アリアレジス、大国の主と《ソラ》
《ソラ》
その城下町は、一歩踏み入れただけで様々な情報が目を惑わせた。
左を見れば見たことの無い装束の者が歩いており、右を見れば有りふれた旅人が歩いている。やがて、左から来た人々と、右から来た人々が混ざり合い、色とりどりの絵画のようになった。
同じ年頃の子どもだけ見ても、学生らしい格好の者もいれば、労働者らしい格好の者もいる。
髪の色も様々だ。俺たちのような金、銀、茶髪の者は当たり前で、俺が驚いたのは、俺と同じ黒髪の者が何人かいたことだ。考えて見れば、黒髪を自分以外で実際に目にしたのは、ソロぐらいだった気がする。マキとカスガが同じ茶髪でも濃淡があるように、髪色だけで何か一つの芸術が出来そうだ。
遠くを見れば、レシオの鍛冶屋のような煙があちこちに立っており、その少し手前を見ればレンガ造りの建物が所狭しと並んでいる。もっと遠くには富裕層が住んでいそうな屋敷も見える。
俺たちは、荷車を引く労働者に邪魔だ、と言われるまで、目に飛び込む光景に、戸惑うほど夢中になってしまった。
事前に、俺たちは馬車の荷台で、アリアレジスに着いてからの予定を決めていた。
まずは、国王への謁見。カイが俺を、アリアレジスまで導いた証拠になると言う。マキとユフィも、一目会いたいと言うので、四人で行くことにした。カスガは偉い人が苦手だからと遠慮した。
次に、カスガの兄トキヤと、ユフィの新しい養父カーターの元へ行く。二人は俺たちを紹介したいと言う。カスガはともかく、ユフィがそう言うのは意外だったが、嬉しかった。
次に、劇団ブロタールの公演に、マキが招待したいと言う。カイいわく、グランディエでも人気の劇団なので、その公演を目に出来る機会はなかなか無いらしい。
しかし、当のカイは、その所在を見失ってしまっていた。本来であれば、俺をアリアレジスへ送り、グランディエへ帰るはずだったに違いない。しかし、ブランジェの侵攻によって事態が読めない今、彼はその行方を定かにしていなかった。
とは言え、そこはやはりカイだ。いつも通り呑気な声で、グランディエからの便りを待つと、悠々と構えていた。
俺たちは午前中にアリアレジスに着いていたので、早速その王城へ向かった。カスガは宣言した通り、街の喫茶店で待つと言った。
王城は歴史の若い国らしく、洗練された装飾が施されていた。きっと、いわゆる移民による職人たちの技術が施されているのだろう。見たことの無い意匠だ。初めて訪れた大陸というのもありそうだが。
しかし、客を迎えるはずの大きな門は、これまた大きな階段の先で圧迫感を持って俺たちを迎え、何人も待機している軍人が俺たちを睨む。軍人たちは黒い軍服を見に纏い、俺たちを品定めするかのように見てきた。
俺はカイに尋ねる。
「なんか、アリアレジスの兵士って、兵士らしくないな。偉そうで、圧があって、なのにグランディエの騎士団とは違う偉そうさがあるというか…。」
自分でも、変なことを言っているのは理解している。しかし、カイはその違和感に答えてくれた。
「それはね、アリアレジス軍が多彩な人で集まった軍隊だからだよ。身分や厳しい審査や試験の元、先入観を持って編成されるグランディエの騎士団や軍隊とは違う。身分や出身国、信仰する宗教だとか、あらゆる壁を取り払って、実力で編成されるのがアリアレジス軍なんだ。」
なるほど、カイの説明を受けて納得する。確かに待機している軍人たちは髪や目の色も様々で、その目は良くも悪くもギラついている。隣に立つマキとユフィも、心なしか萎縮しているようだ。
「謁見か?約束は?」
軍人の一人が、威圧感を持って聞いて来た。
「私はグランディエの騎士、カイ=クアロラルシュです。女王陛下の命の元、こちらのソラ=セルカナデを国王陛下の元にお連れしました。」
カイは、剣と騎士団の証であるブレスレットを見せて恭しく名乗る。すると、軍人は紙の束を見て言う。
「随分と、たどり着くまでに時間がかかったようだな?予定から何ヶ月も経っている。」
