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第7話

 


 見合いの日。スカーレットは気合いの入った母親と侍女頭とミランダに、目一杯のおしゃれを施されていた。といっても、豪華絢爛になったわけではなく、むしろ逆だった。大人っぽいシンプルな形のドレス。落ち着いた色。控え目なアクセサリー。髪の毛はまとめ上げられ、ドレスに合わせた生花を一つ。

「お上品に見えますわ、お嬢様…!」

 感極まったようにミランダが言う。

「私はいつでもお上品よ。いつもより、さらに大人の魅力が増したってことね。」

 スカーレットは自分でも満足だった。きっと年上の働き者にも良い印象を与えるに違いない。

「くれぐれも、余計なことは口にしちゃダメよ。」

「余計なこと。」

「ええ。もしあなたが余計なことを口にしたら、私が足を蹴飛ばすわ。それが合図よ。すぐに黙るのよ。その後はお父様がフォローすることになっているの」

「奥様…。無事のお戻りをお祈り申し上げます。」

 胸の前で手を組む侍女頭も心配そうである。

 スカーレットだってわかっている。流石に今日、全てを曝け出すことはない。結婚が決定だというのなら、今後の長い人生のために、スカーレットだって相手に良い印象を持ってもらいたい。お互いを知りながら、仲良くなる。理想的ではないか。



「あなたが氷の官僚様ですね。」

 母親がこちらを見たことがわかった。でも皆立っていたので、足は飛んでこなかった。

「凍ってはいませんが…官僚です。農業担当の部署に勤めております。」

「まあ!農業担当!素敵ですわ!!」

 ミランダの彼氏、トーマスの影が重なる。トーマスを見たことはないけれど。

 アレクシスは中肉中背で眼鏡をかけた男性だった。一見、朗らかに見える。しかし、スカーレットは確かめたかった。

「あの…表情筋は生きていますか?」

「表情筋ですか?」

「普段表情筋を動かすことはなく、眉一つ動かさないのですけれども、婚約者の前でだけそれが崩れるのです。周囲はそれを生暖かい目で見守って」

「スカーレット!」

 母親の足ではなく、父親の声が飛んできた。

「表情筋を意識したことはありませんが…特に誰かから指摘されたことはないので、問題なく動いていると思われます。」

 しっかりとした返事だ。確かに真面目である。しかも、表情筋は動いている。氷系の線は消えた。

 その後、テーブルに座って話をした。アレクシスも父親を伴っており、途中までは家族一緒に会話を続けた。スカーレットに母親の足が飛んでくることはなかった。なぜなら、その後スカーレットが口を挟む隙がなかったからだ。しかし、チャンスはやってきた。

「後は、若い者同士で親交を深めてもらいましょう。」

 と、アレクシスの父親が提案した。

 スカーレットは顔を輝かせたが、両親は慌てていた。

「いやいやいや、すでに二人は結婚に向けて共に歩み出したところ!」

「そうですわ。家族としての親交ももっと深めましょう!」

「?もちろん、今日二人を見ていてお似合いだと私も感じましたが…。スカーレットさんは、アレクシスでよろしいのですか?もっとお互いを知ってから決めていただいても…。」

(あれ?もう結婚は決定事項ではなかったの?)

 スカーレットは両親を見た。二人とも変な顔をしている。

「わたくしは、アレクシス様さえよろしかったら…このお話を進めていただいて構いませんわ。」

 正直言うと、スカーレットはすでにアレクシスと結婚するものだと思っていた。両親の口振りから。実はスカーレットは、未来の夫に対してこだわりはなかった。そして実際に会ってみて、なんとなくいけそうだと思ったのだ。氷系ではなく、表情筋も死んではいなかったのだが。しかし、アレクシスの意思を尊重したい。自分を気に入らないのなら断ってもらって構わないと思った。

「私も、結婚に異論はありません。」

 アレクシスは少し考えた後に微笑みながら答えた。

(表情筋、良い仕事しているわ…!)





「なんだか、あっさりといろんなことが決まったわ。」

「そういうものですよ、お嬢様。」

 就寝前。ミランダがスカーレットの髪の毛を解かしながら言う。

「私の姉が結婚した時も、トントン拍子に進みました。その前の恋人の時はあーだこーだと何だかんだで進まなかったのに。」

「あーだこーだで何だかんだ。そういうものなのね。」

 ミランダが言うと妙な説得力がある。

「明日は一日、お休みをいただきますね。」

「ええ。ご実家でゆっくりしてきて。恋人とも仲良くね。帰ってきたらじっくりと話を聞かせてもらうわ。」

「やだ、お嬢様ったら!」

 バシッ。照れたミランダに肩を叩かれてしまった。

(使用人が主人の娘を折檻する…ざまあモノの冒頭によくある展開じゃないの。)

 スカーレットは久しぶりに全年齢向けのざまあ系小説を読みたくなった。最近は刺激を求めてどんどん過激な本が増えていたのだが、初心に戻るのも良いかもしれないと思った。


「ダメだわ。やっぱりここで媚薬を使ってほしい。」



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