紫の国カルデア、赤い瞳の少年《ソラ》
《ソラ》
野原に座り、俺は考えを巡らせた。それは時系列順でもないし、自分に大きな衝撃を与えたものからでもない。ただ取り留めなく、浮かんでくるものと向き合った。
憎いもの…。形代、ソクアヴェスタ、奴隷を使うヤツ、キイナたちを追い詰めたヤツ、盗賊、形代狩り、影、子どものころ俺をタコ殴りにしたヤツ、空腹、俺の小銭を奪った太った孤児…。
こうして並べてみただけでも、時系列がぐちゃぐちゃで混乱しているのが分かるだろう?
十二歳で世間知らずの俺には、善悪の分別さえつかない出来事ばかりだった。
ふと気がついて、懐から十字架を出した。俺の母が作ったという、形の悪い十字架。顔も知らない母親は、どんな人だったんだろう。そして、どんな思いでこれを作り、孤児院へ俺を預けたのだろう。
俺を今の俺にした過去、そして、今の俺の手に届く範囲で起きた出来事。それらに整理をつけないと、あの四人と旅を続けられる自信がないし、明日から目まぐるしく起こるであろう出来事に対峙できない気がした。
でも、野原に座っている俺には何一つ、上手く整理できていない。動けずに、ただ風が吹くのを感じていた。
「何してるの?」
突然、少年の声がした。俺は考えに沈んでいたので、あまりの不意打ちに驚いて声を上げた。
「あっはは、ごめんごめん。びっくりさせちゃった?」
初めて見る少年だった。というよりも、異様な姿の少年だった。
服は全て真っ黒で、俺と同い年くらいだが、目元には赤い化粧をしている。髪は薄い紫で、目は血のような赤色だった。そして、長袖からのぞく手の甲には刺青が入っている。
「じゅ、殉教の魔導士?」
俺がそう口にすると、少年はニコニコ笑って答えた。
「そうだよ。僕らのこと知ってるんだ?嬉しいなぁ。」
想像していた殉教の魔道士と、随分イメージが違う。真っ黒な服に似合わない笑顔をずっと浮かべ、声はボールが弾むように明るい。
「僕はヒュー。希望教徒で、君の言う通り殉教の魔道士さ。君は?」
「お、俺はソラ。旅の途中、この街に寄ったんだ。」
ヒューは、軽やかな仕草で手を差し出してきた。俺は妙に刺々しい刺青の模様にためらいながら、その手を握り返した。
「ソラかぁ。いい名前だね。ここで何してたの?」
「特には。ただの考え事さ。」
「考え事かぁ。悪いもんじゃないよね。ソラは今、新しい自分になるために成長してるんだねぇ。」
ヒューはそう言うと、俺の周りをクルクルと舞うように歩いた。その動作も言葉も、俺の調子を狂わせる。
「成長?そんないいもんじゃないぜ。俺の周りは憎いものばかりで、頭の中はドロドロしてんだ。」
俺がそう言うと、ヒューは立ち止まって俺を見た。
「え?ソラ、希望教徒じゃないの?その十字架持ってるから、僕と同じだと思ってた。」
「信仰なんてないさ。これは俺の母親が、俺に持たせただけのものだからよ。」
顔も真意も分からない母親を想像しながら、しかし何一つ思い描けない心細さとともに、俺は呟いた。ヒューは距離を詰めてきて、俺の手の中の十字架を覗き込み言った。
「お母さんは、ソラの幸せを願ってこれを持たせてくれたんだねぇ。」
幸せ。よく耳にはするが、実態の掴めない言葉。
「なんで、そう思うんだい?」
俺はなんだか、細く垂れた救いの糸を掴みたい気持ちでヒューに問う。
「だってさ、手作りの十字架を持たせるんだからさ、女神ルイゼ様の加護を願っているわけじゃん。」
それを言うと、ヒューはそれに、と言って舞うように立ち上がった。
