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【太陽物語】 夜明けへ進む少年は  作者: 立花ハル
《第八章 西方諸国、弱者たちの声》
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ルムーシュク、火種の港町《ソラ》

《ソラ》


 四日ほど歩いた頃、俺たちは潮風の予感を受け取った。それは、秋が近い夏の終わりにしては湿っぽく、肌にジトリとまとわりつくような風だった。

 今までも、海沿いや港町を歩くことはあった。そして、潮風独特の清々しい予感に心が躍(おど)ったこともあった。

 しかし、今はなかなかそんな気持ちにはなれない。抗争という不穏な言葉のせいで、俺は目的地を目指す足取りが、少し重くなっていた。

「あ、この景色。」

 その港町を目にして、マキが呟(つぶや)く。

「絵画で見たことがあるわ。世界で一番美しい港町という題の絵画。ルムーシュクだったのね。」

 マキの説明を受けて、立ち止まって街を眺める。それは、長く伸びた崖沿(がけぞ)いに建物や植物が並ぶ、美しい街並みだった。建物は古そうだが、味のある赤レンガの屋根が見える。

 そして、崖の下には港がある。真っ青な海が水平線まで広がり、赤い屋根の街並みとの対比が、一つの絵画のようだ。

 レシオも同じように山と崖を利用した、高さと低さのある街並みだったが、あちらは古く、低いところは、いわゆる下層階級の街だった。人が階級意識によって計算して作った、俺からすると負の印象がある街並みだった。

 そういう背景を持つレシオと比べてしまうと、ルムーシュクのほうが美しく見える。ルムーシュクは計画的に建設を進めたわけではなさそうで、ところどころに樹々が生い茂り、自然と共生している様子が、俺の感性に響く。

 しかし、俺は呟く。

「あんな街で、争いが起きているのか。」

 俺たち五人は、この絵画のような光景を前にしても、緊張の糸が切れない。

「ルムーシュクに着いたら、姫神教会へ立ち寄ろうぞ。ルムーシュクは希望教会が無いんじゃ。信仰の集中している姫神教会は、かなり大きい。避難民もおるじゃろうし、街の様子を聞けるはずじゃ。」

