第4話
ついに監禁生活が始まった。
足首には鎖の付いた錠が嵌められ、頭から被るだけの木綿のワンピースを着せられて。窓の外には変わらない日常が見えているのに、この部屋だけ時が進まない。私はただ、待つだけ。夜が来るのを。
「何言ってるんですか、お嬢様。」
ミランダが刺繍道具をテーブルに並べながらこちらを見て言った。
「何って…監禁されてしまったのよ。私は物憂げに窓の外を眺めた。」
「はいはい。お嬢様は物憂げに窓の外を眺めております。」
「王子の執着は、私の心を、体を、この部屋に縛り付ける。…次は?」
「私、あんまり監禁ものには惹かれなくて。」
「まあ、ミランダは絶倫一択よね。」
「違います!」
ミランダの声が響く。ミランダの否定は声が大きい。
「でもあなた、絶倫騎士団長シリーズを何度も読んでいるじゃない。」
「あれは…!」
「あれは?」
おや。ミランダが恥じらっている。その様子をスカーレットは見逃さない。
「絶倫騎士団長ではなく、脇役の副団長が好きなのです。」
意外な返答だった。確か副団長は、妻子持ちで普通の人枠だったはず。何事も平均的で、絶倫騎士団長の引き立て役で。
「ミランダは普通の人枠が好きなのね。」
「…そうなのです。実は私、普通の人という設定に最高に萌えるのです。」
みるみるうちに赤くなるミランダ。
「だからなのね、あんなに媚薬に否定的だったのは。でも、普通の人こそ、媚薬でおかしくなるのもいいんじゃない?」
「なぜそこで媚薬が出てくるのですか…。」
「だって…最初って怖いじゃない?」
「怖い?」
「だって、痛いんでしょ。媚薬で強制的にしないといけなくなったり、快感で頭がおかしくなったりしないと、できる気がしないわ。しないと出られない部屋でもいいけれど。」
スカーレットは顔を曇らせた。スカーレットにとって、男女間のあれこれは未知の世界過ぎるのだ。乙女小説での勉強は欠かさないので、頭ではしっかりと分かってはいるのだが。
「お嬢様、大丈夫ですよ。」
「そうなの?怖くないの?」
ミランダが優しい声で言う。
「少しは怖かったけれど。」
「だったらどうして大丈夫なの?」
「好きな人とだからですよ。」
「待ってミランダ。」
「はっ。」
「あなた、経験があるのね!?」
「お嬢様…!」
「恋人がいるってこと!?ねえ、いつから?いつから恋人がいたの?私にそっけなくなってから!?」
「何ですかそれ!そっけなくなんて、なっていませんよ!」
「だって、前はもっと二人でキャッキャしてたじゃない。小説読んで。」
言いながら、スカーレットは少し寂しくなってきた。恋人ができたから、乙女小説への熱量が冷めてしまったのかと思うと。しかし、ミランダは首を振った。
「いいえお嬢様。私は変わらず小説を読むこともお嬢様と盛り上がることも好きですよ。」
「でも…媚薬を探した時とか…。」
「私は変わりませんが、お嬢様がどんどんどんどんエスカレートしていくのです。変な方向に。」
「だって乙女向け小説は日々進化を続けているのですもの。でもこれで分かったわ。」
「何が分かったのですか?」
首を傾げるミランダに、スカーレットは自信を持って言った。
「あなたは日常ほのぼの系が好きってことよ。だから絶倫とか監禁とか執着とか媚薬とか発情とかに食いつきが悪いんだわ。」
「日常ほのぼの系。」
「そうよ。まずはあなたの恋人について話しなさい。もしかしたら日常ほのぼの系と見せかけた夜は絶倫甘々溺愛系かもしれないもの。」
「…こうなると思ったから、なかなか言い出せなかったのですよ。」
ミランダはため息をついた。