「ソクアヴェスタ語でソラはね、《夜明けへ進む》って意味の言葉なんだ。」
「夜明けへ、進む…。」
それを聞いて俺は、キュリアのことを思い出した。名前は宝物にあげる最初のプレゼント。
俺の母親は、俺に夜明けへ進んでほしいと思っていた?それってどういうことだろう。
「希望教はね、厳しい試練や修養を乗り越えて、女神ルイゼ様が世界へ捧げた、偉大なる愛と希望に近づくというのが考えの根幹にあるんだ。ソラはきっと、試練や修養の機会を与えられているんだね。」
ヒューはそう軽やかに説明するが、俺は反発する。
「だからよ、俺は信仰なんて無いんだって。むしろ、希望教なんか憎いくらいさ。」
俺がそう言うと、ヒューは赤い目をまん丸にして驚いた。
「憎い?なんで?」
「これを見なよ。」
俺は片方の靴を脱いで、水色の足を見せた。
「へー、ソラ、精霊の形代なんだぁ。」
「そんなに喜んで言うことじゃねぇよ。形代を作ったソクアヴェスタも、そこが信仰していた希望教も大っ嫌いだ。」
俺が靴を再び履くと、ヒューは一段と笑顔を明るくし、そして靴を脱いだ。
水色の足をしていた。
「…ヒューも?」
俺が驚いてヒューの顔を見ると、ニッコリと笑った。そして、靴を履きながら話した。
「形代はね、女神ルイゼ様からの賜り物さ。僕たちは生まれながらにルイゼ様の加護を受けた、幸せな子どもたちなんだ。」
「俺はこの水色の足のせいで、馬鹿にされて生きてきたぜ。」
「それは世界が間違っているのさ。」
俺の言葉に、ヒューが間髪入れずに答えた。笑顔は浮かべながら、赤い瞳は鋭く光る。
「ソクアヴェスタが精霊戦争に勝利していれば、僕らは今頃、神の使いのように崇められているはずだよ。でも敗戦してしまったから、差別を受けている。弱い人間は、何かを恨まないと生きていけないからね。」
確かに、そんな可能性もあったのかもしれない。
しかし俺にはそんな可能性よりも、最後の言葉が刺さってしまった。弱い人間は、何かを恨まないと生きていけない。それは、俺のことだ。
「でもね、僕は違うよ。」
ヒューはそう言うと、軽やかに野原を踏んで歩いて言った。
「形代だとか、殉教の魔道士とか、僕はたくさんの冷たい目で見られている。でもそんなの、小さな試練に過ぎない。僕はもっと、先の景色を見たいんだ。たくさん勉強して修養して、強くなる。そして女神ルイゼ様に近づいて、多くの形代たちを導く希望になる。」
そんなこと、考えたことなかった。
俺は狭い貧民街で、自分のことしか考えていなかった。ナイフと氷の魔道で強くなったつもりになり、旅に出てからも、自分のことすらままならず、明日のことも全て四人に任せている。
「なーんてね。僕、かっこいい?」
ヒューが笑顔で、わざとらしくこちらを向いた。
「ああ、すげぇよ。かっこいいと思うぜ。」
俺は素直にそう答えた。
「えー、かっこいい?は冗談で言ったんだけどなぁ、照れちゃうよ。」
ヒューは照れ臭そうに頭を掻いていた。俺は、一つの疑問をぶつけてみることにした。
「でもよ、なんで殉教の魔道士なんだい?」
ヒューの笑顔がまた、笑顔はそのままに赤い目が鋭く光る。
「俺の同行者が言ってたぜ。殉教の教えは、何かを犠牲にして相手に悪影響を与える、厄介な魔道だって。修養とやらをして強くなるのはいいけどよ、なんでよりによって、殉教の魔道士なんだい?」
俺の質問に、ヒューはうーん、と少し悩んで、こう答えた。
「惚れちゃったからかな。」
「ほ、惚れた?」
予想外すぎる答えに、呆気に取られてしまった。