「ブランジェの侵攻により、当初予定していた船を使えませんでした。トール大陸を北上し、レシオからこちらへ参りました。」
軍人は見下すような目でカイを見る。俺はその表情に苛立ちを覚えるが、カイ本人が泰然としている以上、何も言えない。
「悪いが、皇王陛下はご多忙だ。子ども一人のために時間を割く余裕は、一分たりとも無い。」
軍人は、カイの目を見ることもなく吐き捨てた。
「なんだよ、ここまで来てこれかよっ。」
俺は我慢の限界を迎え、つい大声を上げた。
「約束を違えるほうが悪い。」
軍人はとりつく島もなく、紙の束をめくる。
そのとき俺は、あれを思い出した。すぐにリュックの大事なものを入れる隠しに手を入れ、あのメモを取り出す。
「なあ、これを皇王に見せてくれよ。」
それはエルコトルで、ソロが渡してくれたメモだった。
「なんだ、これは何語だ?」
軍人が訝しげにそのメモを見る。しかし、俺はそのメモに書いてある内容が分からない。何語かさえ分からない走り書きのメモなのだ。
「諦めろ。皇王陛下は多くの味方がいるぶん、多くの敵にも狙われている。そう易々と謁見を許すわけにはいかない。」
軍人がいかにもガキを相手に、呆れたように言う。
「グランディエのティア女王陛下の、直々の命なのですが。」
カイが食い下がる。しかし、軍人は冷たく言い放つ。
「もう終わった話だ。グランディエも、敗戦処理でこんな子どもどころで無いだろう。」
カイの顔が嫌悪感で歪む。それは思った通りにいかなかったもどかしさなんて単純なものではなく、同じように国家に仕える者としての軽蔑の眼差しに見えた。
「いや、待たれよ。」
王城から、背中の曲がった爺さんが歩いて来た。杖を使って、軽やかな様子だ。しかし、その老人の登場で軍人の背筋が伸びる。
「お疲れ様でございます。メルヴィン様。」
門の前にいた軍人は、メルヴィンと呼んだ老人を向いて、一斉に手のひらを地面に向け、額に添えた。
「カイ、あれはなんだい?」
「あれは敬礼さ。どうやら、あのご年配の方は、とても高い地位にある方のようだ。」
俺が聞くと、カイも緊張感を持って答えた。確かに身なりは上品だが、威圧感のある軍人に比べて、権力のある老人には見えない。
「そこの方、そのメモを、私にも見せていただけませんか。」
メルヴィンはそう言うと、俺に向かって深々と礼をした。その仕草は、まるで自分が、どこかの貴族にでもなったかのような気分にさせられる。俺は抵抗なくメモを渡した。メモを見たメルヴィンは、老眼に苦戦しながら、眼鏡を調整してその内容を読む。そして、重たそうなまぶたを持ち上げ、大きく目を開いた。
「なんと言うことだ。どれ、その束をこちらへ。」
メルヴィンは曲がった背を少し伸ばし、謁見の予定が書かれているであろう紙の束を取り、パラパラとめくった。そして、懐からペンを出し、サラサラと何かを書き加える。
「これで良い。さあ、この四名の旅のお方を皇王の元へ…、いや、私が直々にお連れしよう。」
軍人は突然の展開に慌てふためいた。しかし、紙の束をめくり、一言呟く。
「はあ、これなら、謁見の予定に支障はありませんね…。」
メルヴィンは俺たちの前に、背筋を出来る限り伸ばして立つ。そして、蝶ネクタイをピンと整えて、改めて礼をして言う。
「申し遅れました。私はメルヴィン=スペンサーと申します。アリアレジス王家の第一執事を務めております。以後、お見知り置きを。」
俺以外はその肩書きに驚いて、丁寧に自己紹介をした。
「俺はソラ。爺さん助かったよ。ありがとな。」
俺がそう自己紹介すると、珍しくカイにまで小突かれた。俺は驚いて、なんだよと問う。
「ソラ、この方はアリアレジス王家に仕えていらっしゃる方を統括する、もっとも皇王陛下に信頼されているお方だよ。」
カイの説明に、俺は再び驚く。
「さあ、こちらへどうぞ。自慢の中庭をご案内したいのですが、なにぶん時間に限りがありますので、直接謁見の間へお連れすることをお許しください。」