 カスガの情報に俺たちは頷き、再び歩き始めた。


 ルムーシュクの門に着いたのは、正午をだいぶ過ぎた時間だった。門には明らかに衛兵とは違う、堅気(かたぎ)では無い雰囲気の男が三人ほど立っていた。

 大柄な男たちが、剣や槍を構えて睨んでくる。

「どこのモンだ?」

 声まで威圧的で、俺とマキは少し怯(ひる)んでいる。

「港に用のある、旅の者です。」

 カイが俺たちの前に立ち、毅然(きぜん)として言った。右手は剣に添えている。

「へえ、立派な剣を提(さ)げた兄ちゃんよ、ガルブ家の者じゃない証明は出来るか?」

 男がカイを煽(あお)るように聞いてきた。どうやら、対立しているシャルグ家の男のようだ。

「何も言わずに、これを見い。」

 カスガが、男とカイの間に割り込んだ。そして、緑色の布地で出来た、手のひらくらいの大きさの袋のようなものを見せた。

 すると、男の表情が一変した。強気な様子は一気に消え、構えていた剣も後ろに引いたのだ。

「へ、へえ、こいつぁ…。」

「何も言うなと言うとろう。通って良いな?」

「え、ああ、どうぞ…。」

 男たちは三人とも門の端に寄り、俺たちはカスガを先頭に、堂々と街に入った。

 先ほどの男たちの手のひら返しは、ヴェーゼンの門などでも目にしたものだった。カスガはこれまで自分の身分証明として、あの袋を見せていたらしい。

 俺たちは改めて、カスガの謎の権力を目(ま)の当たりにした。しかし、当の本人は。

「はぁ、おっそろしいのう。ああいう堅気でないモンは、ワシゃ怖うてのう。」

 カスガが眉尻を下げてボヤく。俺たちは緊張していたぶん、少し笑ってしまう。

「お前がそうだと、妙に安心するな。」

 ユフィまで、少し微笑(ほほえ)んで言う。

「どういうことじゃ。まあ良い。早(は)よう、姫神教会へ行こうぞ。崖の上のほうにあるんじゃ。」

 それを聞いたユフィは、あからさまに嫌そうな顔をした。階段や坂道と、ユフィの相性は悪い。

 俺たちはカスガの後に着いて、階段や坂道を登り、寄り道をすることなく教会を目指した。と言うよりも、寄り道など出来なかった。

「あちこちに防壁や障害物があるね。」

 カイが言うように、乱雑に組まれた木で、いろいろな道が塞がれているのだ。また、それら防壁などには、荒々しい字でこのように書いてある。


【姫神教を潰す】

【ガルブは異教徒】

【シャルグは壊滅しろ】


「なんて敵意に満ちた街なの…。」

 マキが眉をひそめて呟く。

「本来なら、港町として賑やかなはずだろう。店らしき建物も、木で出入り口を塞いで守りに入っている。」

 ユフィが疲れながらも、街を観察する。建物はどれも窓を閉め、ところどころ鈍器などで壊された壁もあり、荒れている。もちろん道に人はいない。遠くから波の音が聞こえるだけだ。

「この道だけは、塞ぐわけにはいかんのじゃろう。姫神教会は非常時に、避難所になるところじゃからな。ここを塞いでは、かなりの反感を買うはずじゃ。」

 カスガの説明に納得する。だが、防壁に書かれた【姫神教を潰す】という字が頭に引っかかる。


 やがて、姫神教会にたどり着いた。崖の上から港町を見下ろすように建てられた教会は、歴史が感じられる立派なものだった。街の建物と違い、教会は壊されたり傷ついたりしている様子はない。

 しかし、建物の周りには傷を負った人々が寄り添って座っていた。動ける者が力を合わせて、傷の手当てをしたり炊き出しを行ったりしている。

 それはジオリダムの惨劇を思い出させる、まさに非常時だった。

 その人々は見るからに一般人や商人といった装いで、先ほどの堅気でない男たちは見えない。

 俺たちは扉が開かれたままの教会内に入った。教会内は重症者が多いらしく、呻(うめ)き声や泣き声が聞こえてくる。

 忙しく手当てをしている人たちのなかから、一休みしているであろうシスターを見つけた。カイが座っているシスターの目線に合わせ、声をかける。

「お疲れのところ、失礼します。旅の者ですが、街についてお話を聞かせていただけませんか?」

 すると、疲労をたたえた顔のシスターが、はい、と力無く返事する。そして、立とうとするのを、カイが止める。

「どうか座ったままで。お話をうかがいたいだけなので。」

「ええ、すみません…。」

 シスターはぐったりと、しかし、座る際はスカートを整えるなど、品性を保ちながら椅子に腰掛ける。

「ラベニクで、シャルグ家とガルブ家の抗争が起きているとお聞きしましたが。」

 カイが問うと、シスターは頷いて話す。

「ええ、一週間ほど前でしょうか。突然、ガルブ家の当主アヴィド氏が、直接教会に訪れて、姫神教に要求してきたのです。姫神教が国際法で禁じている、茨痲(しび)の交易を解禁するように…。」

「なんじゃと。」

 カスガが驚くので、俺は問う。

「シビって何だい?」

「いわゆる痲薬(まやく)じゃ。昔はメウィティカでも怪我の治療の際に、患者の感覚を一時的に麻痺させるために使っておった。じゃが、効き目があまりに強く依存性が強い。本来の目的外での、高価な取り引きが横行したんじゃ。」

「マヤクか。貧民街で売ってるのを見たことがあるぜ。それの運び屋をさせられそうになったことも…。」

 ここで、ユフィに口を塞がれる。

「ひ、引き受けてはないぜ。報酬は良かったけどよ。」

 これは本当だ。俺が慌てていると、今度はユフィが両頬を潰してきた。

「ああ、姫神様…。この少年に正しき導きを…。」

 シスターに祈られてしまい、俺は一気に居心地が悪くなる。シスターは話に戻る。

「もちろん、姫神教として茨痲の解禁は断固拒否しました。すると、ガルブ家が港を武力で封鎖し、それを打開しようとするシャルグ家とで抗争が始まったのです。」

「そんな、港を封鎖するほどの武力を、商人が持っているのですか?」

 マキが驚きながら問う。

「シャルグもガルブも商家ですが、裏では国際法で禁じられている人身売買で、大金を稼いでいるという噂です。その財産を守るため、また、権威を誇示(こじ)するために、多くの兵を雇っています。それは、小国の軍隊にも匹敵します。」

