アリアレジス、異質な者ケイト《ソラ》
《ソラ》
次に目指すのは、ユフィの新しい養父となる、カーター=ソエリフ氏の家だ。ユフィは前の養父であったルナセフ氏から受け取ったメモを頼りに、その通りにたどり着いた。
「…ここ、通っていい場所なの?」
マキが不安気に言う。それは、一度は人の手が入ったであろう石畳みの道だが、最初の工事以来、長年手入れがされていない様子の通りだった。石畳みの間から雑草が生え、ゴミは散らかり、ネズミの住処が見える。さらに、平日の昼だと言うのに、通りのあちこちに浮浪者が寝ている。貧民街で育った俺でも、この通りは避けて通りたい。
「だが、住所はこのエルミタ通りになっている。」
ユフィの顔も強張っている。通りの向こうは昼間だが日差しが届いておらず、喧嘩のような大声が聞こえる。
「まあ、何かあったら僕らがいるから。」
「えっ、ワシもか?」
カイがカスガの肩に手を置いて微笑む。カスガも怖気付きながら、やれやれと言わんばかりに先頭に立つ。
通りに足を踏み入れると、貧民街の日陰特有の湿っぽさを感じる。カイが急に立ち止まると、横道から浮浪者が転がって来た。
「な、なんじゃ?」
カスガが驚きながら横道を覗く。
「はっ、魔道士風情がよ。でかい顔すんじゃねえ。」
喧嘩をしたらしい浮浪者が、悪態をついて道の向こうへ姿を消した。嫌な予感がして、ユフィが転がって来たほうの浮浪者に声をかける。
「失礼だが、カーター=ソエリフか?」
浮浪者はヒゲだらけの顔をユフィに向けて、言葉を吐く。
「か、カーター?あんな無法者と一緒にするんじゃねえよ。」
ヒゲだらけの浮浪者はフラフラと立ち上がり、唾を吐いて立ち去った。
「無法者だとよ。」
俺はユフィを心配して、見上げて言う。喧嘩したての浮浪者に無法者と言われるだなんて。しかし、ユフィは顔を強張らせながらも揺るぎなく、アパートを確認しながら通りを進んでいく。
すると、ユフィが一つのアパートの前で立ち止まる。それは通りの中でも、外壁に損傷が激しく見られる古い建物だった。
「ここの、一〇三号室だな。」
ユフィは迷いなく建物に入って行く。建物の入り口にはゴミが散らばり、悪臭すらする。しかし、ユフィはもう、リサやアンナの存在を胸に、腹を据えているのだろう。怪しい建物でさえ、スタスタと踏み入って行く。
すぐに一〇三号室に着き、表札も何も無い薄汚れた扉を前にした。ユフィは扉を叩き、呼びかける。
「失礼します。ユフィ=ソエリフです。」
ユフィの声はよく通る声だったが、扉の向こうから返答は無い。ユフィはもう一度、そして、もう一度と粘り強く扉を叩き名乗る。
すると突然、扉が開き、長い足がユフィのみぞおちを蹴る。ユフィはその攻撃で後ろへ飛び、背中を壁に強く打った。
「あんた、邪魔するつもり?」
そう言って出て来た長い足の持ち主は、カイよりも少し年上くらいの若い女だった。長い金髪に赤い衣装、それに派手な化粧と、暗い通りのアパートに不釣り合いな出で立ちだ。しかし、俺が言うのはなんだが、赤すぎる口紅のせいか品の良さは感じられない。
だが、それ以上に目に入るのは、とがった耳だ。
「じゃ、邪魔…?」
ユフィが、カイとマキに支えられながら立ち上がって問う。女はユフィの鼻をつまんで言う。
「そう、せっかくきったない空気にいる結界魔導の精霊の声が聞こえそうだったのに。」
女は心底、迷惑そうな顔をしていた。しかし、ユフィは負けじと問う。
「カーター=ソエリフ氏はどちらに?」
「え?アタシだけど?」
俺たちは一斉に大きな声を上げて驚く。
「だから、うるさくて邪魔なんだってば。精霊が逃げるでしょ?意外とこういう汚いところに住む精霊は繊細なんだから。」
カーターは帳面をめくりながらボヤく。マキは呟く。
「男性じゃないの?」
「そう、アタシも気に入っているわけじゃないんだけど。だから、ケイトって呼んでよ。」
俺たちは、今までに接したことの無い雰囲気の人物を相手にしている感覚だ。なんと言うか、おとぎ話や紙芝居の魔道士のような、浮世離れをした人物に感じる。
