ユス湖
突然だが、グリフォン便を説明しよう。
まず、グリフォンについて話そう。グリフォンは、鷲の頭、翼に獅子の体を持つモンスターであり、4足とも獅子の脚をしている。足から頭までの高さが平均170cmある。峡谷や森などに棲息しており、ロンドの森でも見つかっている。約15頭でひとつの群れを成しており、雑食である。知能が高く、喋られないが人語を解す。人を襲うと後々危険になることが分かっており、人を襲うことは基本ない。しかし戦うとなると、鉤爪が厄介であり、波属性の魔法も使い、グリフォンの群れと戦うことになると、連携の取れた攻撃をしてくる。群れと戦う場合、危険度は10段階で7である。好奇心旺盛で、他の種族に興味を持ち、まれにその種族の群れに交っているところが目撃されている。
グリフォン便とは、赤ちゃんの頃から人の手で育てたグリフォンに人を乗せて遠くまで飛ばせるよう訓練をしたグリフォンを頼りにするのである。『リーヤー』では、タクシーや一人乗りの飛行機にあたるものだろうか。他人の歩みだと何日もかかるところを1、2時間で移動できることから、遠出をしたい人に重用されている。『マジック・マキシマム』には専用のグリフォン便があり、ロンドでは100頭ほどいる。人を1人から2人乗せて飛ぶことが出来る。
「1チームはここロンドで合流し、もう1チームはユス湖の北の方から来て、現地で合流するらしい。」
ライエンはグリフォン便でもう1チームを待ちながら説明する。
「なー、トン。調子はどうだ?」
「ピャ?ピャーピピャーッ!」
「おうそうか。今日はお前でよかった。」
デオンはトンという名らしいグリフォンと話をしている。デオンは動物とコミュニケーションをとることが出来る。
獣人は動物と話すことが出来る。『マジック』も一握りの人物は動物と会話をすることが出来る。その人たちは、その天賦の才能を活かし、モンスターと一緒に敵と戦う戦法をとる、テイマーになる人が多い。
「3チーム合同っていうから、誰が来るかと思ったら、非国民でこぼこチームかよ。」
ソムはグリフォンの方から振り返ると、チーム「ライトニング」の面々がいた。チーム「ライトニング」はモンスター討伐を主な生業とする、男性4人のチームだ。ランクはCである。
「へっ、Cが。ほざくな」
「んだと・・・!」
「やめろ、ランクは飾りだろ。」
「でもなぁ」
ソムがデオンを注意する。相手のチームは全員デオンを睨んでいる。
チーム「カラフル」は、獣人にエルフがいる。獣人は『アルル』では差別されている。エルフもその傲慢な態度から、一般の『マジック』からは嫌われている。その立場を全く無視した点から、一部の人からは理想的なチームと言われているが、ほとんどの『マジック』からは白い目で見られている。
「・・・まぁ、足だけは引っ張るなよ。」
「お互い協力して頑張りましょう。」
「けっ」
リーダーのエレクが得物の大剣を背中に掛けている鞘から少し抜いたり戻したりしながら嫌味をこぼすが、ソムは物腰柔らかに返す。
「すいません。ソムさんが帰ってきたときには、ちょっとはみんなを見返せるぐらいにはなろうと思っていたんですが・・・。」
アスマスがへこんだ様子で言う。
「別に構わないよ。今の言葉聞いて、やっとここに帰ってきたなあって思ったから。」
「それにもう慣れっこだしね。あんたは久々の歓迎に気分を悪くしたかい?」
エーヴァが尋ねる。
「いや、実は『リーヤー』でも最初は『マジック』ってことで、時々結構な扱いを受けたんだ。しばらくしたらみんな受け入れてくれたけど、忘れたころに嫌味言われたりしてね。メンタルはなまってないよ。」
「そうかい、ならいいんだけどね。」
「僕たちのチームがここにいること自体が、みんなを見返しているんだ。解散したら、相手の思うつぼだ。」
「実は解散してたらどうしようって考えてたんだけどね。」
小声でアスマスに言う。アスマスは苦笑した。
グリフォンの鞍に命綱の金具に掛けて、計10人はひとり一頭ずつグリフォンに乗って、飛びだった。
