キーエールのローズ、雨の続き《ソラ》
《ソラ》
土砂降りのなか、俺たちは墓地へ向かって走った。分厚い雲から降り注ぐ雨の下、墓地は一層の不気味さを漂わせている。
「あ、あなたたち…。」
「ローズっ。」
雨でびしょ濡れのローズとダフィが、こちらを向いた。背景は灰色の墓地で、彼女のオレンジ色のワンピースと明るい雰囲気に似合わない。
「あなたたちも、呼ばれてここに?」
「呼ばれて…?」
ローズの問いに俺が戸惑っていると、墓地の大木から、三人の魔道士が現れた。
殉教の魔道士だ。眼鏡をかけた男、甲高い声の女、そして一貫して無反応の人間。
「なんで?こんなに余計な人間ばかり、あたしはローズちゃんに用があって呼んだのに。」
墓場に不釣り合いな、明るい声で女が言う。続けて、眼鏡の男が続く。
「そうですね、いま必要なのはローズ…。いや。」
男は眼鏡の位置を直し、俺たちをじっくり観察して言った。
「そうですね、そこの青い瞳の少年、あとはそこの…。」
「やめろっ。」
眼鏡の男がユフィを指差して何かを言いかけたのを、ユフィが大声で止める。こんなに必死なユフィは見たことが無い。
「まぁ、いいでしょう。今日のところは、ローズを僕たちのところへ導きます。」
眼鏡の男にそう言われて、俺はナイフを片手にローズの前に立った。
「え?おチビちゃん、そんなナイフだけで、あたしたちに立ち向かうの?」
女の魔道士が鷹揚として挑発してくる。しかし、俺は負けずに問う。
「あんたらが形代狩りの正体か?」
「形代狩り…。」
眼鏡の男が俯いて呟く。そして、俺をまっすぐに見つめて言う。
「あなたたちが、僕らをどう名称しようが構いません。僕たちは、僕たちの希望のため動くだけです。」
「希望?君たちは希望教なのか?」
カイが問うと、甲高い声の女が答えた。
「見ての通りだよ。あたしはユイミヤ。よろしくねっ。カイくん。」
「どうして、僕の名を?」
驚くカイをよそに、ユイミヤは俺たちの名前を次々と言い当てた。
「な、なんで私たちの名前が分かるの?」
「ふふっ、殉教の教えに不可能はないの。」
戸惑うマキに、ユイミヤが余裕たっぷりに言った。そして、眼鏡の男も名乗る。
「僕はアルタビル。希望教徒で、殉教の魔道士です。先ほども言った通り、ローズを僕たちの元へ導くために来ました。」
「なんで私を?」
「迎えに来たよ、ローズ。」
突然、俺たちや魔道士たちと別のところから男の声がした。そちらを向くと、ローズと同じ髪色の男と女が立っていた。
「お父さん、お母さん…?」
ローズが驚いて、震えた声でそう言った。言われてみれば、それぞれの面立ちはローズと似た部分がある。
「じゃが、ローズの家族はもう…。」
カスガと同じ疑問を、俺たちも抱いていた。しかし、ローズの父と母はそこに居て、俺たちと同じように雨に打たれている。
「寂しかったでしょう。これまで頑張ったね。これからは一緒に暮らしていきましょう。」
ローズの母は、優しくそう呼びかけた。そのとき、父と母の後ろから、三人の幼い子どもたちが顔を出した。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん…。」
「惑わされるな、ローズ。」
ユフィが大声で遮る。さらに、ダフィも激しく吠えている。
「聞いたことがある。殉教の教えに、死者の魂を操る魔道があると。そして、それは姫神教によって【禁術】とされているはずだ。」
ユフィが嫌悪感を持って、説明した。
「死者の魂…。」
ローズが小さく呟く。すると、ユイミヤが甲高く笑って言う。
「へぇ、ユフィくん、詳しいんだ?その通り。この人たちは、ローズの家族そのものだよ。」
