第14話
私達の間を風が通り抜けていく。相変わらず、手は握ったまま。私の瞳には彼が、彼の瞳には私が映っていて。ベンチの後ろにはミランダがいるけれど。
「絶倫について、ですか。」
アレクシスが確かめるように言った。
「はい。絶倫について、です。」
私が答えた時、ミランダが大きく息を吸って、そのまま長く吐いたのが分かった。なぜ深呼吸したのかは分からない。
「乙女小説には絶倫が付きものなのです。絶倫騎士団長アレクシス様は、その象徴的存在です。」
「そうでした。僕と同じ名前でした。」
名前が同じということを思い出したのか、また赤くなった。
「しかし、僕は、その…心配になりました。」
「心配?」
はっ。まさか、騎士団長の絶倫ぶりに、夜の自信がなくなってしまったのかもしれない。ここはフォローするべきなのか。
「あの、騎士は基本的に体力がおありなので、絶倫が多いのですわ。」
「そうなのですか?騎士に友人はいないので…。」
「ええ。ですから、朝までとか、一日中とかは騎士だからこその絶倫ぶりだとわたくしは捉えております。」
「僕は、騎士だからこそ心配で。」
「騎士だからこそ?」
「騎士の皆さんは体が資本です。寝不足は次の日のパフォーマンスに響くでしょう。」
「体力があるから寝なくても大丈夫なんです!」
「体力の有無に関わらず、睡眠時間を削るのは良くありません。健康的な生活において、睡眠時間は大切にしましょう。」
ミランダが頷いている。
「スカーレット嬢は…絶倫の男性がお好みなんですか?」
「わたくしは…そうですね。3回くらいで。」
「3回?」
「少なすぎます?」
「普通は1回、多くて2回くらいなのでは…?3回はさすがに、インターバルを…。」
「でも、乙女小説ではよく抜か」
「ゔゔん!!」
ミランダの大きな咳払いに遮られてしまった。
アレクシスがキュッと手を握り直したので、スカーレットはその手を見つめた。自分より大きい手。骨張った指。それを意識したら胸がドキドキとしてきた。
「動悸がします。」
「えっ。動悸?大丈夫ですか?」
「アレクシス様の手を見ていたら、動悸が…。」
「疲れたのかもしれません。そろそろかえりましょうか。」
「…はい。」
そそくさと馬車に乗り込んだ。動悸が収まらない。
「あの…今度はいつ会えますの?」
「そうですね。1週間後はいかがでしょうか?」
1週間。長い。1週間も会えないなんて。少しがっかりしているスカーレットに気付いたのか、アレクシスが提案した。
「1週間もあなたに会えないのは寂しいので、あなたの屋敷に着いたらお勧めの本を持って来てくれますか?1週間の間にあなたを思い出しながら読んで、また感想をお話します。」
「はい!そういたします!ジャンルのお好みはありますか?」
急に元気になったスカーレットに一瞬目を丸くしたアレクシスだったが、笑顔で言った。
「絶倫以外で。」
帰っていく馬車をミランダと二人で見送りながら、スカーレットは呟いた。
「絶倫以外のものって、なかなか無いものなのね。探すのに時間が掛かってしまったわ。」
「全年齢向けのものから選べば良いものを…。」
「だって前にも言ったじゃない!私が持っている全年齢向けの乙女向け小説って、大概にして婚約破棄有りのざまぁ系なんですもの!」
「読んでスッキリで良いではありませんか。」
「絶対にダメよ!婚約破棄だなんて縁起が悪すぎるもの!」
「そうでしたね…。アレクシス様が理解ある方で本当にようございました。」