ユス湖はロンドの北200kmの辺りにあり、グリフォンで二時間半かかる。広い道に沿って飛んでいくと、時々小さな町があり、さらに先にまた町があり、林を超えて、またしばらく道に沿って飛んでいくと、グリフォンに乗っていてもわかる湖が見えてきた。
高度を下げ、雑草のぼうぼうと生えたところにグリフォンたちは降りていった。霧はすでに晴れているようだ。鞍にかけてあった鹿肉を取り出し、グリフォンの前に置く。ここで待ってもらう間、休憩兼食事をするためである。
ユス湖にはすでに人がいた。
「うわ・・・」
湖のほとりでその人物は、ユス湖から次々と飛びかかってくるピランを剣を高速に動かして切っていく。同時に5匹、いや6匹は襲い掛かってきているだろうか。
「すいませーん!!」
皆しばらく唖然として見ていたが、ソムがすごい勢いでピランを倒していく人の後ろ姿に向かって叫んだ。
それに気づいたのか、その人物は顔は湖の方に向けてピランを倒しながら、湖から一歩一歩離れていき、こちらに近づいてくる。ピランが飛びかかってこれる距離から離れると、ピランは湖から飛びかかってくるが、地面に激突し、湖のほうへ跳ねて戻っていく。
それを確認してその人物はソムたちの方を向いた。その瞬間ソムたち計10人全員に衝撃が走る。あ、と何人かは間の抜けた声を出す。
「やあ、待っていたよ。」
「デンゼルさん!?」
チーム「ライトニング」のエレクが大きな声を出す。
「うん、まあそんなビビらないでくれ。別に驚かせるためにきたんじゃないんだ。ユス湖の安全のためにね。」
「じ、じゃあユス湖に誰か大物が来るんですか!?」
「渡るのは、僕たち市民じゃないか。確かに僕はグリフォンに頼りっきりで湖は渡らないけど。」
「他の『ファストバード』の人たちもきているんですか!?」
エレクたちは湖を見渡す。ソムも見渡すが、人影も音もしない。
「いや来ていない。前の仕事でね、怪我をしちゃったんだ。僕はかすり傷だから、こうやってここに来たわけ。」
チーム「ファストバード」は5人の人間で構成されている。幻術師のノーレム、魔撃銃マジックガン使いのイエーガー、大狼のテイマーのゴル、最高の医療魔術師と言われるメディチ、そして早業の剣使いのデンゼル。一人一人だけを見ても遜色ないメンバーは、『マジック・マキシマム』が公表している唯一のランクSである。別名「フェニックス」と呼ばれる彼らは、強さを求める人たちにとっては、最高の目標の『マジック』チームである。
「それじゃ、さっそく本題に入ろう。ユス湖でピランが大量発生しているのは、さっき見た通り事実だ。君たちはチームごとに分かれてここと湖の裏側でピランを狩ってほしい。ピランを狩るにはまず湖から誘き出さなければならない。その方法は─」
「匂いですね。」
デオンが答える。
デンゼルは驚いたようにデオンを見たが、すぐに納得したように顔をほころばせた。
「ああ、そうだ。」
デンゼルは片手で掴めるサイズの立方体のものを取り出した。
「これは、ピランが好きな匂いを出す魔器具だ。ここに魔力を注ぐと匂いを発する。僕にはわからないけど、そこの獣人君にはわかるみたいだね。」
「はい。」
「これを使って、ピランに襲い掛からせる。ピランの獰猛さを利用するんだ。合計3個、僕と君たち2チームにひとつずつだ。えーと・・・、君と君は別のチームかな」
「「はい。」」
デオンとエレクは即答する。
デンゼルは立方体の魔器具をデオンとエレクに手渡す。さっそく魔力を注いでいるのか、デオンは立方体に鼻を近づけている。
「肉の匂いがする。」
デオンが言った。
「そうなのか?」
ソムには匂いが分からなかった。
「それじゃあ、みんな指定の位置へ。僕は湖の中央でピランを狩る。」
「え、大丈夫なんですか!?そんなところ行って。」
コリンは驚いた様子で言う。湖の中央なんて、落っこちてしまったら、ピランの大群の格好の餌だ。
「僕たちはもっとひどいところを経験してきた。これぐらいなんともないよ。それに湖の岸辺だけじゃあ、全てのピランを狩れないよ。」
「そうですか・・・。」
コリンはデンゼルのにじみ出る圧に縮こまってしまった。
「さあ始めよう。」
依頼開始である。
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