そう言われて、俺たちはゾッとした。そして、今、俺たちがいる場所を考えた。
「あたしね、声が聞こえたの。ローズちゃんを心配する声が。一人生き残って、ひどい扱いを受けているローズちゃんをみんな心配してたよ?」
ユイミヤはそう話しながら、ローズの家族の元に近寄って、話を続けた。
「だから、呼び覚ましたの。骨はお墓にあるでしょ?あとは、お肉はその辺の家畜をちょっと借りてね。まぁ、返せないけど。」
ユイミヤは両腕を広げ、呼び覚ましたというローズの家族を見せつけるように話した。その表情は、スリの成果を自慢する孤児のものと似ていた。
「どう?素敵でしょ?私たちと一緒に来たら、いつでも会わせてあげるよ。ローズちゃん。」
俺たちは、信じられないものを見ている。と言うよりも、おぞましい。禁術とされている理由が、感覚として理解できる。
これは、命を弄んでいる。
俺たちが反論する意識を忘れている間に、アルタビルが言う。
「僕たちとしては、ローズ、あなたを希望教へ導きたい。希望教は今、新たに生まれ変わっている途中なのです。多くの形代を導き、その力を集めています。正しく形代の力を使い、尊厳を持って生きられる。そんな世界を、ともに目指しませんか。」
ローズに投げかけられたその言葉は、そのまま俺に響いた。ソクアヴェスタとそれが信仰した希望教への抵抗感は、今でもある。
しかし、馬鹿にされてきた俺の力が正しいものとされ、当たり前に生きられる。そんなことが叶うなら…。
俺がそんな誘惑に揺れていると、ローズが家族の方へ歩き出した。俺たちは、静かに見ることしかできない。そして、ローズが家族の前で立ち止まった。
「お父さん、お母さん、こんな髪や目の色だったんだ…。私と同じ色だね。写真は白黒だから、初めて知った…。」
そう言って、次は幼い兄弟を見た。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、こんなに小さいのに亡くなってしまったんだ…。私まだ小さかったから、大きく見えたんだけどな…。」
ローズはしばらく、家族を見つめていた。呼び覚まされた家族は、ローズの名を口々に呼んでいる。ユイミヤが、変わらない明るい口調で話す。
「今はまだ宿した魂が不安定で簡単な話しかできないんだけどね、時間をかければもっと家族っぽい話もできるようになるよー。」
ローズがユイミヤを見る。
「ユイミヤ、家族が亡くなったのは私が物心つく前だったから、なんだか初めて会った気分よ。」
「うふふ、すごいでしょ?こんなことが出来るのも…。」
バシン。ローズがユイミヤの左頬を、鋭く叩いた。
「すごくなんかないわ。許さない。ユイミヤ、あなたは私の数少ない思い出も、家族の魂も汚したのよ。家族は神海で、穏やかに過ごしているはずだったのに。」
ユイミヤが、茶色の瞳を丸くして、震えながらローズを見る。
「これは、私の家族じゃない。早く元に戻して、お墓に眠らせて。早く。」
ローズが怒りながら、ユイミヤの肩を強くつかむ。
「僕らに着いて来る気はないと?」
「あるわけないでしょう。こんな人としての道を外れた魔道を、平気で扱う人なんかに。」
アルタビルの問いに、ローズは毅然として答えた。
「嫌い。」
「え?」
「大嫌い、大嫌い、大嫌い、大嫌い、大嫌い…。」
ユイミヤが俯きながら、鋭い声で繰り返す。そして、ローズの手を強く振り払い、大声で叫んだ。
「あたしの魔道を否定するヤツは、大嫌いっ。」
すると、今まで無反応を貫いていたもう一人の魔道士が、突然動き始めた。その動きは俊敏で、カイやカスガが止めようと踏み出すよりも早く、ユイミヤの後ろへ立った。そして、黒づくめの衣装を脱ぎ捨てた。その姿に、俺たちは声を上げてしまう。