 ラベニクの親切な衛兵も、似たことを言っていた気がする。だが、その二つの商家は、これまた闇が深く、予想以上の大事が起きているようだ。

「シャルグとガルブが力を持つことで、多くの犯罪が抑え込まれ治安が良くなったのも事実ですが…。ただこの数年、両家が一触即発の危うい状態にあったのも事実です。」

「皮肉だな。中途半端な犯罪者や法を犯す商人を抑える二つの商家が、街を巻き込むほどの衝突を起こすとは。」

 ユフィが腕を組んで言う。それは、これまでの国や街とは違う事情を抱えた街の実態だった。

「それに、街に呪いがかけられているのです。」

「の、呪い?」

 俺たちは、大げさなほどに驚いてしまう。ただでさえ危うい話が、さらに不穏さを増す。

「はい。このニ、三日です。抗争で命を落としたご遺体が甦り、人々を襲うようになったのです。それがシャルグとガルブの者だけでなく、一般の方も巻き込む事態となり、教会もこの有り様なのです。」

 俺たちは、急激に背筋が凍える思いがした。しかし、心当たりが強くあり、互いの顔を見合わせる。

 俺はシスターに問いかける。

「なあ、ガルブ家のなかに、黒づくめで腕に刺青(いれずみ)の入った魔道士は見たかい?殉教の魔道士っていうんだけど。」

「さあ…。私たちはもう一週間、教会にこもっておりますので…。幸い、ガルブ家の兵も、そのご遺体の襲撃も、教会まではたどり着いていませんが…。」

 シスターは、一週間分の疲労を込めて答えた。

 俺たちはシスターに礼を言い、教会の外に出た。


「想像以上の非常事態だな。」

 教会から少し離れた崖の付近で、ユフィが呟く。周囲には人がおらず、木や草が潮風に揺れるだけだ。

 夕日が水平線に沈んでいく。街のなかに入って見る港は、武器を持った兵や防壁など、物々しい雰囲気を漂わせている。

「最後の話、絶対に殉教の魔道士だよな。」

 俺が言うと、四人は少し迷いながら頷く。

「どうしてガルブ家は突然、その痲薬の解禁を求めたのかしら。シャルグといい、どちらも裏で人身売買をするような、悪徳な商人なんでしょう?」

 マキが首を傾げながら言う。

「茨痲なんぞ、時代遅れの痲薬じゃぞ。解禁を求めたところで、言い方は悪いが大して稼げるとは思えん。」

 カスガもあぐらをかいて、そのうえで頬杖をついて言う。薬剤師のカスガが言うなら、間違いないだろう。

「シャルグ家や姫神教と、敵対するための口実なんじゃないかな。」

 カイが不思議と、確信めいた声で言う。ユフィが問う。

「なぜそう思う。」

「舞踏会でのヒューの言葉が、ずっと気になっているんだ。一仕事終えてという言葉。」

「布教活動ってヤツか。」

 俺が問うと、カイが頷く。

「そうじゃのう。メウィティカに住んでおるときから感じとったことじゃが、シャルグとガルブは、ずっと同じ力で牽制(けんせい)し合っておる。交易する商品も似ておるしな。ワシが聞く限り、互いにルムーシュクの主導権を握る機会を狙っておるようじゃったよ。」

「港…。」

 俺はカスガの説明を聞き、反射的に呟いてしまう。マキが不思議そうに聞いてくる。

「ソラ、どうしたの?」

「前に銀の糸で見た、昔のヒューが言ってたんだ。大陸を侵略するなら港からだって。」

「まあ、偶然が重なるにしては、重なりすぎているな。ただ、ソラ。あまり先入観に囚われるなよ。」

 ユフィが俺をまっすぐに見つめて言う。確かに、俺の頭は希望教や殉教の魔道士という、暗い影響力の強いヤツらに囚われてしまっている。だが、ガルブ家の不自然な動きに、今までの旅路で起きた出来事と似た違和感を抱かざるを得ないのだ。