「け、ケイトさん。あなたが俺の新しい養母?と聞いたが…。」
腹を据えていたユフィも、さすがに戸惑いながら尋ねる。
「ええ、間違いないね。あたしジオリダム出身なんだけど、ルナセフ先生には、本人とも弟とも親交があってね。少し前にユフィと言うヤツを養子にしてほしいって手紙があったときは驚いたわ。あ、さん付けなくていいから。ケイトでいいよ。」
俺は思わず疑問を口にする。
「ユフィの父親とも親交があるって、ケイトって何歳なんだい?」
また女に年齢を尋ねてしまった。いつもなら、ここで誰かしらの注意が入る。しかし、このときはみんなも気になったのか、誰も俺を止めなかった。
「あんた、可愛い顔してるクセに、そんなんじゃ女で苦労するよ。女の年齢はね、海の底くらい秘密を孕んだものなの。つまり、聞いたら殺すよってこと。」
俺はケイトのサラリとした宣告に総毛立つ。本当に、何らかの呪いで殺されそうだ。そして目の端に、ユフィが不安気に、しかし覚悟を決める表情が見えた。ユフィは言う。
「ケイト、俺はあなたの養子になると聞いたが。」
「そうね。ユフィって名前だから、女の子だと思った。まあ、どっちでもいいんだけど。ちなみに、あんたエクラの血は?」
ケイトは先ほどから、夕飯の話でもするような温度感で無頓着に話を進める。ユフィは迷いなく答える。
「ハーフエクラだ。父はライブ、母はリサ。父は会ったことが無いが。」
ケイトはそれを聞くと、ようやく関心を持ったような緑がかった茶色の瞳を、ピクリとユフィに向ける。
「へえ、ライブの。養子の話のとき、ルナセフ先生から少しは事情を聞いていたけど、よく似てるね、顔が。ルナセフ先生は真面目一辺倒な堅物で、ライブは好奇心旺盛な天才肌って感じだったね。」
「父を知っているのか?」
「知ってるも何も、一緒に学んだ同窓生だからね。まあ、ライブは研究とリサに夢中だったけど。」
ケイトはそれを言うと、部屋へ入り、一人がけ用のソファにドンと座った。俺たちは座る場所も無いので、立ったまま部屋に入る。
「で、なんの用?」
ケイトはふんぞり返って言う。
「…ジオリダムを出て、あなたの養子となった。その挨拶に来た。俺はいずれ、アリアレジスで研究者として独り立ちしたい。そのためにも、学院の教授をされている、あなたの教えを受けたい。」
ユフィの言葉を聞くと、ソファの肘掛けに寄っ掛かったケイトが本棚を指差す。そしてその指は、スーッと端から端へ、さらに下の段、下の段へと動いた。俺たちは指先に合わせて疑問の目を向ける。
「ここにある本、だいたいあたしの著書。」
すると、ユフィはこの日一番の驚きの声を上げた。
「なんだと?アイジーにシューティ、アダンにデルウィン、どれも名の知れた研究者だ。それも、森羅魔道だけでなく、結界に、補助に、治癒まで…。」
ユフィの驚きの声を聞き、魔道に心得がある俺とマキも、口を開けて顔を合わせる。たった一人の魔道士が、こんなにも広い分野を研究するのは可能なのか、とてもじゃないが信じられない。
「あたしがこの国の国立魔道学院の教授してるのは、研究の援助を受けられるからさ。金銭的にも人材的にも。そのぶん、軍の武器開発にも力を貸しているけど。自慢だけど、授業のウケもいいのよ。」
ケイトは長い足を組んで話す。
「でもさ、女でエクラってだけで、やっぱり色眼鏡はあるね。まあ、ジオリダムよりはマシだけど。あたしが男の名前で本を出すのは、純粋に研究の発表をしたいからさね。」
ここでも差別、選民、偏見と、思い込みが第一の振るいにかけられるらしい。ユフィは問う。
「どうやら、俺を素直に養子にするつもりは無いようだな。」
俺たちの間に緊張感が走る。見知った仲間が社会で孤立するなんて、見ていたくないからだ。ケイトはそんな所在無い言葉に、淡々と話す。
