第11話
植物園のデートから1週間。この日は初めてアレクシスの家を訪問した。アレクシスの母親は初対面だったのでこれまたスカーレットは緊張していたが、アレクシスに似た、気さくな母親で安心したのだった。
母親に手土産を渡す。
「こちら、両親からです。近いうちに会いましょう、と母からの伝言もお伝えいたします。」
「まあ、嬉しいわ。私もカレンに会いたいわ。よろしくお伝えしてね。」
両親同士、学生時代からの付き合いらしい。自分の学園時代からの友人達と、今後家族ぐるみの付き合いをすることはあるのだろうか。
未来を少しだけ考えた。
アレクシスとは、応接間で会った。アレクシスの仕事の近況や、スカーレットの学園時代の思い出話など、会話に花が咲く。ミランダは壁に控えている。
そして学園時代の話を続けていたその時、ついに本を出すタイミングがやってきた。
「そうなんです。私はいつも学園の中庭で友人達と本を読みながら感想について語らい合って…そうそう、本といえば。うふ。これですわ。」
(ジャーン!!)
心の中で効果音をつけながら、徐に手提げの中から3冊の本を取り出した。
「この間、アレクシス様が読んでみたいとおっしゃってくださった、乙女向け小説です。私がこのジャンルに踏み出したきっかけとなった本ですわ。」
「絶倫騎士団長シリーズ第1巻、絶倫騎士団長は白薔薇の君への執着愛を隠さない〜国1番のスパダリは、俺様で絶倫でした〜、ここまでがタイトルですか?」
「はいっ!…ちょっと、長すぎますか…?」
「確かに。長いですね。女性向けの恋愛話は読んだことがなくて。姉はあまりこういう話は読んでいなかったようですし。」
「まあ、そうなんですの。ちなみにアレクシス様やお姉様はどんなお話を?」
「そうですね。僕は冒険小説や歴史小説が好きなんです。姉はもっぱら領地経営に関する本ですね。」
「お姉様がこのお家を継がれる、とお聞きしました。」
アレクシスが苦笑いする。
「はい。昔から姉は男勝りと言いますか。こう言うと怒られるのですが…強烈な人で。頭も回るし口も立つので領主には最適な人なんです。」
「昨年ご結婚なされたと。」
「はい。本当に良かったです。家族全員で姉の結婚を心配していましたから。義兄には心の底から感謝しているのです。」
その口ぶりに、スカーレットはアレクシスの姉について俄然興味が湧いてきた。
「…まさか、リアル悪役令嬢…?」
「シッ!」
呟いた途端、ミランダから睨みと共に静止の合図が届く。
「悪役令嬢?」
「はっ、申し訳ありません!何でもありません。」
「確かに、姉はどちらかというと悪役っぽいですね。言動とか容姿とか。」
「えぇっ、本物なのですね!」
「敵も多いでしょうね。あの性格ですから。誰にも忖度しないので。私は母親似ですが、姉は父親似ですし。」
スカーレットは改めてアレクシスを見た。言われてみれば、さっき会ったアレクシスの母と似ているところがたくさんある。気さくなところだけてなく、柔らかい顔付き、茶色の髪の毛、体型。反対に父親は、シュッとした感じの、顔が濃い人だった気がする。
「あの…悪役令嬢ものの話も、わたくし何冊か持っていますので、今度お持ちいたしますわ。」
「へえ、そういうのもあるのですね。姉を思い出したらどうしましょう。」
アレクシスがそう言って笑った。スカーレットも笑った。笑ってから思い出した。
(しまった…私が持っている悪役令嬢ものは、軒並み婚約破棄がセットだわ…!)
「すみません、アレクシス様。やっぱり悪役令嬢ものはなしで。」
「えっ、なしですか?」
「アレクシス様には…刺激が強すぎるかもしれませんから。」
「シッ!」
またミランダに止められてしまった。