「港の封鎖さえ解ければ、船は出せるんじゃがのう…。」

 カスガが腕を組み、悩ましげに呟く。

「そのラベニクで言っていた宛(あ)てというのは、詳しくは聞いてはダメかい?」

 カイが思い切って踏み入る。カイの金色の瞳と、カスガの深緑色の瞳とが交わる。

 カスガは少し躊躇(ためら)った後、口を開く。

「…シャルグとガルブ、どちらとも、ワシが頼めば船を出してくれるはずじゃ。」

 カスガは顔を俯(うつむ)かせたが、俺たちは顔を見合わせる。ユフィいわく、ボンボンだというカスガの権力に驚くばかりだ。ユフィが問う。

「ガルブ家に、お前が直接交渉することは出来ないのか?」

「何をじゃ?」

「この抗争を止めることだ。」

 俺とマキは、予想外の展開に顔を合わせる。カイとユフィ、それにカスガ、彼らのなかには、何か予想していることや、思惑(おもわく)がありそうだ。ただ、秘密を頑(かたく)なに守ろうとしていたカスガを慮(おもんぱか)り、何か核心は避けて発言しているようにも感じる。

 カスガは少し、うなだれた様子で言う。

「…それなら、明日、アヴィドに話に行こうかのう。」

「え、出来るのかい?」

 俺は、うなだれたカスガの顔を覗くように問う。

「どうなるかは分からん。じゃが、門前払いを受けることはなかろう。」

「その、ガルブの当主アヴィドに会ったことは?」

「ある。」

 ユフィの問いに、カスガは短く答えた。

「じゃが、ワシはこれ以上、己の身分をさらしとうない。ガルブには行くが、ワシのことは何も聞かんでくれ。」

 カスガはうなだれたまま、乞(こ)うように訴える。カイもユフィも、そして俺とマキも、分かったと答えた。


 その日は姫神教会に泊まり、怪我人の手当てや炊き出しの手伝いをした。

 夜になって、遠くから、特に港のほうから悲鳴が聞こえる。

「また、死人たちが人を襲っている…。」

 怪我人が恨めしそうに呟く。

 その悲鳴は一晩中止むことがなく、教会に避難した人々を精神的に苦しめた。

 カスガはというと、夜通し医術や薬学を用いて、目に見える傷を治療するのに奔走(ほんそう)した。メウィティカ出身の彼は、多くの人に頼られた。

 それだけでなく、決して怪我人ではないが、うなされるように喚(わめ)く、目に見えない傷を負った人にも寄り添い、優しい言葉をかけ続けた。

 俺は炊き出しの手伝いをしながら、気づいたら眠ってしまい、マキに優しく揺り起こされた。

「あ、ああ、ごめん。みんなは?」

「ガルブ家に行くのに、もう準備が出来ているわよ。」

 そう言われて急いで顔を洗い、装備を整えた。

「おう、ソラ、行けるか。」

 カスガは夜通し治療にあたっていたとは思えない、スッキリとした顔で言う。この男は、人を助けることに心を注いでいるのだと、俺は改めて思った。

「ああ、待たせてごめんよ。」

 俺たちは、カスガを先頭にガルブ家を目指した。


「この防壁は邪魔じゃのう。」

 カスガが、ある防壁を前に呟く。

「ここを通れば、ガルブの家への近道なんじゃが。」

「待て。ソラ、ナイフを貸してくれ。」

 ユフィが何かを感じ、言われた通りに俺はナイフを渡した。すると、ユフィは防壁に書かれた【滅べ、シャルグ】の滅という字をガリガリと削った。

「ただの防壁じゃない。無理に踏み越えたり壊したりしたら、爆発か何かで人を傷つける罠が仕掛けられている。」

 ユフィが俺にナイフを返しながら、冷静に言う。

「でも、そんなの下手したら一般人だって巻き込まれてしまうわ。」

 マキが嫌悪感をあらわに言う。

「一般人を巻き込んででも、成し遂げたい何かがあるんじゃないかな。」

 カイも冷静に言う。しかし、その表情にはマキと同様に嫌悪感が浮かんでいる。

 すると、カイが急に剣を抜く。

 防壁の向こうから、人相(にんそう)の悪い者たちが現れた。男も女も、剣士も魔道士も混ざっている。

 先頭に立った、派手な刺青を入れた男が言う。

