東雲精機株式会社
「会社というものは――買えますの?」
玲奈がそう尋ねたあと、通話の向こうにいる直人は数秒ほど黙り込んだ。聞こえているのか心配になるほど反応がなかったため、玲奈がもう一度名前を呼ぼうとしたところで、ようやく大きなため息が返ってくる。
『……お前、この前まで「M&Aについて勉強しているだけです」とか言ってなかったか?』
「その時点では、実際に欲しいと思える会社を知りませんでしたから。今も買うと決めたわけではございませんよ」
『その言い方だと、候補は見つけたんだな?』
「ええ。少し気になる会社がございます」
玲奈はそう答えながら、自分のパソコンに表示していた企業情報へ目を向けた。
《東雲精機株式会社》。
従業員は五十人ほど。小型電動モーターを中心に製造しており、一般消費者向けの商品を販売している会社ではないため、知名度はほとんどない。
玲奈がこの会社へ興味を持った発端は、確かに相談室へ届いた一通の投稿だった。
しかし、相談室へ寄せられた非公開情報を使って、天城玲奈として会社へ接触するわけにはいかない。
セレスティアと天城玲奈は、世間では全く別の人間である。
その秘密を守ることは、八歳で活動を始めた頃から一度も変わっていない。
だから玲奈は、相談文そのものを企業調査には使わなかった。
公開されている事業承継関連の記事、企業情報、特許情報、製造業者の公開資料などを調べ直し、その中から条件に近い企業を探していった。
技術を持っている。
規模は大きすぎない。
後継者問題を抱えている可能性がある。
そして現在の経営だけを見れば、決して順風満帆とは言えない。
そうして複数の企業を調べた中で、玲奈が改めて見つけた一社が東雲精機だった。
相談内容から直接会社名を特定したわけではない。
少なくとも天城玲奈として動く以上、そういう形にしておく必要があった。
「公開情報だけでは分からない部分が多いのですが、小型モーターを作っている会社です。久世さんにも少し見ていただきましたよね?」
『ああ、前に送ってきたところか。技術だけならちょっと面白そうって言った会社な』
「はい。ですから、会社そのものを詳しく見てみたいと思いまして」
『それでいきなり買う話になるのかよ』
「会社を詳しく調べるのであれば、最終的に何ができるのか知っておいた方がよろしいでしょう?」
玲奈としては、東雲精機だけを特別扱いするつもりはなかった。
公開情報を調べて価値がないと判断すれば、それで終わる。
仮に技術が優れていたとしても、会社全体を引き継ぐには問題が大きすぎるなら買わない。
相談者の父親が経営する会社だから助ける、という感情的な判断だけは避けたかった。
『理屈の上では買える。相手が売る気あって、金額や条件がまとまればな。ただ、その前に親に話せよ』
「もちろんです。わたくしも一人で契約できるとは考えておりません」
『そこ分かってるならいいけど、お前まだ十四歳だからな?』
「最近、久世さんから年齢確認をされる回数が増えておりません?」
『会社買おうとする十四歳が身近に何人もいてたまるか』
それについては玲奈も反論できなかった。
その日の夕食後、玲奈は両親へ時間を取ってもらった。
事業承継やM&Aについて調べていたことは、美咲もすでに知っている。今回はそこからさらに一歩進み、実際に気になる会社を見つけたことを説明した。
「それが、この東雲精機?」
「はい。まだ公開情報を調べただけですので、買いたいと決めたわけではありません。ただ、一度詳しく調べてみたいと思っています」
玲奈は用意していた資料を二人の前へ置いた。
会社概要。
主な製品。
公開されている特許。
過去に掲載された業界向けの記事。
採用情報。
取引実績として公表されている範囲。
さらに直人から聞いた技術面の簡単な評価も、本人の許可を取ったうえで整理していた。
「玲奈ちゃん、この会社のことはどこで見つけたの?」
「事業承継について調べている途中です。関連する会社をいくつか見て、その中で興味を持ちました」
