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【太陽物語】 夜明けへ進む少年は  作者: 立花ハル
《第八章 西方諸国、弱者たちの声》
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西方諸国バード、嵐のあとに《ソラ》

《ソラ》


 炎がやんだ広場では、建物の上で不穏な動きが起きていることへの、新たな戸惑いが生まれている。俺たちも、全身が油塗(まみ)れであることを忘れ、建物の上の人物に目を奪われている。

 リュカが、建物の上からリーアムに向けて叫ぶ。

「我々バード兵は、油を撒(ま)き火の魔道弾を投げた、このズワルウの若者を取り押さえた。リーアムよ、この若者の行動に説明はあるかっ。」

 リーアムはシャーロットをサリアに預け、木箱の上に立ち上がる。そして、リュカをまっすぐに見て答えた。

「ない。しかし、確かにそいつらは、俺たちズワルウの一員だ。」

 その言葉に、広場がどよめいた。先ほどは共に生き延びたことを喜び合っていたズワルウや市民たちに、猜疑心(さいぎしん)が生まれる。

「そうか、君がそう言うなら、こうしよう。」

 リュカはそう言うと、躊躇(ためら)いもなく自分の腕を斬る。そして、取り押さえたズワルウの一人に、その流れ出る血を飲ませる。

「まさか。」

 ユフィが目を見張る。

 すると、またも嫌な予感は当たった。

 ズワルウの若者の顔は不自然に歪み、大声を上げる。

「お、俺は、ズワルウの一人。ズワルウ創設から、いる。しかし、ウィレム大佐と、ズワルウ壊滅のあとには、カラクナを完全にバードのものとし、そ、そして、領地の一部をもらうと、約束した。」

「や、やめろっ。」

 ウィレム大佐が、腰を抜かしたまま縋(すが)るように叫ぶ。広場の人々も、リーアムたちズワルウも困惑している。しかし、ズワルウの若者は止まらない。

「か、金も、ずっと大佐からもらって、いた。そして、脅威となった、ズワルウを潰すために、俺が選ばれた。本当は、ズワルウが氷の魔道弾を、ばら撒いたら、こっちは火の、魔道弾で、市民を殺すつも…」

 そこまで言って、若者は眠るように倒れ込んだ。恐らく死んではいないだろうが、何かが急にプツンと切れた、人形のようだった。

「ウィレム大佐殿、何かおっしゃることは?」

 リュカが、建物の上から大佐に声をかける。リュカのほうが位(くらい)は下だろうに、立場が逆転しているようだった。

 ウィレム大佐は、顔中に汗を流して答える。

「…も、黙秘する…。」

「出来るとでも?…シャーロット。」

「はい。」

 広場の人々は、これまでと違う騒めきを見せる。リュカというただの一人の兵士が、世界中で権力を持つ姫神教会の大司教を、呼び捨てで呼んだのだ。

 シャーロットは伸びた背筋でウィレム大佐の前に立ち、少し雑に、顔を上に向けさせた。

 そして、自分の指に小さなナイフで傷を入れ、たった一滴の血を、ウィレム大佐に飲ませた。

「殉教の…。」

 俺は小声で呟(つぶや)く。

 すると、ウィレム大佐の目が、人形を思わせるガラス玉と化す。そして、叫んだ。

「バード王陛下は、カラクナ女を慰(なぐさ)み者にして、己の欲望のまま、なぶり殺しにしたっ。」

 それだけ言うと、先ほどのズワルウの若者同様に、ウィレム大佐は倒れ込んだ。

 広場の人々は、何から信じて良いのか分からず、互いに顔を合わせている。それは、俺たちもそうだ。あまりの展開の速さに着いて行けない。


「聞いたか、バードの者、カラクナの者よ。」

 ウィレム大佐の告発の間に、リュカは木箱の頂点に立っていた。リーアムと隣に並んでいる。そして、剣を高く掲げて叫ぶ。

「現在のバードは、カラクナという一つの国の尊い犠牲のうえに築いた、血に濡れたものであったと言うことが伝わったか。」

 シャーロットがリュカとリーアムの間に立つ。しかし、リーアムも困惑した様子だ。

 すると、シャーロットがリュカを、上品に手で示して言う。

「この方は、かつて十五代に渡ってバードを治めたバーゼルム王家の末裔(まつえい)、リュカ=バーゼルム様です。」

 広場の人々やバード兵から、驚きの声が上がる。

「バーゼルムって、五十年や六十年前に滅びたっていう…。」

「あの人が、王家の…?」

「バーゼルムって、バードとカラクナを建国した王家だろう?」

 人々のどよめきは止まない。しかし、リュカはそのどよめきを収めるように高らかに話す。

「私の家系はこれまで、我が王家を追いやった仮初(かりそ)めの王たちに、その座を明け渡して来た。その間、カラクナ国民に悲痛な思いをさせたことに、心から詫びを伝えたい。」