「なんだ?罠を破ったのが、こんな若造たちだなんて、お前たちはシャルグのお遣(つか)いか?」

 それは貧民街などでも遭遇する、人を下に見ないと生きられないような、卑しい類(たぐい)の者だった。

 剣を抜いたカイの前に、カスガが立って言う。

「ヌシらはガルブに雇われて、いかほどじゃ?」

「ああ?メウィティカ人のガキ、俺たちに生意気な口を叩くのか?」

 刺青の男が、防壁越しに睨みつける。カスガは目を逸(そ)らさずに言う。

「五番目のカスガ。」

「あ?」

「それをアヴィドに伝えよ。伝えねば、ヌシらの立場が危うくなるぞ。」

「アヴィド、様、だろ。なんでお前のような若造が…」

「早よう伝えよ。五番目のカスガじゃ。ほれ、走って伝えよ。」

 カスガは昨日と同じく、緑色の袋を手に、堅気でない者に話した。

「ちっ、待ってろ。」

 派手な刺青の男が、防壁の向こうの路地へと消えていく。


 しばらくして、刺青の男が戻ってきた。男は無言のまま他の兵たちを制し、防壁をどける。

「礼を言う。」

 カスガはそれだけ言うと、路地を歩いて行く。俺は状況を飲み込めないまま、それに着いていく。

 歩いている間も、影の世界に生きる者たちが俺たちに睨みを効かせている。その者らは見たことのない武器を手にしたり、魔道の詠唱を途中まで唱えたり、常に臨戦体制だ。

 カスガはその敵意のなか、姿勢を正し、視線を落とさずに堂々と歩く。

 そうして十分ほど歩いたが、それは一時間にも二時間にも感じられた。

 やがて、マルジャーナ家に負けないほどの、ゴテゴテとした屋敷にたどり着く。とは言え、赤レンガの屋根が街に統一感を持たせているので、幾分(いくぶん)かマシに見える。

 屋敷の扉を前に、カスガが振り返って言う。

「すまんが、ここからは一人で行かせてくれんか。」

 その提案に、俺は驚く。弱気なほど優しい彼の、攻めの姿勢が意外だった。

「上手(うま)くいくかは分からん。じゃが、せめて茨痲の解禁を求めた理由についてくらいは突き止めて見せる。あわよくば、港の封鎖解除も求めるつもりじゃ。」

 俺たちは少し悩んで、互いの顔を見る。そして、俺が言う。

「分かった。カスガ、頼むぜ。」

「そうね、今はカスガの人脈が一番頼りになりそうだしね。」

 マキも同意して言う。

「カイとユフィは?何も言わんのか?」

 カスガが問うと、カイは少し心配気に答える。

「心配は、もちろんあるよ。商人とはいえ、もはや得体の知れない相手だ。だから、危険を感じたら大騒ぎをしてほしい。僕たちが駆けつけるから。」

 ユフィも頷く。

 カスガはそれを聞き、少し安心した顔で、屋敷に入って行った。


「五番目のカスガ、か…。」

 ガルブの手下の向ける敵意のなか、ユフィが呟く。俺はしゃがみ込み、ユフィを見上げて言う。

「何の順番なんだ?」

「…今は、触れないでおこう。おそらくカスガは、この状況をなんとかしようと、かなり無理をして自身を明かしている。あんなにも知らんぷりを通していたのに。きっと、ソラがメウィティカに渡れるようにさ。」

 カイが優し気な声で言い、そして、続ける。

「僕たちに出来るのは、カスガを信じることだよ。信じて、待とう。」

 カイの言葉に、俺たち三人は頷く。

 すると、扉が開く重い音がした。カスガが出てきた。しかしその表情は、口を一文字に結び、眉をひそめた複雑なものだった。

「案内に礼を言う。じゃが、こいつぁアヴィドに返しておいてくれ。」

 カスガは複雑な表情のまま、分厚い封筒をガルブ家の手下に渡した。

「待たせてすまん。詳しい話は教会の辺りでしようぞ。」

 カスガが腕を組み顔をしかめたまま言い、俺たちもそれに同意した。敵意に満ちた空間は、なんとも居心地が悪く、早くこの場から立ち去りたい。

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