メルヴィンは物腰柔らかに俺たちを王城へ招き入れた。しかし、先ほどの謁見の予定を瞬時に立て直す様を見ても、この背中の曲がった老人がただ者で無いことは、充分に伝わってきた。
王城は内部も立派だった。ホールは二階まで吹き抜けで、天井が高い。さらには天井に美しいステンドグラスがあり、昼前の城に鮮やかな日差しが降り注ぐ。
しかし、これは後になって察したことだが、この王城の造りは、あくまで敵の侵攻に備えたものだった。吹き抜けとなっているのも、城に侵入した敵を二階で待ち構えて攻撃するために計算して造られたものだったのだ。
曲がった背中に似合わない軽い足取りで、メルヴィンが階段を登る。ホールだけでも多くの軍人や侍従が行き交っており、アリアレジスに多くの人間を従える力があることが分かる。
階段を登りしばらく歩くと、門にいた軍人よりもさらに迫力のある軍人が、扉の両隣に立っていた。しかし、その軍人もメルヴィンには丁寧な敬礼をする。
「特別なお客様をお連れした。皇王陛下は、今お手隙かな?」
メルヴィンの問いに、軍人ははい、と端的に返事をする。そして、メルヴィンは扉をノックした。
「ディーン様。お客様です。ソロ様からのご紹介です。お時間はいかがですか?」
俺たちはこの日だけでも、何度も驚く。ソロが様づけで呼ばれるなんて、どういうことだろう。扉の向こうから、入れ、と声がして、メルヴィンが扉を開く。
謁見室は広く、シャンデリアで照らされた明るい空間だった。大きな円卓の奥に、背筋の伸びた鋭い眼光をした壮年の男が座っている。説明などいらない。この男が、アリアレジスの皇王だろう。
メルヴィンの後に着いて部屋に入る。すると、皇王は少し驚いた顔をして立ち上がる。その体は筋肉質で背も高く、顔も強面だ。他の軍人と同じような服装をしており、その辺の赤ん坊なら泣いてしまうような迫力がある。
しかし、その表情はどこか懐かしいものを見るような、優しさに溢れていた。直感だが、この皇王は悪いヤツじゃないと思ってしまう。
「ご紹介します。こちらがアリアレジス皇王、ディーン=アリアレジス様でおわします。」
メルヴィンの紹介を受け、ディーン皇王が礼をする。俺たちは大国の王が頭を下げるのを見て決まりが悪く、慌てて自己紹介をした。
カイは、以前ティアの護衛として着いていたことを皇王に覚えられていて、感激していた。俺の自己紹介は変わらず失礼で、三人に小突かれる。
「ディーン様、こちらのメモをご覧ください。」
ディーン皇王が、ソロの書いたメモを見る。すると、無表情で神経質そうな顔に、驚きの色が見える。そして尋ねて来た。
「このメモは、どこで?」
「エルコトルで、ソロとオルハに出会ってもらったんだ。太陽物語を見つかるヒントだと思っているんだけど、どうだい?」
俺が言うと、ディーン皇王は再び、メモを見つめる。そして、優しげな目を向けて答える。
「これは太陽物語のヒントでは無い。しかし、君たちがソロに関心を持たれた証明ではある。」
「ちなみに、そのメモにはなんと書かれているのですか?」
ユフィが興味深そうに尋ねる。
「…アリアレジス古語で、選べ、その先に暁がある、だ。それと、ソロの署名だ。」
ディーン皇王は何か大切な呪文を唱えるように答えた。なぜそれが、ソロが俺たちに関心を持った証明になるのだろう。疑問は深まる。ユフィは、さらに尋ねる。
「恐縮ですが、皇王陛下とソロのご関係は?差し支えなければ、お教えいただきたいのですが。」
「それはお答えしかねる。すまないな。」
ディーン皇王は首を横に振る。この男は大国の皇王らしく威厳を持っているが、俺たちに歩み寄るかのような、控えめなくらいの姿勢を感じさせる。
「君はどうやら、好奇心が旺盛なようだ。魔道士にとって、それは大切なことだ。」
ディーンがユフィを見て言う。ユフィは驚いて問う。
「なぜ、私が魔道士だとお気づきですか?」
「腰に下げた本から、なんとなくだが。あとは、昔、君に似た知人がいたからだ。」
ユフィはなんとなく不思議そうに俯く。そして、ディーン皇王は再び問う。