「うん、他の魔道ももちろん触れたんだけど、殉教の教えが一番面白くて魅力的だったんだよね。」
「魅力…?」
話について行けない俺をよそに、ヒューは話を続ける。
「殉教の教えはね、決まりでどういう魔道か、その道を進む者にしか教えちゃいけないんだ。だから、その魅力については内緒さ。でも僕は、もうあまりの奥深さにすっかり虜になっちゃってさ。寝ても覚めても、殉教の教えのことばかり考えちゃう。恋ってしたことないけどさ、きっとこういう気持ちなんだろうね。」
そう語るヒューの表情は、目をキラキラと輝かせていて眩しい。大好きな薬草の知識を語るカスガや、大好きな音楽を語るマキと同じ表情をしていた。剣の素振りをするカイや、本を読むユフィもこんな顔をしていた気がする。
「なんか、ヒューが羨ましいよ。」
気づいたら、そんなことを呟いていた。ヒューは不思議そうに俺を見つめる。
「俺にはヒューみたいな夢とか目標もないし、そうやって夢中になれるものもない。何の力も知識もなくて、守られてばかりだし。俺は、ヒューが羨ましい。」
そう、俺は旅立って以来、自分にないものばかりを見つけてしまっている。
「僕は、君のその青い瞳が羨ましいよ。」
ヒューがポツリと、彼らしくない暗い声で呟いた。驚いて顔を見ると、やはり初めて見る物悲しい表情だった。赤い瞳が陰っている。
「僕は希望教徒だけどね、希望教の教えにはあれしなさいとか、これしなさいっていう説教は無いんだ。姫神教とかにはあるらしいけどね。」
ヒューは遠くの景色を見て語る。その口調には、いくらか明るい調子が戻っていた。
「その代わり、女神ルイゼ様や英雄たちの物語を読んで、生き様を学ぶんだ。そして、自分の力で見つけるのさ。自分らしい生き方をね。」
「自分らしい、生き方…。」
俺がそう呟くと、ヒューは笑顔を取り戻して言った。
「ソラも見つかるよ。自分らしい生き方。」
繰り返し言うが、俺は神なんて信じない。
けれど、希望教のその姿勢はどこか共感できるし、ヒューの言葉に、明日に対する期待が湧き上がった。
「…ああ、なんかさ、元気出たぜ。ありがとよ、ヒュー。」
俺が握手をしようと片手を差し出したら、ヒューがガバッと抱きついてきた。俺は戸惑いと恥ずかしさで、手をバタバタと動かした。
「な、なんだよ、ヒュー。やめ…」
「ソクアヴェスタが甦る。」
ヒューが小さく、そう呟いた。
突然の言葉に、俺は何も反応ができない。
「ソクアヴェスタが甦る。僕たちは、そこへ帰ろう。」
それは、ほんの一瞬かのような数秒だったが、俺は息が止まり、混乱した。
「ソラ、またねぇ。」
固まったままの俺から軽やかに離れると、ヒューは俺の背後へ去っていった。
「ひゅ、ヒュー、今の…。」
急いで振り返ったが、ヒューの姿は無かった。街へ続く道は、見通しがよく伸びているはずなのに。
まるで、夢だったみたいだ。軽やかなヒューも、最後の言葉も。
そんなことを考えていたら、夕方の鐘が鳴ってしまった。ユフィたちと約束した時間を過ぎてしまった。
俺は走って、宿へ向かった。
宿に着いたときには、急いで走ったあまり、息が切れていた。俺は急いで扉を開けた。
扉に着いたベルが、カロンカランと鳴る。四人がいた。宿のロビーに並ぶソファに四人が座っていて、俺のほうを見た。
「ソラ。」
マキが優しく微笑む。しかし、俺は肩で息をして、硬い表情で下を向いて立ち止まっている。
「…ソラ?」
マキの心配そうな声がした。
「…ごめん、夕方の鐘までに、帰れなくて。」
俺はやっとの思いで、その言葉を振り絞る。
「少し心配したぞ。」
