第1話
「陽の光の下で黄金色に輝く金髪がさらさらと風に靡いている。白磁のような肌に薔薇色の頬。長くけぶる睫毛が隠す瞳は深い青色に潤んでいる。薄桃色のシフォンが重なる襟元が、儚くも美しい面差しを飾っている。…スカーレット・アストラン。私のことよ。」
「お嬢様…。」
「一度言ってみたかったの。」
「お嬢様…。」
スカーレットは、「お嬢様…。」しか言えなくなった侍女のミランダを見た。ミランダは両手を口に当てている。
「ミランダ、誰にも言っては駄目よ。今夜の脅迫状のこと。」
「…そんな、お嬢様…!」
ミランダが顔を手で覆った。口元が緩んでいるのが見える。
「止めないで、ミランダ。あの方のためですもの。わたくし一人で解決しなければいけないの。」
「…わかりました。ご無事を祈っております。」
「スカーレットお嬢様、ミランダ。何をしているかと思えば。ミランダ、あなたお嬢様にお食事のメニューについて確認しに来たのでしょう。何をしているのですか。料理長が困っていましたよ。」
はっとして二人で声がした扉の方を振り返る。
そこには呆れ顔の侍女頭が立っていた。
「申し訳ございません、私としたことが。」
すまなそうにミランダが侍女頭に頭を下げて、スカーレットをチラリと見る。その顔は全くすまなそうには見えなかった。
「お嬢様、本日のメインディッシュの味付けですが、白身魚はフライにしてタルタルソースがけにするか、バターソテーにするか、どちらになさいますか?」
「そうね。わたくし、アクアパッツァがよろしくてよ。」
「承知いたしました。では、トマトのスープに入れるようにと料理長に伝えます。」
ここで、お侍女頭の大きなため息が聞こえてきた。
「スカーレットお嬢様、ミランダ。ふざけるのはもうおよしなさい。スカーレットお嬢様、フライでよろしいですね。ミランダも早く下がって仕事をしなさい。」
「はぁい。」
「返事は短く!」
「はいっ!」
ミランダが侍女頭に続いて行ってしまった。
「せっかく面白くなりそうだったのに。」
独りごちてベッドに座る。傍の読みかけの本を何気なく開いた。
「でも、脅迫状の中身については咄嗟に思い浮かばなかったわ。こういう場合はどんなことが書いてあるのが理想かしら。」
パラパラとページをめくる。脅迫状の話はこの本には書かれていない。
「この本は執着系王子様の監禁話だものね…。監禁、ねぇ…。」
スカーレットは静かに本を閉じた。本の表紙では美麗な王子様がナイスバディでセクシーな美女を後ろから抱きしめている。美女を眺めながら気が付いた。
「…私には胸が足りないかもしれないわ。そういえば、胸を揉んでもらうと大きくなると信じている女の子が、幼馴染の男の子とか執事に胸を揉んでもらう話をいくつか読んだことがあるわ。」
スカーレットは、わが家の執事を思い浮かべた。優しいおじさん。父親と同じくらいの年齢で、痩せっぽちの。私と同じくらいの娘と息子がいる。…ないわ。
次に幼馴染といえば…ルドルフ。うーん、ないない。ないわ。胸を揉ませるならイケメンじゃないと。彼には揉ませられないわ。
スカーレットはベッドに寝転がり、目を閉じた。スカーレットは一言で言うと、刺激に飢えている。
女学園を先月卒業し、家で刺繍やら詩集やらに囲まれて過ごす静かな日々。時々お茶会。時々夜会。家は裕福な伯爵家だから、働く必要もない。婚約者もまだ決まっていないから、花嫁修行にも身が入らない。することがないのだ。
唯一の趣味と言えるのは、学生時代に友人に勧められてハマった乙女向け小説を読むことだった。
そして最近では、読むだけでは飽き足らなくなってきた。
「どこかに転がってないかしら…乙女小説のような恋…。」




