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COPYRIGHT LIBERTY  作者: 神代零


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2/11

第二話 「地下創作圏」

 指定された座標は、東京湾旧湾岸区画――第七码頭跡地を指していた。


 現在時刻、午前三時十一分。


 終電も終わり、人影はない。


 海風だけが、錆びた高架橋を鳴らしている。


「……本当に来ちまった」


 天城ユウトはスマートグラス越しに周囲を見回した。


 湾岸地区は二〇三〇年代の大規模情報災害以降、半封鎖状態になっている。


 理由は単純。


 監視網が不安定なのだ。


 国家AI《MUSE》による観測精度が低下する。


 そのため都市機能は縮小され、今では廃棄区画同然だった。


 ユウトはスマートグラスへ表示された座標を再確認する。


【TOKYO UNDER ARCHIVE】


【接続地点:半径10m】


「……何もないじゃねえか」


 古びたコンテナ。


 割れた道路。


 崩れかけた防波壁。


 地下創作圏なんて、どこにも存在しない。


 そう思った瞬間。


 視界がノイズ混じりに歪んだ。


「っ……!?」


 空間そのものが揺れる。


 違う。


 認識がズレた。


 次の瞬間。


 目の前の景色が変わる。


 廃墟だった空間に、巨大なホログラム広告群が浮かび上がっていた。


 ネオン。


 電子看板。


 違法配信。


 匿名投稿。


 大量の立体広告が夜の海を染めている。


『検閲回避プログラム最新版』


『削除耐性アーカイブ販売』


『観測遮断VPN配布中』


 人もいた。


 パーカー姿の若者。

 仮面を付けた配信者。

 空中キーボードを叩く創作者たち。


 地下都市。


 本当に存在していた。


「……なんだ、ここ」


地下創作圏アーカイブへようこそ」


 突然、背後から声。


 ユウトは反射的に振り返る。


 そこに立っていたのは、一人の女性だった。


 白い短髪。


 黒いロングコート。


 左目には半透明の情報モニターが投影されている。


「お前が……メッセージを?」


「そう」


 女は頷いた。


「私は白瀬レナ」


 その名前を聞いた瞬間、ユウトの表情が変わる。


「……白瀬レナって、まさか」


 知らない人間はいない。


 数年前、国家認定創作者ランキング上位にいた天才作家。


 だが突然、全作品が消えた。


 公式記録では、


【自主活動終了】


となっていた人物。


「死んだって噂されてたぞ」


「社会的には死んでるから、間違ってない」


 レナは淡々と言った。


 その視線がユウトの目を真っ直ぐ捉える。


「君、《情報死》されたんでしょ」


 ユウトの喉が詰まる。


 数時間前の光景が脳裏をよぎった。


 三〇一話。


 コメント。


 読者。


 全部消えた。


「……なんで分かる」


「顔してるから」


 レナは小さく笑う。


「自分の世界を奪われた人間の顔」


 その言葉に、ユウトは何も返せなかった。


 レナは歩き出す。


「ついてきて」


 ネオン街の奥へ。


 ユウトは無言で後を追った。


 地下創作圏。


 そこは、国家の認識網から外れた場所だった。


 公式記録には存在しない。


 検索にも出ない。


 だが確かに、人がいる。


 創作者がいる。


「ここでは皆、名前を捨てる」


 レナが言う。


「国家認証IDも、創作ランクも関係ない」


「……違法だろ」


「そう。だから自由」


 その言葉に、ユウトは眉をひそめた。


「自由って、そんな簡単な話か?」


「簡単じゃないよ」


 レナは振り返らない。


「だから皆、ここに落ちてくる」


 その時。


 街頭大型モニターが突然点灯した。


 ノイズ混じりの国家放送。


【緊急観測警報】


【危険創作者捜索情報】


 映し出されたのは――


 天城ユウト本人の顔だった。


 ユウトの全身が凍り付く。


【対象個体】


【認識影響危険度:B級】


【無許可創作活動の疑い】


【発見次第、文化保全庁へ通報してください】


「なっ……」


 周囲の視線が一斉に集まる。


 ユウトは息を呑んだ。


 だが。


 地下創作圏の人間たちは笑っていた。


「新人だ」


「情報死直後か」


「派手にやられたな」


 まるで珍しくもない日常みたいに。


 レナは立ち止まり、静かに言った。


「歓迎するよ、ユウト」


 ネオンの光が彼女の白髪を染める。


「ここは、“消された創作者たち”の街だ」

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