「君たちは、太陽物語を探しているのか?」
ディーン皇王に問われ、三人が俺を見る。
「俺はね。俺は形代なんだけど、姫神教とか希望教のこととか、いろいろ知りたいことが多いのさ。」
俺が話すたびに、三人の冷や冷やとした視線を感じる。しかし、ディーン皇王は頬杖をつくこともなく、姿勢良く俺に問う。
「そうか。きっといろいろ苦労も多かっただろう。しかし、知ってその先、どうすると言うのだ?」
俺は、握り拳を腰に当てて言う。
「自分がどう生きていくのか決めるのさ。形代や精霊の力は、誰かを守るために使うと前に約束した。じゃあ、どうやって生きていくかは、まだ探し途中なんだ。」
ディーン皇王は、俺の話を頷きながら聞いていた。そして、メルヴィンを近くに呼び寄せた。二人は手帳を見て、何かを確認しているようだ。やがて、互いに頷きあい、一枚の紙に何かを書いた。
「君たちさえ良ければだが、この日時と場所で待ち合わせをし、共に行きたい場所があるのだ。どうだ?」
ディーン皇王はそう言って、日時と場所の書かれた一枚のメモを渡してきた。それは、二日後の夜明けと言うかなり早い時間帯だった。俺は問う。
「どこへ行くんだい?」
「オディオの跡地だ。」
俺たちは驚くと同時に、少しの恐怖を感じた。ソクアヴェスタによって壊滅した、草木一本生えないという呪いの地。そこへ行くのも恐ろしいが、なぜそれを提案されるのか、正直訝しむ思いすらあった。
「なんでオディオへ行くんだい?」
俺が問うと、ディーン皇王は手を組んでテーブルに肘をついた。そして、そこに顎を乗せて言う。
「ソロは、私が君を試すと、そのようなことを言っていなかったか?」
そして俺はハッと思い出す。確かに、彼が君を試す、とソロは言っていた。ディーン皇王は控えめな姿勢はそのままに、俺を見定めるような目をしている。その鋭く黒い瞳は一国の主にふさわしく、多くの人間や情勢を見極めてきた、経験の深さを感じさせる。
「ああ、いいぜ。何が待ってるか楽しみなくらいだぜ。」
俺はメモを受け取り、隠しにしまった。
「そうだ、カイ。グランディエのティア女王には、君が任務を果たしたと、私から確かに書簡を送ろう。」
ディーン皇王は、元の隙の無い姿勢に戻り言った。カイは深くお辞儀をして、礼を言う。
「しかし、今グランディエへ帰るのは難しいだろう。ブランジェが港を抑えている。グランディエ国内も、敗戦処理で手一杯のようだ。だが、君の身はアリアレジス軍で引き取ろう。アリアレジス滞在中のことは心配しないでくれ。」
カイはまた、深く礼をして言う。
「重ね重ね、ありがとうございます。」
「いや、グランディエの騎士が滞在するとなると、我が軍も良い刺激になるだろう。歓迎する。」
ディーン皇王は頷きながら微笑む。この人物は、俺が思うよりもずっと懐が深く、情の温かい、立派な男なのかもしれない。
帰りもメルヴィンの導きで城門まで案内された。メルヴィンとすれ違う軍人や侍従は、お疲れ様でございます、と声をかける。そのとき、カイが疑問を口にする。
「アリアレジス城で働く方は、目上の方に挨拶はしますが、立ち止まっての敬礼はなさらないのですね。」
すると、メルヴィンは気さくに答える。
「それはディーン様のお考えでそうなりました。ディーン様がご即位される十年前までは、軍人は自分よりも階級が上の者とすれ違うときは立ち止まって敬礼、侍従の者も立ち止まって礼をするのが普通でした。しかしそれは作業効率を下げると、ディーン様自ら、その慣習を取り止めました。」
「それは大胆な改革ですね。」
カイは驚いて言う。きっと、騎士として生きているカイだからこそ分かる、大きな改革なのだろう。
「他にも、先ほど皆さんをご案内した部屋ですが、円卓を置いていらっしゃったでしょう。それも、上下関係を越えて意見を出し合えるよう、ディーン様が提案されたことです。」
俺たちはなるほど、と相づちを打つ。円卓ならば、長方形の机よりも互いの顔を見易く、誰が上で誰が下かなど、座る場所で決まるわけではない。
