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血濡れた遺産と少女の手  作者: 御湖面亭
第1章
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第15話 アルテ要塞防衛戦3

 要塞に戻り、ことの顛末をアイリに伝えた。


 敵の大将を仕留めたこと、老魔法師を倒したこと、その老魔法師によって敵部隊の多くが壊滅したこと、ついでに捕虜も連れてきたこと。


 説明を終えるとアイリは目の見開いたまま硬直していた。というよりも、説明をする前から硬直していたのだが。


「あとこれお土産」


手に持っていたマスケットをアイリに放り投げる。


「これは?」

「敵さんはマカロフの笛とか言ってたけど、マスケットという古典的な武器よ」


 マスケット自体は私の知識からすれば古典武器の部類に入る。火薬を使っている時点で骨董品扱いだ。

 そんなことよりも、自分の知識内にある武器がそのままこの世界に存在している事に新たな疑問を抱いている。

 ここは異世界などではなく別次元の地球なのだろうか。それともたまたま同じものが生まれてしまっただけなのか。これも今後の調査対象になりそうだ。


「その筒状の武器は火薬の力を使って鉄球を相手に打ち込むものよ。そういった情報は入っていないの?」

「いえ、初めて聞きました」


 マスケットの銃口を覗き込みながら不思議そうに調べているが、それが危険な行為だと伝えたほうがいいだろうか。銃弾も火薬も装填されていないから大丈夫だろうけども。


「その穴から鉄球が飛び出るから、覗き込んでると頭に穴が空くわよ」


 軽く脅し文句も混ぜて警告すると、アイリは慌ててマスケットを顔から遠ざけた。


「あの、ちょっと頭が追いついていないのですが、我々は勝ったのでしょうか」

「勝ち負けで言えば勝ちかしら。敵の大将を討ち取ったわけだし」


 微妙に腑に落ちない顔をしているが、それも仕方がない。突然現れた女が敵陣に飛んでいったと思えば、敵の多数を壊滅させ、さらに大将を討ち取ってきたのだから。勝利の実感がわかないのだろう。


「敵の情報を聞き出すために老魔法師の弟子っぽいのを捕虜として連れてきたんだから、この人に色々聞くと納得できるんじゃないかしら」


 そう言って捕虜の女をアイリに引き渡した。


「ミナ―!」


 そうこうしているうちにリーシャの呼ぶ声が聞こえてきた。


「ようやくついたよ。道がわからなくて迷っちゃった。ワハハ」


 陽気な笑顔を振りまいているが衣服はボロボロだ。きっと色々あったに違いない。

 ひとまずねぎらいの言葉でも送るとしよう。


「お疲れ様リーシャ。大変だったでしょう。ちょっと休んだら?」

「大丈夫、大丈夫。それよりこれ見てくれよ。なんかよくわかんねーけど面白そうなものぶん盗ってきたんだ」


 リーシャが持ってきたのは板状の……、衛星通信機だった。


「あなたこれどこで手に入れたの」

「撃ち落とされた先の森の中で迷っていたら、見るからに怪しい集団がいたんだよ。茂みに隠れて様子を伺ってたら、そいつでなんか話してたから面白そうだと思ってぶん盗ってきたってわけよ」


 ぶん盗ってきたとは好奇心旺盛ですこと。それにしても衛星通信機とは。これも知識にあるものと合致する。

 年代的には2050年代後半の小型なものだが、これを使用していたという事実が最も重要だ。この世界、この星には衛星が周回している。やはりここは地球と予測するのが妥当だろうか。

 しかし、マスケットといい、衛星通信機といい、形状が知識と全く同じということは、構造を理解して作り出したとは考えにくい。恐らく遺跡から見つけたものだろう。

 この世界と私の知識上の世界との関連性をさらに紐付ける要素だ。より詳しく調査する必要がある。


「これ、私が預かってもいいかしら」

「いいよ。いまいち使い方もわからないし」


 通信先などを調べることでリーシャが遭遇した集団がどこと話していたのかがわかる。


「ところでミナの方はどうだったんだ?」

「ええ、散々だったわ……」


 アイリに説明したように、リーシャにもことの顛末を伝えた。


「なるほど。とりあえず勝ったからよかったじゃん。その老魔法師ってのがおっかないけど、そいつに勝っちまうんだからミナはやっぱ強いなあ」

「ひとまずここの要塞は戦術的に守り抜いたってことで任務完了かしら」

「戦術的にってどういうことだ?」

「あくまでも一時的に防衛はできたけど、この次、そのまた次の攻撃が来る可能性があるでしょ。それをできないようにして初めて戦略的勝利よ。今回のはあくまでも一時しのぎ。王国がしっかりと対応しないと別の場所で同じようなことが起こるかもしれないわね」


 戦略と戦術の違いはさておき、この状況が続くのはただの消耗戦だ。今回は地理関係も把握できない状況で対応したから場当たり的な肉弾戦になったが。今回の功績を持ってして、王国の情報を手に入れることができればもう少しまともな戦略が練れる。

 それに、今回の件だけでもこの世界についての非常に有用な情報が手に入った。戦略的に動ければさらなる情報が手に入るだろう。


「ミナさん、リーシャさん。参謀本部に伝令を出しました。返信が来るまでの間くつろいでいってください。まぁ……この有様ですが」


 アイリはボロボロになった要塞をチラリと見ながら暗い表情を見せた。


「ではお言葉に甘えて少しばかりの休息としましょう」


 この期間を利用して、衛星通信機を少し調べてみることにする。あと、近々の情報もどこかにまとめておかなければならないだろう。


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