第14話 サイコロ
ナエは冷たい石の壁に肩をあずけ、のんびりとパイプに火をつけた。
狭い部屋だった。根と苔むした小山で埋めつくされている――パッキーの巣だ。この一時間で、もう五つは見かけた。
ルッカが部屋の端から端まで駆け回り、そのあとには焦げた苔の筋が残っていく。
パッキーたちは逃げまどい、巣穴に隠れようとした。だが炎は、連中がもぐり込むより早く追いついた。
ルッカにとっては、ほとんど遊びのようなものだった。
ナエは煙を吐き、胸のブローチに目をやった。そこの数字が、ゆっくりと増えていく。二十四。二十五。二十六。
『四十七』
最後のパッキーが小さく鳴いて、光のかけらになって崩れた。
ルッカは満足そうにペン先のしっぽを振り、まだ誰か残っていないかとあたりを見回した。
『もう誰もいねえ』
ナエはもうひとつ煙の輪を吐き、ほんの一瞬だけ、モのことを考えた。
『どうせ、最初のケンカでもう脱落してるだろ。銅級が誰と当たろうと、公平なくじ引きとは言えねえ』
もっとも、その考えはほとんど心配を呼び起こさなかった。モのそばにはコイがいる。
そしてコイは、明らかに見た目どおりの存在じゃない――ギルドのどの支部にも記録ひとつない参加者が、どこからともなく現れるはずがない。
あいつが何者であれ、モのことは、祭りで知り合っただけの相手にしては注意深すぎるほど見ていた。
『もしぶつかったら――形だけやり合って、別れりゃいい。連れは殺さない。ポイントのためでもな』
ルッカが駆け寄ってきて、鼻先を彼の足にこすりつけ、せがむように手のひらをつついた。
ナエはしゃがみ込み、その頭を両手で包んだ――正確には、顔の代わりになっている、そのわずかな部分を――そして洗濯ばさみの後ろをかいてやった。
首の付け根で、新しい首輪がきらりと光った。ルーン文字の刻まれた細い金色の帯が、喉にきれいに巻きついている。
「いい首輪をもらったな、ん?」
ルッカは不満そうに火花まじりの鼻息を吐いて、身をよじって逃げようとした。
ナエは放さなかった。むしろさらにぎゅっと抱き寄せて、これ見よがしにわしゃわしゃとなで回しつづけた。
数秒後、ルッカはとうとう暴れるのをやめ、彼の腕の中でおとなしくなった。
降参したわけじゃない。どちらかといえば、お情けで付き合ってやったのだ。
「ほらな。全然いやじゃないだろ」
ルッカはまた鼻を鳴らした。今度は、少し小さく。
✧✦✧
二人は巣を出て、通路を先へ進んだ。背後のどこかで、低い地鳴りが響いていた。
根がもう動きはじめていて、コンテストの空間を中心へと締めつけている。
同じ場所にとどまるのは、だんだん賢い選択ではなくなっていた。
次の部屋は、ふだんのものよりずっと広かった。
床は完璧な六角形のタイルで敷きつめられていた。まるで誰かが、ダンジョンの下にわざと巨大な蜂の巣を彫り込んだみたいに。
タイルのあいだには、どっしりした石のブロックがそびえている――もともとあったのか、わざわざ置かれたのかはわからない。
それらが組み合わさって、遮蔽物の迷路のようになっていた。
アリーナの反対側に、二人が立っていた。
先に気づいたのはキーだった。
「あら」と、彼女は語尾を伸ばした。「ナエ、あなたじゃない。奇遇ね」
その隣、少し後ろに、ジャンが黙って立っていた――小さく、表情ひとつ変えず、巨大な槍を背中にくくりつけている。
まるでただの杖でも背負っているかのように、何気なく。
「キー」とナエはうなずいた。「ジャン」
ジャンは黙ってうなずき返した。
キーはもう前へ歩きだしていた。マフラーが歩調に合わせて背中で揺れる。
「ねえ、本当なの? 銅級の坊やを連れにしたって。うちの連中が聞いたのよ、今じゃちょっとしたコレクションだって――モコの女の子に、炎のペットに……。テイマーにしては、ちょっと怪しい方向に行ってない? ほら、首輪って、野生の子にだけつけるもんじゃないでしょ?」
「キー」
「なによ? 友達として聞いてるだけじゃない。縄ももう用意してあるんじゃないの?」
「キー」と、ジャンが繰り返した。小さく、でもきっぱりと。
キーはマフラーをひらひらと振って受け流した。
ジャンは少し首をかしげた。
