第13話
川辺の公園で会う日。この日も快晴だった。
「私の心をそのまま映しているような美しい空!天気にまで祝福されているんだわ!」
上機嫌なスカーレットに、ミランダはクスッと笑う。
「初めてのデートの日は、晴れた空に雨雲をお掛けになっていましたよね。あれからまだひと月もたっていないのに。」
「そうだったかしら。」
「チョロイン…」
「何か言った?」
ミランダと軽口を叩きながら玄関でアレクシスを待っていると、母親がやってきた。
「スカーレット。分かっているわね。」
母親が低い声で確かめるように話す。スカーレットはやれやれ、と思った。前回アレクシスの家にお邪魔する時も、出がけに同じことを言われた。
「いつまでも心配なさらないで、お母様。とてもうまくいっているわ。」
母親はスカーレットの言葉には答えず、ミランダの方を向いた。
「ミランダ。くれぐれも、くれぐれも!スカーレットのことを頼んだわよ。」
「はい、奥様。」
ミランダが恭しく頭を下げながら、スカーレットを横目でチラリと見た。スカーレットは首を小さくすくめた。
川辺の公園は天気が良かったこともありそこそこ賑わっていた。
スカーレットはアレクシスとベンチに並んで座り、後ろではミランダが日傘を差してくれている。
「スカーレット嬢。この間は予定を変更してしまい、本当にすみませんでした。」
丁寧に頭を下げるアレクシスに、スカーレットは慌てた。
「アレクシス様、先ほど馬車の中でも謝罪いただきましたし、お忙しい中お手紙もくださったではありませんか。もうおやめになって。」
アレクシスは頭を上げたが、申し訳なさそうな表情が消えない。
「そんなに謝らなくても…」
真面目すぎる。スカーレットは思った。
「それに、今日お会いできたのですもの。会えなかった分、嬉しさ倍増ですわ!」
その言葉に、アレクシスはハッとした顔をした。
「そうだ。僕はきっとあなたにとても会いたかったんだ。それが叶わなかったことが悔しかったのでしょう。だからしつこく謝ってしまった。」
「アレクシス様…。」
「スカーレット嬢…。」
二人で手を握り合い、見つめ合った。アレクシスの瞳にスカーレットが映っている。今だわ。
「アレクシス様。絶倫騎士団長はいかがでしたか?」
つい、握る手に力が入ってしまった。この質問をする時を待っていた。アレクシスがどう思ったのか、今なら素直に聞ける。
「…今ですか。」
「はい。今です。」
後ろからミランダのため息が聞こえたのと同時に、スカーレットの手が膝の上に下ろされた。でも、握り合ったまま。スカーレットはその手を見ながらアレクシスの次の言葉をドキドキしながら待った。
「面白かったです。」
「面白かった!」「面白かったぁ!?」
スカーレットとミランダの声が重なる。
思わずミランダを見ると、しまった、という顔でそっぽを向いていた。
「しかし。」
「しかし!?」
「少々…いや、結構過激な内容で…驚きました。」
「過激というのは…王弟派の思想でしょうか。確かにわたくしもそう思いました。」
「性描写がです。」
アレクシスの顔が少しずつ赤くなってきた。あら、かわいいとスカーレットはつい思ってしまった。
「性描写。薄くはないかもしれませんが、濃くはないと思います。絶倫騎士団長シリーズは。」
「あれで濃くないのですか?色々出てきましたよ?ぜ、絶倫とか…媚薬とか。」
「絶倫と媚薬は乙女向け小説のお約束ですもの。もっと濃くなると、ハートが乱舞したり、直接的な良い回しが増えたり。例えばお」
「シッ!」
はっ危ない。スカーレットは黙った。ここで性器の名称を口に出してしまうのは流石にいけない。
「…絶倫と媚薬は乙女向け小説のお約束です。あとは執着溺愛、監禁。」
「監禁ですか。犯罪では…。」
「記憶喪失も。」
「記憶喪失!?記憶喪失もお約束なのですか!」
「はい。後は死に戻りとか、獣人の番とか。様々なジャンルがあるのです。」
「死に…ジュウジンノツガイ…。」
「全年齢向けですと、ざまぁ系。両片思いモダモダ系。」
「ザマァケイに…モダモダケイ?」
「ざまぁ系はざまぁみろでスッキリできるのですが、わたくし実は両片思い系はもどかしくて読めないんですの。」
「両片思い系はモダモダケイのことですか?」
アレクシスを混乱させてしまった。話を絶倫騎士団長に戻したい。
「絶倫について、深めに議論いたしませんこと?」