「いや、養子は法律上、決められたことだから、衣食住の面倒は見るよ。世話になったルナセフ先生の紹介で、友人だったライブとリサの息子だしね。金なら有り余ってるし。ただ、魔道士として面倒を見るかは別だよ。本棚を見せただろう?この通り、あたしは自分の研究で忙しいのさ。授業は研究の一環で、わりと楽しくやってるけど。」
「なるほど、では俺が、あなたの研究に役立つだけの資質があると分かればいいんだな?」
ユフィがそう問うと、ケイトは話が早いね、と頷いた。するとユフィは、ジオリダムの学生手帳を開いて見せた。
「ブライト=カジエル先生のサインだ。縁あって、短期間だが教えを受けて、その資質を認めていただいた。」
ケイトはそのサインを見ると、初めて人間らしい表情で驚いた。そして、やるじゃん、と言った。
「ブライト先生なら、ヴァルクシェンナから逃げて来たばかりの頃に会ったよ。魔道の教えを受けたくてね。もっとも、その時は空っぽの人形のようになっていて、気づいたらいなくなっていたけど。」
きっと、妻とアッシュを失って、戦争が嫌になっていたときだ。ブライトもそんな、どうしようも出来ない無力感を抱えていたんだと、胸が痛んだ。
すると、ケイトが立ち上がり扉へ向かう。
「着いて来な。」
それは俺たちに考える余地を与えない、堂々とした背中だった。ケイトの靴のヒールが高く響く。
ケイトの後に着いて行くと、エルミタ通りを出て明るい通りに出た。ほんの二本ほど離れれば、こんなに通りの雰囲気が変わるなんて驚きだ。
「さっきのエルミタ通りの辺りは、通称、隠者郭。才能が足りずに落ちぶれたり、教授どうしの謀略に負けたり、禁術に手を出しておかしくなったり、そう言う魔道士の行き着く墓場さ。」
ケイトの説明に、当然この疑問が浮かぶ。
「じゃあ、なぜケイトさんはそこに住んでいるんだい?女性一人では、治安も不安そうだけれど。」
カイが問いかける。
「まあ、教育的に悪いこと言っていい?自分より下の存在を見て、安心しているのさ。」
ケイトの答えに、俺たちは多少の嫌悪を覚えた。本当に、こんな人がユフィの養母で良いのだろうか。
「あとは戒めだね。外で恨み言を吐く、魔道士としての誇りを失ったヤツらを見て、自分はこうなるまいと酒を呑むのさ。」
ケイトはそう付け加える。ユフィはなるほど、と呟き、これには少し共感を覚えたようだ。
「で、ここは学生通り。その名の通り、魔道以外にも様々な学校があるのさ。店も学生向けの品揃えで安い。ユフィ、見ていて分かることは?」
突然の質問に、不意打ちをくらった気分だ。どうやらケイトは、ユフィを試しているようだ。しかし、ユフィは冷静に答える。
「とにかく様々な者がいるな。人間もエクラも、富裕層も貧困層も、年齢も国籍もバラバラだ。あと一番は、やる気のある者とそうでない者とが混ざっている。」
「へえ、一番最後の、それはなんで?」
「宿っている精霊の質が全然違う。適当に精霊と契約した者もいるし、場所にこだわって契約した者の違いが表れている。」
俺はそれを聞き、船の上で海の精霊と契約したことを思い出す。ケイトはユフィの回答に、まずは合格と言って、また歩き出した。
次にたどり着いたのは、学生通りの裏路地にある、素朴な外観の食堂だ。入ると女店長が、あらケイト、と声をかける。食堂は若者から年配まで、先ほどの通りのように様々な人で賑わっている。
ケイトは案内されるまでもなく、カウンター席に
座った。俺たちは六人で横並びと言う、不思議な集団となってしまった。
「あたしは酒にするけど、あんたたちのなかで呑める子いる?」
ケイトの質問に、俺たちは首を横に振って答える。
「ああ、じゃああんたたちはノンアルコールだね。未成年に酒呑ませたら、私は教授としての地位を失うからね。」
そしてケイトはいつもの、と注文した。俺たちも見たことないメニューから、好みの果物を絞った飲料を注文する。
「ところでさユフィ、あんた、研究者になりたいって言ったけど、何の研究をしたいの?」
ケイトの隣に座ったユフィは、銀色の目をまっすぐに向けて答える。
「森羅魔道には可能性がある。俺は魔道がもっと、人の生活に密接したものになればいいと思っている。」
