表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血濡れた遺産と少女の手  作者: 御湖面亭
第1章
14/22

第14話 アルテ要塞防衛戦2

 強い衝撃と共に、煙たい空気が呼吸をする度に体内へ侵入してくる不快感を覚えた。閃光で一時的に失った視力が徐々に戻るも、土煙で周辺の状況が把握できない。


 まさか敵に亜音速で巡航する物体を迎撃できる者がいるとは露ほども考えていなかった。


 迎撃魔法の威力自体は大したものではなかったが、慣性エネルギーが落下時の衝撃に加わった為、予想以上にダメージを受けた。


(リーシャ、状況を報告して)

(なんか森みたいな所に落ちたけど、敵も見えないし大丈夫だよ。そっちは?)

(……あまりよろしくないわ。また連絡する)


 土煙がようやく晴れ、視界に飛び込んできたものは、足元で下敷きになっている死屍累々とそれを怯えた目で囲む兵士達だった。


「見事に敵陣に落ちたわけね、ということは敵の大将までは近いはず」

「て、敵襲!」


 兵士の一人が叫んだ。そりゃそうだ、彼等にとっては突然空から何かが降ってきたと思えば、今まで歩いていた仲間の上に可憐で美しい女性が立っていたのだから。


「まぁまぁ、落ち着いて。おたくの大将を出せば殺さないから……って、聞いてないか」


 兵士達は手に持っている長槍を私に向け、同時に突き出してきた。もちろんそんな直線的な攻撃は当たるはずもなく、地を這うように槍兵の後ろへ回り込んだ。腰の片手剣を奪い取り、近くにいるものからひたすら叩き斬る。


 貴族のような重装歩兵でもない彼等は、鉄鎧のような身を守るものは身につけていない。片手剣は、熱したナイフでバターを切るように素早く、そして確実に斬り刻む。耐久度が減れば新しい剣を奪い取り、半永久的に斬り進む。さらにこうした密集地帯では同士討ちを警戒して、敵の動きは制限されるので、もはや訓練用の藁人形と大差ない。


「こんな小娘に貴様らは押されておるのか、情けない!吾輩が相手をしよう」


 なんか騎士っぽい人が出てきた。

 馬に乗り所々無駄にトゲが生えている甲冑に身を包んでいるその男は、周囲に離れるよう手で合図を送った。すると兵士達は統率のとれた動きを見せ、半径数十メートルほどの円形空間が出来上がった。恐らく彼直属の兵士なのだろう。ただの雑兵は今もパニック状態で泣き叫んでいる。

 騎士は馬から降り、片手で持っていたハルバードを両手に持ち直した。


「小娘、貴様がどのような魔法を使うのかは知らぬが、吾輩には効かん。この鎧はあらゆる魔法を受け流す力を持った魔具である」

「ご丁寧に説明してくださってどうも。でも魔法を受け流すってことは、その魔具の魔力も受け流すんじゃないの? 矛盾してない?」

「ごちゃごちゃと訳のわからぬ事を。いざ!」

「ほいっ」


 一人で勝手に仕切って勝手に始めようとしたトゲ騎士に、手に持っていたボロボロの片手剣をぶん投げた。


「ぬっ、小癪な! おぐぉ」


 投げた片手剣を目隠しに腹部のプレートを殴りつけた。プレートは大きく湾曲し、騎士の腹部へめり込んだ。

 めり込んだプレートは復元しないままトゲ騎士の腹部を圧迫し、呼吸困難を起こしたトゲ騎士は膝から崩れ落ちた。


「これだけ貰っていくわね」


 ハルバードを拾い上げると、まるでダムが決壊したかのように、囲んでいた兵士達がなだれ込んできた。噛ませ犬の騎士をそれだけ慕っていたのか、自暴自棄になっただけなのかはわからないが、片手剣よりも遥かにリーチの長い武器を手に入れた私に近づけるものはいない。より多くの死体の山ができあがるだけだ。


 ついでに馬を奪い取ったことで、先程よりも早いペースで突き進むことができ、雑兵畑を抜け本陣へ到達した。


 そこにはトゲ騎士よりも華やかな馬に跨りふんぞり返っているこれまた綺羅びやかな甲冑に身を包んだ大将らしい人物がいた。しかし見た目がどうも幼い。リーシャとどっこいの年齢だろうか。その周囲四方を、見た目から80はいっているであろう男の老魔法師と、若い魔法師が囲んでいる、


