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第10話



 スカーレットは張り切っていた。張り切って本棚を漁っていた。なぜなら、アレクシスがスカーレットの愛読書に興味を持ってくれたからだ。



「お嬢様、アレクシス様は絶対に乙女向け小説を勘違いなさっておいでです。」

 スカーレットが本棚から出した本をペラペラとめくりながらミランダが言う。

「勘違いも何も。まだ読んだことはないとおっしゃっていたもの。おすすめの本をお貸しして、読んでもらうところから始まるのよ!」

「アレクシス様はきっと、乙女向け小説がこんなに過激な本だなんて思っていませんって…。全年齢向けの本からお貸ししたらいかがですか?」

「うーん。私、全年齢モノって、最近触手が動かなくて。」

「食指です!食指!!」

「さすがに1冊目に触手モノは読ませられないわ。それくらいの分別はあるわよ。」



「これはいかがです?」

ミランダが1冊の本を手に取る。

「それ、悪役令嬢の婚約破棄モノじゃない。却下よ。」

「えぇ〜。でも、1冊目だからこそライトなざまぁ系がいいんじゃないですか?」

「婚約破棄だなんて、縁起が悪すぎるわよ。却下。」

 渋々ミランダが本を棚に戻し、また一冊手に取る。

「では、これは?」

「それは側室のほのぼのスローライフ系じゃない。お仕事で農業をしている人に、プライベートまで農業の話を読ませるなんて。気が休まらないわ。」

「これ、農業の話なんですか?恋愛話でしょう?」

「その話、作者が農業について深い造詣があることが、わたくしのような一読者にも伝わるほどの熱量で書かれているのよ。もはや恋愛話の域を越えているわ。」

 ミランダは無言で本棚に戻した。



「やっぱり、これしか考えられないわ。」

 絶倫騎士団長シリーズ。これしかない。

「待ってくださいお嬢様。それはいけません。」

ミランダが真剣な顔で言う。でも、スカーレットも譲れない。

「ミランダ聞いて。これは私の人生を変えたシリーズよ。いわばバイブルなの。」

「アレクシス様は男性です。農業担当の。」

「その通りよ。それがどうかしたの?」

「農業担当の男性が、絶倫だの媚薬だの誘拐だの執着だの溺愛だの、そんな話を好みますか?」

「わからないじゃない。農業担当は関係ないわ!」

「しかも、この絶倫騎士団長、名前がアレクシスじゃないですか!絶対に嫌ですよ!自分と同じ名前の絶倫男が出てくる話なんて!」

「こっちのアレクシス様だって絶倫かもしれないわ!」

「お嬢様!絶倫は滅多にいません!!」

「そんなことっ…!まってミランダ!!あなたのトーマスの話を聞かせなさい!!」

 一瞬にしてミランダの顔が赤くなった。

「なっ…お嬢様っ!話を逸らさないでください!」

「逸らしているのはあなたよ、ミランダ!いつ聞いてもいつの間にか話を逸らして…!だから私はずっと考える羽目になるのよ!」

「ずっとなんて考えないでくださいよ!」

 二人で大声で叫び合っていたところでハッとした。廊下から足音が聞こえる。まずい。また叱られる。



 瞬時にミランダがクローゼットの中に隠れた。 と同時に扉が開く。

「まぁたあなた達は大声で騒いで…!あれ、お嬢様。ミランダは?」

「ここにはいないわ。」

 しらっと返した。侍女頭は不思議そうに首を傾げる。

「では、一人で大騒ぎなさっていたのですか?お嬢様。お歌でもお歌いに?」

「…そうよ。」

「ちゃんとピアノで音を取ってからお歌いになった方がよろしいかと。あと、昼間だからと言って大声を出すのは本当におやめください。淑女としてあるまじき行為です。淑女たるもの、例え誰に見られていなくても、その振る舞いは女神のように気品に満ち溢れたものでなくてはならないのです。今のお嬢様はどうです?お嬢様?聞いてらっしゃいますか?」

「…聞いているわ。」



 侍女頭の長いお説教が終わり、スカーレットはベッドに倒れ込んだ。ミランダがクローゼットから出てきたのを睨む。

「えへへ。」

「えへへじゃないわミランダ、こうなったらトーマスの話を聞かせてもらうまで許さないんだから。アレクシス様に貸す本も絶倫騎士団長シリーズで決まりよ。」



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