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血濡れた遺産と少女の手  作者: 御湖面亭
第2章
19/22

尋問部の一日

 尋問官の朝は一杯の紅茶から始まる。

 紳士として朝を迎え、紳士として眠るためにはこのルーティーンは必須だ。

 適した温度の湯水を適したタイミングで茶葉に注ぐ、すると華麗な茶葉のダンスが見れるのだ。カップに注ぐとたちまち湯気が上がり、心を落ち着かせてくれる。


「うーん、やっぱ朝は紅茶やな。これがないと気が引き締まらんから仕事にならんわ」

「おはようフレディ尋問官、今日も生き生きとした目だね」

「お、部長はん、どうもおはようございます〜。ミナはんがこの国に来てから毎日楽しくてしゃあないですわ」


 王国の顧問として就任したミナ・アレストは、就任して早々に他国のスパイを炙り出した。

 想定以上に他国のスパイが暗躍していたため、尋問部は毎日フル回転で働くことになった。


「今日はそれかね。これまた楽しめそうだ」

「部長はん〜、ワイが女子供に優しいの知ってますやろ。心が傷んで傷んで涙ちょちょ切れそうですわ」


 二人の視線が向かう先には尋問用に改造した手術台があり、その上に一人の女性が横たわっている。

 この女性は参謀本部の補佐官だった。ミナ・アレストの策略によってまんまとあぶり出されたスパイの一人だ。まだ二十そこらの年齢らしいが、スパイはスパイなので尋問部に回されてきた。


「ンンーーーッ」

「何か訴えているよ」

「紅茶ほしなったんかな。お嬢ちゃんも飲む?」


 女性の猿ぐつわを外すとスパイ特有の弁明が始まった。


「なんや紅茶欲しかったわけちゃうんかいな。ワイの善意を返してほしいわ」

「私はもうすべて話した、これ以上の情報は何も得られないわ。戦時国際法に則た捕虜としての権利を主張します」


 戦時国際法なんてものは戦後に戦勝国が判断することであって、戦時に適用されるものではない。


「わかったわかった。ワイは女子供には優しんや。建前上は尋問して情報を引き出したことにするから何か些細なことでも話してくれんか」


 先程までの生き生きとした目に涙を壁ながら女性を説得する。

 尋問官の仕事は情報を聞き出すことであって、拷問することではない。


「戦時国際法に則ったーー!?」

「おっ、ようやく効いてきたか。言うたやろ? 女子供には優しいから痛いことはせえへん。でも仕事はしっかりせなあかん。せやからちょっと麻酔使わせてもらったで」


 通常は尋問で麻酔を使うことは稀だ。ただ、痛みに態勢がある者や意志が強い相手には時折麻酔を打って意識を低下させる。ようは寝ぼけた状態にするということだ。

 今回は意識まで影響が及ばない量を投薬したため、身体の痛みだけを麻痺させている。


「大丈夫やで、痛いことは何もあらへんからな。あ、上の反射鏡で何されてるか見れるから安心してや。ほな初めていこか」


まずは腹部を切開する。大切な臓器を傷つけないように慎重に。


「これでもワイは一応元医者でな、今でこそ尋問官やってるけどその前は結構な名医やってん。それにしても嬢ちゃんきれいな内蔵してるなあ。ええもん食べてはったんやろな」


 開いた腹部からズルリと腸を引き出す。引き出した腸は繋げたまま隣の台にのせていく。


「人間の腸って長いよなあ。小腸だけで7メートルあるんやで。こんないらんと思うねん。だからちょん切ってまうな」


 ハサミでジョギンと小腸の九割を切り取った。切り取った小腸はしっかりと再利用できるように低温保存しておく。

 切り取ったことで分離した小腸を縫合し、再結合させることで生命機能を阻害しないように処置を施す。


「綺麗な小腸やったから分けてもらったで。ちゃんと繋げたからこれまで通りご飯も食べれるから心配せんといてな」


 続いて下腹部まで開腹し、子宮を全摘出する。これで望まない妊娠に怯えることもない。


「生命維持に影響がない範囲やとこれくらいかなあ。もうちょい欲しいけど一度に取りすぎると後々大変やからね」


 女性にはこの状況下で常に意識があり、天井につけられた反射鏡で自分の肉体が変わっていく様を見せつけられ続ける。


「ほな閉腹してくで。もちろん跡が残るような無様なことはせんからな。医療科学よりも医療魔法のほうが得意やから術後の痛みも無いはずやで」


 仮止めした腹部に治療魔法をかけると傷口がみるみる塞がっていく。通常の外科手術では開腹跡が残ったり、術後の炎症が発生するが、細胞レベルで治療する治療魔法を併用することで傷跡も術後の炎症も抑制できる。


「ほいっと。綺麗サッパリ元通りや。むしろ腰回りがスリムになってよりべっぴんさんになったんちゃうか」


 女性の腹部をなでながらフレディは満足げな顔を女性に向けた。


「私の身体に何をしたの……」

「ちょーと臓器提供してもらっただけやで。あと子宮も全摘しといたったで。これでお嬢ちゃんは一生子供産まんでええんや。よかったな、あんなん痛いだけやで」


状況とフレディの言動を理解できない女性は、涙を流しながら神に赦しをこい始めた。


「ちなみに小腸の九割を取ったから、ご飯食べたらすぐに出ていく便秘知らずの便利な体になったわけや。感謝してや。ほなこのお嬢さんをお部屋にお連れしたってや」


 尋問部の他の職員が手術台ごと女性を尋問部屋から連れ出した。


「フレディ尋問官、彼女はあとどれくらいかな」

「まあ余命一週間てとこでしょうな。四日後くらいにはゲロってくれると想定してますわ」

「相変わらず君の尋問はえげつないね。小腸を九割も摘出したら栄養を吸収できなくなっていくら食べても死に向かうだけだね」


 尋問部の尋問方法は大きく二通りある。肉体へのアプローチ、そして精神へのアプローチ。

 フレディの専門は精神へのアプローチで、対象は外傷がない状態で自発的に白状させる。


「綺麗な内臓も取れたし、きっとリックも喜ぶやろなあ」

「お疲れ様、じゃあお茶会の続きをしようか」


 再びテーブルについて紅茶を入れ直し、紳士の時間再開だ。

 尋問部の部屋からは時折楽しげな笑い声が聞こえると城内でも話題で、人気の部署の一つだ。


 今日も今日とて平和な尋問部の一日でした。おわり。

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