 軍帽を投げ捨ててただの若者となったリュカは、しかし、どこか気品と威厳を持ち合わせていた。

「このリュカ=バーゼルム、ここに宣言をしよう。悪しき仮初めの王家からその座を奪還し、西方諸国同盟主バードと、その姉妹国カラクナ、正しく清い歴史を新たに築くことを誓う。」

 広場はしばらく沈黙した。それぞれが、あまりに大きい歴史的な転機を理解しようと、考えている。

 すると、リュカがもう一押し、とある縁について語る。

「先ほど炎から皆を守った、希望の轍(わだち)の歌。なぜ、ズワルウの者だけで無く、バードの者も歌えたか、考えてくれ。」

 その言葉に、広場の人々やズワルウが顔を上げ、リュカをまっすぐに見る。

「希望の轍の歌が、元々はバードとカラクナ、二つの国の、故郷の歌だからだ。我々は、二つの国でありながら、一つになれる。それは、先ほどの歌声と結界魔道が証明した。我々は、共に手を取り生きていけるのだ。」

 すると、どこからか一人の声が上がった。

「リュカ様っ。」

 そして、あちこちからも声が上がる。

「リュカ様。」

「リュカ様。」

 リュカは深く礼をし、高らかに声をあげる。

「ありがとう。バードの民、カラクナの民よ。我らには姫神様の加護があるっ。どうか、私に着いて来てほしい。」

 そして、リュカはリーアムに手を差し出して言う。

「私はバード王座奪還、君はカラクナ奪還、共に盟友となって協力しようじゃないか。」

 リーアムは、少し考えて言う。

「もちろん、バード兵への刑罰と、虐(しいた)げられた者への賠償は変わらずに進めてくれるな?」

 リュカとシャーロットは頷(うなず)いて、リュカが言う。

「もちろんだ。約束する。」

「よし、この俺の命運、預けたよ。」

 リーアムはそう言うと、リュカとガッチリ手を結んだ。広場の人々、ズワルウの者たちは祝福の声を上げる。楽器を奏でる者や、希望の轍の歌を歌う者もいる。

 俺たちは気が抜けてしまい、五人で姫神教会を背に座り込んでしまった。

 恐らく、リュカとリーアム、二人の若者は、シャーロットと言う大きな後ろ盾を得て、それぞれの国を奪還していくのだろう。

 しかし、違和感があった。みんな、殉教の教えを知らないのだろうか?こんなにも都合よく真実が明かされる展開に、誰も疑問を抱かないのだろうか?

