第19話
次にアレクシスと会えたのは、差し入れ未遂から10日経ったあとだった。今日はミランダはいない。二人だけの逢瀬だ。
「すみません。仕事が立て込んでしまって間が開いてしまいましたね。」
グレイ邸の庭を歩きながらアレクシスが謝る。スカーレットは慌てて首を振った。
「いいえ、あの…お会いできるだけで嬉しいですもの。謝らないでください。」
見つめ合い、顔が近づく。キスされる、と思った瞬間、眼鏡がスカーレットの鼻にぶつかった。二人で驚いて顔を離して笑った。
今なら聞けるかもしれない。そう思ったスカーレットは勇気を出した。
「あの、アレクシス様。」
改まったスカーレットが背筋を伸ばす。アレクシスもつられて姿勢を正した。
「アレクシス様は、わたくしのこと、どう思ってらっしゃるの?」
緊張で心臓が口から飛び出しそうだったが、できるだけ平静を装った。
「どう、って…。僕はあなたのことが好きです。」
「好き?」
「はい。好きですよ。」
アレクシスが目尻を下げて笑う。
「それは、異性としての好きでよろしいですか?それとも、他の好きですか?」
「異性として、好きです。他の好きと言うのはよく分かりませんが。」
「あの…人として、と言いますか。友達としてとか…同僚的な存在としてとか。」
最後の方は口が動かずにモゴモゴしてしまって、小さな声になってしまった。
「友達として好きでも、同僚として好きでも結婚しませんよ。どうしてそのようなことを?」
「だって、アレクシス様はわたくしのことを感じがいいと思ったから結婚しようと思った、って、前に…。」
スカーレットは目を伏せてしまった。アレクシスは少し考えてから口を開いた。
「感じが良いな、と思ったのは事実です。第一印象と言いますか。でも、今はそれだけではありません。」
「それだけでは、ない?」
スカーレットが顔を上げると、アレクシスは真っ直ぐにスカーレットを見ていた。
「あなたと話しているととても楽しいです。本の話は最初驚きましたが、それも楽しかった。あなたに会えない日は長い。あなたに会えると嬉しい。」
アレクシスはスカーレットをそっと抱きしめた。胸の中でスカーレットは息を吸い込んだ。
「いつの間にか、あなたのことで頭がいっぱいなんです。スカーレット嬢。私は早くあなたと結婚したい。」
スカーレットは嬉しくて、安心して、そして申し訳なくなった。
「ごめんなさい…。」
「どうして謝るの?」
「わたくし、自信がなくて。それでやきもちを焼いていたのです。ハーテッド子爵令嬢に。」
「エヴリンに?ただの同僚ですよ。」
「だって、とても親しげで…。アレックス、エヴリンって。わたくし達はアレクシス様にスカーレット嬢ですし。」
言いながら恥ずかしくなってきたスカーレットは、アレクシスの胸に顔を埋めたまま言った。アレクシスは抱きしめる手に力を込めた。
「!」
スカーレットの鼓動が跳ねる。
「やきもち、嬉しいです。あなたは僕のことをどう思っているのですか?」
そこでスカーレットは気がついた。自分もアレクシスに気持ちを伝えていないことを。
「わたくしも、アレクシス様のことが好きです。」
「実は知っていました。」
「えっ!?」
驚いて顔を上げると、すぐそこにアレクシスの顔があった。
「わたくしの心の声が漏れ出ていたの!?」
「心の声は聞こえませんでしたが、顔を見れば分かりましたよ。」
ははっと笑ったアレクシスの顔が近づく。今度は眼鏡は邪魔にならずにキスすることができた。
「と言うわけで。やっぱり事件は愛を深めるのよミランダ!」
「どこに事件があったのですか…差し入れ腹痛未遂事件ですか?」
スカーレットは帰宅後、早速ミランダに報告していた。アレクシスと気持ちを伝え合ったことを。
「おもしれー女事件よ!」