「ごめんなさい。キー、ただの、冗談。……いつもは」
「いつもは?」キーは大げさに目を丸くして、傷ついたふりをした。
ナエは最後の煙をひと吹きして、パイプをしまった。それから、にやりとした。
「気にすんな。慣れてる」
キーが最初の六角形のタイルに足を踏み入れた。
そして、部屋全体が一瞬で変わった。
✧✦✧
彼らの背後の扉が、重い音を立てて閉まった。空中に青い炎がちらちらと走り、アリーナの境界がひとりでに宙に描き出された。
中央の真上に、半透明の人影が立ち上がる――DMの投影だ。水の底から見ているように、少しゆがんでいる。
「特別な部屋へようこそ!」声はいつものDMらしい陽気さだったが、今は一か所からではなく、あらゆる方向から同時に響いていた。「ルールは簡単。マス、ターン、宣言。行動は各自、心の中で吾輩にお伝えください――相手には聞こえません。一ターンにつき吾輩の持ち時間は六秒、ぐずぐずなさらぬよう」
ナエは顔をしかめた。
『またサイコロかよ』
こういう部屋は大嫌いだった。ふつうの戦いなら、体が教えるとおりに動ける。
見えないルールが動きを許可するのを待つ必要なんてない。
目の前に、半透明のパネルが浮かび上がった。
インベントリ。防御値。魔力のゲージ――パーセント単位で。発動中の効果。デバフ。
隅には、命令を待つようにゆらゆら揺れる、小さなサイコロ。
『HUDか』
この地の者なら誰でもとっくに慣れた言葉だった――考え出したのはフェリクス本人で、それ以来あまりにもしっかり根づいたせいで、もう誰も、その言葉がもともとどこから来たのかなんて思い出しもしない。
「魔力は、皆さまの体力そのもの」とDMの声が続けた。「ゼロにならないかぎり、ゲーム続行。魔法の射程には制限あり――各自、自分の射程範囲だけが視界に表示されます。他人のものは見えません」
『つまり、キーの縄がどこまで届くか、俺には見えねえってことか』
彼女が漏らした不満げな声からすると、キーもすでにこのルールの裏側に気づいたらしい。
「すてき」と彼女は吐き捨てた。「つまり今度は、あたしの縄を速さだけじゃなくて、いい出目でも避けられるってわけ。かわいいこと」
ルッカがじれったそうに足を踏みかえた。
どうやら、もう誰から燃やすか見当をつけているらしい――そして、ただ一直線に飛びかかることを許さない見えない境界を、明らかに不満げににらんでいた。
一方、ジャンはまったく落ち着いていた。退屈そうにすら見える。
彼女は少し首をかしげて、現れたタイルを眺めた。
「ん。知ってる。叔父さんに、教わった」
ナエはそれを、悪い兆しとして心に留めた。
「最初のイニシアチブ」とDMが告げた。
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参加者それぞれの頭上に、数字が浮かび上がった。
ナエ――10。ルッカ――3。キー――11。ジャン――16。
最初はジャンの番だった。
ナエは反射的に、彼女がさっきまで立っていた場所を見た。
いない。
『どこへ行った?』
彼はいちばん近い遮蔽物、ブロック、そのあいだの影に目を走らせた。どこにも痕跡はない。
ターンと一緒に消えてしまったかのように、彼女は視界から完全にいなくなっていた。
『そうだ。DMが紹介のとき言ってたな――気づいたときには、もう手遅れだって』
キーの番だった。ジャンはまだ姿を見せない。それが本気で不安になりはじめていた。
キーはしばらくその場に立っていた。
マフラーの先が、いらだたしげにタイルをとんとん叩いている――射程の制限にまだ腹を立てているのだ。
それから彼女は勢いよく動きだし、いくつものタイルを斜めに一気に滑っていった。
十五マス、ナエがいそうな位置を大きく回り込む弧を描いて。
『縄にちょうどいい角度を探してやがる』
ナエの番が来た。
彼は使える魔法の一覧に素早く目を通した。
攻撃魔法はほとんどない――ひとつは自分自身に跳ね返ってくるもので、残りはあからさまな生活魔法ばかり。
強化、ちょっとした便利なもの。相手を直接、本気で傷つけられるものはひとつもなかった。
『まあいい。殴るものがねえなら――頭を使うまでだ』