ユフィが冷静に返した。
でも、俺には他にも言うこと、言わなくてはいけないことがある。まだ口元を引き締めたり緩めたりする俺を、四人が見つめる。
「…ごめん。いろいろ、全部…。ヴェーゼンで、カイに酷いこと言ったり…。変な態度取ったり…。ご、ごめん…。」
本音からの謝り方なんて、知らなかった。教わったことがなかった。
心の奥底にある、本当の気持ちを形にして伝えるって、なんて難しいんだろう。それに形にはしてみたものの、俺はなんて下手くそなんだろう。
自分が何も身につけていないような心細さと頼りなさで、それに喉は震えて苦しくて、今にも逃げ出したい。
「ソラ。」
俯く俺の視界に、剣でできたマメだらけの手がヒラヒラと揺れる。唇を噛み締めて、顔を上げると、カイが微笑んでいた。
「ちゃんと伝わったよ。ありがとう。」
ヒラヒラと揺れた手が、俺の腕をポンと優しく叩く。そこで初めて、俺は千切れそうなくらい、強く拳を握りしめていたのに気がついた。
「よっしゃ、飯でも食いに行くかのぅ。」
カスガが元気良く立ち上がる。マキとカイがいいね、と声を上げ、ユフィも静かに微笑む。
俺は体の芯から、ジワっと何やら温かくなるのを感じた。喉は変わらずに震えて苦しい。まだ唇を噛み締めている。
でも、これはきっと、悪い感情じゃない。今は分からないけど、いつかこの感情が何か、分かるようになるはずだ。
宿を出て定食屋に入った。アルデールはカルデアの王都から離れたところに位置する街だが、隣国ルグレシアが近いからか、定食屋には旅人が多いように感じた。もちろん常連らしい客も多くおり、店員と世間話をする様子もあった。
俺はヒューの姿を探した。あんなに印象的だったのに、夢のように消えた不思議な少年。
それに、最後のあの言葉の意味を聞きたい。
《ソクアヴェスタが甦る》
改めて思い出すと、ゾッとする。甦ったとして、何が起こるのか?そもそも国が甦るなんて、そう簡単なことじゃないだろう。
あれこれ考えたが、カスガに注文を決めるように促され、俺は壁のメニュー表を見た。四人が教えてくれたおかげで、俺は文字を読めるようになっていた。気になるメニューは四人に聞き、俺はトマトの入ったグラタンを注文した。
料理はすぐに運ばれてきた。
「いただきま…」
「あっつ、美味ぇっ。」
俺はまた挨拶の前に食べてしまった。四人はあーあ、と残念そうにしている。
「おい、食べるのは挨拶してからだ。」
「あとね、スプーンはこう持つのよ。」
ユフィとマキが注意するが、俺は口に入りゃ関係ねぇ、と返した。
「なんだか調子が戻った感じがするね。」
「まぁ、まだしつけは必要じゃがのぅ。」
そう言って笑うカイとカスガを、ユフィが、笑って許すなよ、と注意した。
久しぶりに、他愛のない話で盛り上がった。それぞれの仕事や、趣味、国のこと。特に、カスガはメウィティカ、ユフィはジオリダムと、俺の知らない国だ。
俺はメウィティカのことを聞いてみた。
「メウィティカはのぅ、良く言えば歴史がある、悪く言えば古臭い。それに、良く言えば多民族国家、悪く言えば王朝による支配的な国家じゃな。」
俺が分からず眉をひそめていると、カイが補足した。
「世界で一番最初に出来た国は、ヴァルクシェンナとソクアヴェスタ。でもその二国は滅びてしまったから、今一番古くからある国はリベリア。その次に古くからあるのはメウィティカと言われているんだ。」
俺が理解をして頷くと、マキが補足する。