肌がツギハギで縫い合わされ、両目は大きさも色も違う。それが人間でないことは、一目瞭然だ。
「この子はカダベル。あたしの自信作。」
カダベルと呼ばれたそいつは、小さく呻き声を上げる。ローズはその姿を間近にし、固まってしまっている。
「ローズちゃん、あなたの家族、もらっちゃうね?」
ユイミヤはそう言うと、聞いたことのない言葉を呟き始めた。魔道の詠唱だ。
「やめてっ。」
得体の知れない魔道だが、あなたの家族をもらうと言う言葉、そして、ツギハギ人間のカダベル。何が起こるか想像はつく。
ローズがユイミヤを止めようとすると、鋭い棘がローズの足を刺した。ローズが悲鳴を上げて、雨に塗れた地面に転ぶ。
「申し訳ないが、希望教に従わない形代は始末することになっているんです。その力を、姫神教に利用されるわけにはいかないので。」
アルタビルが淡々と話す。彼の両腕に彫られた刺青が、禍々しい光を放っている。
「ローズっ。」
俺はローズの方へ駆け出した。しかし、黒い壁が立ちはだかる。影だ。それは高く伸びた、大きな影だ。
「ちくしょう、こんなときにっ。」
「違う、ヤツの魔道だ。」
焦る俺に、ユフィが言った。
アルタビルを見ると、彼の右手から赤い糸のようなものが、これも禍々しい光を放ち、俺の目の前の影に伸びていた。そして、アルタビルが左手をあげると、さらに糸が数本伸び、影も増えた。
「まるで傀儡師だわ。」
マキはそう言うと、笛を構えた。カイとカスガも武器を構え、ユフィも本を開いた。
「この影を潜り抜けて、ローズを助けよう。そして、ローズの家族も。」
カイがそう言った。ローズを助けるのは当然だ。そのうえで、ローズの家族を助けるのは、ローズの思いを守ることになる。
「ユフィは光の魔道を、僕とカスガは影と戦う。そして、隙を見てローズを助ける。マキは補助魔道を。」
カイの素早い指示に、それぞれが返事をする。
俺は悔しい。ローズの危機を前に、何もできないなんて。
カイとカスガは、影を次々と切った。アルタビルが呼ぶ影は、旅の途中で襲いかかってくる影と変わりはなく、難なく切れるようだった。
「よし、いけるっ。」
途切れることなく湧き出る影の隙間を、カスガが見つけた。そして、一気に走り出す。
「させません。」
アルタビルが冷たく言う。そして、彼から伸びた数本の糸が一つの太い糸になると、大きな影がカスガの行手を阻んだ。
カスガは小刀を振る。しかし。
「なんじゃ、こいつ、硬いっ。」
大きな影にあてた小刀は、まるで石を切ったような音を立てた。すると、反撃とばかりに、影はまるで両腕を広げるような形となった。両腕の先端が鋭い槍のようになり、カスガ目掛けて振り下ろされる。そこに、美しい旋律が響く。槍は分厚い壁に弾かれた。
「助かったぞ、マキ。」
カスガはそう言って、大きな影への攻撃を試みる。しかし、またも石を切るかのような硬さに守られた。
「どうやら糸が太くなると、それに繋がる影も強力になるようだ。」
「ご名答です。」
ユフィの分析に、アルタビルが返した。
「数で攻める影と、一体でも強力な影。それぞれに、どう対応しますか。」
カイには途切れることのない影からの八方からの攻撃、カスガには攻めも守りも強力な一体の影、ユフィの光の魔道はまだ完成しない。マキは、カイとカスガそれぞれを見て、短い旋律で結界魔道や補助魔道を繰り出す。
俺は、悔しくて、情けない。
仲間が苦戦をして、ローズが傷ついて動けない。ローズの家族は、その姿を歪めている。ユイミヤの魔道が組み立てられ、カダベルの一部になろうとしているのだ。