「ば、化物だ! 早く討て! 僕に近づけるな!」


 突然の自体に慌てふためいた子供大将の声に反応し、彼を囲んでいた魔法師4人が前に出て一斉に光弾を撃ってきた。


 しかし、私に魔法は効かない。先程撃墜されたのは、認識外からの攻撃に対応が遅れたからであって、正面からくる魔法は理論上どの程度でも無効化できる。


「やはり効かないようですね」

「うむ、あれを使え」


 魔法師の一人が後方の馬車へ向かって走りだした。逃すまいとハルバードを投擲したが、老魔法師の障壁で防がれた。


「おぬしは何者かの。王国にこれほどの戦力はなかったはずじゃが」

「名を尋ねるなら自ら名乗ったらどうかしら」

「これから死にゆく者に名乗る名などないわい」


 老魔法師の後ろへ控えていた魔法師から複数の光弾が発射された。無効化できるとは言え、視界が埋め尽くされるほどの投射量。これは攻撃ではなく、目眩ましが目的だろう。

 全弾を無効化し視界を確保すると、老魔法師の姿が消えていた。敵兵の中に潜んだのか、後ろへ回り込んだのか、それとも……。


「がっ――」


 突如身体が重くなり膝をついたところを、光剣によって手足を地面に縫い付けられた。


「認識外からの攻撃は無効化できんようじゃの。これまでじゃ」


 上空からの攻撃、一瞬認識が遅れ無効化できなかった。すぐさま加重魔法を無力化し、光剣も――。


「実体化魔法は初めてかいの。実体化しちまえば無効化もできんじゃろて」


 身動きが取れなくなった事を確認した老魔法師は、私のもとまで歩み寄り、首元に短剣を押し当て耳元で囁いた。

 

「おぬしの頭の中は、後でじっくり見させてもらうから安心せえ」


 圧倒的立場の者が、最後の最後に弱者の希望を根底からへし折り快感を得る。そんなサディスティックな感情を含んだ台詞だ。


「あなたの息、臭いわ」


 実体化した光剣から腕ごとひきちぎり、瞬時に再生した腕で老魔法師の片脚を切り落とした。

 老魔法師はは突然の出来事に驚きを隠しきれない表情で、光弾を乱射しながら魔法師の元へ退いていった。


「あの台詞はないわよ。雰囲気優しそうなおじいちゃんって感じだったのに、とんだサディストね」

「「師匠!」」

「いいから止血せえ!」


 どうやら周囲の魔法師たちは老魔法師はと師弟関係だったようだ。


「あなた達、そんな老魔法師はじゃなくて私の所にこない?」

「誰が貴様のようなアバズレに組するか!」

「アバ……」

「おぬし、その再生力はなんじゃ。やはり化物か」

「誰が化物よ。他人より少し怪我の治りが早いだけよ」


 もちろん怪我の度合いにもよるが、剣が数本刺さった程度なら殆どゼロタイムで修復可能だ。

 あんな昆虫標本じみた無様な格好を晒すくらいなら、多少の傷みを伴ったとしても無理やりにでも起き上がるべきだろう。


「しかとてそれほどの力、無限ではあるまい。制圧じゃ」

「「は!」」


 また光弾の飽和攻撃が始まった。流石に同じ手が通じるとは思っていないだろう。もしかすると魔力切れを狙っているのだろうか。それに後方へ駆けていった魔法師も気になる。何か仕掛けているのであればこれは時間稼ぎか。


「流石に疲れてきたから終わりにしましょう」


 魔法を無効化しながら一息に相手の方へ詰め寄る。

 エンリルの効果範囲内に彼女らを捉えたことで、魔法の発動自体を阻害した。これで新たに光弾を撃つことはできない。弾幕の先にいる、私のことをアバズレ呼ばわりした魔法師どもをくびり殺してやろう。


 しかし、最後の光弾を無効化した先にいたのはアバズレ呼ばわりした魔法師ではなく、馬車へ駆けていった魔法師だった。魔法師がこちらへ向けていたものはあまりにも懐かしく、そしてこの世界に不似合いなものだった。