嘘ではない。
ただし、全てを話しているわけでもない。
セレスティアとして受け取った相談内容は、配信活動の中で預かった情報である。それを天城玲奈個人の利益へ直接利用することは、玲奈自身が許せなかった。
だから東雲精機について判断する材料は、あくまで玲奈として合法的に確認できる情報へ限定している。
美咲は資料を一通り確認してから、娘へ視線を戻した。
「それで、玲奈ちゃんはこの会社を買いたいの?」
「現時点では分かりません。会社の中を何も知らないのに、買いたいと決める方がおかしいでしょう?」
「じゃあ、何をしたいの?」
「まず会社について知りたいです。できるのであれば、一度工場も見てみたいと思っています」
修一は資料を眺めながら、難しい表情をしていた。
「会社って、見たいですって言ったら普通に見せてもらえるもんなのか?」
「そこも含めて確認する必要がありますね。断られれば、それまでです」
「玲奈のお金で買える会社なのか?」
「それも分かりません。公開情報だけでは会社の価値を正確に判断できませんもの」
玲奈は買えると決めつけていなかった。
セレスティアとして数年間活動してきたことで、十四歳としては非常に大きな資産を持っている。それでも会社一つを引き継ぐとなれば、購入代金だけを考えればいいわけではない。
設備更新が必要かもしれない。
運転資金も必要になる。
負債があるかもしれない。
買った翌日に資金が尽きるようでは、会社を手に入れたところで意味がない。
「わたしが確認したいのは、東雲精機が本当にお金を使う価値のある会社なのかということです。技術が良いだけでも足りませんし、安く買えるだけでも意味がないと思っています」
美咲は少し考えたあと、資料を机へ戻した。
「会社へ話を聞いてみるところまでなら、私は反対しないわ。ただし玲奈ちゃん一人で動かないこと。向こうから詳しい数字を見せてもらう段階になったら、専門家も必要になると思う」
「ありがとうございます。わたしもそのつもりです」
「それと、セレスティアの名前は絶対に出さないことね」
玲奈はすぐに頷いた。
「もちろんです。天城玲奈として会社へ接触します」
修一もそこでようやく事情を理解したらしい。
「向こうからしたら、十四歳の女の子が突然『会社見せてください』って来るのか?」
「……そうなりますね」
「そっちも十分怪しくない?」
「そこは否定できません」
三人で少し笑ったものの、問題としては真面目だった。
十四歳の中学生が突然企業へ連絡し、事業内容を詳しく知りたいと言ったところで、まともに相手をしてもらえるとは限らない。
だから玲奈は、自分一人の名前で連絡することをやめた。
保護者である美咲を窓口にし、玲奈本人が企業経営と投資について学んでおり、東雲精機の事業へ関心を持っていることを伝える。
将来的な出資や事業承継も含めて検討する可能性はあるが、現時点では会社を見学し、事業内容について話を聞きたい。
必要であれば資金面についても、適切な段階で証明する。
最初から買収を迫るような文章にはしなかった。
同時に、子供の社会科見学だと思われない程度には真剣な話であることも伝えた。
返事が届いたのは三日後だった。
玲奈は学校から帰宅すると、美咲に呼ばれてリビングへ向かった。
「東雲精機から返事が来てるわよ」
「本当ですか?」
「一度会って話を聞きたいって。ただ、向こうもかなり不思議には思ってるみたい」
「当然でしょうね」
玲奈は返信を読んだ。
そこには、玲奈の年齢について確認する文章もあった。
十四歳で間違いないのか。
本人が企業への投資や事業承継に関心を持っているのか。
保護者もその活動を認めているのか。
どれも当然の確認だった。
美咲が事実だと回答すると、東雲精機側から工場見学の日程について提案が届いた。
翌週の土曜日。
玲奈、美咲、そして技術面を見るための直人が同行することになった。
修一も興味を示したが、今回は家で待つことにした。
