曇り空だったが、すっかり晴れたな」
「だな。やっぱ空は開けていてこそだし、いい感じだ」
雪原の上空を舞う俺とニックスの頭上には、
今では少し薄暗いが確かに青い空が見えている。
ニックスの言う通り"いい感じ"だよ。
俺は曇り空も別に嫌いじゃないし、暗く窮屈な空の下にある
美しさというものも多く見てきたが、こういう時は晴れているに限るね。
船まで戻ったら――あー、ランデブーのタイミング次第か。
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ニックスの背の上で冷たい風を浴びつつの帰路。
着陸地点までは後5分といったところか。
俺は今軌道マップを見て母艦の位置と
浮遊砲台の設置状況を確認している。
ふむ、設置はもう完了していて、今はこの
雪原の直上を通過する低軌道を周回しているようだ。
マップの表示によると最適な離陸タイミングは20分後か。
これならだいぶ余裕を持てるな。
さて、この雪原の最果ても近づいてきて、
下を覗いてみると徒歩で移動していた時にさんざん見た
命のない土地が視界に広がり始めているが……
上から見てみると本当に何もないんだな。
一応地図でも確認してみてもやはり何もないし、
亜空間センサーの映像ですら一般的な動物の姿は捉えられなかった。
居るのは微生物くらいといったところか。不思議な土地だな。
「なあニックス? お前は普段この辺りを飛ぶことはあるのか?」
ニックスはコロニーから離れていることが多いという話だが、
実際のところこういう近場の探索で過ごした時間は
どの程度なんだろうか。少し気になる。
「えっと、俺がまだ小さいころからずっとこのへんを飛び回ってたぜ、
ゼノンと一緒にさ。だからたぶん俺とゼノンがこの地域には
一番詳しいんじゃないかな。まあ大きくなってからははもっと遠いところまで
行ってることがほとんどだけど」
ニックスは前を向いたまま、飛行に意識を集中させつつ話す。
ふむ、お互いの話し方からして長い付き合いなんだろうとは思っていたが、そういうことだったか。
「なるほど? 若いころはまだ遠出はしていなくて、
代わりに近所を飛び回っていたのか」
「そそ、さすがにまだ成体じゃないのに遠くまで行ったら
ナビスに――えっと、父さんに怒られるからな」
ふむ、ニックスの父親はナビスというのか。
待てよ、親がいるならニックスがコロニーに戻ったとき
顔を見に来ていてもおかしくはないと思うんだが。
まあいいか。いろいろ事情はあるだろう。
「確かにそれはそうだな。ただ、やはり小さいころから
それだけ空を飛ぶのに時間を費やしていたとなると、
お前のこの飛行技術にも納得がいくな」
「へへへ、空を飛ぶのには自信あるからな!
ありがとう、オーウィン。でもさ、オーウィンの方も
俺の背に乗るのうまいと思うぜ?」
さっきまでは前を向いたまま話していたニックスだが、
今度はこちらを振り向いて嬉しそうに話す。
そうなのか? ニックスの飛行姿勢が安定しているものだから
身をゆだねているだけなんだが……逆にそうできない奴が多いという話かね。
「ふむ? あー、まあ比較対象を見たことが無いんで
何とも言えんが……そうなのか? ニックス」
実験惑星において様々な種族や文明での物語や伝説にある世界が
再現されているというのは知っていたし、空想の生物が
高度な技術で現実になるというのは実験惑星に限らずだが、
それでもワイバーンの背に乗って飛ぶなんて初めてだからな。
「ほら、オーウィンは乗ってる間ほとんど動かずに
ずっと伏せてくれてるだろ? 辺りを見回すときも
身体を乗り出したりしないしさ」
「ああ、そうか、確かに下手に動かれると重心はぶれるし
風の受け方も読めなくなるか」
なるほど。俺はできるだけニックスが飛ぶ邪魔にならないようにしていたが、
そういう点を考えない奴だと変な姿勢を取り始めたり、
高さや不安定さにおびえて余計なことをするかもしれないな。
「そうなんだよなぁ……。ちょっと前にこの雪原に来る人間を
案内したりしてるって言ったけどさ、それで乗せてやると
大抵の奴はじっとしててくれないんだ。背中に伏せろって言ったのに
なんか首にまたがるように乗りたがるやるもいるし、危ないことも多いんだよ」
おい、首に乗ろうとするのはさすがにヤバいな。
重心が偏りすぎるし、最悪首が折れるぞ?
「理屈が分かっていない奴や、印象が先行しているとそうなるのかね」
「たぶんなー。っていうか馬に乗るときだって速く走るなら
姿勢を落とすんだしそれくらいわかってほしいんだけど……。
ま、そんなでオーウィンは乗せてても特に危なげないし、うまいと思うぜ」
「ああ。ありがとう、ニックス。もしまた乗せてもらう機会があったなら、
その時も邪魔にならないように意識しておくよ」
「へへ、今のままでも十分いい感じだから、あんまり難しく
考えなくて大丈夫だって。何か悪かったらそこは言うからさ」
「そうだな、その時は頼む」
……心配ないと言ってくれるニックスの目は、とても優しいものだった。
……やさしさ、か。
おっと、話しているうちにもうクレーターの縁は目の前だ。
ニックスも正面に向き直り降下準備を始めている。
「よし、クレーターに降りるからな、
ちょっと急角度になるからしっかり掴まっててくれよ」
「わかった」
俺が返事をした直後、ニックスは翼を畳んだ。
揚力の急激な減少で俺たちはすぐに落下をはじめ、
雪に覆われた地面へと落ちてゆき――斜面がニックスの腹を
こするかというところで再びその翼が風を捉える。
ニックスはそのまますり鉢の表面を這うようにして少しずつ
鼻先を起こし、そして勢い良く羽ばたくと揚陸艇のすぐ後ろに着地した。
……強化人間一人を乗せてここまで精密な機動ができるんだ、
正直ニックスが単独で飛ぶところを見てみたい。
「ありがとう。さて、今度は俺が船に乗せてやる番かね――おっと、またかよ」
俺がそう言って背から降りると、ニックスはとても嬉しそうにこちらを見つめた。
「へへ、頼むぜ。っと、大丈夫か?」
……それと同時に、また雪に足が埋まった俺を引っ張り上げてくれる。
まったく、なんでニックスは沈まないのやら。
まあいい。
相変わらず中途半端な開き方をしている後部ランプから
ニックスと共に船に乗り込んだら、
ランデブーのタイミングまで少しばかり待機だな。
コメント:
>>ランデブー
母艦は低軌道を周回しているので、着陸地点の上空を通過する
少し手前のタイミングで離陸して軌道に合流する必要があります。
そうしなくても有り余るΔvでごり押しは出来ますが、
効率が悪く無駄な時間がかかるので周期には気を付けようね。
>> ナビス
綴りは Navis (船)
ニックスの父親で、かつてのリーダー。
寿命を迎える直前に大陸の北端にある凍った海に旅立った。
死ぬときは誰もいない場所でというのがこの群れの伝統だとか。
>> マーレ
綴りは Mare (海)
本文に名前は出ていないがニックスの母親。
ナビスや子であるニックスと同様に他の個体とは大きな違いがある。
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二人は元からここに住んでいたわけではなく、
東側にある別の大陸から海を渡ってきたという。