「それは――」


 眼前で炎が弾け、雷鳴のような爆音が耳を突き、胸の肉が抉れる感触が痛みよりも先に全神経を震わせた。


「ガフッ」


 胸にとてつもない衝撃を受け、飛び込んだ勢いのままバランスを崩しそのまま地面に沈んだ。


「や、やりました!」


 魔法師が持って来たものは、個人が携行するには充分すぎる火力を備えていた。あれを私は知っている。不確定な情報とは言え、魔法などというファンタジーが蔓延しているこの世界でアレが存在するとは。


「どうじゃ? 我が国が開発した『マカロフの笛』の味は。何が起きたのか理解すらできんじゃろう」


 ダサい。いちいち帝国の人間はネーミングセンスがダサすぎる。“マカロフ”って誰、“笛”って誰も吹いてないじゃない。


「ハッ。我が帝国の技術には貴様のような化物も歯が立たなかったようだな」


 いつの間にか馬から降りてきた子供大将が近づいてきた。見た目には完全に弱りきっている姿を見て勝利を確信したのだろう。

 私の髪を無造作に掴み上げ、下卑た顔で「こいつを拘束して連れ帰ろう。そして僕のおもちゃにすんだ」などと吐いた。帝国にはろくな男がいないらしい。


「王子、また悪い癖ですぞ」

「いいだろ。壊れにくそうだし、欲しいんだよ」

「しょうがないですなあ」


 おもちゃをねだる子供とそれを買ってあげるおじいちゃんのようだ。

 おもちゃという言葉がどういうことを表すのかは、奥の女性魔法師の表情から察することができる。


「最低ね」

「あ?」


 眉間にしわが寄り、こめかみの血管を浮き立たせ、憤怒の形相をこちらに向けた。そして掴んだままの私の頭を地面に何度も叩きつける。


「この、僕に、なんてこと、言うんだ、立場を、わきまえろ、犬!」

「王子、そろそろ拘束術式を展開しますので離れてくだされ」

「う、うむ。そうだな」

「おじいちゃんの言うことはすんなり聞くのね。坊っちゃん」

「貴様ぁ……」


 顔を真赤にして、今度こそ殺意のこもった蹴りを腹部に浴びせてくる。相手は鉄の鎧を纏っているので、普通の人間なら内臓破裂で死ぬレベルだ。


「おい! もう一度マカロフの笛を食らわせてやれ!」

「ゲホ、ゲホ。……ットよ」

「ああん?」

「マスケットって言うのよ、それ。うぶっ」


 泥のような血反吐と一緒に鉛玉がボトリと落ちる。

 お陰で気分さっぱり。喉につっかえた魚の小骨が取れたときのような爽快さ。肋骨や肺も潰れたがもう治った。やはり小骨が引っかかった時は誰かに背中を叩いてもらうのが一番だ。叩かれたのは顔面や腹部だったが。


「ふぅ。ライフル弾なら貫通してくれるから楽なのだけど、マスケットの弾丸は球状だから厄介ね。さて、あなた達サディストは害悪でしかないから縊り殺すとして」


 ゆっくりと立ち上がると、全員目を見開いて立ち尽くしていた。


「魔法師の皆さん、もう一度聞くけど私の所に来ない?」

「わ、我々は帝国に命を捧げる覚悟だ。そのような戯言に耳を貸さん」

「も、もう一度マカロフの笛を……おい!?」


 どうやらマスケットを持っている魔法師は実践経験があまりないらしい。完全に怯え倒している様を見るにそれは明らかだ。


「もういいわ。やめましょう。そろそろ王国側の要望を満たすことにするわ」

「王子、お下がりくだされ!」


 今回の戦闘は、能力の実践テストが第一の目的だった。対物・対魔両方の戦闘データが手に入ったので、十分に目的は果たしたと言える。


「は、早く殺せえ!」


「最大火力じゃ! 第四位を浴びせろい!」


 周囲の兵士まで巻き込むレベルの魔法が展開され、阿鼻叫喚地獄が形成された。第四位魔法をくらった兵士は、溶解する者、炭化する者、液化する者、様々な死に様を描いていった。広範囲にそこそこ強力な魔法を展開したところで、私には一切効かないのだが。