「写真撮れるなら見せてくれよ。工場ってちょっと面白そうだし」
「企業秘密もございますでしょうから、許可なく撮影はいたしませんよ」
「そういうところだけ妙に堅いんだよなあ」
「そういうところだからこそ、きちんとするのです」
そして土曜日。
玲奈たちは電車を乗り継ぎ、東雲精機の工場がある地域へ向かった。
駅からさらに車で移動すると、住宅地が少なくなり、小規模な工場や倉庫が目立つようになる。
玲奈は窓の外を眺めながら、少しだけ緊張していた。
これまで企業について大量に調べてきた。
決算資料も読んだ。
商品も調べた。
株式も買った。
しかし一つの会社を、将来的に自分が所有する可能性まで考えながら訪問するのは初めてだった。
「緊張してる?」
美咲から尋ねられ、玲奈は素直に頷いた。
「多少は。ただ、それ以上に楽しみです。公開情報では分からないものを、実際に見られますから」
「買えるかどうかを見るんじゃなくて?」
「それはもっと後でしょう。まず欲しい会社なのかすら分かっておりませんもの」
その答えを聞き、美咲は安心したように笑った。
やがて車が目的地へ到着する。
窓の向こうに見えた東雲精機は、玲奈が想像していたよりも古い工場だった。
二階建ての事務棟と、その奥へ続く製造棟。外壁はところどころ色褪せ、入口の看板にも長い年月が感じられる。
しかし荒れてはいない。
敷地内にはゴミがなく、資材も整理されている。駐車場や建物は新しくないものの、放置されている印象はなかった。
「古いですが、雑ではございませんね」
「まだ外しか見てないぞ」
直人に言われ、玲奈は頷いた。
「ええ。ですから第一印象です。古いことと、管理されていないことは別ですもの」
玲奈たちが車を降りると、事務棟の前で一人の男性が待っていた。
五十代後半ほどの作業着姿で、白髪の混じった短い髪をしている。
「天城さんですね。本日は遠いところまでありがとうございます。東雲精機の代表をしております、東雲隆一です」
「天城玲奈と申します。本日は突然のお願いにもかかわらず、お時間をいただきありがとうございます」
玲奈は丁寧に頭を下げた。
美咲と直人も挨拶し、それぞれ保護者と技術面の協力者として同行していることを説明する。
隆一は玲奈を珍しそうに見ることこそあったが、年齢について何度も尋ねるようなことはしなかった。
事前の連絡で確認は済んでいる。
「最初に一つだけ確認させてください。本日は、買収条件の交渉へ来たわけではございません」
「ええ。こちらもそう聞いています。正直、最初に連絡をいただいたときは驚きましたけどね」
「十四歳ですから?」
「それもあります。ただ、うちみたいな会社へ外から興味を持ってくれる人自体、あまりいませんから」
隆一はそう言って、少し困ったように笑った。
「でしたら今日は、わたしがなぜ興味を持ったのか確かめさせてくださいませ。見せられないものについては、遠慮なく断っていただいて構いません」
「分かりました。まずは会社のことから説明します」
案内された応接室は、それほど広くなかった。
机も椅子も新しくはないが、きちんと手入れされている。壁には創業当時らしい古い写真が飾られ、現在より遥かに小さな工場の前で数人の男性が並んでいた。
「創業したのは父です。最初は機械部品の加工をする、本当に小さな町工場でした」
隆一の説明によれば、東雲精機は機械部品の加工から始まり、その後小型電動モーターの製造へ進出したという。
大量生産では大企業に勝てない。
そこで東雲精機が伸ばしてきたのは、顧客の細かな要求へ対応する能力だった。
「何十万個も同じものを安く作る仕事は、うちには向いていません。ただ、この大きさでこれくらいの性能が欲しいとか、少ない数でも仕様を変えたいとか、そういう相談には昔から対応してきました」
「では、大量生産品の価格で競争するより、顧客ごとの要求に合わせることが強みなのですね」
「そうですね。それで長く付き合ってもらっている会社もあります」
