第5話
ミランダは王都近くの田舎の男爵家の次女である。兄、姉、ミランダ、弟の四人兄弟。両親は貴族らしからぬ木訥とした雰囲気の人柄で、領民達に愛されている。彼女は自然の中でのびのびと育った。スカーレットの家で働き出したのは16歳の時。2つ年下のスカーレットお嬢様とは、すぐに仲良くなった。美しいスカーレットお嬢様との日々は毎日が輝いていた。
「ここまでは良い?」
「…まあ、良いでしょう。よく知っていますね。私の家族構成。」
「雇い主ですもの。当然よ。続けるわ。」
ある日、ミランダは一人の男性と出会う。
「ここは間違いない?幼馴染枠としてすでに出会済み?」
「いいえ。幼馴染ではありません。実家に出入りしている商人です。」
「出入りの商人ですって!!」
スカーレットの目が輝く。出入りの商人と言ったら、ぜ…
「絶倫ではありませんよ。」
ミランダが冷たく言い放った。
「出入りの、農機具を取り扱っている商人です。定期的に飼料を届けたり。」
「なるほど。私のイメージしていた商人とは方向性が違う気がするわ。」
「…。」
ミランダは家に帰る時に度々会う、その商人のことが気になっていた。商人も、ミランダに会うと笑顔を向けてくる。ミランダはその商人の笑顔から目が離せなくなっていた。
「ねえ、ミランダ。恋人の名前って何?商人って言い続けるの、何か嫌だわ。」
「トーマスです。」
ある日、ミランダはトーマスから愛の告白を受ける。抱きしめられながらミランダは悩む。私もトーマスが好き。でも私は男爵家といえど貴族。彼は平民。身分の差があるわ。しかしトーマスは言う。僕達の愛に、越えられない壁なんてない。そのまま牧草の上にミランダを押し倒した。
「ちょっとお待ちください、お嬢様。」
「これから良いところなんだけど。ミランダの体に口付けの雨が降ってくる。」
「お嬢様!」
「分かった。ちょっと待つわ。」
「まず告白を受けたシチュエーションが違います。」
「牧草地ではないのね?」
「違います。納屋の前です。」
「納屋の前!それ、いいわ!」
「何が良いんですか…。それに、いきなり抱きしめられたりもしていません。」
「壁ドンね。」
「違いますって。一緒に荷物を運び入れるところです。だから、彼は飼料袋を持っていました。私は球根を。」
「それって…ムードはあったのかしら?」
ここまでの話で、スカーレットはミランダのことが少し心配になった。納屋と聞いた時は、納屋に引っ張り込まれて押し倒されるのも良いと思ったのだが、両手が塞がっていたら何もできない。
「ムードはなかったかもしれませんが、真剣に思いを伝えてくれましたし…。」
ミランダはその時のことを思い出したのか、恥ずかしそうに頬を染めた。
「私も好きだったので。」
「きゃー!!」
「うちはしがない男爵家ですし兄弟は他にいるので、私や親は特に身分の差にこだわりもなく。」
「きゃー!!やっぱり愛は身分を越えたのね!!」
「後から聞いたら、私の帰省に合わせて実家に納品に来てたっていうし!!」
バシッ。ミランダがクッションを投げた。
「きゃー!!!」
突然ドアが開いた。侍女頭だ。侍女頭の足元にクッションが落ちる。
「騒がしいと思ったら。」
侍女頭がクッションを拾い上げる。二人にはその動作が妙にゆっくりに見えた。
お説教。
何分正座させられただろうか。スカーレットは途中で口を挟みたくなった。
「私はお嬢様よ!」
と。しかし、言える雰囲気は微塵もなかった。ミランダは神妙な顔付きで話を聞いている。スカーレットはお説教を聞きながら、ミランダとトーマスに思いを馳せた。
普通萌えのミランダが好きになった、昼間は普通の男トーマス。まだ夜のことを聞いていない。容姿についても分からないから想像の材料が足りない。近いうちに必ず聞き出さなければ。
「お嬢様、聞いてます!?」
「はいっ!聞いてます!」
「とにかく、お静かに反省してください!夕食の後は忘れずに旦那様の書斎に行ってくださいね!」
「書斎?」
「ほら聞いてない!」