俺はぶつけようのない、あらゆる怒りを、自分へのいら立ちを拳にして地面にぶつけた。俺のなかに、黒い感情が広がる。
そのとき、声をがした。
〈あなた、なんでそんなに悲しんでいるの?〉
ハッと息を飲んだ。火の精霊と話したときと同じ感覚だ。俺は縋る思いで叫んだ。
「俺はソラっ。あんたは何の精霊だい?」
〈私は雨の精霊。あなたが悲しそうで、気になったの。〉
「雨…。」
確かに、俺は悲しい。怒りと同時に、こんなにも無情な世界への悲しみを、ずっと持ち続けていたように思う。
〈私でよければ、涙を隠すお手伝いをするわよ。〉
しかし、俺に泣いている時間などない。
それに俺には、静かに働く野生の勘があった。
「いや、俺は泣かない。その代わり、あんたの力を貸してほしい。」
〈私の力?私には、降り注ぐことしか…。〉
「それでいいんだ。頼む。」
〈いいわよ。ただし、正しいことだけに力を使って。破ったら、あなたを濁流で飲み込むわ。〉
正しいこと。
姫神教と希望教。形代と、それを差別する者。殉教の魔道士と、それと戦う俺たち。
世界には知らないことばかりだ。俺だけで正しいかどうか、決められないこともある。でも、この瞬間は…。
「いいぜ、俺は濁流に飲まれても、守りたいものがあるんだ。頼む。」
〈あなたの覚悟、気に入ったわ。〉
俺が天高くナイフを掲げると、切先に光る一滴の雫が伝った。そして、俺の中心に静かな泉が生まれた感覚がした。
「ありがとよ。早速頼む。リオート・ダーシチっ。」
俺がその呪文を唱えると、カスガが相手をする大きな影に、細い氷の雨が降り注いだ。
「結合魔道っ。」
ユフィが驚いて叫ぶ。
俺の狙い通りだ。雨に精霊が宿っているなんて思わなかったが、その存在を知り、俺の勘が働いたのだ。どうやら、俺に元々宿る氷の精霊と相性が良いようだ。
ユフィが俺に呼びかける。
「ソラ、詠唱をして、魔道をもっと組み立てるんだ。より鋭く、密度のある氷の雨を作れ。」
「え、詠唱なんて、どうやって…。」
「それは、お前のなかの精霊が教えてくれる。」
そう言われ、俺は火の精霊と戦ったときのことを思い出しながら、想像力を働かせる。より鋭く、より密度の高い、氷の雨…。
すると、俺のなかの精霊が問いかけてくる。
〈お前が守りたいものはなんだ?〉
〈あなたはなぜ、戦おうとしているの?〉
それは、聞いたことの無い声だった。どうやら俺のなかには、俺が思う以上の数の精霊がいるらしい。
「俺は、仲間を守りたい。そして、旅を続けるために戦う。」
〈あなたの仲間は正しいの?〉
「正しい。ローズを助けようとしている。」
〈でも、希望教は他の形代を救おうとしてるよ?〉
「でも、その希望教が、ローズを殺そうとしている。」
〈君の目の前で起きていることなんて、世界のほんの片隅での出来事に過ぎない。〉
「俺にとっては、大きな出来事だ。」
〈人間は、間違う生き物だからね。〉
〈ソラ、君を信じていいの?〉
「…間違う人間は、たくさんいる。俺だって、間違えてばかりだ。でも。」
俺は、大きく息を吸った。そして、覚悟を固めた。
「俺は、傷つく人を守る。そして、その道を正しくしていく。頼む、力を貸してくれ。」
すると、ナイフの切先が強く光った。
「ありがとよ。リオート・ダーシチっ。」
再び、氷の雨が影に降り注ぐ。それは一本一本が鋭く、大きな影を引き裂いた。
「できた。」
ユフィがようやく呟くと、手の上の本が宙に浮かび、輝いた。
「影よ、神海へ還れ。エードルム。」
輝きが一本の線となってアルタビルの目の前に伸びると、眩く光った。あまりの眩しさに影は一掃され、アルタビルも手で目元を覆って怯んだ。