 ふとバード軍を見ると、姫神教会の調査から逃れようと、壮年の兵たちが散り散りとなって逃げている。しかし、リュカの息がかかった兵や、ズワルウたちがそれを許さない。

 抑圧されていたズワルウやカラクナの民は、ここぞとばかりにバード軍を取り押さえた。リュカの兵たちが拘束し、どこかへ連行する。

 シャーロットは大切な客人として、姫神教会へと護衛に囲まれて入って行った。俺たちはその姿を真近に見たが、単なる気品とは違う、権威ある存在に感じた。

 やがて騒動も収まり、広場の人々は油を落とそうと、家や宿へ帰って行く。


 気づいたら、午後三時を告げる鐘が鳴った。俺たちは朝から、この姫神教会の前にいる。様々な出来事への理解と感情が落ち着かず、動けないままでいるのだ。

 慌ただしく事態を収めようと奔走(ほんそう)する人々のなかに、リーアムがいた。リーアムは、俺たちに近づいて来た。

「なんだい、君たち、そんな油塗(まみ)れのまま。」

 リーアムは憑(つ)き物が落ちたような、清々しい顔をしていた。

「…リーアム、殉教の教えって知ってるかい?」

 俺が問うと、彼はポカンとしていた。

「知らないならいい。でも、あんなに正直に罪を認めるのは、違和感がなかったかい?」

 この問いには、リーアムは首を縦に振った。

「正直、ある。だが、抵抗運動は結果が全てだ。俺たちはようやく、カラクナ奪還の糸口を掴(つか)んだ。」

「あんな狂気じみた魔道でもいいのか?」

 ユフィが過激な言葉で問う。しかし、リーアムはやはり首を縦に振る。

「少し、種明かしをしよう。君たちが警戒したワインの箱に、火の魔道弾は仕込められていたよ。わざわざ底を二重底にしてね。」

 確かめた俺とカスガは、驚いて顔を合わせる。それに構わず、リーアムは淡々と語る。

「だが俺は、氷の魔道弾を使うつもりなど端(はな)から無かった。なぜなら、シャーロット様と言う、これ以上無い秘密兵器がいたからね。俺たちズワルウが攻撃をしなければ、火の魔道弾を使うはずが無いと考えていた。まさか、シャーロット様やウィレム大佐を巻き込むような、強硬策(きょうこうさく)に出るとは思わなかったが。」

「シャーロット様のことは、他のズワルウの仲間には?」

 カイが問う。すると、リーアムは少し顔を伏せて言う。

「アリアレジス姫神教会本部とやり取りをしていたこと、シャーロット様のお力添えをいただけることは、あの瞬間まで誰にも伝えていなかった。サリアにもね。」

 その言葉には、復讐者リーアムの冷徹さが込められていた。ズワルウを仲間と言いながら、敵を欺(あざむ)くには味方から。彼は、非情とも思われる手段を選んでいたわけだ。

「まあ、リュカの存在は完全に予想外だったけどね。」

「…本当に、リュカを信じるのかい?」

 俺は恐る恐る尋ねた。リーアムは答える。

「恐らくリュカは、我々ズワルウの、いや、俺の一枚上手(うわて)をいっていた。あくまでも予想だが…。俺よりも早くシャーロット様と繋がり、自身の王座奪還を、虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた。現在のバード兵の暴挙や、ズワルウの裏切り者を利用して、王位継承者に名乗りを上げるのを待っていたのだろう。」

 リーアムの予想に、俺は背筋が凍った。そんなに先を読んで行動するだなんて、リュカの、聡明の一言では片付けられない頭の良さと、王位への執念を感じる。

「じゃが、言葉は悪いがうさんくささは感じるのう。」

「ああ、さっきの質問に繋がるが、俺はリュカを全く信用していない。」

 リーアムのあまりに潔い言い切りっぷりに、俺たちは声を上げて驚いた。

「じゃあ、どうしてあんなに多くの人の前で、手を結んだの?」

 純粋なマキは、少し嫌悪感をあらわにしながら、リーアムに問う。

「俺はこれからもズワルウの指導者として、バード兵の刑罰と賠償、カラクナ奪還を目指す。それは変わらない。あの場でリュカと手を組むことで、大勢に向けて、リュカに約束をさせたのさ。」

「そうか。リーアムはこれから、リュカを監視していくんだね。」

 カイの言葉に、リーアムは頷いた。

「シャーロット様のお力を借りながら刑罰と賠償を進め、カラクナの独立を。そこにリュカが現れた。俺とリュカは、互いに協力をし、そして牽制(けんせい)していく。気づいたら背中を刺さされていることが無いように、互いにな。」