「でもね、リベリアは政治の中心となる王家とかが何回も変わっているの。戦争や革命、コーダのような政変でね。それに比べて、メウィティカは何千年も同じ血筋の王朝がずっと政治の中心となっているの。世界一歴史の古い王朝なのよ。」
「ちなみに、グランディエは建国三百二十一年。」
さらにカイがそう付け足したので、俺は驚いた。というよりも、何千年という歴史を想像できない。そんな俺に、ユフィがさらに補足する。
「さらに言うとメウィティカは、メウィティカという大陸全てを、その王朝が治めている。メウィティカ大陸には、小さなものも含めると何百という民族が暮らしているという。世界一の多民族国家だ。」
「へー、つまり、でけぇ大陸丸々を一つの国が持っている。そのなかに何百もの民族が暮らしている。それを、何千年と続く王朝?とやらがまとめている。そういうこと?」
俺がそう噛み砕くと、カスガ以外の三人がそうそう、と頷いた。
「そんな大したもんじゃなかろうよ。」
俺たちは、意外そうな目でカスガを見る。温厚なカスガが否定的な意見を口にすることなんて、滅多にない。
「その何千年と続く王朝を守るのに、汚ねぇことなんざいくらでも起きとるし、何百ある民族みんなが納得しておるわけでもねぇ。歴史だけが古くて、無駄に高くなってしもうた誇りを保つために、見てくれや面倒な儀礼ばっかりこだわっておる。誠、つまらん国じゃよ。」
あまりの全否定な意見に、俺たち四人は顔を見合わせる。俺たちが知らないカスガの顔だ。そんなにも、自分の生まれた国が嫌いになるのだろうか。
しかし俺にはどこか、カスガの漏らした言葉は、自分に対する卑屈な気持ちが滲み出ているように感じた。
すると、自分の言葉で場の空気を悪くしてしまったことに気づいたカスガが、わざとらしくニカっと笑って言った。
「おしまいじゃっ。メウィティカなんかの話をしとったら飯が不味くなるわっ。ほれ、食うぞ食うぞ。」
見るからにカスガは慌てている。俺たちも無理に笑って、飯を食べ進めた。
その後は特に、誰も何も話題にすることは無かった。俺も、ヒューのことは話さなかった。と言うよりも、話したくなかった。
まるで夢のような出来事だったし、なんとなく、胸に秘めておきたい気持ちがあったのだ。
宿に戻り、明日の道のりを確認した。話の最後に、ユフィが言った。
「ソラ、明日からは本格的に魔道の勉強を進めるぞ。まずは、自分の適性を知るところからだ。」
俺は嬉しくて、大きくうん、と返事した。ヒューとの話のなかで感じた期待が、形になっていく予感がしたのだ。
俺たちは、ベッドに入って寝ることにした。
俺は夢を見た。いや、夢でも耳に響いた。
《ソクアヴェスタが甦る》
《僕たちは、そこへ帰ろう》
ガランガラン。
「な、なんだっ。」
「もう朝か?」
あまりに大きな鐘の音で、俺たちは飛び起きた。ただの時間を告げる鐘じゃない。もっと、必死に何かを訴える鐘の音だ。
「事件だーっ。教会前ーっ。教会前ーっ。」
鐘を鳴らす鐘楼守の大声が街中に響く。俺たちは、窓から教会前を見た。
「殉教の魔道士だ。」
ユフィが呟く。
ヒューもいる。殉教の魔道士は四人。みなフードを被っていたが、ヒューのあの赤い瞳が見えた。
俺は上着を持って、急いで靴を履いて外へ出た。カイたち三人が止める声がした。廊下に出ると、隣の部屋に泊まっていたマキがいたが、横をすり抜けて走った。
時間はまだ夜明け前。なぜそんなにも、何かに引かれるように駆け出してしまったかは分からない。
けれど、何かが、俺の手を引いている。
そして、俺は忘れられない瞬間を迎えることになるのだ。