彼はルッカへの強化を選んだ。キーは自分が引き受けるつもりだった――近づいて、話しかけて、何でもいい、とにかく時間を稼ぐ。
そしてルッカには、ジャンをどこかの影で悠々と戦いをやり過ごさせないよう、張りついてもらう。
ロール――11。
魔法はきれいに通った。
ナエは残りのターンを移動に使い――二十マス、持てる分すべて――キーのすぐ近くまで迫った。
ルッカの番が来た。
ルッカは、ジャンが潜んでいそうなあたり一帯を、まとめて焼き払おうとした。だがアリーナは即座の攻撃を許さなかった。
チャージが必要だ。ルッカはいらだたしげに歯をカチリと鳴らし、その場にとどまった。まわりに、炎がゆっくりと溜まっていく。
第一ラウンドが終わった。
=--{ ⚔ }--=
頭上に、またイニシアチブが跳ね上がった。
ナエ――4。ルッカ――17。キー――1。ジャン――20。
またジャンが先だった。
そして、まさにその瞬間、戦いは真っ二つに折れた。
ナエがかろうじて首を向けたとき、ルッカのそばで何かがきらめいた――細い、ほとんど目に見えない風の刃が、何もない空間からほとばしったのだ。
『二十だと!? クソが! あの妖精、ダイスいじってやがる!』
ルッカのセーヴィング・スロー――七。
風の刃は、ルッカが溜めていた攻撃を放つより早く、その首を刎ねた。
ナエは固まった。
ルッカが、ただ、いなくなった。
ターンのあいだずっと溜めていたエネルギーは、体と一緒に消えはしなかった。それは一気に外へあふれ出し、爆発になった。
ついさっきまでルッカが立っていた場所から、石のかけらと炎が四方八方へ飛び散った。
ジャンは逃げきれなかった。
セーヴィング・スロー――一。
彼女は爆風でタイル半分ほど吹き飛ばされた。頭上の魔力ゲージが、ほとんど半分まで一気に落ちた。
ナエは長い数秒のあいだ、ただ空っぽの場所を見つめていた。
……。
予想していなかった。今じゃない。ほんの一分前に、なごやかに軽口を叩き合っていたチームから、こんなことが起きるなんて。
伝説級の獣が、一撃で。姿を消した金級の従者の、たったひとつのクリティカルで。
だが戦いは、彼の悲しみのために止まってはくれなかった。
✧✦✧
彼の番が来た。
『俺のあとはキーだ。ぐずぐずしてらんねえ』
彼はアリーナ越しにキーを見た。ちょうど縛りの魔法で魔力を使ったあとで、息を整えているところだった。
部屋の制限に、まだいらだっている。
『縄。縛り。こいつは、恥ずかしげもなく縛るのが大好きときてる』
頭にひとつの記憶がよぎった――古い友人、ジンクスだ。
あいつには、かわいい女の相手と出くわすと、戦う前にまず口説いてみるという、ろくでもない癖があった。
『やってみる価値はあるか』
ナエは心の中で宣言を組み立てた。
魅了のロール。
出目、二十。
キーのセーヴィング・スロー――二。
部屋は、その結果を文字どおりに受け取った。
キーのまわりの現実が、一瞬かすみに覆われた。
彼女の目には、居心地のいい薄暗いバーが映っていた――やわらかな灯り、静かな音楽、そしてカウンターの向こうにはナエ。
ただしアリーナに立っているナエではなく、完璧に仕立てられたバーテンダーの服を着た、とんでもなく色っぽいナエだ。
その声はビロードのように甘く、まるで耳もとで直接ささやかれているようだった。
キーは真っ赤になった。文字どおりに――マフラーが一瞬、熱でけむりを上げた。
それから、くたりと力が抜けて、タイルの上に崩れ落ちた。起きていることから、完全に切り離されてしまった。
効果――二ラウンド。
『……ジンクスのより効いてるな』
ナエは危うく得意になりかけた。
だが、ジャンがまだどこかの影にいて、もう刃を溜め直しているに違いないことを、すんでのところで思い出した。
=--{ ⚔ }--=
第三ラウンドは、新しい数字とともに始まった。
ナエ――4。キー――10。ジャン――9。
キーは、まだ幻の中にいて、ターンを飛ばした。
ジャンの番。ナエはかろうじて動きをとらえた――彼女は数マス近づいて、新しい風の刃を放った。
ロール――9。彼の防御値――11。
