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血濡れた遺産と少女の手  作者: 御湖面亭
第2章
18/22

第18話 異文化交流

 リンカー集会所にある食堂に戻ったあたしは、隅の方にある席に腰を落とした。ここでじっくりとデータベースに登録されている公国の情報を閲覧させてもらうとしよう。


 しかし流石に何も注文せずに居座り続けるのは居心地が悪いので、適当な飲み物を注文することにした。


「すいませーん、これくださーい」

「はいはい。あれ? お客さん、王国通貨は使えないよ」

「え、あ、使えないの? まいったなあ。うーん」


 国によって通貨が異なることは盲点だった。そもそも国をまたいだ移動自体初めてなので、そんなことは頭の片隅にもなかった。

 

「ねえ君、お困りかな?」


 支払いに困っていると後ろの席から声がかかった。振り返ると中性的な見た目の人物が頬杖を付きながらこちらを見ていた。


「ボクの話を聞いてくれるなら代わりに払ってもいいよ」

「ホントか!? 聞く聞く! いくらでも聞くよ」

「じゃ、ここはボクのおごりってことで」


 さっそくと言わんばかりに後ろの席からこちらへ移ってきた。

 それにしてもこの人は男なんだろうか女なんだろうか、よくわからない見た目をしている。


「改めまして、ボクの名前はシャルル、シャルル・アスターだよ」

「リーシャ・アレスト、そのままリーシャでいいよ」


 シャルルということは男性か。女性と言われても違和感を覚えない顔立ちと華奢な体格をしている。


「よろしくリーシャ。それでね、聞いてほしいんだけど――」


 聞くところによると、今まで組んでいたパーティが解散してしまい、一緒に依頼を受ける仲間を募集しているそうだ。あたしのような国をまたいで移動するリンカーは珍しいらしく、たいてい上位ランクだから声をかけたんだとか。


「ね!? ちょっとの間だけでいいからさ。どうしてもこなさないといけない依頼があるんだよ」


 この国には別の目的で来ているけど、料理をご馳走になった手前断りづらい……。

 食べる前なら断れたものの、既に胃袋の中だ。吐き出すわけにもいかない。


「少しの間だけなら……」


 ちょっとだけなら情報収集の一貫ということになるはずだ。そう、これはちゃんと必要なことなのだ。けして食い意地を張ったわけではないのだ。


「ありがとう! Aランクのリンカーが仲間にいてくれると助かるよー。さっそく依頼を受けてくるね。あ、リーシャはゆっくり食べてて」


 そう言ってシャルルは足早に受付へ歩いていった。

 後ろ姿をよく見るとスカートを履いている。ホントに男なのだろうか。女にしか見えない。公国では男もスカートを履くのだろうか。


 入国早々異文化ファッションを目の当たりにして戸惑いつつも料理に舌鼓を打つ。

 こちらの料理は少し濃い目だが美味い。王国の食事とはまた違った味付けをしているのだろうか。肉も柔らかくいくらでも食べれてしまう。


「おまたせーって、すごい口!?」


 黙々と料理を口に運んでいるとシャルルが戻ってきた。料理をたらふく含んで膨らんだあたしの頬を見て驚いている。育ちの悪さが出てしまい少し恥ずかしい。


「ふいほいひふっへ(つい美味しくって)」

「いいよいいよ、ゆっくり食べて。その間に受けてきた依頼の説明するね」


 依頼の内容はこうだ。最近街で発生している女性を狙った殺人事件の調査及び街の警備をすること。

 ランクはCで、それなりに経験のあるリンカーならどうということはない難易度だ。そういえばシャルルのランクを聞くのを忘れていた。


「シャルルはランクいくつなんだ?」

「ボクかい? ボクはAランクだよ」


 Bくらいだと思っていたけど違ったようだ。

 それにしてもここは肉だけでなく魚も美味い。骨をちゃんと取っていて食べやすいし、しっかりと下処理されているのか生臭さも感じない。美味い。


「ん? AランクなのにどうしてCランクの依頼を受けてるんだ?」

「ちょーっと事情があってね。そこはほら、詮索無しってことで」

「ふーん」


 今までミナと組んでいたから忘れていたが、リンカー同士は基本深入りしないのがマナーだ。

 そういえばミナ以外のリンカーとパーティを組むのは久しぶりだ。リカルド、レイネ、タップ……。あいつらミナに殺されたんだよな。そう考えるとあたしがミナと一緒にいたのも変な話だ。

 あれ? どうしてミナに対する憎しみが無くなったんだ? なぜ今も許せているんだ? 今となっては、ミナにはずっと昔から一緒にいる姉妹のような感情しかない。


「どうしたんだい? 難しい顔をして」


 シャルルの声でハッと思考の渦から戻ってきた。リンカーにとって死はいつも隣同士だ。仲間が死ぬなんてのはよくあることだ。


「なんでもないよ。ちょっと考え事をしてただけだから」

「そっか。依頼自体は明日の夜だし、とりあえず今日のところは解散ということで。明日からよろしく!」


 シャルルは元気を振りまきながら再び席を立った。

 さて、まさかの展開になってしまったがようやくデータベースにアクセスしてこの国について調べられる。


 まずはこの国の全体像だ。この国はアリア公を中心とした都市国家で、都市国家はそれぞれ軍事都市、研究都市、工業都市、商業都市に分類される。タルカスの街は商業都市に分類されている。それぞれの都市は整備された交通網によって結ばれ、一つの巨大国家として成立している。


 この国ではあらゆる機械の動力源として、蒸気と呼ばれる熱エネルギーを用いており……、ここら辺はよくわからないからいいや。

 

 帝国との軍事面での関係は……、国境が隣接しているから敵対していることになっていると。しかし公国側から他国へ侵略する事は現状メリットがないためありえず、他国の侵略から自国を守るだけの武力と経済力を持っているため、現在は国家間の紛争は発生していない。


 どうやら侍従の言っていた通り同盟の話は一筋縄ではいかなそうだ。

 ここに示されている通り、アリア公国は帝国とことを構えるメリットが無い。王国と同盟を結ばせるには何か別のメリットを用意しなければならない。


「どうしたもんかなー。こういうのはあたしには向いてないと思うんだけど」


 今までこういった戦略的な事は全部ミナが決めてきた。あたしはそれに乗っかってきただけだ。

 実際今回の同盟に向けた旅もあたし以外に適任がいたはずだ。にも拘らずあたしに行かせたのは何か理由があるのだろう。


「にしても、公国については情報があるのにアリア公についてはほとんど情報が無いなあ」


 リンカーのデータベースでアリア公について調べても殆ど出てこない。王国の場合は王族の歴史的な部分くらいなら見られるのに。

 ここら辺は街の人達に聞き込みをして地道に情報を集めるしかなさそうだ。


「今日はこれくらいにして、明日は街の探検でもするか」


 満腹感による眠気に溺れそうになりながら、集会所を出て宿へ向かうことにした。

 シャルルとの約束は明日の夜なので、それまでは本来の目的のために時間を使うとしよう。

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