横で資料を見ていた直人も、技術的な質問を始めた。
モーターの制御。
発熱。
回転数。
トルク。
玲奈には分からない専門用語が増えていく。
それでも知っているふりはしなかった。
技術そのものを評価するために、直人を連れてきたのである。
ならば玲奈が見るべきなのは、その技術が会社の利益へどう繋がっているかだった。
「東雲社長。一つ伺ってもよろしいですか?」
「もちろんです」
「顧客ごとに仕様を調整するのであれば、通常品より手間も増えますよね。その分は価格へ反映されているのでしょうか?」
隆一の返答が、ほんの少し遅れた。
「……一応は。ただ、昔から付き合いのある会社も多いので、なかなか大きく値段を上げるわけにもいかないんですよ」
「原材料費や人件費が上がった場合も?」
「交渉はします。ただ、全部をそのまま価格へ乗せられるわけではありません」
玲奈はそれ以上追及せず、ノートへ記録した。
技術に対して、正しい価格を取れているのか。
まだ答えは分からない。
しかし玲奈にとって、気になる項目の一つになった。
説明を終えたあと、隆一は玲奈たちを製造棟へ案内した。
扉を開けると、複数の機械が動く音が重なり、金属と機械油の匂いが漂ってくる。
作業着姿の社員たちが、それぞれの持ち場で仕事をしていた。
新しい機械もある。
一方で、明らかに長く使われている設備も少なくない。
「こちらの機械は、かなり古いものですか?」
「古いですよ。私が若い頃にはもうありました。ただ、定期的に手を入れているので、精度を確認しながら今も使っています」
「更新する予定はございます?」
「必要なものから少しずつですね。全部を一気に新しくできるほど余裕はありませんから」
玲奈は機械を眺めながら頷いた。
古いから悪い、と単純には判断できない。
適切に整備され、必要な精度を維持できているなら使い続ける合理性もある。
しかし、本当は更新した方が効率的なのに資金不足で使い続けているのであれば、話は変わる。
その違いを知るには、さらに詳しい数字が必要だった。
工場の奥では、若い社員が試作品を測定していた。
隆一が声をかけると、調整後の数値が改善したらしく、社員は少し嬉しそうに結果を説明する。
直人が興味を示して近づいた。
「これ、何に使うモーターです?」
「小型の搬送機器です。客先から、同じサイズでもう少し発熱を抑えられないかと言われまして」
「サイズ変えずに?」
「そうです。だから結構面倒なんですよ」
隆一は面倒だと言いながら、少し楽しそうだった。
玲奈はその表情を見ていた。
価格の話をしているときよりも、製品について説明しているときの方が明らかに生き生きしている。
さらに工場を進むと、熟練した社員が若い社員へ作業を教えている場所があった。
図面だけでは分からない微妙な調整があるらしく、実物を触らせながら説明している。
「こうした技術は、若い方へ順調に引き継げているのでしょうか?」
玲奈の質問に、隆一は少しだけ表情を曇らせた。
「できるだけ教えてはいます。ただ、長くやっている人間が感覚で覚えている部分もありますから、全部とは言えませんね」
「では、熟練した方が退職されるまでに引き継げなければ、失われる技術もございます?」
「……そこは、うちも危機感を持っています」
玲奈はノートへ新しい項目を加えた。
設備更新。
技能継承。
価格設定。
どれも公開情報を眺めているだけでは、ここまで具体的には見えなかった問題だった。
しかし悪い部分だけが見えたわけでもない。
工場は古いが、整理されている。
社員は投げやりに働いていない。
技術について尋ねれば、隆一も現場の人間も細かなところまで説明できる。
何より、同行している直人が途中から明らかに楽しそうになっていた。
「玲奈、ここ面白いぞ」
「久世さんがそうおっしゃるなら、技術面では期待してよろしいのでしょうか?」
「まだ断言はしない。でも、この規模でここまで細かく合わせられるなら、使い道は結構ありそうだ。もう少し資料見たい」
