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二話 黒魔導師としての戦いと次のジョブ

漆黒の闇に身を潜め、手に入れた凶暴な力を試す刹那を、正志は静かに待っていた。無防備な遭遇は命取りになる。 

今は夜、ハンターと獲物が逆転する時間だ。

鼻をつくのは、少し前に、異形のネズミを葬り去った血の匂い。

その残滓を嗅ぎつけ、狼に似た化け物が這い出てきた。奴は無防備に鼻を鳴らし、死臭を嗅ぎ回っている。

「愚かな……」

正志は影に溶け込んだまま、凍てつく空気にそっと手をかざす。殺気を殺し、静かに詠唱を紡ぐ。

「渦巻く稲妻よ、集まり力を込め、今ここで叩き込め。――『サンダー』」

正志の手から放たれた雷撃は、一瞬にして夜を切り裂いた。悲鳴を上げる間もなく、雷は狼の背に直撃する。奴は断末魔すら上げられず、虚空に向かってのたうち回った。

脳内に投影されたステータス画面。MPは10から7へ。確実な代償だ。

正志は落ちていたコンクリートの破片を無造作に拾い上げ、確実な止めを刺すべく、冷徹な足取りで化け物へ近づく。雷撃で麻痺する巨体に、渾身の力を込めてコンクリートを振り下ろした。

重い鈍音が砂漠の静寂を打ち破り、短い絶叫が夜の底に溶けた。

化け物はもはや、物言わぬ肉塊にすぎない。

虚空から響くのは、耳慣れたはずの、しかし不気味なほど軽快なファンファーレ。

脳裏に無機質なログが流れる。

『Exp: 20、Jp: 30 獲得』

死体の傍らには、いつものように数枚の硬貨が落ちていた。人工的な光を反射するその輝きは、この狂った世界の新しい通貨だ。

「Expが20に、Jpが30か……。計算通りだな」

正志は口角をわずかに吊り上げると、習慣的に胸ポケットへ手を伸ばした。だが、指先が探り当てたのは空虚だけだ。煙草の代わりに冷たい空気を吸い込み、彼は再び深い闇へと溶け込んでいった。

五感を研ぎ澄ませる中で、ひとつの法則を見出す。

枯渇したMPが喉の渇きを癒やすように戻っていく。その速度は、およそ180秒に1ポイント。

視界の端、ステータス画面の隅に刻まれた小さな数字が、残酷なまでに正確な時を刻んでいた。

「効率を上げるには、これしかないか」

正志は虚空のショップ画面を操作し、安物の「ロッド」を選択する。

500ギル。先ほどのオオカミとネズミのような化け物を売り払って得た端金が、一瞬で電子の藻屑と消えた。

背中を嫌な汗が伝う。この装備が「投資」になるか「無駄死に」への手向けになるかは、これからの数時間で決まる。

ストレージから実体化したロッドの冷たい感触が、掌に馴染んだ。

ビルの瓦礫が作る濃い影に身を潜め、獲物を待つ。

その後、オオカミの化け物をさらに四体、闇の中から一方的に仕留めた。

レベルアップの熱い拍動が全身を駆け巡る。

剥ぎ取った硬貨をストレージに放り込み、残った肉塊をギルへと換金した。

チャージ残高、1257ギル。

正志は壁に背を預け、自らの状態を確認するようにステータスを開いた。


名前:佐藤正志

レベル:2 Exp:0/100

ジョブ:黒魔導師Lv2 Jp:150

HP:32→38

MP:10→17

力:10→11 頑丈さ:3 →4魔力:12 →16

信仰:7→10素早さ:6→7


数値という名の鎧が、少しだけ厚みを増している。

正志はショップから毛布、ペットボトルの水、そして塩辛いサラミを呼び出した。

この死臭漂う廃墟が、当面の彼の根城だ。

化け物の死骸を撒き餌にし、寄ってくる「経験値」を効率よく間引く。

地獄のようなレベリングがこうして始まったのだった。


瓦礫の山をねぐらに変え、死神の鎌を振るう日々に身を投じた。

かつて血と汗をすするブラック企業で摩耗した俺の魂にとって、この化け物退治は、死と隣り合わせでありながら、狂おしいほど甘美な休日を与えてくれる楽園パラダイスだった。

一匹狩るごとに、確かにこの身体が強くなっている。その実感だけが、この荒廃した世界で唯一の報酬だった。

……倒した敵の数? そんなもん、十を過ぎた辺りで数えるのをやめた。

数字なんて、生きるか死ぬかの現場じゃ意味をなさない。

久し振りに、死臭の漂う指先で虚空のステータスボードを呼び出す。

ペットボトルをあけ、中の水を口に含み、タバコの煙を燻らせ、俺の「成長」とやらは、一体どこまで来たのかと、ステータスを確認した。


名前:佐藤正志

レベル:26 Exp:27/100

ジョブ:黒魔導師Lv8 Jp:9235

HP:38→112

MP:17→156

力:11→27 頑丈さ:4→21魔力:12 →122

信仰:10→52素早さ:7→18


目を見張るほどの爆発的成長。俺はニヒルに笑った。黒魔法の主要スキルはすべてJpでマスターしきっている。次の目標がない、か。

「さて、次はどうしてやろうか……」

独り言は砂漠の砂嵐の音に消える。だが、迷いはない。俺はジョブの切り替えを決断した。

「やはり、白魔導師ヒーラーだろうな。怪我した時の応急処置に勝る安心はない」

煙草を指先で弾き、白魔導師の項目をタップし、転職を確定する。

柄にもなく白魔法を極めるか。正志は握りなれたロッドから握りなれぬ魔杖を握り直し、死臭漂う砂嵐の中、いつもの狩りへと戻っていった。




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