「ディーンは、みんなを平等に見てるんだな。」
その俺の一言に、誰よりも速くメルヴィンの杖が俺の脛を打つ。その速さは、注意しようとした三人も驚くほどだ。俺は、重い一撃に唸ってうずくまる。しかし、メルヴィンは変わらず柔らかい口調で話す。
「ソラ君、君のおっしゃる通り、ディーン様は公正さ公平さを重んじていらっしゃる。しかしそれと同時に、礼儀と作法と言う、誰もが使える洒落っ気も大切にされていらっしゃる。」
「コーセー?コーヘー?」
「まずは、礼儀と作法を身につけられるが良いでしょう。目上の方には、相応しい呼び方と口の利き方をなさりなさい。」
メルヴィンはシワだらけの顔に、さらにシワを寄せて微笑んだ。俺はその言葉を受け止めながらも、口を尖らせて言う。
「暴力は、礼儀や作法なのかよ?」
「ほほほ…、失礼いたした。ディーン様はお産まれになった頃からお世話をしているので、つい。」
飄々と歩くメルヴィンに着いて、俺たちは門へたどり着く。そして、約束の日時を確認すると、メルヴィンは王城へ戻って行った。
そこで、俺たちは思わぬ再会をする。
紅い瞳の兄妹だ。
ソロとオルハが、門の階段下にいたのだ。俺たちとオルハは、互いにあっ、と声を上げる。ソロは相変わらず陰気な雰囲気で、俺たちをなんだか眩しそうに見上げていた。
「久しぶりっ。まさかまた会えるなんて。」
オルハはニコニコ笑って、階段を降りる俺たちを迎えた。そして、互いに簡単に挨拶を交わす。
「ソロとオルハも、王城に何か用が?」
カイが尋ねると、オルハはソロを見て、ソロは俯いて言う。
「まあ、いろいろだ。」
どうやら、秘密が多いのも相変わらずらしい。オルハは微笑んで問う。
「カスガはどうしたの?」
「あいつは皇王に会うのが嫌だからってよ、茶屋で待ってるんだ。」
俺がそう答えるのを、なぜかソロが興味深そうに聞くのを、俺は目の端で見た。
「君たちは、宿は決まっているのか?」
ソロに問われ、俺たちは顔を見合わせる。カイはアリアレジス軍に合流したり、マキは劇団に合流したり、具体的に五人で行動するかは決めていなかったのだ。
「もし決まっていないなら、僕たちと同じ宿はどうだ。安くて美味しい定食屋が隣接した、なかなかいい宿なんだ。」
ソロがそう提案して来た。俺たちは、このソロと言う人物がよく分からない。人を避けているのか、求めているのか。真意が掴めない。ソロの提案に一番驚いていたのは、どうやらオルハのようだった。大きな目を丸くさせている。
「どうだろう。君たちの旅の話を聞きたい。」
ソロが再び聞いてきた。ユフィが言う。
「ディーン皇王との約束を考えると、少なくともその約束を終えるまでは五人行動だろう。その間は、その宿で過ごすか。」
確かに、と同意して、その宿の場所を聞く。
「じゃあ、また後で。」
ソロはそう言って王城へ向かった。オルハもニッコリ笑って手を振り、ソロに着いて行った。
俺たちはカスガと合流し、歩きながら王城での話をしつつ宿へ向かった。宿はソロの言った通り、主人の感じも良く、部屋も値段のわりに清潔感があった。俺は主人に聞いてみた。
「ソロとオルハは、よくこの宿を使うのかい?」
「ああ、もう六年とか七年とかかな。常連さんだよ。」
主人は軽く答える。ちょっと口の軽さが心配なくらいだ。カスガが好奇心を持って聞く。
「ソロは、ずっとあの若さなんかい?」
「ああ、ソロさんは変わらないね。ずっと老けないよ。オルハちゃんはどんどん背が伸びるのにね。」
相変わらず、謎の多い兄妹だ。
俺たちは部屋に入り、荷物を整理した。そして、宿への道で話し切れなかった王城での出来事を、カスガへ伝えた。
「ふむ、なぜオディオなんじゃろうか…。」
「ディーンが言うには、俺は試されるらしいぜ。」
その一言で、ユフィに頭を叩かれる。
「悪かったって。ディーン様、ディーン様。」
俺は頭を抑えながらも、本音としては、また五人で過ごせるのが嬉しかった。ディーン皇王に何を試されるかは気構えするが、今は五人でいることを楽しもうと思った。