「ふうん、たとえば?」
「風の精霊の力を借りれば船はより自在に、速く操れる。他にも火や水の精霊の力を借りれば、大きなものを運ぶ荷台を操れる。もっと簡単なことを言えば、火の精霊の力を少し借りるだけで、簡単に食品を温められる。」
「なるほどね。でもそれじゃあ、魔道の才能の無い者は生きられないんじゃない?」
ケイトは酒を口に流し問う。ユフィは考える間も無く答える。
「魔力は誰にでも備わっている。それを、精霊の力を借りるのに使える才能が、あるか無いかだけだ。先ほど上げた食品を温める例だが、魔道士があらかじめ、火の精霊が力を発揮できるように仕掛けを作っておけばいい。そして、少し手をかざすなどすれば、誰でも食品を温められる。そういう人の生活に役立つ魔道の在り方を、俺は研究したい。」
俺たちは話を聞きながら、ユフィの思い描く生活を想像した。そして、実現できたときの便利さに、心がときめくような気がした。そんな食品があれば、今までの旅でも随分と助かっただろう。
「なるほど、興味深いよ。今のところ魔道と言えば、才能ある者の特権になってしまっている。その壁を取り払おうと言うわけね。」
ケイトの言葉に、ユフィは頷く。
「でもさ、それって魔道が戦争の道具になるよ、絶対。あたしなら光や雷の精霊で複雑な展開を組み立てる。それで自分の力で動く荷台を作って、そいつに火を吐かせて戦場を火の海にするね。」
絶対、と言い切るケイトと彼女の想像に、俺は恐ろしくなった。戦争によって成長したアリアレジスで暮らす、ケイトならではの説得力だ。ユフィは想定外の指摘に、言葉を失ってしまった。
「まだ青いね、少年。」
そう言ってケイトはグラスを空にし、追加の一杯を注文した。
「じゃあ次。ねえ、パティ。この子と勝負してよ。」
ケイトはパティという、女店長に声をかける。
「へえ、ケイト、久しぶりの注文ね。見込みのある学生なの?」
「まあ、多分ね。まだ学生じゃないけど。」
パティは客商売をする者らしく、親近感を抱かせる笑顔を浮かべている。それ以上に、ケイトとパティは女友達という雰囲気だ。
「いいけどさ、迷惑料代わりに、今いるお客さんに一杯ずつ奢るのはあなたよ、ケイト。」
ケイトは軽い口調で了承する。そして、パティはユフィの前に立つ。
「あなた、名前は?」
「ユフィだ。」
「いい名前だね。勝負って言っても構えないで。私の真似をするだけだから。」
パティはサッパリと言うと、カウンターから出てきた。そして、水がたっぷり入ったバケツを二つ、店の中央に置いた。俺たちはもちろん、他の客も不思議そうに見ている。
「お、パティちゃん、ショーの始まりかい?」
常連らしい客の言葉に、パティはニッコリとして頷いた。
「今からこの水を、私が作るのと同じ形にして。ただし、凍らせるのは無しね。」
ユフィはバケツの元にパティと並んで立ち、頷く。するとパティは、商売中だというのに酒瓶のコルクを抜いて、ゴクゴクと瓶から直接飲み始めたのだ。そして指をくるりと回すと、店の壁伝いに水が一周した。俺たちも客たちも、体ごと回ってその軌跡を追う。
ユフィも本を開き、詠唱をする。そして軽々と水を壁伝いに一周させた。
「いいね。」
パティはそう言ってまた、豪快に酒を呑む。すると、壁沿いの水が一瞬で店の中央に集まり、大きな球体となった。客はそれを見上げて歓声を上げる。
ユフィも負けじとそれを真似て、水の球体を作る。しかしその形はパティのものと比べ、輪郭がブヨブヨとしている。
「その調子、その調子。」
酒を呑んでいるのにハツラツとした口調でパティは言い、またグイッと酒瓶を煽る。そして、ドンと瓶をカウンターに置いた。なんと、この短時間で酒瓶を空にしてしまったのだ。パティの作った大きな水の球体は、シャボン玉のように小さく分かれて宙に浮いた。綺麗な球体でフワフワと漂うそれをつつくと、水だと言うのに弾力があって面白い。
ユフィも追いつこうと、球体をシャボン玉のように散らした。しかし、その輪郭はやはりブヨブヨとしており、つつくと弾力も無く指が沈む。
