第6話
夕食後、スカーレットは父親の書斎を訪ねた。近頃父親はスカーレットに対し優しさが足りない。以前は読書の趣味を推奨してくれていたのに、最近では反応が悪く、他に目を向けるように仕向けている気がする。
書斎には母親もいた。三人でテーブルを挟んで座る。
「スカーレット。お前に見合い話を用意した。断ることはできないと思え。」
「はいい!?」
思わず淑女らしからぬ大声を出してしまった。
「なんですの、その脅迫状めいた言い方。」
「決定事項だ。」
「お待ちくださいお父様。あの、あまりにも急ではありませんか?普通、お見合いしてから結婚するかどうか決まるのでは…?そもそも、お相手の気持ちとか…。」
「普通はな。」
絶句しているスカーレットに、母親も口を挟んだ。
「そうですわ、あなた。ちゃんとスカーレットに説明しないと。あまりにも色々なことを端折りすぎです。」
「相手は、私のよく知る人の息子だ。」
「よく知る人の息子…まさかルドルフ!?えぇー…ルドルフ…?えー…。」
「なんだその顔は。ルドルフではない。」
「なら、良いです。」
「スカーレット、ルドルフでないのなら良いの?」
母親が不思議そうに聞いてくる。母親もルドルフのことをよく知っているからだ。
「はい。ルドルフでなければ。ルドルフでないのなら、どういう方なのですか?」
「中央に勤める真面目な働き者だ。年はお前の5つ上だったか。」
「そんな真面目な働き者、わたくしでよろしいのでしょうか?」
「大丈夫だ。むしろ、彼しか考えられない。」
「なぜですの?」
「お姉様がいらっしゃるのよ。お相手様には。」
母親がおっとりと微笑む。母親も知っている相手らしい。
「名前はアレクシス様よ。お姉様に小さい頃から振り回されてきたから、女性の扱いに長けているのよ。」
スカーレットは無言で部屋に戻った。今日は得た情報量が多すぎる。ミランダの恋バナ。自分の結婚話。そしてアレクシス。
ーアレクシス!
スカーレットは鼓動の高鳴りを抑えられなかった。アレクシスとは、絶倫騎士団長の名前だったからである。
今夜は、眠れそうに、ない。
「お嬢様!起きてください!」
カーテンを開けたミランダに起こされた瞬間に、昨夜の両親の話が脳裏に蘇る。
「私、結婚するって!」
「はい?」
「中央に勤める真面目な働き者と!」
「ちょ、まずは起きてお支度を…。」
ミランダがそそくさとスカーレットから距離を取る。話したいことがたくさんあるのに。スカーレットがやっとミランダと話す時間を取ることができたのは、昼食後のことだった。
「はい、お嬢様。朝の続きをどうぞ?」
「…なんだか余裕ね。」
「侍女頭に叱られないように、今日のだいたいの仕事に手を付けてきました。」
「手を付けた…終わってはいないのね?」
「やる気はある、ということを見せることが大切ですから。」
少し誇らし気のミランダにあまり共感はできなかったが、それでも自分と話す時間を確保してくれたのが嬉しかった。
スカーレットは咳払いをして話し出す。
「まず。聞いて驚かないで。いいえ、存分に驚いて。」
「ずいぶんハードルを上げますね。」
「結婚相手…お名前がアレクシスだったの!きゃー!!」
「シーッ!お嬢様!昨日それで叱られたばかりではないですか!」
「だって…だって!アレクシスよアレクシス!絶倫騎士団長と同じ名前なのよ!!」
「はっ。確かに。」
「驚いたでしょう!」
「私はアレクシスよりマーティンの方が良いですけれど。副団長の。」
「今その話はしていないわミランダ。しかも、聞いて。中央勤めなのよ!」
「中央勤めにも色々ありますが…中央のどちらにお勤めなのですか?」
「それは聞かなかったの。でも、氷の宰相様かもしれないわ!」
「宰相様は50歳過ぎでお孫さんがいらっしゃる優しげな方ですわ。」
「絶倫近衛団長かもしれない。」
「近衛団長も50歳過ぎでお孫さんがいらっしゃいますよね。」
「氷の宰相補佐。」
「氷好きですね…。宰相補佐様もお年を召しています。というか、我が国の要職に就いている方々は、皆うちの伯爵様よりも年上ですわ。」
「確かにそうね…。じゃあ、糸目の殺し屋。」
「イトメノコロシヤ?」
「王家の影。暗殺者よ。」
「お嬢様…。それはないかと。」
スカーレットは腕を組んだ。
「難しいわ。真面目な働き者が想像できない。」




