第8話
スカーレットとアレクシスの結婚式は、見合いをした日から半年後に決まった。学園時代の友達の中ではダントツに短い婚約期間だ。学園在学中に婚約者がいた友達は数多くいたが、卒業後一年以内に式を挙げると言うのは稀である。
スカーレットとアレクシスは、その短い婚約期間で互いをより知るために、デートを重ねることとなった。
「気が重いわ。まるで、今日のすっきりとした晴れ間を覆い隠す、暗い雨雲に心が支配されているようだわ。」
「どこに雨雲があるのですか?雲ひとつない青空じゃないですか。デート日和ですよ!」
スカーレットは出かける支度をしながら憂鬱になっていた。
「だってほら、わたくし出かける前にめんどくさくなる人じゃない?」
「何ですかその言い方。昨日までは何を着て行くかウキウキ選んでいたのに。」
「嫌われたらどうしよう。」
「!お嬢様!お嬢様にもそういうまともな心配をなさる瞬間がおありだったのですね!」
ミランダがわざとらしく口を押さえる。スカーレットは面白くなかった。
「何よミランダったら。自分はトーマスとラブラブだからって。いい加減、トーマスが絶倫甘々なのか、大きくなったら臍までそそ」
「おっじょーさまっっ!!お時間です!!」
ミランダに部屋を追い出され、スカーレットは渋々、迎えにきたアレクシスの待つ応接室に入った。
スカーレットが部屋に入ると、父親と話をしていたアレクシスが立ち上がった。初めて会った時もわかっていたが、あまり身長は高くない。スカーレットの父親よりも低い。
(ヒロインよりも頭一つ大きいとかじゃないのね。でも、脱いだらバキバキかもしれない。)
「本日は、よろしくお願いします。」
スカーレットが透視能力に目覚めないかとアレクシスを凝視していると、爽やかに挨拶された。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「今日はどちらに?」
父親が口を挟んできたので、つい睨んでしまう。父親も睨み返してきた。空気の悪さに気づいているのかいないのか、アレクシスは父親とスカーレットに普通に答える。
「植物園です。」
「植物園!」
スカーレットは思わず歓声のような声をあげていた。
植物園といえば、温室。二人の「初めて」の場所にピッタリではないか?温室に備え付けられたベッドで…。今日の植物園の温室は見たこともないが。いや、ちょっと待てよ。二人の初めての温室は、植物園ではなく、個人の邸宅の温室かもしれない。他人の目がありすぎるだろう。とすると、温室で何が起こる…?
「スカーレット、こちらへ。」
父親の声で我に返った。いけない。サプライズはとっておかないと。
父親はアレクシスから少し離れたところでスカーレットに言った。
「くれぐれも。くれぐれも!粗相のないように。余計なことは一切口にするな。わかったな。さもなくば…。」
「それが脅迫状めいているというのです!」
「いいか。余計なことは一切口にするなよ。いや、もう余計ではないことも口にするな。お前は今日、アレクシス殿の前で喋ってはいけない。」
「無理です!何のためのデートなんですか!」
「本当は今すぐにでもデートなんてすっ飛ばして王宮に届けを出したいくらいなんだっ。…そうだ、ウェルストン卿に事情を説明して、戸籍係に話を通そう。奴は俺には逆らえない。」
「お父様。何をおっしゃっているのですか。アレクシス様をこれ以上お待たせできませんので!」
スカーレットはぶつぶつと続けている父親を無視し、アレクシスとのデートに出発した。