「そこまで。」
ケイトの言葉で、二人が魔道を解く。すると、シャボン玉のような水のかたまりが割れ、あちこちが水浸しになった。俺たちや客の服も濡れてしまった。
「さすがパティちゃん。」
常連が拍手をすると、パティは大げさに腰に手を当てた。ユフィはと言うと、疲労のあまりその場に座り込んでいる。
「ユフィ、大丈夫かよ。」
俺が声をかけると、ユフィは強がるように目に力を入れて答える。
「どうと言うことはない。しかし、水の形を保つのに、こんなに力を必要とするとは…。」
「形状の無いものに、無理矢理形を与えるんだからね、魔力の操作力と精霊との信頼関係が大事さ。」
ケイトが酒を口に流して言う。気づいたら、ケイトは四杯くらいグラスを空けている。
「パティってば、魔道学院でも将来を有望視されていたのに急に退校してさ。この店を始めたときはびっくりだよ。」
「だって私って、酒を呑んで精霊の力を借りるじゃない?食堂の店長のほうが性に合っているんだよ。」
ケイトとパティはそう言って笑い合う。パティはもう、堂々と酒を呑んで仕事をしている。そしてケイトは、パティとの約束通り、客に飲み物を一杯ずつ振る舞った。
「それで、どうなんだ。俺に魔道を教える気は。」
ユフィが汗を拭きながら、座って聞く。
「ああ、やる気が出たよ。筋はいいし、まだ甘ちゃんながら己の考えも持っている。あたしはあんたが気に入ったよ。」
ケイトはそう言って気さくな笑顔を見せた。こう見ると、ケイトは初対面の衝撃と見た目の派手さに惑わされるが、人間味はあるように感じる。
「あとは、そうだね。あんたを育てると、ライブとリサに恩じゃないけど、何かをあげられる気もするしね。」
俺はケイトがそう、ボソリと呟くのが気になった。しかし、ユフィは父のことは割り切っているのか、特に追求しなかった。
「ケイト、なぜあなたはアリアレジスにいるんだ?あなたほどの才能と力があれば、ジオリダムでも研究職に就けたはずだ。」
ユフィがそう聞くと、ケイトはカウンターに肘を着いて答えた。
「そりゃ、あたしが戦利品だからさ。」
「せ、戦利品?」
俺は思わず声を上げてしまった。
「そう。アリアレジスとジオリダムが戦争して、ジオリダムが負けた。アリアレジスはジオリダムの魔道研究を欲しがったわけだけど、膨大な論文とともに、私も戦利品として送られたってこと。前の皇王の頃は、タダ同然で働いたもんだよ。」
このケイトと言う人物は、やはり夕飯の内容のように、日常的な出来事を語るように話す。しかしその内容は、人道に反しているように思え、俺たちは嫌悪感で顔を歪ませる。
「ジオリダムに帰りたいとは思わないの?」
「思わないね。」
マキの問いに、ケイトは気持ち良いくらいに言い切った。
「だってこの国は、移民の国でしょ?上も下も、普通のヤツも変なヤツもいる。むしろ、文化や考えが違う、変なヤツどうしでできた国でしょ?あたしみたいに、才能があるのに可愛げが無いエクラが埋もれるのに、ちょうどいいのさ。ジオリダムよりも居心地がいいね。」
ケイトの答えに、不思議だが、俺は新たな光が灯る感覚があった。トキヤのところでは異質なものどうし、または同じ背景を持つのに、上下をつけて衝突する話を耳にした。しかしケイトの話では、異質だからこそ、居場所を見つけられる可能性が示された。
どちらもアリアレジスと言う国が持つ、ほんの一面なのだろう。その国のなかで精一杯生きて、時には折り合いをつけて、日々を繋いでいるのだろう。
俺の生きていく道に、新たな選択肢が生まれた。
俺たちは宿へ戻ることにした。宿でつまみ食いできるものを探しがてら、商店街を歩く。
すると、商店街で喧嘩が起きていた。どうやら、労働者とそれを雇う者が報酬について揉めているらしい。軍人が駆けつけ、間に入る。
これもまた、この国の一面だ。俺たちはカスガが勧める、エビの入ったせんべいと言う、クッキーに似た菓子を買い、帰り道についた。