 俺は恐ろしくなった。一つの国が成立するためには、こんなにも賢く、人としての情を捨てるほどにしたたかでいないといけないのだ。尋常でない覚悟が必要なのだ。

 ユフィに散々止められたうえで、今俺はここにいるが、俺はとんでもないことに関わってしまった。

「…なあ、なんでそんな種明かしを、本当のことを、俺たちに話してくれたんだい?」

 俺はリーアムを見上げて問う。陽射しを背にした彼は、より大きく見える。

「そうだなあ…。」

 リーアムは腕を組んで、少し悩む。

「君たちが、しつこく俺に関わって来たから…。ははっ、まあ、君が現れたことで、リューズが俺を守ってくれる予感が、最後に俺を奮(ふる)い立たせてくれたからかな。」

 意外なような、リーアムらしいような答えだった。俺の内側のリューズが、何かの感情で震えた。

「俺なんか、ズワルウの指導者だなんて名乗っておきながら、何度もその立場になったことを後悔した日があったんだ。」

 リーアムは、片手で目元を覆い言う。

「本当は、昨日や一昨日だって、俺だけならまだしも、仲間や一般人に何かあったら…。そんなこと、いくらでも考えた。」

 すると、リーアムは目元を覆っていた大きな手を、俺の肩に置いた。

「でも、やっぱり俺は、姉さんとリューズの復讐を忘れられなかった。ソラが口にした、リューズの言葉を聞いても…。何度迷っても、そこに帰って来てしまう。そして、今日を迎えた。」