「今だっ。」
カイとカスガがローズの元へ走る。しかし。
グシャッ。何かが潰れる音がした。
カダベルと呼ばれたあの人型のツギハギは、戦闘前よりも二回りくらい大きくなっており、腕なんかは子どもの胴体くらい太くなっていた。そして、カダベルの岩のように大きな拳は、地面についていた。雨と泥で塗れた地面でも分かる。
血の赤が見えた。
ローズの悲鳴が、夜の雨を引き裂く。
「ダフィっ、ダフィーっ。」
ユイミヤの甲高い笑い声が響く。
「あーはっはっ、私のカダベル、もっと強くなっちゃった。ありがとう、ローズちゃん。」
カダベルの、ダフィを潰しているのとは反対の手が振り上げられた。その手は、鋭い剣の形をしている。
「そして、さよなら。」
ユイミヤの声とともに、手が振り下ろされる。
「待てぇっ。」
カイとカスガが力の限り、体をぶつけた。しかし、カダベルは重く、少しも怯まない。
剣は、ローズの足を切り落とした。
「ローズっ。」
俺の呼びかけをかき消すような、ローズの痛ましい叫びが反響する。すぐにカスガが駆け寄る。
「予想外に手こずりましたが、最低限の目的は果たしました。身を引きましょう。」
アルタビルが淡々と言う。
「まぁ、私はカダベルが強くなったから満足っ。」
ユイミヤは、泥を跳ね上げるように飛び跳ねた。
「僕たちの行手を阻むのであれば、また対立するでしょう。そのときは、今回のようにはいきません。それでは。」
アルタビルが影を傀儡のように操ると、三人は夜に溶けるように消えていった。
「ローズ…。」
マキが心配そうに名を呼ぶが、ローズは反応しない。
「カスガ…。」
俺たちはカスガを見るが、彼は強張った表情で、静かに首を横に振った。
「写真…。」
ローズがようやく、言葉をこぼす。俺たちは耳を澄ませた。
「下…。てが…。」
カイが支える、ローズの頭が下へ垂れた。
誰も、何も言えなかった。
昨日は親しく話した人が、死んだ。その目の前の事実を受け止めるための時間が、一瞬のようにも、永遠のようにも感じた。
カスガがローズの目を、そっと閉じた。
すると、マキが静かに立ち上がり、笛に口を添えた。そして、美しい曲を奏でる。
「死者を送る、鎮魂曲か…。」
カイが呟く。
魂を鎮める曲。それは美しくも、悲しい、けれど温かい。不思議な曲だった。
しかし、俺には何かが震える気配を感じた。
「ローズ…?」
ローズとダフィの死体から、光のかたまりが浮き上がる。それは、鳥の羽をつけているように見えた。
「精霊だ。」
俺はそれを、精霊だと感じ取った。
「魂は、生物に宿る精霊の集合体だといわれる。しかし、まさか目に見えるとは…。」
ユフィの説明とともに、その魂を目で追う。魂はまるで舞うように、鎮魂曲を奏でるマキの周りを回ると、遠くへ羽ばたいた。
「どこへ行くんだろう。」
俺がそう言うと、カイが小さく、神海と呟いた。そして、続けて言う。
「魂の飛んだ方向に、海がある。きっと、神海へ向かったんだ。」
神海。俺はその存在が、疑わしかった。
けれど、今は信じたい。縋りたいほどに。
差別を受け、それでも笑って生き、痛ましい最期を迎えたローズ。せめて、ダフィとともに、美しい神海へたどり着いてほしいと心の奥底から思うのだ。
やがて、マキの奏でる鎮魂曲が終わった。マキは、魂が羽ばたいた方を見つめている。
「マキ、今の力はいったい…?」
ユフィが不思議そうに問うと、マキが答えた。
「私の、天から与えられた役割と聞いているわ。それ以上は分からない。」
その言葉を最後に、俺たちは何も話さなかった。
雨は降り続いた。互いの顔を見ても、涙を流しているかは分からないほどに。




