第七章第七話
「1次ラウンドから決勝ラウンドまで、中1日での過酷な連戦……。これが地域CLの真の恐ろしさか」
ベンチで門倉オーナーが絞り出すような声で呟く。
JFL昇格を懸けた最終決戦、「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)」。
全国の地域リーグを勝ち抜いた猛者たちが集うこの大会は、短期集中による極限の連戦が選手たちの体力を奪い尽くす、日本サッカー界で最も残酷と言われる過酷なトーナメントだった。
プロのように手厚いトレーナー陣もケア設備もない「プリズンガーディアン島根」。
普段は役所で書類を扱い、現場で汗を流す公務員や地元の社会人たちで構成されたチームの疲労は、すでに限界を超えていた。
決勝ラウンド最終戦。勝った方がJFL昇格を手にする大一番。
対戦相手は、プロ経験者を多数揃え、圧倒的な資金力とフィジカルを誇るJリーグ参入本命の企業クラブ。Jリーグ昇格を目指すクラブから門番と恐れられている。
前半から相手の猛攻に晒され、農協職員の巨漢CBも、信用金庫マンのサイドアタッカーも、満身創痍の状態で必死に身体を投げ出していた。
「響木さん……! 頼みます……!」
後半38分、スコアは『0 - 0』。
中盤の熱血ボランチが相手の強烈なタックルに倒れ込みながらも、執念で残したルーズボール。
響木も、蓄積された疲労から微かに息がが上り始めていた。ヘディングを封印し、地上戦の位置取り(ポジショニング)だけに全神経を研ぎ澄ませ続けた90分間。脳と肉体の疲労は限界に達していた。
(この泥臭いパスを……無駄にしてたまるか)
響木は呼吸を整え、相手CB陣の足元へと視線を落とした。
相手DF陣も連戦の疲労で足が止まりかけている。だが、彼らは響木の「足元の抜け出し」を徹底的に警戒し、ペナルティエリア内を隙間なく埋めていた。
「エアポケットがない……? いや、あるはずだ」
響木はあえて相手CBの正面へとゆっくり歩み寄る動作を見せた。
相手DFが「正面でのブロック」を意識し、重心を前に傾けたそのコンマ数秒――。
響木は右足のアウトサイドでわずかに芝を蹴り、相手の視界から消えるように背後の死角へと斜めにスライドした。
相手DFの視線が交差するコンマ数秒の「真空地帯」。
「……捕まえた!」
倒れ込んだボランチから届いた地を這う泥臭いパス。
響木は走りのストライドを一切崩さず、ボールの落ち際を右足のアウトフロントで極限までコンパクトに振り抜いた!
ノーモーションの一閃。
キーパーのタイミングを完全に外した無回転ライナーが、相手GKの伸ばした手の先を抜け、左サイドネットを静かに、そして激しく揺らした!
『1 - 0』!
「ゴーッッール!! 響木蒼生!! 後半40分、地域CLの過酷な連戦の果てに叩き込んだ運命の先制ゴール!! 満身創痍のプリズンガーディアン島根、ついにJFLへの扉をこじ開けました!!」
タイムアップの長笛が響き渡る。
『ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーッ!』
「勝った……! 勝ったぞーっ!!」
ピッチに倒れ込んでいた選手たちが涙を流しながら立ち上がり、響木のもとへとなだれ込む。ベンチからは門倉オーナーが目頭を押さえながら走り寄り、響木を押し倒すように抱きしめた。
「響木……ありがとう! 俺たちのチームが……プリズンガーディアン島根が、ついにJFLだ!!」
「門倉さん……みんな……やりましたね」
島根の小さな街から始まったアマチュアの挑戦は、過酷な地域CLの死闘を乗り越え、ついに全国舞台である「JFL」への昇格という壮大な偉業を成し遂げたのだった。