それでも、完全にはかわしきれなかった。刃は脇腹をかすめていった。長い、焼けつくような切り傷が残った。
ナエは歯を食いしばった。
『痛え。だが、まだいける』
彼の番が来た。
彼はキーを見た――無防備で、まだ頭の中の何かにほほえんでいる。それからジャンを見た――落ち着いていて、危険だ。
『あいつに同じ手は通じねえ。性格が違いすぎる。試してる時間も、もうねえ』
彼は、いちばん単純な答えを選んだ。
ひと動きでキーのそばへ移り、傘の先端を彼女の胸にまっすぐ突き立てた。
彼女は音ひとつ立てずに消えた――光と、キューブと、静寂になって。
ナエはジャンの反応を待たなかった。向きを変え、いちばん近い石のブロックの陰へ飛び込んだ。
その陰、アリーナに散らばった品々のあいだで、小さな小瓶がきらりと光った。その情報は、HUDにはっきりと表示された。
身体能力5倍/効果終了後、強い疲労と中毒/効果中、1ラウンドに追加アクション1回。
『まあ、ほかに手はねえか』
=--{ ⚔ }--=
第四ラウンド。
ナエ――11。ジャン――19。
ジャンが先だった。
ナエがかろうじてブロックの陰に身を縮めたとき、何か巨大なものがうなりを上げて横を通り過ぎた――ジャン自身の三倍はある長い槍だ――そして耳をつんざく轟音とともに、彼の背後の石に激突した。
不満げに舌打ちする音がした。
『外した。やっとかよ、クソが!』
彼の番が来た。
彼は小瓶を一気に飲み干した。
力はほとんど一瞬で体に叩き込まれた――重く、熱く、まるで皮膚の下に溶けた金属を流し込まれたように。
ナエはひと跳びで遮蔽物を飛び越え、ジャンに飛びかかった。
手の中の傘は、もう見せかけの小道具ではなかった。今やそれは、れっきとした棍棒だった。
一撃目。
ロール――2。彼女の回避――15。
ジャンは軽々と横へよけた。肩に浅いかすり傷が残っただけだった。
だがナエには、小瓶のおかげで得た追加アクションがあった。
二撃目が、間髪入れずに上から叩きつけられた。
ロール――14。彼女の防御値――7。
今度は、彼女は間に合わなかった。
傘は彼女を、表面にひびが走るほどの力で石のタイルに叩きつけた。モコには折れる骨などない。
だが、骨がないからといって、痛みがないわけではない。
ジャンは気を失ったように動かなくなり、ターンを失った。
ナエはもう、彼女のことを大きな槍を持った礼儀正しい相手だとは思っていなかった。こいつはルッカを殺した。
もう遠慮するつもりはなかった。
彼は彼女に起き上がる隙を与えなかった。もう一度、傘を振り下ろした――短く、正確に、切っ先を下にして。
✧✦✧
部屋の魔法が消えた。
扉が小さな音を立てて開いた。
HUDは空中に溶け、足もとの六角形は消え、アリーナはごくふつうの、何の変哲もないダンジョンに戻った。
敵チーム全滅で10ポイント。特別な部屋のクリアで、さらに5ポイント。
合計、15ポイント。
ナエはひざから崩れ落ちた。
体は、まるでこの瞬間を待っていたかのように、すぐさま請求書を突きつけてきた。
脱力感が一気にのしかかり、続いて吐き気がやってきた――重く、内側からねじり上げてくるような。
口からあふれ出たのは、ふつうの吐瀉物とはまるで違うものだった。
黒くどろりとした魔力――強化が切れたとたん、体がそれを毒として受け取ったのだ。
彼はしばらく四つんばいのまま、それが過ぎ去るのを待った。
少し楽になると、あの瞬間がまた頭に浮かんだ。
『ルッカ。一瞬で。一撃で』
金級のスクワイア。伝説の怪物でも、狂った魔法使いでもない――ただの金級が、たった一回の幸運な出目で。
『つまり、ランクが高いだけじゃ、何の保証にもならねえってことか』
彼は、防御系の残響を何か買っておこうと心に留めた――運に頼るんじゃなく、前もってかけておけるものを。
それから、考えはひとりでにモのところへ戻っていった。
『金級でさえ、一ターンで死ぬことがあるなら……』
彼はまだふらつきながら立ち上がり、自分の見立てでは、カヴェンやケインたちがいるはずの方向を見た。
『モのやつは、どこにいたっていい。あの連中のそばじゃなけりゃな。あいつがまだ生きてるなら――あの連中より先に、俺が見つけてやる』