「では、技術面は引き続き久世さんへお任せします」
「勝手に仕事増やすなよ」
「もちろん報酬はお支払いしますよ?」
「そういう問題じゃねえ」
いつもの調子で返され、玲奈は少し笑った。
一通り工場を見たあと、三人は再び応接室へ戻った。
隆一から感想を尋ねられたが、玲奈はすぐに「良い会社です」とは答えなかった。
現場を一度歩いただけで、会社全体を評価できるはずがない。
「来る前より、興味は強くなりました。ただ、同時に確認したいことも増えております」
「確認したいこと、ですか?」
「はい。技術については久世さんにさらに見ていただきたいですし、設備更新に必要な金額も知りたいです。それ以上に、会社のお金の流れを確認しなければ何も判断できません」
玲奈はノートを開いた。
「売上と利益だけでは足りません。借入金、手元資金、主要取引先への依存度、製品ごとの採算、今後必要になる設備投資。その辺りを知らないまま、会社の価値を考えることはできないと思っています」
隆一はしばらく玲奈を見つめていた。
「……本気なんですね」
「何についてでしょう?」
「うちの会社へ投資するかもしれないという話です。正直、最初は勉強の一環で工場を見たいという程度だと思っていました」
「勉強の一環であることは間違っておりません。ただし、勉強だからといって真剣に考えない理由にはならないでしょう?」
玲奈はそこで少しだけ表情を改めた。
「もし東雲精機に、今の経営状態だけでは測れない価値があるのでしたら、わたしはその価値にお金を使うことも検討します」
「出資ということですか?」
「それも選択肢でしょう。ただ、まだ方法を決める段階ではございません」
買収という言葉は、あえて使わなかった。
東雲精機側が会社を手放したいのかすら、玲奈は知らない。
こちらが勝手に買うつもりで話を進めるべきではない。
隆一もすぐには返事をせず、少し考えてから頷いた。
「分かりました。全部をすぐ見せるわけにはいきませんが、こちらも一度考えます。必要なら税理士にも話してみます」
「ありがとうございます。こちらも、必要になれば専門家を入れます」
その日の話は、そこで終わった。
まだ買収交渉ではない。
値段の話もしていない。
東雲精機が会社を売るとも言っていない。
それでも玲奈にとっては、企業を外から眺めるだけだったこれまでとは明確に違う一日になった。
帰りの車内で、直人は技術について追加で調べたい項目を挙げ、美咲は財務資料を見るなら自分たちだけで判断しない方がいいと話した。
玲奈も異論はなかった。
「技術だけを見て買うわけにはいきませんし、数字だけで会社の価値を決めるつもりもありません。両方を見たうえで、それでも欲しいと思えるか確かめたいです」
「玲奈ちゃん、もう『欲しい』って言い始めてるわよ?」
美咲から指摘され、玲奈は少し考えた。
「……まだ候補です」
「本当に?」
「少なくとも、今日来る前よりは魅力的に見えておりますね」
玲奈は窓の外へ視線を向けた。
頭に浮かんでいるのは、古びた工場そのものではない。
小さなモーターを前に議論していた技術者たち。
若手へ作業を教えていた熟練社員。
そして顧客の要求へ細かく合わせるために積み重ねられた技術だった。
帰宅後、玲奈は新しいノートを一冊用意した。
表紙へ《東雲精機株式会社》と書き、今日確認した内容を整理していく。
強みとして考えられるのは、小型モーターの技術、少量生産への対応力、顧客ごとの細かな調整、現場の経験。
問題として見えたのは、設備更新、技能継承、価格設定、そしてまだ確認できていない財務状況だった。
最後に玲奈は、ノートの下部へ自分への問いを書き残した。
――東雲精機の技術には、本当はいくらの価値があるのか。そして現在の経営は、その価値に正しい値段を付けられているのか。
今の玲奈には、まだ答えられない。
だからこそ、次に見るべきものは決まった。
工場の次は、数字だった。




