第2話
その日スカーレットは、母に連れられて家族ぐるみの付き合いのある子爵家のお茶会に参加していた。
スカーレットはいつも、出かける前に面倒になるタイプだ。欠席の口実を一生懸命考えたりするのだが、来てしまえばまあまあ楽しめる。
今回もそうだった。
(もしかしたら、今日はイヤイヤながらも来て良かったかもしれないわ。こんなに涎もののお話が聞けるなんて。)
スカーレットが淑女らしい微笑みの裏で耳をそばだてていたのは、御婦人たちの会話だった。
スカーレットがもう学園を卒業している、ということで、それまでの若い娘の前での話と趣が変わっていた。
流石に母親は自らの話を娘の前ですることはなかったが、母の友人達の話はそれはもう赤裸々だったのだ。
「あたくしがお友達から聞いた話」としてある御婦人が語ったのは、年下の若い俳優との一夜の恋。絶倫すぎて魂が抜けるほどだったらしい。
(来たわ、絶倫。お約束ね。)
また、ある御婦人が「わたくしがお友達から聞いた話」として語ったのは、出入りの商人との、身を焦がすような秘密の恋。こちらも絶倫すぎて星が目の前に飛び散ったらしい。
(2件目ね。絶倫って、案外たくさんいるのかもしれないわね。帰ってからミランダに報告しないと。)
スカーレットはお茶を口にしながらニッコリと微笑んだ。
「…というわけで、絶倫って結構たくさん存在していそうなのよ。」
「本当ですかねぇ。」
帰宅後、さっそく興奮して話すスカーレットに、ミランダはそっけない。その反応に少しムッとする。
「なによ、その言い方。絶倫の存在を疑っているの?」
「うーん。物語ではよくある設定ですけど…。実際にいたら大変じゃないですか?」
「大変?」
「だって、一晩に何回も、とか朝まで、とか。次の日起きられなくなるじゃないですか。」
「そう言う場合は、女性は昼まで寝てるのよ。腰も痛めるし。絶倫側はちゃんと朝から仕事に行くの。」
「寝ないで?」
「寝ないで。」
スカーレットは蔵書から何冊か本を引っ張り出した。
「この絶倫騎士団長シリーズ、あなたも読んだでしょ。ここに出てくる通りのことを御婦人達が言っていたのよ。」
「…。」
ミランダが胡散臭そうな目で本を眺めている。
「絶倫すぎて、魂が抜けたり目の前に星が飛ぶんですって。」
「魂抜けたら死ぬのでは?」
「もうっ!ミランダのバカ!」
話に乗ってくれないミランダの背中をグイグイ押して部屋から追い出した。
(何よ、ミランダったら。この絶倫騎士団長シリーズが実は好きで何度も読み返してること、知ってるんだからね!)
スカーレットは絶倫騎士団長シリーズ全3巻の中の、第1巻を手に取った。
ちなみに第1巻は出会い、第2巻で婚約、第3巻で結婚である。どの巻も読みどころ満載で、スカーレットの愛読書の一つなのだ。
第1巻では、騎士団長が、夜会の警備中に媚薬を盛られたご令嬢を、その身を持って介抱する場面が山場である。ご令嬢の飲んだ媚薬に「当てられ」、騎士団長も発情して、一晩に何度もご令嬢を抱く。朝まで部屋から出てこない騎士団長とご令嬢に周囲の人達は心配するのだが、二人は時間の感覚がなくなっているのだ。ご令嬢はもちろん初めてだったのだが、媚薬のせいで快感に落ちてしまうという場面だ。
「媚薬。」
そういえば、乙女小説には媚薬が付き物。絶倫の存在は今日確認できたが、媚薬は見たことも聞いたこともない。
「媚薬はどこに売ってるの?」




