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第16話



「人間とは欲深い生き物ね、ミランダ。」

「はい、そうですね。」

「はい、そうですね。じゃないわ、ミランダ。そこはどうしたんですかお嬢様?よ。」

「どうしたんですか?お嬢様?」

 スカーレットは深く息を吐く。

「私、キスをしたの。」

「何十回と聞きました。心の声も聞こえなかったんですよね。」

「心の声は諦めたわ。どこかで分かっていたもの。聞こえないこと。」

「諦めたんですね。」

 ミランダがあからさまにホッとしている。わざとらしいわ、と言いかけてやめた。



「もっともっと愛を深めたいって思うの。」

「!?お嬢様!?」

「何よミランダ。」

「何だか…普通の人が言う台詞です!」

「失礼じゃない?」

「監禁されたいとか言うのならばともかく!」

「されたくないとは言っていないわ。」

「えっ。」

 ミランダの勢いが止まった。

「愛を深めたいって言ったじゃないの。」

「…。」

「そろそろ何かが起こると思うのよ。そして愛が深まるの。」

「何をおっしゃっているのですか。」



 スカーレットは本棚から数冊選び、ベッドの上に並べた。

「ミランダも読んだわよね?全部。」

「…はい。読みましたけど。」

「アレクシス様に、昔の恋人がいて。夜会で偶然会う。」

「アレクシス様、恋人がいらしたのですか?」

「彼女は私のことを上から下まで舐めるように見て言うの。『ふふっ、可愛らしい娘さんね。』って。」

「待ってください、どこが真実でどこからがお嬢様の妄想なのですか?」

「いいから聞いて。私は見てしまうの。その女性とアレクシス様が休憩室に入っていくのを。」

「…全て妄想ですね。その時、アレクシス様の飲み物に媚薬が混ぜられていたとかでしょう。」 

 呆れ声のミランダに、スカーレットは目を瞬かせた。

「その通りよミランダ!さすがわたくしの侍女ね!」



 ミランダがため息を吐きながらスカーレットが引っ張り出した本を重ね始めた。スカーレットはその腕を掴む。

「アレクシス様には病弱の幼馴染がいるの。」

「ですから。どこが真実で」

「その幼馴染はわたくしとのデートに被せてお見舞いに来いとねだるのよ。」

「そういうこと、実際にあったのですか?」

「これからされる。」

「…もうよろしいですか。」

「よろしくないんだけど。事件が必要なの。」

「事件は必要ありません。」

「このまま何も起きないの!?」

 ミランダはスカーレットに掴まれていた腕を離し、スカーレットの両肩を掴んだ。

「起きません!起きなくても愛は深められます!」

「どんな風に?」

「えっ。」

 スカーレットもミランダの肩をガッチリと掴む。

「あなたはトーマスとどんな風に愛を深めているの?」



「ふっ、普通です。」

 ミランダが顔をスカーレットから背ける。

「出たわ、普通。その普通を話してもらおうじゃないの。」

「…話をしたり、一緒にご飯を食べたり、手を繋いだり…キスを、したり、です。」

「それで愛が深まるの?」

「深まります!思い合う二人が一緒に時間を過ごすことが一番だと私は思いますっ!」

「思い合う二人…。」

「そうですよ、お嬢様とアレクシス様のように。」

「わたくし達…思い合っているのかしら?」

 ミランダの肩を掴んでいた両手を離し、口元に当てる。

「お嬢様…?」

「わたくし…わたくし、思いを伝えられたことがないわ。これって、これっていわゆる、両片思いでは!?じれじれのもだもだの!」

「何をおっしゃいますか。」

「わたくし、悪役令嬢でも聖女でもない、ただの美しい令嬢だけれど、ここにきて乙女小説のヒロインになれたってことかしら…!」

 スカーレットは両手を胸の前で組み、空中を見つめている。

「お嬢様が苦手なジャンルではないですか。じれじれの両片思い系。」

「来るべき時が来たのよ。私は確かに探していたの。乙女小説のような恋を。」

「残念ですが、お嬢様はじれじれももだもだも、もじもじすらしていませんし、両片思いではなく両思いですよ!」

「その根拠は?」

「根拠?」

「ええ。わたくし達が両思いだと言う根拠。」

 ミランダは肩を落とした。心の底から面倒だと思った。

「…お二人のご様子、醸し出される雰囲気、お嬢様のアレクシス様に対する率直な言動、それに対するアレクシス様の態度!そしてキスをした!以上!!です!!」

「執着とか溺愛とかは?これから?」

「…私にはわかりかねます!」

 


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