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第12話



 次にアレクシスに会うのは、1週間後のはずだった。場所はスカーレットの自宅の応接間で。しかし、前日になって都合が悪くなった旨の連絡が届いた。

 ミランダは心配そうな顔をしている。

「やっぱり、絶倫騎士団長がダメだったのでは…?」

「そんな…。ダメだったら、タイトルを見た時点で引き返してくだされば良かったのに。」

「いや、中身が問題でしょう。」

「騎士団長が絶倫すぎて、自信がなくなってしまったのかもしれない。わたくしは何てことを。」

「現実と混同してるのはお嬢様くらいですよ。」

「ミランダ、私を慰めてる?」

「慰めてます。ところでお嬢様、こんな時に言いづらいのですが明日はお休みをいただきます。」

「そうだった!そうだったわミランダ!明日いないんだった!!もうっ!ミランダのバカ!」

 スカーレットはテーブルに突っ伏した。

 そしてミランダをチラリと見る。

「トーマスは、絶倫ではない。トーマスは、普通。トーマスは、普通。」

「ちょっ、何なんですかお嬢様!お嬢様があまりにも教えろってしつこいから言ったんじゃないですか!」

「ふんっ!」



 アレクシスが来るはずだった日の夕方、アレクシスからの手紙と共に花束が届いた。花束を誰かからもらったことがなかったスカーレットは、それだけで舞い上がってしまった。

(花束なんて、まるで乙女向け小説じゃない。)

 浮かれた気分で手紙を開いた。そこには、今日会えなかったことへの詫びと、急な仕事が入った為という理由、そして、次回のデートの誘いが、几帳面な字で書いてあった。アレクシスそのものといった真面目な手紙に、スカーレットは会えなくて荒んでいた気持ちはどこかに飛んでいったようだった。

 スカーレットはこれまで、未来の結婚相手について具体的に思い描いたことはなかった。小説の中の男性達は皆、並外れた能力やら容姿やら体やらをしていることが多いが、それらを実際に探そうとは思ったことがない。小説を読むだけで満足だったのだ。

 しかし、今、アレクシスという生身の男性がスカーレットの日常に入り込んできた。彼は小説の中に出てくる男性達と違って、何かに秀でたところは今のところ見当たらない。でもスカーレットは、確かに彼に会いたいと思っている。彼の声を聞きたいし、彼に話を聞いてもらいたい。

 スカーレットは何度も手紙を読み、その日は枕の下に手紙を入れて眠った。



「お嬢様、すっかり恋する乙女ですね!」

 次の日、休みを満喫してきたミランダに報告すると、開口一番に言われた。

「恋する乙女?わたくしが?」

「ええ。誰がどう見ても。」

「そんな…まだ会ったばかりなのに…。」

「アレクシス様、素敵な方ですもの。」

 ミランダがにこにこして言う。スカーレットは困惑した。

「わたくし、愛されようとは思っていませんの。ただ、人生を歩むパートナーとして、お互いを尊重し合って生きていければそれで良いのです。」

「それ、どこかで読んだことのある台詞ですね。あ、あれです。お前を愛することはない、って言われた後のヒロインの台詞。」

「乙女だったら一度は言ってみたい台詞の上位に食い込んでいるものよ。」

 言いながら、口角が上がってしまう。ミランダは見逃さなかったらしい。部屋を出るミランダの声が聞こてきた。

「照れ隠ししちゃって。可愛いんだから!」



 改めて設定されたデートは5日後。今度は川辺の公園だ。スカーレットは楽しみだった。アレクシスへの恋心を自覚したスカーレットは、絶倫騎士団長の感想を聞くことはもちろんのことだが、アレクシスに会えることが楽しみだった。

 しかし、同時に不安でもあった。

「絶倫騎士団長を気に入られなかったらどうしよう…私、きっとショックを受けるわ。」

「それは仕方のないことです。あれは…あの話は、向き不向きがありますから。」

「向いてないと感じても、お世辞でも面白い言ってほしいの。」

「そんな無茶なことを。お嬢様だって苦手なジャンルあるじゃないですか。」

「あるわ。今思いつくのは逆ハーレムもの。」

「ほら。それですよ。」

「逆ハーものは色々と考えてしまうのよ。男性側の気持ちを。」

 スカーレットは逆ハーレムものに登場する男達に思いを馳せる。

「自分の番を待っている時、ふと我にかえらないのかしら。他の人のものと自分のものを比べて、ヤル気が削がれないのかしら。衛生的には大丈夫なのかしら。」

「…。」

「そうね。自分が好きでも、他の人には刺さらないってこと、よくあるものね!」


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