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第17話



  その日はまた、植物園に来ていた。前回まだ咲いていなかった季節の花が満開になったということで、アレクシスから誘われたのだった。

「急に声をかけてしまってすみませんでした。お忙しくはなかったですか?」

「いいえ、全く!アレクシス様のお誘い、とても嬉しかったです。」

 スカーレットは実際何も忙しいことはない。アレクシスが、スカーレットに会っていない間も自分と同じように思い出して花を見せたいと思ってくれたことが本当に嬉しかった。

 二人で見つめ合って微笑み合った後、手を繋いで植物園の中を歩いていた。その時。



「アレックス!」

(アレックス?)

 目的の花畑の方から一人の女性が手を振りながら駆けてきた。

「エヴリン?」

(エヴリン〜!?)

 上下作業服でスラリとした体型のその女性は、眼鏡を掛けて化粧っ気のない雰囲気、髪の毛も一つに結んだだけだった。

「驚いたよ。戻ってきたのかい?」

「ええ!実地踏査の報告も終わったから、また中央に戻ったの。1年ぶりくらいかしら?」

 アレクシスの問いに、エヴリンと呼ばれた女性が朗らかに返している。

 呆然と二人の様子を見ているスカーレットに、アレクシスが話しかける

「スカーレット。こちらは僕の同僚のエブリン・ハーテッド子爵令嬢。エヴリン、僕の婚約者のスカーレットだ。」

(し、子爵令嬢ですって?この女性が!?)

 紹介され、エヴリンがスカーレットをまじまじと見つめながら言う。

「ええっ。そうだったの!?婚約したなんて知らなかったから…驚いたわ!…へえ、そうなの。それはおめでとう?かしら?」

 最後のおめでとう?かしら?でスカーレットは腹の中が煮えくりかえった。

(この女…。)

 その瞬間、スカーレットは悟った。

(まさか、アレクシス様の『おもしれー女』枠だったのでは?子爵令嬢なのにこの出で立ち。サバサバ系を装う話術。)

 エヴリンには答えず、傍のミランダに口パクで伝えた。

(事件よ。おもしれー女。)

 ミランダは眉を顰め、首を傾げる。

(どうして伝わらないのよ!)



 スカーレットは気を取り直し、アレクシスと繋ぐ手に力を込めた。それに気づいたのか、アレクシスも手に力を入れてくる。その強さに勇気をもらった気がした。

「ハーテッド子爵令嬢、お初にお目にかかります。わたくしスカーレット・アストランと申します。あと4ヶ月半ほどでスカーレット・グレイになりますけれど。以後お見知り置きを。」

 自分の頭の中で再現する上で最高に美しく見える顎の角度を保ってスカーレットは挨拶をした。あっちがおもしれー女枠ならスカーレットはとことん美しい令嬢でいなければいけないと思ったのだ。

「4ヶ月半?いつの間にか婚約したと思ったら…早いわね。」

 エヴリンが少し驚いたように言う。

「その4ヶ月半が長いんだよ。」

 アレクシスがはにかむように笑いながら答え、スカーレットの顔を見た。

「ね?」

「…はい♡」

 スカーレットは語尾が甘くなってしまうのを感じた。

「ふふ。仲がいいのね。」

 二人を見てエブリンが苦笑交じりに言った。



「あのおもしれー女、余裕あるふりしてぇ!」

 ボスッ。

 スカーレットは部屋に戻るなり、クッションに拳を埋めた。エヴリンの表情を思い出すと涙が滲んできた。

「お嬢様。お嬢様。おもしれー女というのはどこから出てきたのですか?」

「あの女性の全てよ!子爵令嬢なのに中央の農業部で働いている時点でおもしれぇのに、作業服にすっぴん眼鏡よ!おもしれー女じゃなくて何枠よ!」

「おもしれー女という呼び名が似合う女性はお嬢様以外にそうそう存在しませんよ。」

「しかもアレックス呼びよ!『私は女性より男性の方が喋りやすいの。女同士のドロドロにはうんざり!』とか言ってるタイプよ!」

 泣きながら話すスカーレットにミランダは冷静に言った。

「あんなにアレクシス様と仲がおよろしいところを見せつけておいて、何をおっしゃっているのやら。」

「仲がおよろしいところを見せつけてなんて…見せつけてた?わたくし。」

「植物園の真ん中で。久しぶりに会った同僚の前で。」

 ミランダが区切りながら言う。口調は静かだけど、強い。

「手を握り合い。見つめ合って微笑み合って。4ヶ月半が長いんだよ。ね?はい♡」

「見せつけてた?」

「はい。」

「おもしれー女枠は?」

「お嬢様のことです。」

「じゃあ、あの方は何枠?」

「枠にはめるのはやめましょうよ…。」


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