「でも、怖かったんだろ?」

 俺は問う。

「ああ、今も、これからも、本心では怖いと思う。俺は、誰かが犠牲になったときには、煉獄へ行く覚悟が出来てるつもりだ。」

 すると、俺の肩に置いた、リーアムの手に力が入った。

「でも、さっき君が、リューズが、竜巻で俺たちを守ったのを、俺は見ていたよ。」

 俺は、その言葉で自分の奥底が震えるのを感じて、唇を噛む。

「やっぱり、リューズは俺の自慢の兄だった。リューズを選んだ姉さんは、いい女だった。俺はその記憶を胸に、これからも生きていく。ありがとう、ソラ。」

 その言葉に、俺は目が熱くなった。喉が痛い。得体の知れない感情が溢(あふ)れそうで怖くて、シャツを両手でギュッと握りしめる。

 こんなの、知らなかった。感謝されて、泣きたくなることがあるなんて。

 俺の内側のリューズはと言うと、滝のように涙を流し、アッシュとルークに慰められている。

 そして俺たちは、旅立つのを明日の昼に決めて、それをリーアムに伝えた。

「それなら、運河で国境近くへ行くのがいいさ。なあ、前に俺とサリアと乗り合わせた辺りで待ち合わせをしよう。見送りをしたいんだ。」

 俺たちはその申し出を喜んで受けた。そして、宿へ戻る。


 宿へ戻ってからは、また新たな困難が待っていた。油が落ちないのだ。肌や髪は時間をかければともかく、服に染み込んだ油は諦めるしか無かった。

「僕が勝ち取った三十万ルピーもあるし、服も新調しちゃう?」

 カイの一言に、俺たちは乗り気になった。リーアムに感謝されたのが嬉しく、機嫌が良かったのだ。ただ、カスガだけは難色を示した。

「ふーむ、ワシゃ、異国の服は馴染むかのう?」

「案ずるよりも産むが易しだよ。」

 渋るカスガに、カイが的を射ているのか分からない言葉をかけて、俺たちは街へ出た。


 街で一番大きな服屋は、俺たちと同じく油に困った者が買い占めたのか、棚がすかすかになっていた。

 マキは自分のこだわりもあり、また、女の服は棚の向こう側に並んでいるので別行動となった。

 俺とカイとカスガ、服は着れればいい三人は、壁沿いに立つ。そして、両手に服を抱えたユフィが俺たちに服を投げるように渡してくる。

「この白はソラ、この白はカスガに似合う。」

 ユフィが指を差して言う。俺はつい、口にする。

「出た。白の違い。」

「なんだ。文句あるか。」

「いえ、ありません。」

 俺たちはユフィの言うがままに、服を体に合わせる。

「こんな色、ワシに似合うんか?」

「お前の明るい茶髪と肌色には合うはずだ。」

 カスガはその上着の、鮮やかな橙(だいだい)色に戸惑っているが、確かに、彼の明るく気さくな雰囲気に合っている。

「僕こんな色、着たことないよ。騎士の服は緑だし…。」

「心配するな。お前の濃い金髪と金色の目に、その茶色は合う。」

 カイも戸惑いながら、上着を服に当てて、すぐに、おー、と声を上げる。大人びた濃い茶色が、確かにしっくりとはまる。

 次は俺だ。クルエルと同じような真っ白なシャツに、何を合わせてくれるのか、正直ワクワクしている。

「そうだな…。これと、これではどっちがいい?」

 ユフィはそう言って、二枚の上着を見せてきた。

「選んでいいのかい?」

「まあ、どっちも合うと思うしな。」

 二枚の上着はそれぞれ、夜のように濃い青と、夏空のような明るい青だった。

「じゃあ、こっちだな。」

 俺はほとんど迷わず、夏の空を選んだ。勘でしか無いが、今の俺の気分に合っているからだ。


 俺たちは会計を済ませ、店の外に出る。

「わあ、いい感じじゃない。」

 先に外に出ていたマキが言う。マキも彼女らしく、茶髪に合う軽やかな赤色と、動きやすくスラっとした足が目立つ短パンを選んでいた。

「服を選んだのはユフィでしょ?」

「まあ、間違いないからな。」

 マキの問いに俺が答えると、新しく明るい灰色のシャツを着たユフィが、まあな、と言った。

 俺たちは夕飯を取り、明日に備えて早く眠ることにした。昼間の騒動の疲れもあり、すぐに眠りに落ちた。

 改めて振り返ると、なかなか濃い一日だったと感じる。


 そして、旅立ちの日がきた。約束した時間に船着場へ行くと、リーアムとサリアが待っていた。

「よう、恩人たち。国境近くまで、俺たちの音楽で送らせてくれ。」

 リーアムがそう言って、弦楽器を構える。恩人だなんて生まれて初めて言われたので、背中がかゆい。

 小舟は川の流れに乗り、緩やかに進んだ。リーアムとサリアが奏でる音楽に、マキも笛の音色を乗せる。それは贅沢で優雅なひと時だった。

 やがて、国境近くへとたどり着いた。船着場にぶつかったと言うのに、リーアムは降りようとする俺たちを止め、一枚の紙を見せた。

「あ、これ…。」

「希望の轍の歌。その歌詞だ。最後に一緒に歌ってくれないか。」

 リーアムとサリアが弦楽器を奏で、俺たち五人はその紙を見て歌う。マキはやはり慣れているので伸びやかに上手に、ユフィは少し恥ずかしそうに。俺は、なんだか楽しく、そして七人は声を重ねる。


 彼方(かなた)に見えるは、ファーダルーヴェの峰

 峰より流るる清き水

 我らを育てしドレスレアの大地よ

 明るいほうを目指して歩まん

 希望の轍を残して歩まん

 我らは陽射しを目指して

 進むべき道を進み

 我らの背後に轍を作らん


 歌い終えると、不思議な余韻が残った。俺はなぜだか、その弦楽器に触りたい衝動さえ覚えた。

「改めて声にすると、良い歌じゃのう。」

 カスガが微笑(ほほえ)んで言う。

「そういやよ、ワダチってなんだい?」

「ああ、馬車の車輪が通った後にできる、溝(みぞ)…のことかな。」

 俺の問いに、リーアムが答える。そして、続ける。

「俺たちは轍を、歩んできた後に出来る、足跡、歴史としてこの歌を歌っている。俺たちはこれからも前を向いて、希望の轍を残していく。」

 リーアムは、俺たちの顔をじっくり見て、最後に言う。

「君たちの旅路が、希望の轍で続きますように。」

「…まあ、私も願うよ。」

 サリアもぶっきらぼうに言う。


 そして俺たちは、リーアムとサリアが大きく手を振るのを、同じく手を振って、次の国ラベニクへと向かう。

「少し、思ったことを言っていいか。」

 ユフィが神妙そうに話す。俺たちは、息を呑んで聞く。

「カイ、お前、方向も味も音痴なら、本当に歌うのも音痴なんだな…。」

 ユフィが笑いをこらえながら言う。

 正直、俺たちも聴きながら思っていた。口に手を当てて、笑いをこらえる。

「ひどいなあ。でも、騎士として参加した、孤児院の奉仕活動で歌うと、必ず子どもが笑うんだ…。」

 本人に自覚があった。俺たちはつい、笑ってしまう。

「まあ、おヌシは類稀(たぐいまれ)な剣の腕と、人の良さがあるから…。ぶふふっ、安心せえ。」

「なんだい、カスガだって、大概だったじゃないか。」

 珍しく、カイとカスガが小競り合いする。

 俺たちは西方諸国をさらに西へ進む。数日としないうちに、ラベニクへたどり着くだろう。

 俺は変わらずに願う、リーアムと、カラクナの幸せを。

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