「第五位だすぞい! 王子の周囲に障壁展開じゃ! 塵となれい」


 光弾が空中へ打ち上げられ、爆ぜると閃光が辺りを白の世界に変えた。

 強烈な光が収束し、輪郭と色が再び戻った頃には、囲んでいた帝国の兵士やその死体から野花に至るまで、見渡す限りほぼすべての生物が霧散した。


「無差別的ね。対軍なら十分でしょうけど、対人向きじゃないわ」

「対化物魔法でも無理そうじゃが……」


 もはや勝てないと諦めたのか、老魔法師はは膝を落とし、頭を垂れた。


「どうじゃ、ワシにそなたの力を貸してはくれんか。きっと今までにない魔法ができあがる。いや、魔法そのものが無意味になるやもしれん」

「以前にもそっち側の人間から勧誘を受けたけど、答えはノーよ。あなた達とは色々と価値観が合わないの」


「そう言わず、どうか、後生じゃ」

「だから――」

「隙ありいぃ!」

「無いわよ」


 懐から小型のマスケットを取り出したが、引き金を絞るよりも早く接近し、頭を蹴り飛ばした。


「人ってあっけないわよね。このお爺さん、何十年も魔法の研究してきたんでしょうけど、死ぬ時は一瞬なんですもの。次はあなた達よ」

「よくもおお!」「うわああああ!」


 腰から短刀を引き抜き、二人の魔法師が詰め寄ってきた。

 しかし、後衛である彼らに、前衛のような動きはできない。あまりにお粗末な動きに憐れみの感情すら芽生えた。


 短剣による刺突をひらりと交わし、まず一人目。胸部に拳を打ち込む。続いて二人目、頭を吹き飛ばす勢いで顎を撃ち抜く。

 二人目は顎が砕けるだけでは収まらず、頭が180度回転して即死。だが驚いたことに、一人目は息があった。


 本来なら心臓が破裂しているはずだが、あのローブに衝撃を緩和する仕組みでも施されているのか。

 無駄に苦しませる必要もないので、そっと頭を潰してあげた。


「さて王子、あなたを守る者は死んだわよ。さぁ剣を取って。それを私の胸に突き立てにきなさい」

「ぐ……うう。おい! 貴様! 何をしてるんだ、僕を守れ」


 子供大将は、呆然としていた生き残った魔法師最後の娘を蹴りつけた。


「申し訳ありません。申し訳ありません。うう……」

「クソ! クソ! 役立たずめ!」

「クソはあなたよ。ほんっと情けないわねえ」

「く、来るな! 来るなああああ」


 少しお仕置きが必要と感じ、頭を両手で掴んだ。そのまま万力のように徐々に締め付ける。頬骨が砕け、眼球が飛び出し、歯は弾け飛び、最後には潰れた饅頭のようになった。


「あとはあなただけね。なぜあなたを最後まで残したかわかる? ちょっとお願いがあるのよ」

「おね……がい?」


「うちの参謀本部にそっちのスパイがいるのだけど、どうしても証拠がないのよ。だから証言してほしいの」

「そんな……私、知らない」


「知っているかどうかなんてどうでもいいのよ。帝国側の人間がこいつはスパイだと証言する事に意味があるの。それに、本当に知らないの? 私に魔法が効かないって、あなた知ってたじゃない。あれ参謀本部の一部にしか話してないのに」

「ほんとに……知らな……」

「ま、いいわ。それじゃあ帰りましょうか。歩ける?」

「え、ええ……」


 どうやら腰が抜けて立てないようだ。四肢を分断して本体だけ持って帰ってもいいが、五体満足の方が捕虜の扱いとしての印象はいいだろう。

 座り込んで動けない娘を担ぎ上げ、子供大将の乗っていた馬に彼女を乗せた。


 第五位魔法によって壊滅状態に陥った帝国軍はもはや敗退する他ないだろう。子供大将が死んだこともそのうち分かることだろうし、放っておいても問題ない。


 そういえばこの娘、ずっとフードで顔を隠しているがどんな顔だろうか。ふと気になりフードを剥ぐと、赤毛に目元まで覆う前髪でさらに顔がわからない。


(リーシャ、こっちは片付いたわよ。そっちは? 一応今から要塞へ戻るつもりだけど)

(とっくに戻ってるよ。あと、面白いもん見つけたからお土産に持って帰るよ)


 面白いものとはマスケットの事だろうか。それとも新しい魔具だろうか。

 日も暮れようとしていることもあり、そのまま要塞へ向けて娘を乗せた馬を走らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